勇者と魔王の明るい農村計画―最強魔王は最弱になり、勇者と共に開拓する―

灰色人

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魔王と勇者の村作り1

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 ダンジョンの最上階、ボス部屋の入口とは反対の方で全員固まっていた。

「ここに本当に入るのか……?」

 目の前の大穴を見て、ルシアがごくりと喉を鳴らした。

「はい。ここに入らないとダンジョンから出られません」

「いや、ユノ。まだ、クレアが気を失っているわけだが……」

「大丈夫です。大穴に見えて、一種の転送装置のようなものですから」

「転送装置か……ならば、俺から行こう」

 じっと押し黙っていたガンドが、ゆっくりと大穴へと近づき、そして飛び降りた。

「お、おいっ!」

「大丈夫ですよ。ちょっとお尻をすりむいてしまうかもしれませんが」

「ちょっと待ってっ! 転送装置って言ったよね!」

「はい、入口まで一気に戻れる転送装置ですよ」

「転送装置っていうか、ただ滑り降りてるだけだよねそれ」

「でも、皆さん転送装置って言ってますし……」

 ユノの言葉を聞いて呆れかえるルシアの肩をぽんぽんとアリスが叩いた。

「クレア様、どうするのですか?」

「そうだな……」

 未だに気を失ったままのクレアを誰かが連れて行かなければいけないだろう。

 仕方なく、クレアを抱えてルシアも大穴の中へと飛び込む決心をする。

「じゃあ、生きてたらまた会おう……」

 まるで死地に行く兵士のような表情で、そういってからルシアは大穴の中へと飛び込んだ。

「……」

 もはや、滑り落ちると言うよりも転がり落ちるに近い感覚。とてつもないスピードで下っていく。

「ぃっ……」

 悲鳴を上げそうになるルシアの腕の中で、クレアは目を覚まさぬままだった。のんきな寝顔に、ルシアは呆れるが、それでも抱えている手に力を込める。

 そろそろ、出口が見えるというところでも、減速するどころか更に加速していく。

「おいおいおいおいおいおいおいおいっ!」

 一切止める気配がなく、ルシアは足に力を込めて止めようとするが減速すらできずに入口から飛び出てしまった。

 跳ねる水しぶきと共に、瞬間呼吸ができなくなる。

 水の中に落ちたのだと気がついたころには、何かによって陸に打ち上げられていた。

「おい、魔王……大丈夫か?」

「ガンドか……助かった」

 荒い呼吸を整えながら、ルシアはあおむけになって寝転がっていた。

 どうやら、結構な高さから水中に放り出されたようだ。

「どうやら、続いてくるようだぞ」

 ガンドがそう言った瞬間に、ダンジョンの出口からユノが飛び出してくる。しかし、ルシアの時とは違い、そのまま勢いに身を任せて湖を飛び越えてルシアやガンドがいる場所へと綺麗に着地した。

 その腕にはカルロスが抱えられ、気を失っている。

「なんという人外……」

 ユノの離れ業に、ルシアは呆れつつもその身体能力の高さがいかにすごいものなのかを改めて実感した。

「どいてくださいなのです~」

 今度は間の抜けた声と共に、完全に転がりながらアリスが出口から飛び出してくる。

 ものすごい勢いだが、その勢いすらも利用してアリスもクレア同様に地面に綺麗に着地した。

「さすがヴォーパルバニー……」

 流石に2回目で身体能力も高い獣人ということだけあって驚きはしなかったが関心を覚える。

「とりあえず、出れましたがこれからどうしましょうか?」

「そうだな、これで資金はなんとか……ダンジョンからのアイテムって回収したか?」

「いえ、私は回収してないですよ」

 ユノのその一言にルシアの目が点になった。ここに来た本来の目的を思い出して、頭を抱える。

「大丈夫なのです、ルシア様。私が回収したのです」

「アリス……」

 そう言いながら鞄からダンジョンのアイテムを取り出したアリスを見てルシアは目に涙を浮かべる。

「では、帰りましょうか」

「いや、俺たちは先に村へ帰ろう。住むところも作らないといけないからな」

「そうですか。では、ルシアお願いします。アクシオン……じゃなくってカルロスを連れて報酬と道具を揃えてから帰りますので」

 ユノの言葉にルシアは少しだけ押し黙ってから、口を開く。

「ちょっと待て、買ってくる道具なんだが作物を育てなければいけない。できれば、それ用の道具も調達してきてくれ」

「わかりました。では、後ほどお会いしましょう」

 そう言ってユノと別れてから、残りの四人で村という名の何もない土地へと向かって歩いていく。

「おい、魔王。今は人間の村で生活してるのか?」

「村と言えるかはなんとも言えないがな……」

 ガンドの言葉に肩をすくめてルシアは答える。村というのがおこがましい場所であることは確かだ。

「私もついてきてよかったのですか?」

「大丈夫だ、村人なんて言っても俺とユノしかいないからな」

 背中に乗ったクレアが落ちないように、ルシアはクレアを担ぎ直して歩く。

「まあ、なんともおかしい組み合わせが揃ったわけだが……」

 ふとルシアは全員を見渡して、苦笑いを浮かべる。

 ーーどこの世界に、魔王と勇者と魔王の副官と、ヴォーパルバニーとフォックステイルが一緒に生活するなんて村があるんだ。

 少しだけ心の中で毒づいて、道無き道を歩いていく。

「覚悟しとけよお前ら、村に着いたらやることが盛りだくさんだからな」

「俺が手伝うとでも?」

「魔王命令だ」

「理不尽だろっ!」

 ルシアがにやりと笑いながら話す言葉にガンドが目を見開いて叫んだ。

「一先ずは、村に着いてからだな」

 そう言いながら、かれこれ長い距離を歩いた。目的地まで、あとそれほどまでもかからないだろう。

「ガンド、俺の事はルシアと呼べ」

「わかったよ。ルシア……なんだか、昔を思い出すみたいだな」

 ルシアの言葉にガンドが笑った。

「言ってる場合か、もうすぐだから口動かすより、足動かせ……」

 息を荒立てながらも、そう話すルシアだったが、少し後ろから着いてくる二人は息を切らすどころろか疲労の色すら見せてはいない。

「なんで、お前たち……疲れてないんだよ……」

「獣人だからな、人間の体のお前と比べるのがおこがましいだろ?」

 挑発的な笑顔を浮かべるガンドにルシアは肩をすくめる。

「さすがに身体能力の差は否めんな……」

 言いながらルシアは自らの手を握る。

 結局、村に着くころにはルシアは完全にへとへとになって地面に転がった。
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