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本編
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しおりを挟む「本当にここでいいのか?」
「えぇ、迎えを待たせていますから。
ありがとうございます、フレイ様。」
最初に降りた辺りまでフレイ様に送ってもらうと、私はお礼を口にして馬車に乗り込みました。
「エリス様、大丈夫ですか?」
ルーファスが私の疲れきった様子に、心配そうに声を掛けてきます。
普段であれば誤魔化すのですが……今回はやめておきましょう。
「えぇ、問題ありません。
ただ、少し疲れてしまっただけです。
しばらく休めば問題ありません」
「ならば良いのですが……。
エリス様に倒れられると、ハーネスからの殺気が……」
ハーネスの殺気、ですか……。
確かに、それは怖いでしょうね。
私が倒れてしまえば、ハーネスだけでなく、アリスやニールも暴走しそうですし、ここで倒れるわけにはいきません。
「屋敷に着くまで、少し眠ります。
到着したら起こしてください」
「はい、承知しました」
エールに帰ってきてから、忙しかったですから。
商会やどこかのバカのことや、アリスの怪我やアルとの婚約に国王の選定。
短期間に色々あって休憩時間もそう取れませんでしたし、それが原因でしょうね。
そんなことを思いながら、私は仮眠を取りました。
しばらくして、屋敷に到着すると、私はルーファスに起こされます。
「……ありがとうございます、ルーファス。
私は厨房に行きますから、何か用件があれば厨房に来るようにしてください」
「承知しました。
……ですが、休憩なされなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫です。
お菓子作りは趣味のようなものですから。
気分転換に丁度いいくらいです」
私が微笑むと、ルーファスは少しだけ安心したように頬を緩めました。
「くれぐれも無理だけはいないようにしてくださいね、エリス様。」
「えぇ、承知しています」
心配性のルーファスは、最後に釘を刺すようにそんな言葉を残し、休憩に入りました。
さすがに心配のしすぎのような気もしてきますが、主に私が原因なので仕方ありません。
ルーファスとわかれてから、私は厨房へ向かうと、料理長に許可をとり隅の方で明日用のケーキ作りを始めました。
「エリス、何か手伝うことはないか?」
「大丈夫です。
ありがとうございます、アル」
途中、アルを初めとしてハーネスやニール、ルアンまでも手伝いを申し出てくれましたが、全て断り、数時間程使いケーキは完成しました。
「朝作ったものは、皆で食べてください。
今作ったものは明日、お客様へお出しするようにお願いします」
「承知致しました、エリスお嬢様」
これで、明日の晩餐のデザートは問題ありませんね。
あとは……。
「アリス、具合はどうですか?」
「あっ……エリス様、問題ありません。
すぐにでも仕事に復帰可能です」
私がアリスに与えられた部屋へ行くと、アリスがそんなことを口にします。
……嘘ですね。
アリスに付けた者の見立てでは、少なくともあと一週間は左肩を使わない方がいい、ということでしたから。
「アリス、本当のことを言いなさい。
そのままでは、あなたを復帰させるのは出来ませんよ」
「……申し訳ありません。
少々、左肩に痛みはありますが、問題はありません。
この程度ならばすぐにでも……」
この子は……昔からそうでしたが、自分のことを蔑ろにしすぎですね。
私を優先してしまうのが悪いのでしょうが……。
「アリス、あなたはもう少し、自分のことを大切にしなさい。
あなたに倒れられると、心配する者も多いのです。
この程度、と侮るのはやめなさい。
破傷風などを起こす危険もあるのですから。
あの方のことです、剣の手入れも怠っていたでしょうし……」
「はい……申し訳、ありません」
「……謝るのは、私の方です。
会頭という、トップに立つ者にも関わらず、あなたを守れなかったのですから。
ですからせめて、今は休んでください。
それでもまだ、あなたが仕事をしたいというのであれば、一つお願いしたい仕事があります」
アリスの性格からして、ここでどんなに突き放しても仕事をしようとするでしょう。
ならば、私がアリスの仕事の調整をした方がまだマシです。
「はい!」
「新作のものを作りました。
後で持ってこさせますから、感想と改善点があればそれもお願いします。
いいですね、アリス?」
「はい!」
これならば、寝たままでも出来ますし、体に負担はかかりませんから。
これも、お客様にお出しするものに妥協をしないための立派な仕事の一つです。
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