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いつも通り
しおりを挟むさて、そんなこんなで1ヶ月が経ち、かなり店の方は形が出来てきた。
従業員の方も問題はなく、今のところは順調に進んでいる。
「お嬢、俺はしばらく離れるが……」
「えぇ、分かっています。
問題ありません。
……そちらはお願いします、真城」
「おう、任せとけ!」
真城には日本に飛んで貰った。
目的は勿論黒羽凛についての調査。
ついでに店の宣伝だ。
「咲夜様、そろそろお時間です」
「えぇ、すぐに行きますわ。
ヴィルは……」
「車で待っています」
どうやら待たせてしまっているらしい。
私は清水に言ってすぐに向かうと、車に乗り込んだ。
「ヴィル、待たせてしまって申し訳ありません」
「気にしないでください!
咲夜様は僕の恩人ですし…。
本当は咲夜様に仕えたいくらいです…」
「あら、私は私に出来る事をしたまでですわ」
「それでも、です!
僕達兄弟は咲夜様に救われました。
それだけでなく、こうして学校にも通わせて頂いているのです。
ですから、僕は咲夜様に仕えたいです。
……清水さんや、真城さんのように」
清水はともかく真城は手本にしない方がいいと思う。
あれは色々と問題あるし。
気持ちは嬉しいけどね。
まぁ、2人共私の大切な人だけど。
「ありがとう。
でも、折角延びた命ですもの。
自分のために使った方がいいと思いますわよ?」
「自分のためです。
僕は咲夜様にお仕えしたいのですから問題ありません!」
ヴィルの必死さに私はクスリと笑ってしまう。
ムッとするヴィルは少し可愛らしく感じた。
本人には言わないけどね。
「卒業後もその気持ちが変わらないのなら私はヴィルの想いを尊重しますわ」
「っ……はい!」
本当に嬉しそうに笑うヴィルに犬みたいだと思ってしまった。
真城と清水が私の番犬だとするのならばヴィルは忠犬、仔犬だろう。
などと本人からしたら不本意でしかないだろう事を考えるのだった。
そうこうしているうちに学園に到着し、私は清水にいつも通り仕事を頼むとクラスへ向かった。
「おはよう、咲夜」
「おはようございます、咲夜」
「おはようございます、アル、シャル」
いつも通り挨拶を交わすと雑談タイムに入る。
「そう言えば、咲夜のお兄さん…もう既にシスコンって呼ばれてるみたいだけど……」
というアルの言葉に私は思わず頭を抱えた。
1ヶ月程度しか経っていないのにも関わらずどうすればそう、シスコンと呼ばれるようになるのだろうか。
というか、あの兄は一体何をやったのだろう?
「その話でしたら……確か、クラスで咲夜が天使で可愛いなどという話ばかりしていると聞きしましたわね」
「お兄様の馬鹿……」
ボソッと呟いた私の言葉にアルとシャル、そしてヴィルの3人が同情の視線を投げかけてきた。
……本気で傷付くからやめて欲しい。
あれでもいい兄なのだ。
ちょっと私に甘いというか、まぁ…うん、アレなだけで他は至って正常…正常……正常………だよね?
多分正常なはず!
「まぁ、それだけ咲夜が愛されてるって事だしいいんじゃない?」
楽観的に口にするアルだが、言わせてほしい。
「……アル…。
……知らない間に自分の失敗談や黒歴史が他学年に広まっていたり、お兄様を訪ねにクラスへ行くとなぜか暖かい目で見られたり、身に覚えのない写真がお兄様の部屋に飾られていたり、先輩に話しかけると真青な顔をして逃げられたり……。
そのような事があってもそんな考え方出来ますか?
私と変わってくれますか?」
「……うん、ごめん、無理」
アルも分かってくれたみたいだ。
顔を引き攣らせているアルとシャル。
ヴィルはもうそういった事に慣れてしまったのか普通にニコニコと笑っている。
可愛い…私の癒し……。
「……諦めた方が身のためではありませんの?」
「諦めましたわ……7年程前に。
ただ、年々悪化していく場合はどうすればいいと思います?
少しは良くなるのではと思い、留学を決意しましたのにいつの間にかお兄様まで留学しているのですよ!?」
「……心を強く持っていればまだ……」
つまり、方法は無いと。
そういうことなのか。
見捨てられた……!!
若干下がり気味のテンションではあったもののそれからの授業は真面目に聞いていた。
……中身がアレな私にとっては酷く簡単に感じられる授業だったが。
そして昼休み。
やはりと言うべきか兄はきた。
それもやけに上機嫌で。
「咲夜、さぁ行こうか」
どこに、などという事は聞かない。
まぁ、今まで一緒だったからそんなに気にならないからかもしれない。
……大分お兄様に侵されてる気がする。
「あの……アルとシャル、ヴィルも一緒にいいでしょうか……?」
少し上目遣いにしてお願いするのがコツだ。
お兄様はうっ……と言葉を詰まらせてから、折れてくれた。
「……いいよ。
さぁ、早く行こうか」
「はい!
ありがとうございます、お兄様!」
兄から許可をもぎ取った私はアルとシャル、ヴィルの3人と共に食堂へ向かった。
やはり、というべきか混んでいたがまぁ問題はない。
お兄様の友人…?らしき人物が席をとっていてくれたらしく、私はぺこりと頭を下げて挨拶をした。
「海野咲夜と申します」
「ウィリアム・ルーフェン。
悠人とは同じクラスなんだ。
よろしく、咲夜ちゃん」
「よろしくお願いいたしますわ、ウィリアム先輩」
私が笑顔を向けるとなぜか先輩は真青になり、体を震わせた。
その先輩の視線の先には笑顔の兄がいた。
……なんか、兄が申し訳ない。
まぁ、それくらいには怖かった。
「…ウィリアム、咲夜に手を出したら……分かってるよね?」
ウィリアム先輩は無言でコクコクと首を縦に振り続けているといつもの兄の表情にもどった。
ただし、目は笑っていないが。
「お兄様の話をお聞きしようかと思ってたんです。
……駄目、でしたか?」
と、救い船を出してあげるとホッとしたように先輩は息を吐き、お兄様は驚いたように一瞬だけ目を見開いた後、嬉しそうに微笑んだ。
「そんな事ないよ。
ただ、話なら咲夜の話が聞きたいな」
「はい、お兄様がそう仰るのでしたら」
結局いつも通りの昼食だった。
教室へ戻ると、アルとシャルが疲れたような表情をしていた。
「……何か凄く威圧されてた気がするんだけど……」
「分かりますわ……。
あれは……正直もう、勘弁して欲しいですもの…」
「……申し訳ありませんわ、お兄様が……」
うん、いつも通りの昼食だ。
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