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40話「星を見ている者」
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冒険者ギルドの一室。窓の外ではようやく朝陽が射し始めていた。
アニィは静かに頷きながら、七人の報告を聞いていた。表情にはいつものような無機質な落ち着きがありながらも、どこかに微かな驚きが滲んでいた。
「……アギラ、そしてバティムも討伐済み。確認できる範囲では、“魂狩り”の痕跡も消失。昏睡状態だった子供たちは、全員目を覚まし始めている……了解しました」
サリエルは頷き、疲れきった声で言う。
「ただ、ギルドへの報告は最低限にしてくれ。町の混乱を避けたい」
「承知しました。わたしから外部に情報が漏れることはありません。どうか、身体を休めてください」
その場にいた全員が満身創痍だった。ザバーニアは椅子に座ったまま眠りそうになっており、プリアプスの腕には包帯が何重にも巻かれていた。リドワンも何度も咳き込み、ミカイールの癒しの手もすでに力を失っているようだった。
アニィは目を閉じ、短く息を吐いた。
「本当に、お疲れ様でした」
それだけ言って、彼女は再びいつもの静寂に戻った。
* * *
宿に戻った七人は、それぞれの部屋で休息を取った。
一日、また一日と時間が過ぎていく。異常は起こらず、町には平穏が戻ったように見えた。市場では子供たちの声が再び響き、店主たちの呼び声が活気を取り戻していた。
だが――サンダルフォンだけは、心を休められずにいた。
部屋の一角、机の上には幾枚もの占術の札と、水晶、そして折りたたまれた古い羊皮紙が置かれている。
バティム。あの異形。
あれほどの存在が、たった一人であのような実験を何年も続けていたとは思えない。根の深さが、どうしても頭から離れなかった。
「彼は“作られた”存在だったのでは……?」
低く呟きながら、水晶を揺らす。
何度占っても、札の並びは変わらなかった。導かれる言葉も同じ。
天より六星、地に堕ちぬ。
刃交えるは、揺らし子と不尽の者。
星が乱れるとき、地宿の者が現れ、
散りし運命をひとつに繋いでゆく。
されど──星は見ている。
選ぶのは、揺らし子。
サンダルフォンは静かに目を閉じた。
(やはり、これは偶然じゃない)
この詩は、彼が最初に旅を決意したときに現れたものだった。今また繰り返し現れるということは、何か大きな運命が動き始めている証。
パクーシャとヴィサーナ。滅びたはずの一族。その子ら――サリエルとジブリールが引き寄せた運命の糸は、まだ終わっていない。
それどころか、ようやく“幕が開いた”のだと、そう思えてならなかった。
(私は見届ける者でしかない。だが……)
彼女は荷をまとめた。ローブを羽織り、杖を持ち、そっと宿の扉を開けた。
まだ誰も起きていない。朝焼けの薄明かりが町を照らしていた。
「……星が見ている。選ぶのは“揺らし子”……か」
微笑むように、そして寂しげに呟きながら、サンダルフォンは足を踏み出す。
誰にも告げずに。静かに、もう一度旅に出る。
運命の詩の続きを、確かめるために――。
アニィは静かに頷きながら、七人の報告を聞いていた。表情にはいつものような無機質な落ち着きがありながらも、どこかに微かな驚きが滲んでいた。
「……アギラ、そしてバティムも討伐済み。確認できる範囲では、“魂狩り”の痕跡も消失。昏睡状態だった子供たちは、全員目を覚まし始めている……了解しました」
サリエルは頷き、疲れきった声で言う。
「ただ、ギルドへの報告は最低限にしてくれ。町の混乱を避けたい」
「承知しました。わたしから外部に情報が漏れることはありません。どうか、身体を休めてください」
その場にいた全員が満身創痍だった。ザバーニアは椅子に座ったまま眠りそうになっており、プリアプスの腕には包帯が何重にも巻かれていた。リドワンも何度も咳き込み、ミカイールの癒しの手もすでに力を失っているようだった。
アニィは目を閉じ、短く息を吐いた。
「本当に、お疲れ様でした」
それだけ言って、彼女は再びいつもの静寂に戻った。
* * *
宿に戻った七人は、それぞれの部屋で休息を取った。
一日、また一日と時間が過ぎていく。異常は起こらず、町には平穏が戻ったように見えた。市場では子供たちの声が再び響き、店主たちの呼び声が活気を取り戻していた。
だが――サンダルフォンだけは、心を休められずにいた。
部屋の一角、机の上には幾枚もの占術の札と、水晶、そして折りたたまれた古い羊皮紙が置かれている。
バティム。あの異形。
あれほどの存在が、たった一人であのような実験を何年も続けていたとは思えない。根の深さが、どうしても頭から離れなかった。
「彼は“作られた”存在だったのでは……?」
低く呟きながら、水晶を揺らす。
何度占っても、札の並びは変わらなかった。導かれる言葉も同じ。
天より六星、地に堕ちぬ。
刃交えるは、揺らし子と不尽の者。
星が乱れるとき、地宿の者が現れ、
散りし運命をひとつに繋いでゆく。
されど──星は見ている。
選ぶのは、揺らし子。
サンダルフォンは静かに目を閉じた。
(やはり、これは偶然じゃない)
この詩は、彼が最初に旅を決意したときに現れたものだった。今また繰り返し現れるということは、何か大きな運命が動き始めている証。
パクーシャとヴィサーナ。滅びたはずの一族。その子ら――サリエルとジブリールが引き寄せた運命の糸は、まだ終わっていない。
それどころか、ようやく“幕が開いた”のだと、そう思えてならなかった。
(私は見届ける者でしかない。だが……)
彼女は荷をまとめた。ローブを羽織り、杖を持ち、そっと宿の扉を開けた。
まだ誰も起きていない。朝焼けの薄明かりが町を照らしていた。
「……星が見ている。選ぶのは“揺らし子”……か」
微笑むように、そして寂しげに呟きながら、サンダルフォンは足を踏み出す。
誰にも告げずに。静かに、もう一度旅に出る。
運命の詩の続きを、確かめるために――。
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