愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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「僕が彼女に贈ったのです。ただ単に似合うと思っただけなのですが、お気に障りましたか?」
「なっ……こ、高位白魔術師がなんで……」
「どうかお許しいただけませんか?」

 ふわりと笑うテオドールに顔を真っ赤にさせている。あまりの神々しいオーラになにも言い返せずに体が震え始めている。

「ふ、ふん!! もう勝手にしな!」

 そのまま逃げるように店を出ていってしまった。ポカーンと口を開いてツーツェイが固まってしまっていると店主が頭を下げてくる。

「申し訳ありません、テオドール様の前で……」
「ううん、大丈夫。むしろ過去のことを許して敵国だった国の国花の飾りを売るのは素晴らしいことだよ」
「っ!! ありがとうございます」

 その言葉に何度も頭を下げる店主。そんな店主に見送られながら店を出る。

(なんだか怒涛すぎて頭が追いついていかない……)

『びっくりしました』

 ボードに正直にそう書くと、テオドールが疲れたように力なく笑う。

「そうだね。国同士が和平を結んでいても国民同士の憎しみは深いから」
『なるほど……』
「ごめんね、僕がこれを選んだから。嫌だったら外していいからね」

 悲しそうに眉を寄せるテオドールが触れる耳ついた髪飾り。少しでも頷けば、外されてしまいそうな雰囲気に慌ててツーツェイがその手から離れる。

『外しません。テオドール様が選んだものですから』
「ツェイ……」
『それに私はこれがとっても気に入りました』

 にっこりと笑えばテオドールの笑みも戻るけど、なにかを考えているような表情は変わらない。髪飾りから離れた指先が絡み合っている。
    なにか他に聞きたいことがあるのだろうかとツーツェイがテオドールの顔を覗き込めば、目線を逸らしたけれどすぐに戻った。


「ツェイ……僕は……」

(テオドール様?)

「僕は……本当はっ……」

 言い淀んでいたテオドールが、決意を決めたように大きく口を開いたとき……。


「やっぱり間違いないわぁ」

 後ろから聞こえる女性の声。

   その声にテオドールの顔が一瞬で青ざめる。前と同じように額から汗が溢れて流れている。

(また、なにが……)

 ツーツェイが声がした方を振り向けば、豪華なドレスを身に纏う四十代くらいの女性。その煌びやかな格好に貴族であることがわかる。それに日傘や扇子を持った若い男性の使用人たちを周りに侍らせている。

「なぜ……帰ったはずでは……」
「あら? 帰っていないと駄目だったかしら。せっかく交流のために呼ばれたのに酷いわね」

 ふっと深紅の口紅を塗った唇の端があがるのにテオドールの身体がさらに震える。

(この人はなんなの……)

 ツーツェイが不安を覚える。テオドールが顔を青ざめさせるのは目の前の女性が原因であることはすぐにわかった。魔術省でいきなり体調が悪くなったのと同じだったからだ。そのときも多くの貴族たちが歩いていた。その中にこの女性がいたに違いない。

「ッ……!」

 そのとき、その女性が手に持っていた扇子でテオドールの顎先を持ち上げて下から見上げる。

「やっぱり美しく育ったわね。私の目には狂いはなかったということかしら?」


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