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私たちは私たちのやりかたで(2)
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紫の男の人の目がピカピカと光って、また強い風が来る。直接危害を加えられているわけじゃないけれど、もしこのまま踏ん張れずに飛んでしまったらと思うと冷や汗が出てくる。
「少しの未練なら強制的に案内することも、すっきりさせてやることもできるんだけどな。あそこまで行くと難しいだろう」
「じゃあどうやって!」
「魂を捕まえて大人しくさせるしかねえ。そうすればなんとか案内できるかもしれない」
大人しくって言ったって、クロノさんには玉にしか見えてないんだよね。そんなのどうやって。
「ヨミ、お前がやるんだよ」
「わ、私っ?」
私があんな怖い人を捕まえるのっ? 相手は大人の男の人だよ。そんなの無理無理無理無理。
両手を振って拒絶すると、アカツキさんがもう我慢できないというように吹き出した。
「使えないタマジョですね。しつけがなっていないと言ったでしょう」
「俺はお前とは違うんだよ。エリート様は他人を蹴落とすことばっか上手になりやがってなあ」
「蹴落としているわけではありません。勝手に落ちたのでしょう」
ああもう、子供みたいに言いあっちゃって。今は喧嘩してる場合じゃないでしょ。
だいたい、アカツキさんってそんなに仕事ができるならあなたが富田くんを助けてくれればいい話なのに。
「そこの娘、あまり見ないでくださいますか。私の品が下がったらどうしてくれるのです。ねえ、レイ」
しっしと虫でも払うような仕草をしたアカツキさんは、レイくんに話を振る。
なによ、その態度のほうが品がないっていうやつじゃないの。
「はい、アカツキ様」
レイくんは表情一つ変えることなくそう返事をした。
「なんですか、その言い方は」
ばしん、そんな音が手術室に響いた。私も、クロノさんも、それから紫の男の人もアカツキさんのほうを見る。
レイくんが頬をおさえてうずくまっちゃってる。
私からすると普通に返事をしたようにしか見えなかったのに、何が気に食わなかったのだろう。
「申し訳ありません」
「謝れば済むと思っているのですか。不愉快です」
いきなり不愉快だなんて言われても、何がいけないか言ってくれないと分からないじゃないの。
「おい、ヨミ、今のうちだ」
「え……」
「気がそれてる。あいつを捕まえるんだ」
「ど、どうやって」
「やってみればわかる。答えはランドセルの中だ」
そんな無茶苦茶な。
でも、なんとかしてみるしかないよね。富田くんたちを助けなきゃ。
「動くな」
ぴしゃり。
そんな音が似合いそうなほど、静かに声が投げつけられた。
紫の男の人がこちらを向きながら、片手を富田くんたちのほうに向けている。
「動いたらこいつらがどうなるかな」
「そんなあ!」
私は思わず足を止める。レイくんとアカツキさんの方も気になるけど、顔すら動かすことができなかった。
私でさえクロノさんがいてくれなかったら危なかったのに、生身の人間である富田くんたちがあの風をくらったらひとたまりもないよ。壁に思い切りぶつかって、そのまま死んじゃうなんてこともあるかもしれない。
「ど、どうしたら……」
クロノさんのほうを見ることもできずに呆然と立ちすくむ。動くなって言われている以上は下手なことをしないほうがいいに決まってる。
それなのに……。
「お、おい、お前も動くな!」
「なぜです?」
アカツキさんがレイくんの背中を押して、紫の男の人のほうに進ませた。
ダメだよ、動くなって言われているのに。レイくんだって戸惑った顔をしてアカツキさんのほうを見ている。
「な、なぜって、こいつらがどうなってもいいのか!」
「ん? ああ、回収する魂が増えますね」
ちょっとちょっと、何言ってるの。
アカツキさんの言葉に、レイくんが目を見張る。そりゃあそうだよ。なんでそんなこと言うの。アカツキさんからしたら、仕事以外のことはどうでもいいってこと?
「そういう問題じゃ……」
「そういう問題じゃねえだろっ!」
たまらずに叫んだ私の声に、耳馴染みの良い声が重なる。
もう何度も聞いている声。おはようも、おやすみも、よくやったも、バカも、全部全部聞いている声だ。
それと同時に、アカツキさんの頬にクロノさんの右の拳がクリーンヒットする。よろけて派手な音を立てて倒れたアカツキさんは、何が起こったのかわからないというように何度か目をぱちくり。
暴力はよくないけれど、スカッとしてしまった。
「う、動くなって言っただろうが!」
紫の男の人が叫ぶ。
いまだ。そんな声が聞こえた気がした。男の人の視線は完全にアカツキさんのほうを向いて、私は視界から外れている。
背中に腕を回して、音を立てないようにランドセルの鍵を開けた。こっちの世界に来てランドセルを自分の手で開いたのは初めてかもしれない。
大人しくさせるってどうやるの、なんて言ったのに、体は勝手に動く。これがタマジョの才能ってやつなら、たしかに私には才能があるのかもしれない。
「少しの未練なら強制的に案内することも、すっきりさせてやることもできるんだけどな。あそこまで行くと難しいだろう」
「じゃあどうやって!」
「魂を捕まえて大人しくさせるしかねえ。そうすればなんとか案内できるかもしれない」
大人しくって言ったって、クロノさんには玉にしか見えてないんだよね。そんなのどうやって。
「ヨミ、お前がやるんだよ」
「わ、私っ?」
私があんな怖い人を捕まえるのっ? 相手は大人の男の人だよ。そんなの無理無理無理無理。
両手を振って拒絶すると、アカツキさんがもう我慢できないというように吹き出した。
「使えないタマジョですね。しつけがなっていないと言ったでしょう」
「俺はお前とは違うんだよ。エリート様は他人を蹴落とすことばっか上手になりやがってなあ」
「蹴落としているわけではありません。勝手に落ちたのでしょう」
ああもう、子供みたいに言いあっちゃって。今は喧嘩してる場合じゃないでしょ。
だいたい、アカツキさんってそんなに仕事ができるならあなたが富田くんを助けてくれればいい話なのに。
「そこの娘、あまり見ないでくださいますか。私の品が下がったらどうしてくれるのです。ねえ、レイ」
しっしと虫でも払うような仕草をしたアカツキさんは、レイくんに話を振る。
なによ、その態度のほうが品がないっていうやつじゃないの。
「はい、アカツキ様」
レイくんは表情一つ変えることなくそう返事をした。
「なんですか、その言い方は」
ばしん、そんな音が手術室に響いた。私も、クロノさんも、それから紫の男の人もアカツキさんのほうを見る。
レイくんが頬をおさえてうずくまっちゃってる。
私からすると普通に返事をしたようにしか見えなかったのに、何が気に食わなかったのだろう。
「申し訳ありません」
「謝れば済むと思っているのですか。不愉快です」
いきなり不愉快だなんて言われても、何がいけないか言ってくれないと分からないじゃないの。
「おい、ヨミ、今のうちだ」
「え……」
「気がそれてる。あいつを捕まえるんだ」
「ど、どうやって」
「やってみればわかる。答えはランドセルの中だ」
そんな無茶苦茶な。
でも、なんとかしてみるしかないよね。富田くんたちを助けなきゃ。
「動くな」
ぴしゃり。
そんな音が似合いそうなほど、静かに声が投げつけられた。
紫の男の人がこちらを向きながら、片手を富田くんたちのほうに向けている。
「動いたらこいつらがどうなるかな」
「そんなあ!」
私は思わず足を止める。レイくんとアカツキさんの方も気になるけど、顔すら動かすことができなかった。
私でさえクロノさんがいてくれなかったら危なかったのに、生身の人間である富田くんたちがあの風をくらったらひとたまりもないよ。壁に思い切りぶつかって、そのまま死んじゃうなんてこともあるかもしれない。
「ど、どうしたら……」
クロノさんのほうを見ることもできずに呆然と立ちすくむ。動くなって言われている以上は下手なことをしないほうがいいに決まってる。
それなのに……。
「お、おい、お前も動くな!」
「なぜです?」
アカツキさんがレイくんの背中を押して、紫の男の人のほうに進ませた。
ダメだよ、動くなって言われているのに。レイくんだって戸惑った顔をしてアカツキさんのほうを見ている。
「な、なぜって、こいつらがどうなってもいいのか!」
「ん? ああ、回収する魂が増えますね」
ちょっとちょっと、何言ってるの。
アカツキさんの言葉に、レイくんが目を見張る。そりゃあそうだよ。なんでそんなこと言うの。アカツキさんからしたら、仕事以外のことはどうでもいいってこと?
「そういう問題じゃ……」
「そういう問題じゃねえだろっ!」
たまらずに叫んだ私の声に、耳馴染みの良い声が重なる。
もう何度も聞いている声。おはようも、おやすみも、よくやったも、バカも、全部全部聞いている声だ。
それと同時に、アカツキさんの頬にクロノさんの右の拳がクリーンヒットする。よろけて派手な音を立てて倒れたアカツキさんは、何が起こったのかわからないというように何度か目をぱちくり。
暴力はよくないけれど、スカッとしてしまった。
「う、動くなって言っただろうが!」
紫の男の人が叫ぶ。
いまだ。そんな声が聞こえた気がした。男の人の視線は完全にアカツキさんのほうを向いて、私は視界から外れている。
背中に腕を回して、音を立てないようにランドセルの鍵を開けた。こっちの世界に来てランドセルを自分の手で開いたのは初めてかもしれない。
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