30 / 70
本編
24
しおりを挟む「本当にここでいいのか?」
「えぇ、迎えを待たせていますから。
ありがとうございます、フレイ様。」
最初に降りた辺りまでフレイ様に送ってもらうと、私はお礼を口にして馬車に乗り込みました。
「エリス様、大丈夫ですか?」
ルーファスが私の疲れきった様子に、心配そうに声を掛けてきます。
普段であれば誤魔化すのですが……今回はやめておきましょう。
「えぇ、問題ありません。
ただ、少し疲れてしまっただけです。
しばらく休めば問題ありません」
「ならば良いのですが……。
エリス様に倒れられると、ハーネスからの殺気が……」
ハーネスの殺気、ですか……。
確かに、それは怖いでしょうね。
私が倒れてしまえば、ハーネスだけでなく、アリスやニールも暴走しそうですし、ここで倒れるわけにはいきません。
「屋敷に着くまで、少し眠ります。
到着したら起こしてください」
「はい、承知しました」
エールに帰ってきてから、忙しかったですから。
商会やどこかのバカのことや、アリスの怪我やアルとの婚約に国王の選定。
短期間に色々あって休憩時間もそう取れませんでしたし、それが原因でしょうね。
そんなことを思いながら、私は仮眠を取りました。
しばらくして、屋敷に到着すると、私はルーファスに起こされます。
「……ありがとうございます、ルーファス。
私は厨房に行きますから、何か用件があれば厨房に来るようにしてください」
「承知しました。
……ですが、休憩なされなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫です。
お菓子作りは趣味のようなものですから。
気分転換に丁度いいくらいです」
私が微笑むと、ルーファスは少しだけ安心したように頬を緩めました。
「くれぐれも無理だけはいないようにしてくださいね、エリス様。」
「えぇ、承知しています」
心配性のルーファスは、最後に釘を刺すようにそんな言葉を残し、休憩に入りました。
さすがに心配のしすぎのような気もしてきますが、主に私が原因なので仕方ありません。
ルーファスとわかれてから、私は厨房へ向かうと、料理長に許可をとり隅の方で明日用のケーキ作りを始めました。
「エリス、何か手伝うことはないか?」
「大丈夫です。
ありがとうございます、アル」
途中、アルを初めとしてハーネスやニール、ルアンまでも手伝いを申し出てくれましたが、全て断り、数時間程使いケーキは完成しました。
「朝作ったものは、皆で食べてください。
今作ったものは明日、お客様へお出しするようにお願いします」
「承知致しました、エリスお嬢様」
これで、明日の晩餐のデザートは問題ありませんね。
あとは……。
「アリス、具合はどうですか?」
「あっ……エリス様、問題ありません。
すぐにでも仕事に復帰可能です」
私がアリスに与えられた部屋へ行くと、アリスがそんなことを口にします。
……嘘ですね。
アリスに付けた者の見立てでは、少なくともあと一週間は左肩を使わない方がいい、ということでしたから。
「アリス、本当のことを言いなさい。
そのままでは、あなたを復帰させるのは出来ませんよ」
「……申し訳ありません。
少々、左肩に痛みはありますが、問題はありません。
この程度ならばすぐにでも……」
この子は……昔からそうでしたが、自分のことを蔑ろにしすぎですね。
私を優先してしまうのが悪いのでしょうが……。
「アリス、あなたはもう少し、自分のことを大切にしなさい。
あなたに倒れられると、心配する者も多いのです。
この程度、と侮るのはやめなさい。
破傷風などを起こす危険もあるのですから。
あの方のことです、剣の手入れも怠っていたでしょうし……」
「はい……申し訳、ありません」
「……謝るのは、私の方です。
会頭という、トップに立つ者にも関わらず、あなたを守れなかったのですから。
ですからせめて、今は休んでください。
それでもまだ、あなたが仕事をしたいというのであれば、一つお願いしたい仕事があります」
アリスの性格からして、ここでどんなに突き放しても仕事をしようとするでしょう。
ならば、私がアリスの仕事の調整をした方がまだマシです。
「はい!」
「新作のものを作りました。
後で持ってこさせますから、感想と改善点があればそれもお願いします。
いいですね、アリス?」
「はい!」
これならば、寝たままでも出来ますし、体に負担はかかりませんから。
これも、お客様にお出しするものに妥協をしないための立派な仕事の一つです。
0
あなたにおすすめの小説
怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~
美袋和仁
恋愛
ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。
しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。
怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。
なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる