攻略対象の筆頭魔術師が「運命の相手は君だ」と婚姻届片手にモブの私を追いかけてくる〜エンドロール後なので放っておいてもらっていいですか?〜

前澤のーん

文字の大きさ
8 / 11

エンドロール後、ですよね?①

しおりを挟む
 


「あの……カシアン様……これは?」
「あぁ、ルチアはとりあえずここに名前を書いてくればいいから」
「え? え?」

 ポンッと手を叩く彼の手から万年筆が現れて、私の前のカウンターに置かれる。

「シュミエットの代わりに書けばいいんですか?」
「そんなわけないでしょ。ルチアの名前じゃないと」
「えっ、私? 私の名前はどこに? 保証人欄ですか?」
「ぷっ、どうして保証人? 違うよ」
「え? じゃ、じゃあどこに……」
「……あー、ばかなのを見てるのは楽しかったが、ここまで鈍感なのは少し腹立たしくもなるな」

 婚約誓約書を持っていた私の手を優しく指でなぞった。そのまま辿っていけば、以前彼につけられた花の模様に触れて指先を持ち上げられた。

(これはどういう状況?)

「あ、あのカシアン様?」
「ん?」
「この状況は……そういえばこの模様消えないんですけど……」
「可愛いでしょ。ルチアを守るおまじないがかけてあるから」
「は、はぁ」

 そういうことが聞きたかったんじゃないのだが。可愛いは可愛いけれど、ずっと消えなくて少し疑問に思っていた。

(おまじないって何?)

 微笑むカシアン様はそれ以上話すつもりもないのか、口を閉ざしている。この様子だと消してはもらえなさそうだ。
 というか、そろそろ緊張がマックスに達する。こんな綺麗な男性に触れられているのは心臓が危ない。

「あっ」

 どうしようかと考えているうちに、前と同じように唇で指に触れられた。
 今度は彼の歯が見えてチクリと噛まれると、軽く窪みができて赤みを帯びた。ゆっくりと手を離されたあと……。

「ルチア、俺の運命の相手は君だ」

 まるで愛おしいものを見るように頬を染めて、目をまん丸にさせた私に甘い言葉を囁く。

(ウンメイ? 運命?)

「あ、あの……カシアン様。言ってる意味がよく分からないんですけど」
「俺の運命の相手は、君」
「……いや、まったく言葉変わってませんが?」

 私の手を離して、自身の紫紺色の髪を耳にかけると水色の美しい宝石のピアスが揺れた。うわぉ、目がチカチカする。

(いや違う……待て? 待って、待って)

 ふぅ~と自分を落ち着かせるためにも息を吐いてから、カウンター越しに座る彼の前に肉じゃがを置く。よく分からない婚約誓約書もその横に置いておく。

「わぁ、美味しそう。これはなんていう食べ物?」
「……あぁ、それは肉じゃがというものです。初めてお出しするものですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫。ルチアのご飯大好きだから、なんでも食べたい」
「ありがとうございます。心配してたんですけど、それならよかった」

 器用に箸を持って「いただきます」と肉じゃがを食べ始めたのに安心する。

(この世界の味覚には関係なさそうでよかった……って、よくなぁい!!)

 しまった。カシアン様のほんわか雰囲気に流されて忘れてしまいそうになった――――いま軽くこの人は、私にプロポーズをした?
 私にプロポーズ。ヒロインのシュミエットではなくモブキャラの私にプロポーズ……私にプロ……。

「シュミエットと結婚するんじゃないんですか!?」

 私の必死の形相とは真逆の表情をして、カシアン様がくい~っと首を傾げる。いやいや、どうして不思議そうなのか理解ができない。

「しないよ。流れ的にそういう雰囲気を出さないと、周りが面倒くさそうだっただけ。だから互いに否定しなかった」
「互いに?」
「あぁ、彼女は故郷に好きな男がいるらしいよ。その彼と結婚するんだって」
「は? 故郷? 好きな男?」
「うん。だから心配しなくても俺は彼女とは結婚しない」

 ため息をつきながら「勝手に盛り上がられて、困ってるんだよね」と箸で肉じゃがを食べ始める。

(えっと……あの、そういう心配はしてないんですけど)

 放心状態の私を気にすることなくすべて平らげたあと、婚約誓約書の名前の欄に指をさした。彼が笑顔で指を振ると私の手に勝手に万年筆が握らされている。

「さて、ここに名前書こうか。ルチア」
「いやっ、あのっ! 運命の相手だなんて知りませんが!?」
「大丈夫。俺はずっと前から知ってた」
「そういうことではなくて!」

 ――――おかしい。おかしすぎる。

 いまはエンドロール後の世界。強制的にヒーラー的な役割を与えられて、城下街にある古びた食堂で家庭料理を作り続けた私はお役目ごめんのはずだ。そのはずなのに……。

「なんで乙女ゲーム攻略後に、ヒロインと破局してるのよーーーー!?」

 悲痛な私の声が食堂の中に響き渡る。カシアン様が不思議そうにしているが、もうそれどころではない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...