王族なんてお断りです!!

紗砂

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本編

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市場に着くと、早速木苺を見て回ります。


「こちらの木苺を一籠ください。
支払いはフォーリア公爵家へお願いします」

「まいど!
にしても、フォーリア公爵家なんて、嬢ちゃん大変だなぁ……」

「ありがとうございます」


服を変えてきたからでしょう。
フォーリア公爵家の使用人とでも思われているようです。
わざわざ言う必要もありませんし、このままでいいでしょう。


「エリス様、お持ちします」

「大丈夫です。
護衛の手が塞がってしまっては意味がありませんから」


ルーファスが護衛でなければ持ってもらったかもしれませんが。
さすがに、護衛として着いてきてもらっている以上、持ってもらうわけにはいきませんから。


「もう一人、連れてくるべきでしたね」

「連れてきますか?」

「いえ、大丈夫です。
あちらも忙しいでしょうからそんな時に私用で呼び出せませんから」


とはいえ、思ったよりも木苺が重いので早々に帰るべきでしょうね。


「……エリス嬢?」

「フレイ様、何故ここに?」


フレイ・ルースベル、あのルースベル公爵の一人息子で、王位継承権を持つ方だ。


「それはこちらのセリフなんだが……。
まあいい。
その籠を渡せ」


少々強引な様にも見えますし、悪人顔のフレイ様は傍から見れば犯罪者のようにしか思えないでしょうが、ここはお言葉に甘えさせていただくことにしました。


「お願い致します、フレイ様」

「……お前、今凄く失礼なことを考えなかったか?」

「あら、失礼ですね。
私はただ、フレイ様の悪人顔がどうにかならないか、と考えていただけですのに」

「十分失礼だ!」


これだけ気安く接しているのは、フレイ様とは幼い頃からの付き合いだからです。
それともう一つ、同じ公爵家の者同士、親しそうにしてなければ他の貴族に要らぬ不安を与えてしまうからです。
特に、エールの公爵家は三家しかありませんから。


「はぁ……だが、変わらないようで安心した。
あいつと婚約破棄をして国を出ていったと聞いたからな」

「心配してくれていたのですか?」

「悪いか」

「いえ、ありがとうございます」


フレイ様は私から顔を背けましたが、その耳は少し赤くなっていました。
照れ隠し、なのでしょうか?


「そういえば、フレイ様。
次期国王を辞退する、というのは本当ですか?」

「……あぁ、そのつもりだ。
あぁ、父上に言われたからではなく、ちゃんと自分の出した答えだ。
私よりも、お前の方が相応しい、とな。
私は、自分が王となれば何をしたいか、と聞かれた時、何も答えられなかった。
ただ漠然とこの国を良くしたい、としかな。
だが、お前は違うだろう。
お前は、何かしらやりたいことがあるのではないか?
だから、商会を立ち上げたんじゃないのか?」


フレイ様に言われて気付きました。
私が、王になったとして、その時この国をどうしたいのか。
商会を立ち上げた時、私が雇ったのは孤児やスラムの者でした。
それは、この国の貧困層をどうにかしたいと、そういう思いがあったからです。
エールではスラムの者を減らすために政策をしてきましたが、どれも上手くはいきませんでした。
上手くいっても、それによって救われるのは少数。
それも長くはもちません。
それは、スラム育ちの者や孤児に対する偏見が根強く残っているからです。
だからこそ、その偏見を無くすために……そんな思いがありました。


「お前がやりたいことはなんだ?」

「……私は、この国の貧困層をどうにかしたいと思っています。
スラム育ちの者や孤児に対する差別や偏見を、少しでも減らしたいのです。
街道整備の仕事の斡旋から始めれば、隣国からの観光客も来やすくなるでしょうし、それにより王都の発展が期待出来ます。
そうなれば、王都の宿も増やす必要がありますから、そちらの仕事の斡旋も出来るでしょう。
次に足りなくなってくるのは……と、貧困層の改善のために動けば大きな利益にも繋がると思うのです」


それが、私の目指すもの。
私が王となってやりたいことです。


「だが、その街道整備は国の事業だろう。
そうなると、金が足りなくなるのではないか?」

「そうなるでしょうね。
ですが、フレイ様もご存知でしょう?
ろくに仕事もせず、横領をしている官僚がいるという話を。
そういった方々を追い出せば、少しは浮いてくるでしょう。
それに、これは先行投資でもあるのです。
その年には結果が出なくとも数年後には結果が出るでしょう。
そのための投資です。
なんのリスクもなしに利益は出ませんもの」


横領をしている者を追い出す、というのは当然のことでしょう。
国の中心部の腐敗というのは早々に取り除かなければなりませんから。


「それは……反対する者が出るぞ?」

「そこは、フレイ様の頑張りどころでしょう?」


未来の宰相様が味方なのですからその辺は上手くやってくれるでしょう。
それに、今まで私の積み重ねてきたものも役立つはずです。
それほどまでに、フィーリン商会会頭の名は大きい。
最悪、足りない分は共同事業ということでフィーリン商会から出しましょう。

フォーリン商会といえば、問題は本店の移動ですね。
私がこちらで王となるのであれば、本店はエールの王都にあった方が有難いのですが……どうするべきなのでしょうか。
……それは後にしましょうか。


「よりによって、そこで丸投げか」

「なんでしたら、フィーリン商会を使っていただいても構いませんが?」

「それは最終手段だな」


それは当然の判断です。
何故なら、フィーリン商会がそこに入ってしまえば、エールという国家はフィーリン商会の力無しでは何も出来なのだと他国や貴族に宣言したようなものとなってしまいますから。
私個人としてはなんの問題もありませんが。


「……エリス、隣国の王子と婚約すると聞いたが、本当か?」

「はい、とはいってもまだ予定でしかありませんが」


突然、話題が変わりましたが、大事な話なのでしょう。
そう思うと、自然と力が入ってしまいました。


「……そうか。
……エリス、私は、お前のことが好きだったよ。
こんな機会でなければ言うつもりもなかったし、とうに諦めた恋であったがな」


少し、悲しそうにフレイ様は口にしました。
私が好きだったと、諦めた恋であったのだと。


「……申し訳ありません、フレイ様。
私は、フレイ様の気持ちには応えられません」


……情けない話ですね。
私は、フレイ様にそう言われるまで、そのことに気付きませんでした。
気付かないようにしていた、の方が正しいのでしょうね。

以前の私はキース様の婚約者、今の私はアルの婚約者(予定)ですから。


「……済まない。
こんな話をするべきではないと分かっていて、どうしても、自分の気持ちにケリをつけたかった」


私が顔を歪めていたからでしょう。
フレイ様は申し訳なさそうに口にしました。


「……いえ、ただ私は、フレイ様の想いに気付かなかった自分が情けないと思っていただけです」

「お前は、昔から鈍感だったからな」

「そうでしょうか?」


鈍感、と言われたのは初めてのような気がします。
色々な意味で鈍い、とは言われたことがありますが。
主にルアンにですけど。


「あぁ。
密かに、お前に想いを寄せていた者は多かったからな。
夜会でも、お前から遠ざけるのに苦労したんだ」

「あら、それはご苦労様です。
これからもよろしくお願いします」


意外ではありましたが、まさかフレイ様が遠ざけるのに協力してくれていたとは思いませんでした。
……やはり、家柄や商会が原因だと思いますが。


「あぁ、当然だ。
だが、振った相手にそれを頼むか?」

「えぇ、そういう人間だと、分かっているでしょう?」

「あぁ、そうだな」


私が悪びれる様子もなくそう口にしてみせると、フレイ様は可笑しそうに笑いました。
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