脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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5日目

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私は朝から天也とロイさんと3人で病院へと来ていた。
天也は別に着いてきてくれなくても良かったのだが……昨日のことがあったのだから、と言われ押し切られた。

昼から船に乗らなければいけないので私としても少し急いでいたので断るのも時間がかかりそうだった……というのもあるが別に着いてこられても問題ないと判断したのもある。


「咲夜様、こちらです。
……ヴィル」

「あ……お兄ちゃん……」


病院に入ると儚げな少年がそう呟いた。
彼がロイさんの弟さんなのだろう。


「……ヴィル、しばらくこれなくてゴメンな……大丈夫だったか?」


ロイさんは申し訳なさそうに弟さん…ヴィルの頭を撫でる。
それに嬉しそうに…だが申し訳なさそうにヴィルは笑った。


「えへへ……お兄ちゃんも忙しいだろうし仕方ないよ。
お兄ちゃん、その人達は……?」

「俺は天也だ。
よろしく頼む」

「私は咲夜です。
ロイさんとは仕事上の関係です。
よろしくお願いしますね」


言葉使いを変えたのはヴィルに余計な不安をかけたくなかったからだ。
そのため仕事上の関係といい、詳しくは言わないようにした。
まぁ、何れは言わなければいけない時が来るだろうがそれは私が決めることではないだろうし。


「あ……お兄ちゃんの……。
僕はヴィルっていいます。
こんな格好でごめんなさい……」

「気にしないでください。
私達こそいきなり押しかけてごめんなさい」


挨拶が終わったところで私はロイさんを急かした。


「ヴィル、手術の日が決まった。
1週間後だ」


そう。
私はロイさんからヴィルの状態を聞き、清水に腕の良い医者でドイツに来てくれるという者を探していたのだ。

そして、今朝。
見つかったという連絡がきた。
そしてこの病院と相談して決めたのがこの、1週間後という日だった。


「……え…。
う、嘘……。
この病院じゃ無理だって言われて……」

「腕の良い医者が来てくれるんだ。
ヴィルを治してくれる…。
退院したら外で遊べるようになるし、学校にも通える」

「っ……ほ、ほんと…に……?」

「あぁ。
今までヴィルに嘘を吐いたことがあったか?」

「な、ない!」


必死に首を横に振るヴィルにロイさんは優しく微笑むとまた来るといい、病室を出た。
天也もロイさんに続いて出ていくが最後に私1人だけがここに残る。


「ヴィル、と呼ばせてもらいますね。
私の事は咲夜と呼んでください」

「は、はい……」

「ヴィル、あなたが退院したらロイさんと一緒に暮らしたい?」

「は、はい……。
えと…お兄ちゃんは何か……?」


不安そうに見つめるヴィルに私は優しく微笑む。
不安を少しでも和らげるように。

まぁ、こんな事を言えば不安にさせることは分かっていた。
だが、それでも聞いておきたかったのだ。


「詳しい事は言えないけど……。
退院祝いも準備しておかないといけないでしょう?」

「ありがとうございます……?」

「手術、頑張ってください。
成功を祈っています」


私は最後に応援の言葉を投げかけて病室を出ると急いで港へと戻る。
その直前にお土産などを購入し、ドタバタとした空気の中私は1度帰国をする。


「咲夜様、ありがとうございました。
……こちらに来るのをお待ちしています」


ロイさんはヴィルの手術の事もあり、こちらに残る事になっている。
そんなロイさんの固い様子にふふっと笑うと私は船に乗り込んだ。
母と父も私達の見送りに来てくれて微笑んでいた。

……父は何故か泣いていたがいつもの発作だろう。


「咲夜様、お体の方は大丈夫でしょうか?」

「天童さん……大丈夫ですわ。
ご心配をお掛けしてしまい申し訳ありません。
……ですが、少し疲れたのでお部屋で休ませていただきますわ」


どうやら天童さんにも心配をかけてしまったらしい。
……まぁ、誘拐された時にここから連絡をしたので知っているのも無理はないが。


「何かお持ちいたしましょうか?」

「そうですね……では、何か落ち着けるお茶をお願い致します」

「畏まりました」


天童さんが下がると他のスタッフが私達の荷物を部屋へと運んでくれる。
そのため手ぶらになったものの、私は最初に言った通り部屋へと戻って休むことにする。


「天也、咲夜、後で少しだけいいかな?」

「…?
えぇ、いいですけれど……」

「あぁ。
だが、お前からなんて珍しいな」


奏橙から何か言うだなんて初めてではないだろうか?
そう思える程珍しい事であった。
そのため私も天也も身構えずにはいられなくなる。


「そう身構えないでいいんだけど……。
少し相談があるだけさ」


困ったような表情をしている奏橙はとても嘘をついているようには見えなかった。


「……今から来ますか?」

「そうだね。
天也がいいならそうさせてもらうよ」

「俺は良いが…」


ということで3人に断ってから私の部屋に行くと早速話始めた。


「……紫月とのことなんだけど、
秋あたりに婚約パーティーをする事になったんだ」

「あら……それは……。
おめでとうございます」

「良かったじゃないか」


私と天也は口々にお祝いの言葉を投げかける。
だが、それで何故相談なんてするのだろうかと考える。


「咲夜は来れそうかと思ってね。
紫月も咲夜と仲が良いし僕にとっても幼馴染のようなものだし、咲夜には背中を押されたからね……。
出来れば来て欲しいとは思うけど……」

「行くに決まっているじゃありませんの。
紫月と奏橙の婚約パーティーでしたら何があろうと参加致しますわ」


友人と幼馴染との婚約パーティーに不参加なんて出来るはずがない。
父と母もさすがに許可を出してくれるはずだ。
そしてきっと兄もついてくるだろう。
何故かそんな確信があった。


「それなら良かった。
ありがとう、咲夜」


本当に嬉しそうに奏橙は微笑む。
そんな奏橙に私は呑気に紫月は奏橙のこんなところにやられたのかなぁ……などと考えていた。


「で?
俺も呼んだのは?」

「だって、僕と咲夜が2人で話をしたら天也が後でうるさいからだよ。
嫉妬深いと咲夜に嫌われるよ?」


奏橙は楽しんでいるようで昔と同じようにイラッとくるようなニヤニヤとした笑みを浮かべている。


「なっ………いいだろう。
お前の小さい頃の事を結城に全て話してやろう。
多少の脚色も加えて、な」

「ちょっ……天也!
それはさすがに……」


天也がニヤッと悪戯を思いついた子供の様な笑みを浮かべると奏橙は慌てて止めようとする。
その様子がおかしくて私は思わず笑ってしまった。


「2人とも……子供ですか……。
……初等部の頃と全く変わりませんわね」

「咲夜は変わったよね。
なんというか、裏表が激しくなった?
オンオフの切り替えが素早くなった気がするよ」

「あぁ、そうだな。
まぁ、あの時は色々あったからな……。
最初の頃は俺も咲夜に嫌われてただろうしな……」


天也の苦笑に私は頷く。

というか、奏橙はそれ、褒めてないよね?

そして昔の事を思い出しながれ私は語った。


「そうですわね……。
私は逃げようとしていたのにも関わらず、天也が話かけて来るんですもの。
光隆会としての活動もあり、関わりは増える一方でしたし……。
最初の頃は苦手意識しかありませんでしたわ。
お兄様に相談してどうにかしてもらおうかとも考えましたもの。

奏橙は奏橙で分かっているくせに止めないんですもの。
しかも、作り笑いをしながら話かけてきますし……。
気味が悪いと感じましたわ。

そのうえ、2人の方から近付いてくるのにも関わらず近付きすぎだと言われ他の方々に呼ばれるしまつ……。
そしてその尻拭いは全て私がしなければいけませんでしたし……疫病神のように思っていましたわ」


素直に口に出すと天也も奏橙も顔を引き攣らせた。


「咲夜、もう少しオブラートに包んで欲しかったんだけど……?」

「悠人先輩に言われなくて良かった。
絶対に死んでたぞ、それ……」


2人は文句などを言っていたが仕方ないという様に笑った。

あんなに嫌だった天也との関わりがまさか強まっているなどと……しかも、恋愛感情を抱くなど……。
いや、それどころかこうして3人で仲良く話すなどということも予想はしていなかっただろう。

……あのころの私はフラグを折る事か回避する事しか考えていなかったから。

だが、今は恋愛だの友情などという昔なら馬鹿にしていた事に私は楽しいと、嬉しいと感じてしまっている。

そんな変化を与えてくれたのは紛れもない、天也と奏橙……そして、兄や母に父や屋敷の皆。
色々な人に変化を与えているつもりでいたが、一番変えられたのは実は私なのかもしれない。

そう思いながら私は笑っていた。


「天也、奏橙、ありがとうございます」

「……急に何だ?」

「咲夜らしくない……。
どうしたの?」


戸惑う2人に私は

「何でもありませんわ」

と答えると2人して肩を竦めた。
その辺の息がピッタリな所はさすが幼馴染だというべきなのだろうか?

そんな仲の良さに嫉妬している自分がいて天也に対して本当に恋心を抱いているのだと感じさせられる一方で自分の醜さを見せられているような気にもなる。


「奏橙はそろそろ紫月のもとへ行ったらどうですの?」

「……じゃあ、そうするよ。
天也と咲夜の邪魔になっているようだからね」


奏橙は立ち上がり私のもとへ近付いてくると耳元でそっと囁いていった。


「咲夜が嫉妬深かったなんて意外だったよ。
留学中の天也の様子はちゃんと伝えるから安心しなよ」


と。
そんな言葉に私は羞恥で顔を赤く染めた。

天也の様子を伝えてくれるのは嬉しい。
それは認めよう。
だが、嫉妬深いとかは言われたくなかった。


「か、奏橙!?
な、なな何を言うんですの!?」

「前にからかわれたお礼だよ」


最後の一言で私は余計に顔を赤くするのであった。
そして、そんな時に入ってきた天童さんに熱があるのではないかと慌てられ諌めるのに大変な思いをするのであった。

そして私は心の中で1つだけ決心した。


『今度機会があれば奏橙を思い切りからかってやろう』


と。
そして奏橙の慌てる姿を写真で撮って紫月に見せてやろうと。
そんな私の悪戯心に気付いたのか天也が話かけてきたのでこの計画を話してやれば


「程々にしてやれ。
そうでないと俺がやれなくなるからな」


という言葉を貰った。
そして2人で密かに奏橙をからかうための計画が練られるのであった。


それが成功したか失敗したかは私達の胸の中に隠しておこう。
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