愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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 城下に出れば、やはりテオドールは目立つようで周りの女性たちが浮き足立っている。

「ねぇ!! あれ高位白魔術師のテオドール様よ!」
「わぁ! いいもの見たわ!」
「さすが噂通りの綺麗なお顔~」

(むむっ、目立ってる……)

 顔を顰めたツーツェイにテオドールが理由がわからず、どうかしたのかと笑いかける。その笑顔にぷんとそっぽを向けば、困ったように笑ったのでやらかしてしまったと少し後悔する。
   せっかくのテオドール様とのお出かけなのに……と自分の謎の苛立ちに腹が立ってくるけど抑え方がわからない。


「ツェイ、あそこにツェイの好きそうなお店があるよ」

(お店……)

 テオドールが指さす先には可愛らしいアクセサリーや雑貨が置かれた店。それを見てツーツェイの顔色が明るいものに変わる。

「ふふ、行きたい?」

 コクコクと頷けば付き合ってくれる。その店に入ればたくさんの宝石やガラスのアクセサリーが並べられている。

(可愛いっ!!)

 ツーツェイはこういったものをつけたことはなかった。ずっと使用人として生きてきて、お洒落というものに縁がなかった。
 可愛いものを見るのは好きだったが、あくまでウィンドウショッピングを楽しむだけだった。お洒落をしたところで見せる人も一緒に出かけてくれる人もいなかったので欲しいと思わなかったからだ。

「おっ、そこの別嬪なお姉さん! 鏡もあるから試しにつけてもいいんだよ」

 目を輝かせるツーツェイに店の奥にいる店主がそう声をかけてくれる。その隣に高位白魔術師であるテオドールがいることに気がついて慌てて『どうぞ、ゆっくりと見てくださいませ』と頭を下げながら言葉を改めた。

「ツェイ、気に入ったものある?」

(このアクセサリーをつけてお出かけしたら喜んでくれるかしら)

 楽しそうなツーツェイに微笑んでくるテオドールをみて、そんなことを考える。そう考えれば『一つ買ってみてもいいのかも?』となってしまうのは、なんて単純なのだとも思うけれど、じっと眺めて吟味してしまう。

 さすが帝国の城下にある店なだけあって種類がたくさんある。真剣に吟味すればするほど、どれがいいかわからなくなってきて目がクルクルと回る気がする。

「ツェイ?」
『たくさんあってわかりません……』

(贅沢な悩み……だけど本当にたくさんあって選べないなぁ)

 優柔不断な自身に呆れつつボードにそう書けば、テオドールが手を顎にあてて何かを考えている。
 少ししてから、悩むツーツェイの横を通り過ぎて伸びる腕。その指が一つの宝石の髪飾りに伸びる。

    髪飾りに触れた指先が考えるように一瞬だけ止まったけど、すぐにそれをすくいあげた。

「これとかどう?」

(え……)

 すっと耳の横に差し込まれてパチンと高い金属音がする。鏡を見れば淡い緑色のガラスで造れられた葉と金木犀の花を模した橙色の宝石が連なる髪飾り。光に照らされると何色にも輝いて見える。


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