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真夜中にだってお仕事です(2)
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「そんなに仕事が好き?」
「ばっか言え、仕事が好きなんじゃなくて昇格に必要なだけだ」
「昇格?」
私が聞くと、クロノさんはしまったというように顔を歪めた。
聞かれたくないって、バレバレです。
「この話はいいだろ、仕事行くぞ」
「だって、クロノさん自分のこと話してくれないから」
「……この仕事終わったらな」
でました、この仕事終わったらな。私はもう騙されないよ。聡明な小学五年生は、意外と学習するものなんです。
「いつもそう言って教えてくれないもん。これで何回目?」
クロノさんは私の追求をかわすように、ガシガシと頭をかいた。
「いいから! ちゃんとついてこいよ」
「えー、今回はどこに?」
「行けばわかるだろ」
「知ってる所ってことか……」
クロノさんの言う行けばわかるはお前も知ってるぞって意味だ。伝わりにくい言葉を使うけれど、最近はやっとそれが分かってきた。クロノ語辞典なんて物を作ってもいいかもしれない。
「なんだその腹立つ顔は」
「言いがかりだよ」
彼が文句を言いながら扉をひらく。私が開いた時とは明らかに違うぐるぐるした黒いモヤが現れる。 まだ少し怖いけれどクロノさんに続いてその中に飛び込んだ。少しだけめまいがしてすぐに目的地にたどり着く。
恐る恐る目を開けるとクロノさんが大丈夫かと聞いた。
「大丈夫、もう慣れたよ」
「慣れるもんか、これ?」
首をかしげるクロノさんの向こうには真っ白なベッドがある。横幅が狭くて、下にはスペースが空いている。家で寝る様なベッドじゃない。
なんだか見られている様な、そう、えっと、診察室。
うんうん、後ろにあるデスクとか、置きっぱなしのレントゲン写真とか病院そのものだよ。レントゲンがあるなんて、さては整形外科だね。
「ほう、ずいぶん余裕じゃねえの」
「余裕って……?」
「もっと怖がるかと思ってたんだけどなあ」
なーに、その残念そうな言い方。言っとくけど私だってもう立派なタマジョ。二ヶ月もこういうことをしていたら暗闇くらい慣れてくるもんです。
「暗闇ねえ」
ほら、そうこう言っているうちに目が慣れてきたよ。真っ白に見えたベッドも月明かりに照らされて黄ばみとか汚れがよく見える。 所々破れていたりなんかして、これはきっとしばらく使われてないよ。
「ん? 使われていない?」
よく考えたらこんな時間にレントゲンが置いてあるなんて、管理のずさんな病院だね。机の上も荒れてるし……あっ、机の下に何かあるけど、もしかしてあれって雑草じゃない?
「ねえねえクロノさん」
「どうした?」
「もしかしてここって」
「やあっと気がついたか、鈍感女!」
やっぱり! ここって普通の病院じゃない!
もう一度辺りをよく見回してみる。カーテンはちぎれていて、窓は割れてギザギザになっている。やけに明るく見えると思ったんだよ。
状況を認識すればするほど背筋が冷たくなる。
こんなことに気が付くならずっと鈍感でもよかったよ!
「ええっと、その、ここって……ひえっ!」
私が言葉をすべて出し終える前に、どこからか大きな音が響いた。
「な、なに今の……!」
「外からみたいだな、行くか」
行くか、じゃありません!
「どうしたヨミ、置いてくぞ」
「私の名前はこよみです……!」
クロノさんに言い返すことで自分を奮い立たせた。
音の正体を見に行くのは怖いけれど、置いて行かれるほうが困る。
診察室から顔をのぞかせると、予想以上に長い廊下が続いていた。明るくはないけれど、見えないほどじゃない。少し迷ってから、右に歩き出したクロノさんのあとに続く。
両側に診察室が並んでいるところを見ると、大きい病院なのかもしれない。
「クロノさん、あの、もしかしてなんだけど……」
整形外科が入っている大きい病院。それに、ここに来る前にクロノさんが発した、行けばわかるという言動。嫌な予感がどんどん大きくなるよ。
「おおー! やべえー! 幽霊でるんじゃねえっ?」
「でるかっ? 本物かっ?」
そんな私の声は、またしても何かにかき消された。今度は物音じゃなくて、人の声。
この声なんか聞いたことある様な……。
「こういうの俺は待ってたんだよ! 七不思議みたいな期待はずれじゃなくてさ!」
「さすがだぜ兄ちゃんっ!」
悪ガキそうな男の子が、廊下に響くほどの大きな声をあげている。それを称賛するように、少し高い声が続く。
懐中電灯を持った二人組が目の前から現れた。
「あっ!」
私がそれを指さすと、クロノさんは知り合いか、と首を傾げた。
ええ、そうです。知り合いです。よーく知っていますとも。こんな時間に家を抜け出すなんて、危ないじゃないの。
「最初のお仕事の時に話した富田くんたちだよ!」
「富田ぁ?」
私が話したことを覚えていないのか、クロノさんは首を傾げる。細い首がやたらと白く浮き出て見えた。
「ほら、あの、怖い物好きで七不思議を解明しちゃったっていう」
「あー、思い出した。ほうほう、こいつらがねえ」
私たちがしゃべっている間に富田くんたちはどんどん近づいて来て、私達は壁に体をつける。あちらからは見えないようだが、自然と小声になってしまう。
「ばっか言え、仕事が好きなんじゃなくて昇格に必要なだけだ」
「昇格?」
私が聞くと、クロノさんはしまったというように顔を歪めた。
聞かれたくないって、バレバレです。
「この話はいいだろ、仕事行くぞ」
「だって、クロノさん自分のこと話してくれないから」
「……この仕事終わったらな」
でました、この仕事終わったらな。私はもう騙されないよ。聡明な小学五年生は、意外と学習するものなんです。
「いつもそう言って教えてくれないもん。これで何回目?」
クロノさんは私の追求をかわすように、ガシガシと頭をかいた。
「いいから! ちゃんとついてこいよ」
「えー、今回はどこに?」
「行けばわかるだろ」
「知ってる所ってことか……」
クロノさんの言う行けばわかるはお前も知ってるぞって意味だ。伝わりにくい言葉を使うけれど、最近はやっとそれが分かってきた。クロノ語辞典なんて物を作ってもいいかもしれない。
「なんだその腹立つ顔は」
「言いがかりだよ」
彼が文句を言いながら扉をひらく。私が開いた時とは明らかに違うぐるぐるした黒いモヤが現れる。 まだ少し怖いけれどクロノさんに続いてその中に飛び込んだ。少しだけめまいがしてすぐに目的地にたどり着く。
恐る恐る目を開けるとクロノさんが大丈夫かと聞いた。
「大丈夫、もう慣れたよ」
「慣れるもんか、これ?」
首をかしげるクロノさんの向こうには真っ白なベッドがある。横幅が狭くて、下にはスペースが空いている。家で寝る様なベッドじゃない。
なんだか見られている様な、そう、えっと、診察室。
うんうん、後ろにあるデスクとか、置きっぱなしのレントゲン写真とか病院そのものだよ。レントゲンがあるなんて、さては整形外科だね。
「ほう、ずいぶん余裕じゃねえの」
「余裕って……?」
「もっと怖がるかと思ってたんだけどなあ」
なーに、その残念そうな言い方。言っとくけど私だってもう立派なタマジョ。二ヶ月もこういうことをしていたら暗闇くらい慣れてくるもんです。
「暗闇ねえ」
ほら、そうこう言っているうちに目が慣れてきたよ。真っ白に見えたベッドも月明かりに照らされて黄ばみとか汚れがよく見える。 所々破れていたりなんかして、これはきっとしばらく使われてないよ。
「ん? 使われていない?」
よく考えたらこんな時間にレントゲンが置いてあるなんて、管理のずさんな病院だね。机の上も荒れてるし……あっ、机の下に何かあるけど、もしかしてあれって雑草じゃない?
「ねえねえクロノさん」
「どうした?」
「もしかしてここって」
「やあっと気がついたか、鈍感女!」
やっぱり! ここって普通の病院じゃない!
もう一度辺りをよく見回してみる。カーテンはちぎれていて、窓は割れてギザギザになっている。やけに明るく見えると思ったんだよ。
状況を認識すればするほど背筋が冷たくなる。
こんなことに気が付くならずっと鈍感でもよかったよ!
「ええっと、その、ここって……ひえっ!」
私が言葉をすべて出し終える前に、どこからか大きな音が響いた。
「な、なに今の……!」
「外からみたいだな、行くか」
行くか、じゃありません!
「どうしたヨミ、置いてくぞ」
「私の名前はこよみです……!」
クロノさんに言い返すことで自分を奮い立たせた。
音の正体を見に行くのは怖いけれど、置いて行かれるほうが困る。
診察室から顔をのぞかせると、予想以上に長い廊下が続いていた。明るくはないけれど、見えないほどじゃない。少し迷ってから、右に歩き出したクロノさんのあとに続く。
両側に診察室が並んでいるところを見ると、大きい病院なのかもしれない。
「クロノさん、あの、もしかしてなんだけど……」
整形外科が入っている大きい病院。それに、ここに来る前にクロノさんが発した、行けばわかるという言動。嫌な予感がどんどん大きくなるよ。
「おおー! やべえー! 幽霊でるんじゃねえっ?」
「でるかっ? 本物かっ?」
そんな私の声は、またしても何かにかき消された。今度は物音じゃなくて、人の声。
この声なんか聞いたことある様な……。
「こういうの俺は待ってたんだよ! 七不思議みたいな期待はずれじゃなくてさ!」
「さすがだぜ兄ちゃんっ!」
悪ガキそうな男の子が、廊下に響くほどの大きな声をあげている。それを称賛するように、少し高い声が続く。
懐中電灯を持った二人組が目の前から現れた。
「あっ!」
私がそれを指さすと、クロノさんは知り合いか、と首を傾げた。
ええ、そうです。知り合いです。よーく知っていますとも。こんな時間に家を抜け出すなんて、危ないじゃないの。
「最初のお仕事の時に話した富田くんたちだよ!」
「富田ぁ?」
私が話したことを覚えていないのか、クロノさんは首を傾げる。細い首がやたらと白く浮き出て見えた。
「ほら、あの、怖い物好きで七不思議を解明しちゃったっていう」
「あー、思い出した。ほうほう、こいつらがねえ」
私たちがしゃべっている間に富田くんたちはどんどん近づいて来て、私達は壁に体をつける。あちらからは見えないようだが、自然と小声になってしまう。
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