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本編
エリンスフィール
しおりを挟む「よし、行くぞ、ルアン、カイン!」
「いや、『行くぞ』じゃないですって。
どう説明するつもりですか」
「そんなもの、後からどうとでもなる。
既にエリスに手紙を送ってあるしな」
「……はぁぁぁぁ!?
何やってんですか!」
ルアンが驚くのも当然だろう。
何せ私は一国の王子、それも皇太子となることが決定しているのだから。
それに、もし私に何かあったとしても、だ。
私には弟が一人いるし、何とかなるだろう。
とはいえ、自由に行動していいわけではないと分かってはいるが。
だが、それでも行きたいと思うのは……。
「ルアン、別に私と共に来る必要はない。
例え、一人でも私は行く」
「あぁ、もう! 行くしかないじゃないですか!
まさか、殿下一人で行かせられるわけないでしょう。
僕としても、エリスのことは心配ですから……」
「勿論、俺も行くぜ! 殿下の護衛だしな」
なんだかんだ言って、私と共に来てくれるらしい。
こういった我儘を口にするのは初めてだが、それでもこうして共に来てくれるというのは嬉しいものだな。
「なぁ、行くにしても、陛下達にはどう説明してくんだ?」
「それなら、丁度パーティーの招待状がある。
それを理由にしておけば良いだろう。
差出人がどこぞのバカだということは気になるがな」
「うわっ、この時期にパーティーって、馬鹿としか思えないのですが。
エリスとの婚約を大々的に破棄しておきながらパーティーって……」
「私も同じことを思うが、それがあるからこそバカと言われているのだろう。
エリスとの婚約を破棄してくれて本当に良かったと思うぞ」
差出人は、向こうの王子だ。
どうせまた、勝手に出したのだろう。
バカ王子と言われるだけはあるな。
あんな奴がエリスの婚約者だったとはな。
エリスが、あの王子だけが悪いわけではないと言っていたが、とてもそうとは思えん。
「……殿下、後で少し話が」
ルアンがそんなことを言うとは珍しいこともあるものだ。
「ん、ここでは駄目なのか?」
「ええ、まぁ。エリスのことなので」
ならば、二人の方がいいだろうな。
カインには知られたくないことのようでもあるし。
「分かった。カイン、少し外してくれるか?」
「了解」
カインが出て行くのを確認し、二人分のお茶を用意してから、ルアンは本題へと入った。
「エリスは、残り一年の間ならば自分で婚約者を決めてもいいと言われています。
その期限を過ぎた場合、婚約者はフォーリア公爵が決めるそうです。
殿下は、どうなさるおつもりですか?
いえ、殿下は、エリスのことをどう思っているのですか?」
その、ルアンの言葉に、私は自嘲気味に笑った。
どうやら、隠せていなかったらしい。
まぁ、それも当然だろう。
私は今まで、令嬢たちをできるだけ避けてきたのだからな。
そんな中、エリスには自ら近付いたのだ。
それを、長年私のそばにいたルアンにバレないわけが無い。
「……私は、エリスのことが好きだ。
いわゆる一目惚れ、というやつだろうな。
まさか自分がそうなるとは思っていなかったが。
だが、私も自分の立場を理解しているつもりだ」
「それは、エリスのことを諦める、ということですか?」
「……あぁ。
エリスの嫌がるようなことを、私はしたくはないからな。
私はエリスを縛り付けるようなことをしたくはないしな」
エリスは隠そうとしていたようだが、王族嫌いは少なからずあるのだろう。
だからこそ、エリスをその身分へと縛り付けるようなことを、私はやりたくはなかった。
私は、エリスが幸せならばそれで……。
そう、私ではエリスを幸せに出来ないのだから仕方ないのだ。
「はぁ、薄々気付いてはいましたが殿下。バカですか?」
呆れと疲労が混じったように、ルアンが口にした。
普通であれば、無礼だと言われるようなことを、だ。
……いや、ルアンとエリスの祖父に関しては殴るまでやったからな。
それを考えるとルアンの方が大分マシなのだろう。
「なに?」
「バカですか、と言ったのです。
いえ、疑問形は良くないですね……。
では、失礼ながら、殿下はバカです」
「おい待て。それは断言すればいいのか!?」
分かってはいたが、ルアンは私に冷たすぎはしないか?
エリスと私に対する接し方というか、なんというか、纏っている温度が違いすぎる気がする。
「いえ、疑問形は失礼かと思ったので」
「疑問形でなくとも十分失礼だ! いや、断言する方が余程失礼じゃないのか!?」
「殿下相手ですよ? 何言ってるんですか」
……おかしい。
それでは、私には何をしてもいいとでも言っているように感じるのだが。
いや、それよりも、だ。
今のルアンの言い方では、私に対して失礼だと思っていないということなのだから、疑問形でも構わなかったのではないか?
「とにかく、エリスは王族嫌いというよりも、王族が持ち込む面倒を避けたいから王族を避ける、という人です。
王族と面倒がイコールにのは、どこぞの王子のせいでしょうけど。
身分としても、どうせエリスがエールの王家を変えるでしょうから、その友好の証、とでも言っておけばいいでしょうし、エリスの持つ商会も取り込めるという建前からしても、問題はないでしょう。
知っての通り、フィーリン商会は、かなり力がありますから。
最大の問題はエリスですが、それは殿下がどうにかすればいいだけの話です。
従弟の僕からすると、エリスに対して遠慮する必要はありません。
それに、殿下でもなければエリスの意識が高すぎてもらってくれる人なんていませんよ」
ルアンにそう言われてしまえば、その気になってくるのは何故だろうか?
私が扱いやすいのか?
考えても無駄だな。
だが、この場にエリスがいれば最後のルアンの発言については絶対に文句の一つでも口にしただろうな。
それどころか、笑顔で怒りそうだ。
それはそれで見てみたいと思うが。
「ルアン、お前は、私とエリスの婚約については賛成なのか?」
「賛成か反対か、と聞かれたら、そうですね……」
ルアンが考え込むような素振りを見せる。
やはり、反対なのだろうか?
「そうですね。どうでもいいです」
「……は?」
斜め上をいく回答だった。
いや、ありえないだろう。
仮にも従姉との婚約の話をどうでもいいとは……。
「エリスが殿下と婚約したところで、特に変わらなそうなので。
まぁ、殿下でもなければエリスを貰ってくれるような勇者はいないでしょうが。
ただ殿下がエリスと婚約を結ぶ気もないのに、この前のように二人で、となるとあまり良くないですから」
「……そう、だな」
サラッとエリスの夫となる者を勇者呼ばわりしたが、それはスルーしておこう。
次にエリスに会った時に言ってやるか。
それは置いておくとして、確かに、婚約もしていない令嬢と二人きりで、というのは良くないだろう。
その程度のことも考えられなかった自分がどれほど浮かれていたのかが分かる。
そして、少し考えてから私は答えをだした。
「私は……」
私の出した答えに、ルアンは満足したのか、笑みを見せた。
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