57 / 70
本編
48
しおりを挟むフォーリア家へと向かう途中、何かあるかもしれないと身構えていたものの、何事もなく到着しました。
「あの、ほ、本当に私なんかが大丈夫なのでしょうか?」
ミリスさんはまだ気にしているようで、屋敷の前で気後れしていました。
そういう性分なのでしょうが、そこに居られると困ります。
どうしたものでしょうか。
「あらあら、可愛らしいお客様ねぇ。
いらっしゃいませ、歓迎するわ」
「えっ?」
「お久しぶりですぅ」
「お母様……何故、そちらからいらっしゃるのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「それは、秘密よ」
お母様はうふふ、と微笑み私達を中へと入れました。
ですが、やはり気になります。
何故、馬車を利用せず、歩いて帰って来たのでしょうか?
それも、メイド服を着用して。
「え、えっ?
お、お母様ということは……公爵夫人!?
そ、そんな方が何故メイド服を……?」
「それはねぇ、あの人の好み、かしら?」
お父様が原因だったようです。
まぁ、それだけではないように思えますが。
「それと、この方が一人で出歩くのには安全でしょう?」
それは誘拐やらの危険を考えているのでしょうが、それならばまず、一人で出歩くのをやめていただきたいのですが。
私もお母様のことを言えないのでしょうが。
……幼い頃は私も頻繁に屋敷を抜け出していましたから。
そう言えば、抜け道を教えてくださったのは、お母様付きのメイドだった気がします。
まさか、お母様が?
「あ、そうそう。
オランジェット、良かったわぁ。
華やかだし、今度お茶会を開く時はあれを用意させようかしら?」
オランジェットは、オレンジのシロップ漬けをチョコでコーティングした簡単なものです。
見た目重視でありながらも安化で簡単に作れるため、商会側としても大変重宝していますし、平民でも買える値段設定なのでかなり売れています。
ただ、オランジェットを売り始めたのは最近です。
いつの間にお母様はフィーリン商会に来ていたのでしょうか。
「次からは、護衛を付けて来てください。
もしくは、事前に言っていただければこちらから護衛をつけますので」
「あらあら、仕方ないわねぇ」
「仕方なくありません!」
お母様といると、ペースが乱されますね。
それに、笑顔でサラッと怖いことを口にする時もありますし。
この公爵家で一番怖いのはやはり、お母様だと思うのです。
「あぁ、そうだったわ。
エリス、来月あたりに私の実家に行くことになったのだけど、予定は大丈夫かしら?
お父様とお母様が、孫の顔が見たいって煩くてねぇ」
来月は確か、何も無かったような気がします。
お祖母様とお爺様、ですか。
そういえば、お母様の実家については知らない気がします。
「分かりました。
予定は空けておきます。
ですが、どちらの領地でしょうか?」
「フラングベルスよ」
「……すいません、お母様。
もう一度お願いします」
「フラングベルスよ」
最早、国内ですらありませんでした。
しかも、フラングベルス帝国は実力主義国家です。
実力主義国家だからこそ、貴族もそうであれ、ということで弱い貴族は平民に落とされ、平民でも強ければ爵位が貰える、という本当に実力こそ全てという国なのです。
そのため、かなりの軍事力を持つ大国となっています。
「お母様、私は戦えないのですが?」
「あら、教えたはずよ?
レイピア、使えるでしょう?」
「確かに習った覚えはあります。
ですが、あれはあくまでも護身術程度だったと記憶しているのですが?」
「あらぁ……あれが護身術だなんて。
それじゃあ、過剰防衛になるわねぇ」
なんということでしょう。
知らない間に帝国流の育て方をされていたようです。
おかしいですね。
私が聞いた時は『護身術程度なのだから、過信はしないようにね』と言われたのですが。
まさか、その護身術程度というのは、帝国で、という意味なのでしょうか?
「エリス様のお母様は、フラングベルスではどれ程の強さだったのですか?」
ミリスさんは大分落ち着いてきたようで、お母様に質問を投げかけました。
「そうねぇ……。
普通、かしら?」
「普通、ですか?」
「えぇ、あくまでも普通だったわねぇ」
お母様が懐かしむように目を細めました。
ですが、何故でしょう。
お母様の『普通』は普通ではないように感じます。
「あれが普通なはずないだろうに」
「お父様?」
「あらぁ、普通だったわよ?」
「求婚してきたものを片っ端から斬り捨てていくのが普通なのか?」
「もう、若かったのだから普通でしょう?」
お母様とお父様の会話を聞いていてやはり、と思います。
お母様の仰っていることのどこが普通なのですかっ!
それはかなり強い部類なのではないでしょうか?
「あら、あの人達が弱すぎるだけよ」
0
あなたにおすすめの小説
怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~
美袋和仁
恋愛
ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。
しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。
怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。
なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる