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しおりを挟む私は父の部屋から出てきた後、ずっと自室に篭もり泣いていた。
そのせいだろうか目が痛かった。
そこで鏡を見てみると私の目は真っ赤に充血し、腫れてしまっていた。
「……いい歳して…情けない……」
私は前世では19歳、今は15歳のため中身は34歳だ。
そんな私がこんな事で泣きはらすだなんて……。
そこで気付いたのだが、いつの間にか兄の声が聞こえなくなっていた。
兄も、私の事を信じてくれないのだろうかと不安な気持ちに押しつぶされる。
そんなはずはない。
きっと兄ならば私を信じてくれるはずだ。
そんな事を思うが『エデンの花園』のシナリオを思い出してしまう。
ゲームの中の兄は私を嫌っていた。
それは、今回の事が原因なのではないかと思ってしまったのだ。
だとしたら……私は兄に殺されてしまうのだろうか?
そんな事はないと思いながらも不安や焦燥、恐怖といった感情が私を襲う。
震える体を抱きしめて、自身に言い聞かせる。
「……私は、お兄様を信じてる…。
お兄様は…私を殺したりしない……」
そう口に出したのは少しでも恐怖を和らげる為だった。
幸い、ゲームとは違い、今の私には味方がいる。
兄を初めとして、天也や奏橙、愛音に紫月、皐月先輩や白鳥先輩、鬼龍院先輩も味方になってくれるだろう。
そう思うと不思議と大丈夫な気になってくる。
私は、ゲームの咲夜じゃない…。
そう思えるからなのかもしれない。
それともゲームの咲夜も私の様にこんな恐怖や不安を抱いていたのだろうか?
そんな事を考えていた時だった。
部屋にノックの音が響く。
その音のせいなのか体が強張ってしまう。
「咲夜、僕だよ。
咲夜の友人が来ているんだ」
優しい声だった。
私の身を案じているような。
だが、それでも体が拒否している。
怖かった。
兄や友人を中に入れて、感情が高ぶってしまったらと考えると体が震えてしまう程に。
……私は弱味を見せたくないのかもしれない。
弱味を見せたら友人や兄が私から離れてしまうのではないかとそう思ってしまうのだ。
私が返事をしないでいると他の声も聞こえてくる。
「咲夜、俺だ。
いきなり済まない。
だが……」
天也だった。
それに愛音や奏橙、紫月の声も聞こえてくる。
普段なら嬉しいはずの事が、今は辛かった。
私の弱さを覗かれているようだったからだ。
私は今まで辛い事があっても泣かずに強がってきた。
そうでなければ私は壊れてしまう気がしたから。
それは今も変わらない。
私は怖がりで、臆病だ。
だから、いつも自分と他人の間には一定の壁を作っていた。
「……来ないで…ください。
すいませんが、今日は…帰ってください…。
また、今度に……今は…1人にして…ください…」
私はまた逃げた。
自分勝手な理由で。
まだ気持ちの整理が付いてないから…。
こんな顔で行って、心配させたく無かったから……そんな言い訳で自分を騙す。
そんな自分が嫌で嫌で仕方が無かった。
「…咲夜……お願い……。
話だけでも……!」
愛音が、泣きそうに声を震わせていた。
その意味が分からずに私は扉に駆け寄るが最後の勇気が振り絞れ無かった。
馬鹿だ……。
私は、本当に馬鹿だ。
大切な友人までこんな泣かせて……。
自分の事ばかり……。
いつもの私はどうした?
いつもなら無理にでも笑顔を作るのに。
疲れただなんて…やると決めた事は最後までやり通さければいけないのに……。
「咲夜……今日はありがとうございました…。
私を助けてくれた時の咲夜は本当にカッコよくて…私もこんなふうになりたいって思いました…。
だけど…私のせいでこんな事になって…本当に、すいません…!」
紫月だった。
私は、こんな私でも紫月の救いになったのだろうか?
でも、紫月が謝る必要なんて何も無いでのに……。
いや、私がそうさせたんだ。
私がこんな情けない姿で馬鹿みたいに閉じこもって……。
そのせいで兄にも迷惑をかけたし、清水も、皆も心配させた……。
本当、何やってんだろ、私。
……私らしくない。
こんな事をされてむざむざ黙っているだなんて本当に私らしくない。
やられたらやり返す。
それが私だろうに。
そうと決まれば行動あるのみ。
私は他の事を忘れ去り、扉から離れパソコンを開く。
そして、私のファンクラブとやらの会員ページを開き会長のところへお願いのメッセージを送信する。
『どなたかは存じ上げませんが、協力してくださいませ。
私は、海野咲夜と申しますわ。
松江愛梨さんの連絡先を知りたいのですが……。
協力してくだされば必ずお礼はいたしますわ』
と送ってみる。
お礼はクッキーとかでいいだろうし。
特に何とは言ってないから問題ないだろう。
……すると、数分もたたないうちに連絡先が送られてくる。
『咲夜様のお願いは私達で宜しければ全身全霊にかけて叶えさせていただきます。
ですからこれからも何かあれば咲夜様の駒としてお使いください』
などと送られて来た時には苦笑を漏らしたが。
私は送られてきた連絡先にメールを送る。
『お久しぶりですわ。
私があなたを虐めたなどという嘘を言うのはおやめなさい。
あなたが私の友人を虐めた事、私はまだ許したつもりはありません。
あなたがご自分の非を認め、彼女に謝罪なさると言うのであればまだ許してさしあげない事もありません。
ですが、謝罪しないというのであればそれ相応の罰を受けていただくことになりますので悪しからず。
それではご機嫌よう。
海野咲夜』
送信したし、これでいいだろう。
さて……どんな反応が返ってくるか。
楽しみだね。
まだ私が虐めたと言い張るのか……。
それとも素直に謝罪するのか。
私としては前者を希望するけど。
そうすれば徹底的に潰してあげるのに。
父との関係に溝を作る原因となったんだ。
それくらい、してもいいよね?
「咲夜、倒れてはいないよね?
咲夜……僕の可愛い天使、世界一可愛い僕の妹……。
松江……潰す……」
あ、忘れてた。
というか、兄が余計恐くなっているのは気の所為だろうか?
……現実逃避するのは辞めよう。
兄が凶暴化するのはいつもの事じゃないか。
私は諦め、扉を開ける。
「ご心配お掛けしました。
お兄様、愛音、紫月、天也、奏橙、お入りください」
「咲夜!」
「天使!」
「良かった……」
「咲夜ぁ……」
「大丈夫?」
一人、兄だけおかしいが……まぁ今回は見逃そう。
私が全面的に悪いしな。
「えぇ、ご心配をお掛けしてしまい申し訳ありませんわ。
ということで、協力してくださりませんか?」
「あぁ、何でもするよ」
「……協力?」
「協力、ですか?」
「…何をする気だ……」
「私に出来る事なら……」
兄は即答だった。
奏橙と天也は怪訝そうに。
愛音は何をするのかと疑問を浮かべて。
紫月は戸惑いつつもOKしてくれた。
「先程、愛梨さんに連絡を取りましたの。
謝罪をする様でしたら何も致しません、と。
ですがあの方は謝罪はしないでしょうから……穏便にことを運びたかったですがあの方は少しやりすぎましたわ。
私の大切な友人を傷つけるだけでなく私の家族との仲も悪くしようとするだなんて……」
私を侮辱するだけであればまだ、許したかもしれない。
だが、さすがの私でもね?
これ程やられて何もしないって事はありえない。
まず、初めに賛成の意を示したのは兄だった。
「そうだね。
個人的に恨みもあるし、僕の可愛い可愛い天使に手を出したんだ。
少し思い知らせてやらないとね」
そう言って2人に電話をかけ、呼び出していた。
1人は朝霧先輩でもう1人は鬼龍院先輩の様だ。
朝霧先輩はまだわかるが…なぜ鬼龍院先輩なのだろうか?
兄の次に賛同したのは天也と奏橙だった。
「咲夜を泣かせたんだから当たり前だな」
「そうだね。
僕としても彼女は少し……。
だから咲夜に協力するよ」
奏橙は真っ黒い笑みを浮かべていた。
その笑みは兄の怒っている時と同じような気がした。
「私は何も出来ないかもしれないですけど…紫月さんを虐めたのは許せません。
それに、咲夜を傷付けましたし。
優しい咲夜を傷付けた分はちゃんとお返ししないといけませんよね」
……愛音はこんな物理的に怖かっただろうか?
やはり私の影響なのだろうか?
そうだとは考えたくないが……。
「私も協力させてください!
何か出来る事があれば…」
「ありがとうございます。
あら…丁度メールが届いたようですね」
私はパソコンの前まで行き、来たばかりのメールを開いてみる。
すると案の定、拒否の文が返ってきた。
『何故私があの礼儀知らずに謝罪をしなければいけないのかしら?
謝罪ならあの子からするべきでしょうに。
訂正いたしますわ。
あの子と自分の行った事の重大さすら分かっていないあなたがするべきでなくて?
それともその程度の事も分からないような方だったのかしら?
それ相応の罰と仰いますけれど…あなた如きにその様な事をされる覚えなんてございませんわ。
それに、この程度で崩れるものだったのであれば、その程度の人だった、ということでしょう?
御自身の行いが悪かったのではなくて?』
……ほう?
いい度胸だ。
『あなた如き』とくるのなら私の家の会社と同じかそれよりも小さい会社の松江が私よりも下となる事を分かっていないのか?
それに、成績も私の方が上だ。
光隆会のメンバーにすらなれない奴に『あなた如き』といわれる筋合いなんてない。
「……私、あの方に何かやったかしら?」
こんなにも恨まれるなど相当の理由がない限り有り得ないだろう。
私は心当たりがなく、首を傾げる。
すると紫月がおずおずと口にした。
「…私を助けてくださったからではないでしょうか?」
「え……」
そんな当たり前の事で?
何それ……頭おかしいんじゃないの?
「何ですかそれ!
完全に八つ当たりじゃないですか!」
愛音が私のために怒ってくれたのが嬉しかった。
私はまだ、嫌われていない、1人ではないと感じられるのが嬉しいと感じる。
そんな事を考えている辺り、30歳超えとは思えないなぁ…などと思いつつも次の行動を起こす。
「一芝居うちましょうか」
「え?」
私は笑みを浮かべ、明日の段取りを確認する。
私の話を聞くにつれ、奏橙と兄は面白そうに笑い、天也は呆れたように苦笑を漏らし、愛音はやる気満々といった表情をし、紫月は戸惑ったように頷いた。
……さぁ、明日が楽しみだね。
徹底的なまでに貶めてやりましょうとも。
松江愛梨……覚悟しなさい。
私はいつもは決して見せぬような挑戦的な笑みを浮かべていた。
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