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紹介
しおりを挟む兄と天也がドイツへと来た次の日、私はシャルとアルを初めて家に招待した。
2人を紹介するためだ。
「ここが咲夜の……」
「で、咲夜のお兄さんと婚約者は?」
アルがすぐに本題に入りたい様でうずうずしている。
前から思ってはいたが……どうやらアルは好奇心旺盛らしい。
まぁ、それは分かるが……流石にあの兄に何も忠告せずには合わせられない。
「アル、お兄様に合う時は、あくまでも私達はただの友人だという事を示してください。
それ以上でも、それ以下でもありませんわ。
そうでなければ……どうなるか分かりませんわ。
最悪の場合……いえ、なんでもありませんわ。
いいですわね?」
「え……そんな怖いの?
物凄く不安になってきたんだけど……。
っていうか、最悪の場合ってなに!?」
「……怖いというよりも暴走気味、と言った方が近いと思いますわ」
勿論、アルの声はスルー。
私は今朝の兄を思い浮かべると苦笑した。
優しい兄なのだが…1週間くらい会わなかったせいか少し暴走気味なのだ。
朝なんて、
『おはよう、僕の可愛い咲夜。
いつも通り、天使のよう……いや、いつも以上に天使らしく見えるよ。
本物の天使と見間違える程だ。
いや、きっと本物よりも……』
とか口にしてきた時は流石に引いた。
「わ、私には何かありませんの?」
「シャルは問題ありませんわ」
「そ、そうですの…」
兄の病気は男のみに、だからな。
シャルには問題はない。
精々、少し調べられるくらいだ。
「咲夜、お客さんはもう着いていたみたいだね。
初めまして、僕は天使……咲夜の兄、海野悠人。
咲夜と仲良くしてくれてありがとう」
「咲夜と同じクラスのアールズ・レイトです」
アルが挨拶をすると、兄はピクリと眉を動かした。
……やはり、思った通りだった。
さっきのあの挨拶、シャルにだけだった。
そして、当のシャルはといえば兄の笑顔に当てられてボーっとしていた。
「はっ……私は、咲夜と同じクラスのシャール・リスカーと申します」
シャルが挨拶をしたところで私は思った。
なぜ、兄がここにいるのだろうか、と。
兄の事は天也に任せてきたはずだった。
なのに、兄は何故ここにいるのだろうか?
そして、任せてきた天也は一体どこへ行ったのだろうか?
「お兄様、天也は……」
「さぁ、咲夜行こうか」
兄は笑顔で私の背中を押した。
「……お兄様」
「心配しなくとも、あの害虫は置いてきただけだから大丈夫だよ。
さぁ、取り敢えず中に入ろう。
咲夜の友人にも失礼だろう?」
置いてきた……まぁ、ありえなくもないので私達は中へ入る。
それに、確かにこのままではシャルとアルに失礼だろう。
だが、中に入るとそこには縄でぐるぐるまきにされ、口にテープを貼られた天也がいた。
……これは、置いてきたと言った時点で疑うべきだった。
というより、これは『置いてきた』という言葉で済むようなことではない。
これでは監禁してきた、の間違いだろう。
私は黙って天也に近づくと取り敢えず1枚写真を取りいくつかのファイルにバレないように保存をした。
「んんんんんんんんっんんんんんんん!!」
何を言っているのか分かるのが長年の付き合いを示していた。
そして、保存が終了すると私はようやく天也のテープと縄を取ってあげた。
「はぁっ、はぁっ……おい、咲夜!
今さっき取った写真を全て消せ!」
「丁重にお断りさせていただきますわ」
私は満面の笑みで断った。
当然だろう。
あんないいものを消すわけが無い。
まぁ、天也が軍服を着て写真を撮らせてくれるというなら話は別だが……。
「おい!?」
「それよりも……天也、紹介致しますわ。
私の友人の、シャルとアルです」
「それよりってなんだ!?
……はぁ、まぁいい。
咲夜は何を言っても聞かないからな……。
と、こんな形になって済まない。
俺は天野天也、咲夜の婚約者だ。
よろしく頼む」
天也は諦めたように自己紹介をしていたが、その隣で兄が悶えていた。
そっと耳を傾けると……。
「小悪魔な咲夜も可愛いっ!!
小悪魔衣装を着せたいっ!
あの笑顔が……!
可愛い、咲夜が可愛すぎて辛い!!
カメラを持ってきておくべきだった……!!
今すぐ部屋に連れ込みたい!」
……かなり後悔した。
兄の病気はどうやら不治の病らしい。
うん、知らないフリをしよう。
部屋に連れ込まれたり写真を撮られたりしない限りは『まだ』害はないし。
「シャール・リスカーと申します。
咲夜とは同じクラスの友人なんですの。
よろしくお願……」
「シャル、天也は止めておいた方が……」
「……はぁ、咲夜の婚約者なのでしょう?
そんな方を取りませんわ。
ですからそう心配しなくともよろしいと思いますわよ」
シャルの言葉に私は赤面した。
確かに私はシャルが天也と仲良くなって欲しくない、などと心の狭い事を思ってしまった。
だが、流石に天也の前でそれを言わなくともいいと思う。
だが、自分にこんな醜い感情があったとは思わなかった。
これも全て天也のせいだ。
「あぁ、俺は咲夜以外に興味はないと言っただろう?
ようやく婚約者まで上り詰めたんだ。
……ここでみすみす離すようなヘマはしない」
「よ、よくもそう恥ずかしい言葉を言えますわね」
「咲夜に勘違いされたくないからな」
だから、それを止めろ。
ドキッとするじゃないか。
しかも、そんな愛おしそうな、優しい目で見ないで欲しい。
そんな事されると余計好きになる!!
まぁ、こんな事本人には絶対に言わないけど!
「アールズ・レイト。
僕も咲夜と同じクラスなんだ。
よろしく」
「あぁ、アールズとは仲良くなれそうな気がする」
「アルでいいよ。
僕も天也と呼ばせて貰うから。
僕も天也とは仲良くなれそうだと思うよ」
アルと天也の2人は既に仲間意識が芽生えているようだ。
……兄に虫扱いされた仲間だろうか?
いや、それだと私に関わった殆どの男が仲間になってしまうだろう。
特に、天也と奏橙はかなりの被害にあっているし。
「天也とお兄様はいつ帰るんですの?」
「明日の夜だ」
思っていたよりも早い帰国だった。
だが、それは天也だけのようで兄はまだいるようだ。
「僕は、来年、かな」
「……え?」
「僕も留学する事にしたんだよ。
学校側にはレポートの提出ということで許可はとってあるからね。
咲夜1人をこんなところに放り込むなんてことはしないよ」
……ということらしい。
まさか兄が留学してくるとは思わなかった。
「これで咲夜も寂しくはないだろう?」
…私のため、という風に言っているが絶対にシスコンだからだろう。
まぁ、所謂追っかけだ。
というか、私はそんな子供ではないよだが。
「……咲夜、良かったね」
「……アル、周りに気を付けた方がよろしいかと」
これから大変になるのは私の方ではなく、アルなのだから。
「怖いんだけど!?」
「大丈夫だと思いますわよ。
………………………………多分」
「ちょっと!?
多分って何!?
余計不安になってくるんだけど!」
面倒になった私は笑って誤魔化す事にした。
そして、そんな私の視界に入ったのは機嫌が悪そうな天也の姿だった。
腕を組み、ジッとこっちを見ている。
………あれは、どうしろと言っているのだろうか?
「咲夜?
どうかし……あぁ…」
私が指を指した方を見るとアルはあぁ、と頷いた。
そして、なにか悪戯を思いついたような子供の笑みを浮かべると、私にソッと耳打ちした。
「天也は咲夜の事、本当に好きみたいだけど…咲夜はどうなのさ?」
カァッと顔が赤くなっていくのを感じる。
アルの問いの答えを口にするのが恥ずかしくて私は挙動不審になった。
俯いたり、顔をあげて口を開きかけてまた俯いて……といった行動を続けていると天也が痺れを切らせてこちらへ来た。
「咲夜」
「う…あ………」
天也の登場により、落ち着きかけていた私の心臓も再び高鳴り、恥ずかしさがこみ上げてくる。
天也はそんな私を一瞥すると、半眼でアルを睨んだ。
「おい…アル、咲夜に何をした?」
「うわっ!
僕がやったって決めつけられた!?
酷っ!!」
軽薄そうな笑みを浮かべていたアルは楽しそうにケラケラと笑うとやったことを話した。
「ただ僕は、咲夜に天也が好きか聞いただけだよ?」
と。
余計な一言を。
天也はアルの言葉が意外だったのか目を見開いてから私に確かめるような視線を向けてきた。
まぁ、一応余分な事…とは思ってはいても事実なのでコクリ、と首を縦に降った。
「で、どうなんだ?」
「ふぇ……?」
「俺を好きかって話だ」
答えは分かっているだろうに意地悪そうな笑みを浮かべて私が口にするのを待っている天也に私は口にした。
……そこで返答しないという手を選ばなかったのはその選択肢が頭の中に無かったからである。
「…………えぇ、好き、ですわ…」
そう、正直に口にしただけであったが、天也は顔を手で隠し、私に背を向けた。
その耳がほんのりと赤くなっていることからただ照れているだけだということが分かる。
「ヤバい……思ったよりも殺傷力が……」
などということを延々と口にしていたので私はほっとくことにした。
……あの状態からは中々復活しないのだ。
もう諦めた。
「チッ……昔に駆除しておけば……」
なにやら怖い言葉が聞こえた気がするのは気の所為だろう。
……気の所為だよね?
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