勇者と魔王の明るい農村計画―最強魔王は最弱になり、勇者と共に開拓する―

灰色人

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勇者と魔王のダンジョン攻略8

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 あふれだす魔力の躍動を覚えつつ、再び魔王の姿へとルシアは変貌する。

 時間制限付きだが、ルシアにはやはりこの姿が一番落ち着くことを感じつつ、目の前にいるウォーウルフに向かって歩いていく。

 一歩一歩踏み締めながら、強大な魔力の圧力で潰そうと段々と力を強めていった。

「ウオォォォォォォォォオオオっ!」

 しかし、その圧力を跳ねのけてウォーウルフはルシアに向かって突っ込んでくる。

「ルシア様っ、お守りします」

 その突進を、横から更に速いスピードで突っ込んできたアリスがとび蹴りを当てる。再び、ウォーウルフは地面に転がりながらその巨体を壁にぶつける。

「流石だな、アリス。少し休んでいろ」

「わかりったのです……」

「さて、色々と聞きたい事があるが……魔力による圧迫が効かないとなると、仕方ない実力行使で行かせてもらうぞ――」

 瞬間、ルシアの手に弓が召喚される。しかし、その大きさは人間だったころのサイズよりも巨大で、まがまがしく姿を変えていた。

「この弓を覚えてるか?」

 低い地の底へと引き込まれそうな声がルシアから響く。その暗い響きの中に、どこか懐かしさを含んで弓を真ん中で折る。

「覚えてるよな、この魔装まそうを与えてくれたのはお前だ」

 折られた弓が更に姿を変えて、巨大な二振りの剣になった。

「ウオォォォォォォオオっ!」

 起き上がって、再びルシアの方へと駆けだしてくるウォーウルフはその爪で襲いかかってくる。しかし、その攻撃も二振りの剣によってルシアに直接あたることはない。

「グルルルゥゥゥゥゥっ」

 唸るような咆哮と共に、本当の獣のように力押しをしてくるウォーウルフ。仕方なくため息をついてから若干地面にめり込みかけていた足をウォーウルフに向かって蹴りあげる。

「その程度まで力を制限されているのか……本来の力ではないな」

 その言葉に、反応したのかウォーウルフは転がった先で苦しそうに吠えた。

「こんなに早く再開できて嬉しいぞ、ガンド」

 ルシアがささやくと共に、剣を構えなおす。

 なおも叫び続けるガンドに対して、今度はルシアの方からガンドへと向かって突進する。巨体と巨体がぶつかる音が衝撃となり、岩肌にぶつかって消える。

「今、解放してやるぞっ!」

 ルシアの叫び声が響く。

「ウオォォォォォォオオン!」

 そのまま剣を手放して、両手でガンドの手を掴み地面に押し付け、その上で魔力による圧力をかけて動きを封じ込め始める。

「ゥオォォォォン」

「まだだ」

 ――こいつが全快じゃなくて助かったな……。悪いが、もう少しだけ我慢してくれ。

 抵抗するガンドに対して、容赦なく残りの魔力のほとんどを使って圧力をかけた。

 ガンドが地面へとめり込んでいく、メキメキと音を立てながら地面が割れて口から血を吐きだす。

「これで……」

 完全に動かなくなったのを見計らってから、ルシアは剣を取ってガンドの首についている首輪を斬る。

 ぐったりと倒れたまま動かないガンドを見て、ルシアはほっと胸を撫で下ろした。

「本当に……短い……」

 瞬間、魔力が再び霧散して消えて、人間の姿に戻る。

 ――これで、大丈夫か……。

 本来であればたいしたことをしていないはずが、力が急に出たり入ったりしたせいでルシア自身もぐったりと疲れて座り込む。

「ルシア様……大丈夫なのです?」

「ん……?」

 ぴょこぴょこと耳を揺らしながら、アリスが近づいてくるが、我先にと飛び込んでくるはずのクレアが、インビジブルフィールドを使った位置からまったく動いていない。

「おい、駄狐……もう大丈夫だぞ」

「クレアさん……?」

 ルシアの問いかけたことにより、アリスもクレアの異変に気がついたようで、地面を蹴って全力で駆けつけた。

「クレアさん、大丈夫なのですか? クレアさんっ!」

 アリスがクレアの肩を何度揺すってもクレアが起きる気配がない。

 そして、再びアリスが揺すった瞬間に、クレアの体がどさりと音を立てて地面に崩れ落ちた。

「くれあさんっ!」

 アリスの悲痛な声がダンジョンの奥で木霊する。

 ガンドとクレアの両方が気になるルシアだったが、ひとまず意識がないクレアの方に駆け寄った。

「おい、クレアっ! 大丈夫か?」

「息はあるのです……」

 アリスが言うように命に別状がなさそうで、ほっと胸をなでおろす。

「なんで、こんなところで気を……」

「魔力欠乏症……だな……」

 クレアの状態をみて思い出したようにルシアが口を開く。

「アリス、ローマジックポーション持ってるか?」

「あるのですよ」

 言いながら地面に置き去りにされたままだった鞄からアリスがポーションを取り出す。

「アリス、それをクレアに飲ませてやってくれ」

「はいなのですルシア様」

 戻ってくるや否やクレアの頭を自分の膝に乗せてアリスは持ってきたポーションをクレアの口の中に流し込み始めた。

「それにしても、ルシア様。魔力欠乏症ってなんなのですか?」

「俺たち魔族は基本的に魔力が力の源であり、生命力だ。人間と違って生きるためにも魔力が必要なんだよ。それが、極度に失われればもちろん、記憶の混濁や意識が朦朧としたりするわけだマ」

「そうなのですか……後、あの方はどなたなのです?」

 納得したようなしてないような表情でアリスがルシアに抑え込まれたままの体勢で地面に刺さっているガンドを指差す。

「そうか……あの姿は知らないのか……」

 そう言いながらルシアはアリスに微笑みかける。

「あいつは魔王軍の副官だ」

「副官ってあのガンド様なのですか!?」

 アリスが驚いたはずみでクレアの口の中に流し込んでいたポーションをこぼしてしまった。

「わっ! わあぁぁぁ! ごめんなさいです、くれあさんっ」

 慌ててクレアの口からこぼれたポーションを着ていたルシアの服の袖で拭く。

「おい、アリスっ! それ俺の服なんだが……」

 驚いて止める間もなく、ルシアの服にマジックポーションをべったりとつけてしまった。

「あぁぁぁぁぁっ! ごめんなさいなのです!」

 そんなやり取りをしながら、ガンドが刺さっている方へとルシアが歩いていく。

「大丈夫か?」

「死ぬほど痛いがよ、とりあえず生きてるよ」

 目を覚ましたガンドを立ったまま見下ろしながらルシアが声をかけると、元気なくガンドが口を開いた。

「そうか。で、ずいぶん早い再開じゃないか」

「そう……みてぇだな……」

「なんでこんなところにいるんだ?」

「覚えてねえよ……お前逃した後、捕まって……気がついたらこの有様だ」

「これに見覚えは?」

 そう言いながら、ルシアはガンドの横に転がってた首輪を持ち上げてひらひらと見せる。

「悪いが、そんな悪趣味なものに見覚えなんぞねえよ」

「わかってるよ。それにしてもずいぶんと滑稽だなガンド……そんな姿を見るのはいつ以来だ?」

「いちいち覚えてねえよ。っていうか、お前がやったんだろコレっ!」

 自分の力で地面から抜け出せないガンドは怒ったのか、全力でルシアに対して叫ぶ。

「っつ……あー、抜けれねえじゃねーか……思い切り差し込みやがって!」

「地面にめり込むのも久しぶりだろ?」

 そんなガンドを指を指すルシアの顔は笑顔に満ち溢れている。

「いつもの副官姿に戻れるか? それなら体が縮むから抜け出せるだろ」

「そうだな……その手しかねえか」

 そう言いながら、ガンドの体が魔力を纏って姿を変えていく。

 それは先程までのウォーウルフの姿ではなく、服装こそ先ほどの戦闘で破れてしまったが銀灰色の毛を纏った魔王軍副官としての姿だった。

 青年の姿になってようやくガンドが出てくる。

「これで良いのか? 相変わらず窮屈だな……」

「大丈夫だ」

 ルシアのその言葉と共に、クレアが作った岩の塊が突如として爆発を起こした。
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