王族なんてお断りです!!

紗砂

文字の大きさ
25 / 70
本編

20

しおりを挟む
しばらく、雑談を楽しんでいると、陛下と共にバカ二人が会場入りしました。
だらしなく緩んだその表情を見るに、以前よりも悪化しているような気がします。


「突然だが、一つ報告がある。
キースの王位継承権を剥奪し、次の国王は公爵家の中から選出することとする」


ついに、陛下は口にしました。
招待客側は、当然とでも言うような反応でした。
ですが、あのバカ二人だけは狼狽えています。


「な、なぜですか父上!」

「キース様の王位継承権を剥奪するなんて……酷い!」


こうなることは分かっていたでしょう。
ルベルコートとの取引が失われそうになったそもそもの原因はキース様、あなたなのですから。
そもそも、バカ王子などと言われている方を王にするなどあり得るわけがないのです。


「お前か……。エリス、お前の仕業か!
どこまで私の邪魔をすれば気が済むというのだ!」


……なぜ、そう思ったのでしょうか?
脳味噌まで腐り切っているのではありませんか?
私にそんなことが出来るはずがないでしょうに。
最終決定は陛下が下します。
そこでその決定がなされたということはもう、既に見限られていた、ということなのに。


「……キース様、私も言いたいことがあります。
私の商会に出入りするのをやめて頂けませんか?
私のもとにキース様についての苦情がかなり来ているのですが……」

「ふんっ、お前の商会だと? 行った覚えもないがな。
どうせ、お前の店などすぐに潰れるだろうがな!」


……何を言い出すかと思えば。
フィーリン商会に行ったことがない?
ならば、アリスは何故怪我を負ったのでしょうか。
すぐに潰れる?
エリンスフィールへ本店を移動するだけであんなにも貴族が騒いだ商会がそんな簡単に潰れるとでも?
きっと、この方は知らないのでしょう。
私がフィーリン商会の会頭であると。
貴族であればほとんどの者が知っていることだというのに、かつて私の婚約者であった人は知らないという。
それほど、私に興味がなかったということなのでしょう。


「キース様、あなたがまだ王位継承権を持っていたのなら、私は即座に商会をこの国から引き上げたでしょうね」


私の言葉に、貴族の大半が息を呑みます。
それほどまでにフィーリン商会が愛されている、というのはやはり嬉しいですね。


「引き上げるだと? 商才がなく続けられない、の間違いではないのか?」


キース様は嫌な笑みを浮かべました。
……なぜ、私は今までこのような方のために頑張って来たのでしょうか?


「キース、まさか本当に知らんのか……?
エリス嬢は、あのフィーリン商会の会頭だぞ」

「は? まさか、そんなはずないじゃありませんか。
エリスがフィーリン商会の会頭など、ありえるわけがない。
……あぁ、そういうことですか。
父上もきっとこの女に騙されているのですね!」


陛下は呆れ果てた様子で口にしました。
そうですよね。
婚約者のことですし、そうでなくても名を馳せている商会のトップくらい貴族であれば誰でも調べます。
特に王族であれば、国に影響を及ぼすであろう商会や人物については頭に入れておくものですから。
更に、私はあの方の婚約者であったこともあり、商会頭としての立場を隠すことはありませんでしたし。


「エリス嬢、フィーリン商会を撤退させたりしないよな?」

「……今のところは、ですが」

「そうか……」


ホッとしたような表情を浮かべる陛下。
……王妃殿下もお気に召されているようですし、その影響でしょう。


「キース様、私、今回ばかりはかなり怒っています。理由は、分かりますよね?」


もちろん、アリスを傷つけたからです。
私の大切な人を傷付けたのだからそれ相応の覚悟はしているのでしょう?


「こ、婚約破棄の件ならば、あれは……」

「婚約破棄については、私にメリットしかありませんでした。それに関しては感謝しています」


キース様がいなければ婚約をすることも無かったのですが、それは言わずにおきましょう。


「……アリス、私の店の従業員を傷付けましたよね?
キース様の負わせた肩から首元あたりまでの刀傷は残ってしまうかもしれないのですよ?
その者から聞いた話によると、フィーリン商会を寄越せ、と言ったのだとか。
それを断った者に剣を向けるとは、王族である前に人としてどうなのでしょうか?」


私はこれでも怒っているのです。
アリスを傷付けたこと、店を潰そうとしたこと、フォーリア公爵家の品位を汚そうとしたこと。
色々とありますが、やはりアリスの件が大きかったのだと思います。
だからこそ私は敢えてこの場で、キース様の名を落とします。


「王子としての教育から逃げておきながら、特権は行使する。
そのようなことが、本当に許されるとでも思っていたのですか?」


私は、バカ王子を突き放すように口にしました。
あなたは、私を婚約者として扱ったことなど一度もありません。
最初の頃は、国のためならばそれでも良いと思っていました。
ですが、途中から馬鹿らしく感じていました。
だって、そうでしょう?

あなたは、何もしなかったのだから。
国のためになるのなら、それでもまだ許すことはできました。
ですが、そうではなかった。
国のことなど何も考えていないのですから。
なぜ、婚約者とも思っていない相手のために、敵を減らさなければいけないのでしょうか?
なぜ、私がこんなバカのために動かなければいけないのでしょうか。
このバカを見ていると時々思うのです。
ノブレス・オブリージュとは、一体なんなのか、と。


「少なくとも、私はあなたを許しません。
アリスを、私の大切な者を傷付けたあなたを、許すつもりはありません。
フィーリン商会を敵に回したこと、せいぜい後悔してください」


最後に、私は笑顔を見せ、キース様の前から立ち去った。
これで本当にお別れです。

きっと、これから二人を待つのは地獄でしょう。
フィーリン商会は太いパイプを持っています。
そのフィーリン商会の敵となったお二人を客に取る商会は無いでしょうから。

あの二人はもう、貴族としても、商人としても終わったのです。
特別選民思想の高いお二人にとって、これ以上の屈辱は無いでしょう?
もちろん、他にも色々とやらせていただきますが。

まさか、この程度で終わるだなんて、思っていませんよね?

憎んではいませんが、フィーリン商会に所属する者に手を出したバカの末路として、十分利用させていただきます。
これまで、かなりの苦渋をのまされたんですからこのくらいは構いませんよね、キース様?
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

ぱんだ
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...