【書籍化】転生した元女騎士ですが、護衛対象の美形皇子に迫られています

前澤のーん

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第二章 生まれ変わり(元)騎士令嬢は諦めません

家宝にします

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「お前は新しい使用人か?」
「はい。先月よりクレイセント殿下にお仕えさせていただくことになりました」
「ほう。どこかで見たような顔だな」
「それは兄でしょうか? 私はシエル・カディスの妹でございます」
「あぁ、聖職者のシエルの妹か」

(平常心、平常心)

 私を気持ち悪い目で見ながら、にやにやと笑っている。だめだ。鳥肌が立ちそうだ。嫌悪感で頬を殴りたくなるのを、手を握りながら必死に堪える。

「っ!」

 そのとき向こうから手で私の顎をつかむように持ち上げられた。相手が相手なうえ、誰も手出しができずに困ったようにこちらを伺っているだけだ。

「あれが女なら抱いてやってもいいと思っていたんだ。まさかあいつにそっくりの妹がいるとはな?」

 少しだけ私に顔を近づけて、耳元で呟かれる。

(このゲスが)

「またご冗談を」

 変わらない笑みを浮かべて流すと、口の端をあげた。

「クレイセントにもその顔と身体を使ってやればどうだ?」
「……どういうことですか?」
「死ぬまで誰も相手をしてくれないのもかわいそうだろう? 俺なりの思いやりだよ」

 すっと身体が冷えていく。いま腰に剣がなくてよかった――――あれば二度と喋れなくしてやったかもしれない。

(こいつも怪しいとは思っていたが……)

 『白』を受け継いでいて、年齢的に次の皇位継承権を持つのに近いのは皇弟殿下の息子。この目の前の気持ちの悪い男だろう。
 『白』を信仰する貴族たちを束ねているのも皇弟一家だ――――つまりは殿下を嵌めた皇族、一番怪しいのは皇弟殿下なのだ。

(陛下の実弟であることや確固たる証拠がなかった。そのために陛下も追及できなかったのだろう)

 あの状況からクレイセント殿下が嵌められたのは分かりきっているだろうに。怒りと悔しさ、憎しみと様々な負の感情でギリギリと拳が強く握り込んで、じわりと生温かいもので濡れる。

「その前に私が味見してやってもよいが」

(あぁ、このままこいつの懐に入って聞きだしてやるのも策としてはありなのか)

 身体くらいいくらでも差し出してやる。それが殿下のためであれば苦ではない。にっこりと笑いかけて頷こうとすれば……。

「何をしている」

 後ろから声が聞こえてきて、目の前のレイモンドが驚いて目を開いた。

「おぉ、お前はクレイセントか。十年ぶりくらいではないか?」
「……何をしているのか聞いている」
「寂しいな。挨拶くらいさせ……っ!!」

 ――――ピュッ!!

 強い風が起きて、私の顎からレイモンドの手が弾かれる。殿下の右手の周りに黒の靄が微かにかかっていることから力を使ったのだろう。

「何をするんだ。酷いじゃないか」
「勝手に離宮に訪れて、使用人にまで手を出されたらこうなるでしょう」

 弾かれた手から軽く殿下に視線を移したあと、レイモンドがいやらしく笑いかけてくる。

「なんだ? もう楽しんだあとか?」

(つくづくそういったことしか頭にないのか)

 大きくため息をついてやりたい。呆れてものがいえない。

「また暴発させて殺したらどうするんだ? そうなる前にもらってやろうとしただけだろう」
「……もらう?」
「言い換えたら人助けだよ。人助け。なぁ、お前も死にたくないだろう?」

 私の肩に触れて身体を引き寄せられた。強い香水の香りが鼻腔をつく。

「そうですね」

 口を開いて笑いながら答えると、殿下の瞳が揺れたのが視界の隙間から目に入る。

「とっても綺麗な『白』が大好きなんです」

 ニヤリと笑ったレイモンドが私の身体を抱き寄せてきた。私も笑みを返してから胸に手を当てる。

「じゃあな、クレイセント。今日は手助けできてよか……」

 屋敷の入り口に向かって背を向けた瞬間……。

 ――――ダンッ!!

 レイモンドの進み出した足に自身の足を引っ掛ける。バランスを前に崩させたあと首元を引っ張り床に顔を叩きつけた。
 私も倒れた振りをして、彼に覆いかぶさりながら耳元に顔を近づける。
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