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エンドロール後、ですよね?①
しおりを挟む「あの……カシアン様……これは?」
「あぁ、ルチアはとりあえずここに名前を書いてくればいいから」
「え? え?」
ポンッと手を叩く彼の手から万年筆が現れて、私の前のカウンターに置かれる。
「シュミエットの代わりに書けばいいんですか?」
「そんなわけないでしょ。ルチアの名前じゃないと」
「えっ、私? 私の名前はどこに? 保証人欄ですか?」
「ぷっ、どうして保証人? 違うよ」
「え? じゃ、じゃあどこに……」
「……あー、ばかなのを見てるのは楽しかったが、ここまで鈍感なのは少し腹立たしくもなるな」
婚約誓約書を持っていた私の手を優しく指でなぞった。そのまま辿っていけば、以前彼につけられた花の模様に触れて指先を持ち上げられた。
(これはどういう状況?)
「あ、あのカシアン様?」
「ん?」
「この状況は……そういえばこの模様消えないんですけど……」
「可愛いでしょ。ルチアを守るおまじないがかけてあるから」
「は、はぁ」
そういうことが聞きたかったんじゃないのだが。可愛いは可愛いけれど、ずっと消えなくて少し疑問に思っていた。
(おまじないって何?)
微笑むカシアン様はそれ以上話すつもりもないのか、口を閉ざしている。この様子だと消してはもらえなさそうだ。
というか、そろそろ緊張がマックスに達する。こんな綺麗な男性に触れられているのは心臓が危ない。
「あっ」
どうしようかと考えているうちに、前と同じように唇で指に触れられた。
今度は彼の歯が見えてチクリと噛まれると、軽く窪みができて赤みを帯びた。ゆっくりと手を離されたあと……。
「ルチア、俺の運命の相手は君だ」
まるで愛おしいものを見るように頬を染めて、目をまん丸にさせた私に甘い言葉を囁く。
(ウンメイ? 運命?)
「あ、あの……カシアン様。言ってる意味がよく分からないんですけど」
「俺の運命の相手は、君」
「……いや、まったく言葉変わってませんが?」
私の手を離して、自身の紫紺色の髪を耳にかけると水色の美しい宝石のピアスが揺れた。うわぉ、目がチカチカする。
(いや違う……待て? 待って、待って)
ふぅ~と自分を落ち着かせるためにも息を吐いてから、カウンター越しに座る彼の前に肉じゃがを置く。よく分からない婚約誓約書もその横に置いておく。
「わぁ、美味しそう。これはなんていう食べ物?」
「……あぁ、それは肉じゃがというものです。初めてお出しするものですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫。ルチアのご飯大好きだから、なんでも食べたい」
「ありがとうございます。心配してたんですけど、それならよかった」
器用に箸を持って「いただきます」と肉じゃがを食べ始めたのに安心する。
(この世界の味覚には関係なさそうでよかった……って、よくなぁい!!)
しまった。カシアン様のほんわか雰囲気に流されて忘れてしまいそうになった――――いま軽くこの人は、私にプロポーズをした?
私にプロポーズ。ヒロインのシュミエットではなくモブキャラの私にプロポーズ……私にプロ……。
「シュミエットと結婚するんじゃないんですか!?」
私の必死の形相とは真逆の表情をして、カシアン様がくい~っと首を傾げる。いやいや、どうして不思議そうなのか理解ができない。
「しないよ。流れ的にそういう雰囲気を出さないと、周りが面倒くさそうだっただけ。だから互いに否定しなかった」
「互いに?」
「あぁ、彼女は故郷に好きな男がいるらしいよ。その彼と結婚するんだって」
「は? 故郷? 好きな男?」
「うん。だから心配しなくても俺は彼女とは結婚しない」
ため息をつきながら「勝手に盛り上がられて、困ってるんだよね」と箸で肉じゃがを食べ始める。
(えっと……あの、そういう心配はしてないんですけど)
放心状態の私を気にすることなくすべて平らげたあと、婚約誓約書の名前の欄に指をさした。彼が笑顔で指を振ると私の手に勝手に万年筆が握らされている。
「さて、ここに名前書こうか。ルチア」
「いやっ、あのっ! 運命の相手だなんて知りませんが!?」
「大丈夫。俺はずっと前から知ってた」
「そういうことではなくて!」
――――おかしい。おかしすぎる。
いまはエンドロール後の世界。強制的にヒーラー的な役割を与えられて、城下街にある古びた食堂で家庭料理を作り続けた私はお役目ごめんのはずだ。そのはずなのに……。
「なんで乙女ゲーム攻略後に、ヒロインと破局してるのよーーーー!?」
悲痛な私の声が食堂の中に響き渡る。カシアン様が不思議そうにしているが、もうそれどころではない。
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