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本編
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しおりを挟む後日、私はアルと二人で王都の街にいました。
カイン様とルアンは何か予定があるだとか。
ルアンに限っては本当か疑わしいですが。
「アルは、どういったものを買う予定ですか?」
「そうだな……。
エリスのおすすめは?」
「そうですね……食用薔薇を使用したお菓子は有名ですね。
あとは…….紅茶、でしょうか?」
「あぁ、紅茶の産地があったか……。
では、エリスのおすすめのものにするか」
エールの端にある、フェリークという名の領は紅茶の茶葉の名産地で、紅茶好きの人であれば誰もが知っている場所ですからアルが知っていても不思議ではありません。
それどころか、知っていなければおかしいとすら言えるでしょう。
エリンスフィールの王族もかなり気に入られているはずですから。
「では、お菓子については後にして先にお茶からでよろしいでしょうか?」
「あぁ」
早速店に行くと、店主が笑顔で迎え入れてくれました。
「おー、エリスちゃん久しぶりじゃないか!
婚約者の件、大変だったようだけど、大丈夫なのかい?」
白髪交じりのおじいさんは、私を心配してくれていたようです。
国を出る前に一度顔を出すべきだったでしょうか?
「ええ、ご心配をお掛けしてしまい申し訳ありません。
それより、エリンスフィールの王族の方へ出せるレベルの茶葉を頂きたいのですが」
「エリンスフィールの王族か!
なら、エリスちゃんが選んでくれ。
いくつか持ってこよう」
店主はそう口にすると、店の奥に入っていってしまいました。
これにアルは少々驚いて居るようですが、この店ではよくあることです。
「アル、あちらに席がありますからそちらへ移動しませんか?」
「あ、あぁ、そうだな」
もしかして、アルはこういった店に来ることはないのでしょうか?
アルは王族ですし、あるかもしれませんね。
「エリスは、ここにはよく来ているのか?」
「はい、先程の方はこの店の主なのですが、あの方は紅茶に対してかなりの熱を持っていらっしゃいますから。
そのためか、こちらの紅茶の評判は良いんですよ?
なので、フィーリン商会でもこちらのお茶を仕入れているんです。
その関係でよく来ているんですよ」
「それ程なのか?
フィーリン商会で出たお茶は確かに美味しいと感じたが……」
アルが言いたいことは分かります。
美味しいには美味しいですが、王族の方々が飲むようなもの程ではない、と仰りたいのでしょう。
「王族の方に出すようなお茶を全てのお客様にお出ししてしまえばフィーリン商会は潰れてしまいますから。
なので、商会の方ではランクを二つほど下げているんです」
「二つも下げてあのレベルなのか……。
ならば、エリスがそこまで贔屓にするわけも、理解できるな」
「エリスちゃん、持ってきたよ。
どれがいい?」
店主は、いくつかのカップと茶葉の入った瓶を持ってきました。
そして、それを私たちの前に置くと、期待するような表情で見てきます。
「まずは、スタンダードのものからですね」
清々しい、フルーティーな香りはそれだけで気分を晴れやかにさせます。
それに加え、すっと消えていくような後味も、流石は最高級品と言えるでしょう。
「……全然違うな」
それは、フィーリン商会のお茶と比べて、という意味でしょう。
確かに、このお茶を飲んでしまえば他のお茶が不味く感じる程に違いますから。
私もこのお茶を最初に飲んだ時には驚きました。
「次のものをお願いします」
「こちらを」
スっと差し出してきたものを飲むと、微かに、上品な蜂蜜のような香りがしました。
その蜂蜜がまろやかなコクを作り出しているようにも感じます。
個人的には、スタンダードのものの方が好きですね。
「これは……母上が好きそうだ。
先程のものに加え、こちらも一つ、頼む」
「他は?」
「そうだな……では……」
アルは飲んだ中から気に入ったものをいくつか選びました。
店主は嬉しそうに笑うと、再び奥の方へと消えていきます。
「それにしても、エリスはよくこの店を見つけたな?
簡単に見つけられるような場所ではないと思うが」
アルの言う通り、この店は裏通りにあるため客、というのはかなり少ないです。
ですが、紅茶好きであれば誰もが知っているような店なのでアリスやニールを使えば簡単に分かりました。
「確かに分かりにくい店ですが、味は確かですから噂はたちます。
あとは、店の者に調べてもらったんです。
一人、店主と顔見知りの方がいたおかげで簡単に見つけることが出来ましたが」
意外なことに、ルーファスとこの店の主は顔見知りでした。
ルーファスに聞いた話だと、昔仕えていた主がこの店をよく利用していたそうです。
そのため、偶に買い出しに来ることがあり、知っていたと言っていました。
そのおかげで私もこの店の存在を知り、辿り着くことが出来たのですが。
「流石だな。
私では、そうはいかなかっただろうからな。
やはり、エリスには人を惹き付ける魅力があるのだろうな」
人を惹き付ける魅力、ですか。
そのようなことを言われたのは初めてです。
悪い気はしませんね。
「それは、アルの方だと思います。
ルアンは意外と人を信用しませんが、アルには気を許しているように見えますから。
カイン様も、アルに惹かれたからこそ騎士として守ろうとしているのだと思いますから」
「……そうだといいな」
「少なくとも、私はそう思います」
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