攻略対象の筆頭魔術師が「運命の相手は君だ」と婚姻届片手にモブの私を追いかけてくる〜エンドロール後なので放っておいてもらっていいですか?〜

前澤のーん

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エンドロール後、ですよね?②

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(どうして、何が起こってるの? ……はっ! ステータスウィンドウ!!)

 この状況がどういうことなのか分かるかもしれない。カシアン様のシュミエットへの好感度は100パーセントに近かったはずだ。もう一度、確かめるためにも脳内で唱えて力を込める。

「なんで……」
「ルチア?」

 けれど彼の頭上には何も浮かんでこなかった。何度力を込めて繰り返しても変わらない。

(攻略後だから力がなくなった?)

 そう考えるのが一番妥当だろう。それはそうだ。一応、すべての物語は終わって、私はお役目ごめんになっているのだ。そんな私に裏で操る力は必要ない。
 つまりステータスウィンドウも見られないとなると、この先の手がかりが何もないということ。

「ルチア、ここに名前を……」
「書きません!」

 反射的にきっぱり言い切れば、カシアン様が驚いているのかそうではないのか分からない「えぇ~」と気の抜けた反応をする。

「筆頭魔術師で侯爵位だよ。優良物件だと思うんだけど」
「自分で言いますか」
「んー……難しいな。どうしたら信じてもらえるのかな」
「どうしてもこうしても信じられません! 優良物件が貧乏人に家を格安で貸しますか!?」

 ピッと指をさして、婚約誓約書を彼の胸に押し当てて返す。そうだ。何か裏があるに決まっている。

「そう言われれば、たしかに」

 目を丸くしてポンッと手を叩いたカシアン様に、深くため息をついてから店の扉を開けた。

「とにかく馬鹿なことをおっしゃってないで、お偉い筆頭魔術師様はお仕事行ってください」
「えっ、まだ話終わっ……」
「終わりです!!」

 ――――バタン!!

 無理やり彼を外へ出して、扉を思いっきり閉める。外から「ルチア、まだ話途中なんだけど」と声が聞こえるが、必死に無視した。
 かなり失礼な態度だけれど、仕方がない。変なことを言うカシアン様が悪い。

(攻略対象のおふざけがすぎるわ。まったく)

 からかうつもりだったに違いない。きっとシュミエットと喧嘩でもしたのだ。だから、私みたいな平凡なモブキャラに言い寄るのを見せつけて、嫉妬させようとでもしたのだろう。当て馬というやつだ。

「……そうだよね」

 そう言い聞かせながら、ドキドキと早まっていた心臓の鼓動を抑えた。


 ◇◇◇


「は? 故郷で結婚式を挙げる?」

 ――――パサリ。

 手に持っていた可愛らしいバレッタが地面に落ちた。目の前の爆イケ金髪美女こと、シュミエットが慌てて拾って土を払ってくれている。
 あのカシアン様の嘘プロポーズから数週間後の今日、『七不思議解決おめでとう(攻略おめでとう)』というお祝いを兼ねてシュミエットと街へ出かけていた。露店でどのバレッタが彼女に似合うだろうかと選んでいた最中で……。

(って、そんな説明はいいわ!!)

「どういうこと!? 結婚式!?」

 シュミエットの両肩をつかんで顔を近づけると、恥ずかしそうに頬を染めて視線を逸らした。

「ええ、エルフの国に幼馴染がいてね。ずっと結婚の約束をしてたの」
「そんな裏設定知りませんが!?」
「え? う、うら、せって……?」
「はっ! こ、こここっちの話!!」

 目をぱちくりさせるシュミエットに笑顔を作ってごまかす。その間も彼女が気恥ずかしそうに馴れ初めなどを話してくる。

(嘘でしょう。ほ、本当だったの……)

 結局、あの当て馬にされた日は放心状態でオーナーに辞めることを伝えそびれてしまった。その後も……。

『ルチア、早く名前を書こ……』
『書きません!』
『指だけ貸してもらっていい? かわりに書かせ……』
『貸しません! 書きません!』

 度々、カシアン様が店に訪れて婚約誓約書を私に出してくるものだから、辞める云々の話が二の次になってしまっている。仕方なく、彼の突拍子のない悪い冗談が終わるまで保留にしておくことにした。
 早くシュミエットと仲直りしなさいよと呆れつつ、セルと冷えた目をして追い返していたんだけど……。

(え? どこまでが本気?)

「あのー、シュミエットはカシアン様と結婚するんじゃ……」

 にこやかに笑っていたシュミエットだけれど、カシアン様の名前が出た瞬間、ピキィッと音が鳴るみたいに笑顔が凍りついた。

「ガッデム!!」

 無表情になり、表現しがたいジェスチャーで罵った。怖い。けれど、すぐいつもの綺麗な天使のような笑みに変わったから私の見間違いか。うん、きっとそうだ。

「ふふ。あり得ないよ~。カシアン様と私じゃ不釣り合いでしょう?」
「そ、そんなことないよ? シュミエットは綺麗だし、お似合……」
「私の足元にも及ばない虫けらと、どうやって結婚するの?」
「そっち!?」

 瞬きひとつせず凍りついた笑顔で、聞いたこともないような侮辱がシュミエットの口から発せられる。思わず目を見開くと「って、冗談~」なんてゆるふわな笑みに変わった。こ、これも聞き間違いか。

(やっぱりエンドロールが変わってる?)

 相変わらず、ステータスウィンドウは見られない状況だ。それに目の前のシュミエットは、故郷にいるというゲームの設定になかった恋人への贈りものをルンルンで選び始めている。
 カシアン様も変わらず私に結婚を迫ってくる。何が起こっているのか分からず、疑問が脳内を回ったとき……。

「ルチア・ルーセント!!」

 大きな声が背後から聞こえて、はっと顔を上げる。振り返れば、そこには何人もの武装した兵士たちがいた。

(もう、次から次となんなの!?)

「貴様を罪人ロマネスクを逃がした共犯者として捕らえる!!」
「あぁ、もう! いまは共犯とか言ってる場合じゃな……へ?」

 兵士の一人が前へ出て罪状が書かれた紙を、目を丸くした私の前に掲げる。
 そこには『ロマネスクが逃げる手助けをしたルチア・ルーセントを捕らえるように』という命令が書かれていた。

(ロマネスクが逃げた? それに私が共犯!?)

 待って。待て待て。頭が追いついていないのですが。
 こんなのエンドロール後の小話でもなかった――――これは確実に変わっている。


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