23 / 31
私たちは私たちのやりかたで(3)
しおりを挟む
何が飛び出してくるのかはわからなかったけど、どうすれば良いかはわかった。息を深く吸い込んで、思い切り叫ぶ。
「私はあなたを! 案内したいの!」
ランドセルが開いて、しゅるりとしなやかなリボンが伸びる。リボンというよりは光の糸と言ったほうが正しいかもしれない。
アカツキさんたちに気をとられて反応が遅れた紫の男の人の顔が恐怖に歪む。光の糸の先がいくつにも別れて逃げようとする体に巻き付いた。
「やめろ! 逝きたくない! 助けてくれ!」
「ごめんなさい。無理やり案内なんかして、でも、悪さはしちゃダメです」
紫の男の人の体が淡く輝き始める。今まで案内された人と同じだ。
「助けて、助けてくれ、アカツキ! 話が違うぞ!」
「え、アカツキさん……?」
男の人が光の玉になる直前に、そう叫んだ。私が驚いてアカツキさんのほうを見ると、彼は嫌な虫でも見るかのような目をしてフッと息を吐いた。
その呼吸に吹き消されるかのように光の紐が消えた。紫の男の人の光の玉も一緒に。
それは、まるで……。
「消滅、させた……?」
クロノさんが信じられないというように言葉を零す。
消滅という言葉がすとんと私の胸の中に落ちる。本当に跡形もなく消えちゃったみたいにみえたけど、これがクロノさんの言っていた消滅なの?
「どういうことだ。案内中だっただろ! それに……」
クロノさんが信じられないというように言いよどむ。
そうだよ、私が案内中だった。もう少しでちゃんと案内できた。それに、さっきの人がアカツキさんに助けを求めたのはどうしてなの。話が違うって言っていたってことは……私でも気が付くことにクロノさんが気が付かないわけがない。
クロノさんは何かを言おうとして、それから口を閉じる。まるで言うのを怖がっているみたいに、何度もそれを繰り返した。こんな戸惑った表情は見たことがない。
「ねえ、どういうこと? 消滅は簡単にできないってさっき……」
「できるんだ……」
小声で尋ねると、クロノさんは弱々しい声で答えた。
「できるんだよ、向こうから信頼されれば」
信頼……それって、元から何か話をしていたってことで。
私が答えにたどり着くと同時に、アカツキさんは肩をすぼめた。
「まったく、余計な事をしゃべってくれましたね。ああ、失敗してしまった。面倒ですが……レイ、あの二人の魂を回収しなさい」
アカツキさんが、顎でレイくんに指示を出す。
よくもさっきの今で命令なんてできるね。え、ちょっと待って、あの二人って言ったら、富田くんと敦くんしかいないじゃん。まさか二人の魂を回収する気?
レイくんが動くよりも前に、クロノさんがアカツキさんと富田くんたちのちょうど中間地点に立つ。
「どういうことだよ、それ」
「言ったでしょう。私はクロノと違って業績がいいんです」
「お前のこといけ好かない奴だとは思ってたけど、それなりに尊敬してたんだけどな」
クロノさんは本当に辛そうにそう吐き捨てた。
もしも言葉が見えるのなら、地面に打ち付けられて弾けて消えてしまうような、そんな悲しくて痛い声だ。
「お前、今までも生きた人間の魂を回収していたのか」
「さあどうでしょう」
「タマジョに、回収させてたのかって聞いてるんだよ!」
びりびりと空気が震えるほどの怒鳴り声だった。無表情を貫いていたレイくんが、思わず肩を震わせるほど。
生きた人間の魂を回収って、それはつまり、殺しちゃうってことだよね。
今までも、ずっとそういうことをしてきたの? それで業績が良くて昇格? ひどいよ! そんなの全然エリートじゃないじゃん!
「閻魔大王様は回収した魂の詳しい中身まで見ていないでしょう。私たちが求められているのは数字だけです」
なによそれ。だからってそんなことが許されると思ってるの。
「さっきの魂とも、そういう話をしたのか」
「ええ、そうですとも。ここに肝試しに来ている小学生をとらえれば、お前は助けてやるとね。まあ、助けるつもりなどなかったわけですが」
騙したってことだよね。あの人も甘い言葉に惑わされたのはよくないけれど、希望をもって縋りついてきたはずなのに。それを利用するなんてひどい。
それに、とアカツキさんは言葉を続ける。
「人は今この瞬間にも生まれているではありませんか。少しくらい数が変わったところで何だというのです。別に良いでしょう」
「さいってい!」
考えるより先に、体と口が動いていた。
ズンズンとアカツキさんに向かって足が進む。
最低、最低、許せない。
「良いわけないでしょ! 人の命を何だと思っているの!」
「お、おい、ヨミ」
クロノさんの制止を無視して、アカツキさんの目の前に立つ。腰に当てた手にグッと力が入った。首が痛くなるくらいに見上げないと顔が見えない距離だ。
「私はあなたを! 案内したいの!」
ランドセルが開いて、しゅるりとしなやかなリボンが伸びる。リボンというよりは光の糸と言ったほうが正しいかもしれない。
アカツキさんたちに気をとられて反応が遅れた紫の男の人の顔が恐怖に歪む。光の糸の先がいくつにも別れて逃げようとする体に巻き付いた。
「やめろ! 逝きたくない! 助けてくれ!」
「ごめんなさい。無理やり案内なんかして、でも、悪さはしちゃダメです」
紫の男の人の体が淡く輝き始める。今まで案内された人と同じだ。
「助けて、助けてくれ、アカツキ! 話が違うぞ!」
「え、アカツキさん……?」
男の人が光の玉になる直前に、そう叫んだ。私が驚いてアカツキさんのほうを見ると、彼は嫌な虫でも見るかのような目をしてフッと息を吐いた。
その呼吸に吹き消されるかのように光の紐が消えた。紫の男の人の光の玉も一緒に。
それは、まるで……。
「消滅、させた……?」
クロノさんが信じられないというように言葉を零す。
消滅という言葉がすとんと私の胸の中に落ちる。本当に跡形もなく消えちゃったみたいにみえたけど、これがクロノさんの言っていた消滅なの?
「どういうことだ。案内中だっただろ! それに……」
クロノさんが信じられないというように言いよどむ。
そうだよ、私が案内中だった。もう少しでちゃんと案内できた。それに、さっきの人がアカツキさんに助けを求めたのはどうしてなの。話が違うって言っていたってことは……私でも気が付くことにクロノさんが気が付かないわけがない。
クロノさんは何かを言おうとして、それから口を閉じる。まるで言うのを怖がっているみたいに、何度もそれを繰り返した。こんな戸惑った表情は見たことがない。
「ねえ、どういうこと? 消滅は簡単にできないってさっき……」
「できるんだ……」
小声で尋ねると、クロノさんは弱々しい声で答えた。
「できるんだよ、向こうから信頼されれば」
信頼……それって、元から何か話をしていたってことで。
私が答えにたどり着くと同時に、アカツキさんは肩をすぼめた。
「まったく、余計な事をしゃべってくれましたね。ああ、失敗してしまった。面倒ですが……レイ、あの二人の魂を回収しなさい」
アカツキさんが、顎でレイくんに指示を出す。
よくもさっきの今で命令なんてできるね。え、ちょっと待って、あの二人って言ったら、富田くんと敦くんしかいないじゃん。まさか二人の魂を回収する気?
レイくんが動くよりも前に、クロノさんがアカツキさんと富田くんたちのちょうど中間地点に立つ。
「どういうことだよ、それ」
「言ったでしょう。私はクロノと違って業績がいいんです」
「お前のこといけ好かない奴だとは思ってたけど、それなりに尊敬してたんだけどな」
クロノさんは本当に辛そうにそう吐き捨てた。
もしも言葉が見えるのなら、地面に打ち付けられて弾けて消えてしまうような、そんな悲しくて痛い声だ。
「お前、今までも生きた人間の魂を回収していたのか」
「さあどうでしょう」
「タマジョに、回収させてたのかって聞いてるんだよ!」
びりびりと空気が震えるほどの怒鳴り声だった。無表情を貫いていたレイくんが、思わず肩を震わせるほど。
生きた人間の魂を回収って、それはつまり、殺しちゃうってことだよね。
今までも、ずっとそういうことをしてきたの? それで業績が良くて昇格? ひどいよ! そんなの全然エリートじゃないじゃん!
「閻魔大王様は回収した魂の詳しい中身まで見ていないでしょう。私たちが求められているのは数字だけです」
なによそれ。だからってそんなことが許されると思ってるの。
「さっきの魂とも、そういう話をしたのか」
「ええ、そうですとも。ここに肝試しに来ている小学生をとらえれば、お前は助けてやるとね。まあ、助けるつもりなどなかったわけですが」
騙したってことだよね。あの人も甘い言葉に惑わされたのはよくないけれど、希望をもって縋りついてきたはずなのに。それを利用するなんてひどい。
それに、とアカツキさんは言葉を続ける。
「人は今この瞬間にも生まれているではありませんか。少しくらい数が変わったところで何だというのです。別に良いでしょう」
「さいってい!」
考えるより先に、体と口が動いていた。
ズンズンとアカツキさんに向かって足が進む。
最低、最低、許せない。
「良いわけないでしょ! 人の命を何だと思っているの!」
「お、おい、ヨミ」
クロノさんの制止を無視して、アカツキさんの目の前に立つ。腰に当てた手にグッと力が入った。首が痛くなるくらいに見上げないと顔が見えない距離だ。
0
あなたにおすすめの小説
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance!
(also @ なろう)
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる