戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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駿河編

ハンゾーのことなんで知ってんだコイツら

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「半蔵?ご隠居様は本当にそう言ったのね?」

「は、はい。確かに!」

 夜が明け、今川館は騒然としていた。

 それもそのはずだ、外がざわついてるな~と思っていたら外に複数人の死体が転がっているのだ。

 むしろ騒ぎにならない方がおかしい。

真田幸村
前田慶次
木下藤吉郎

 そして、夜の警備を勤めていた松井宗信がこの場にはいた。

 夜の騒動については、遅れながらも騒乱に気づいた松井宗信によって殆どの死体処理は終わっていた。

 しかし、護衛対象にまで刺客が向かってしまったのは事実、本来松井は死罪切腹でもおかしくは無い。

 と言うか、切腹しようとしていた。

 「誠に申し訳無い...亡き大殿に見せる顔が無い!やはり死んでお詫びをぉぉぉぉ!」

「勝手にしてて頂戴。」

「「いや、止めろよ (て下さいよ)!!」」

 松井宗信を幸村と慶次が必死で抑え込んでいる。

「伊賀と甲賀の両方を兼ねる棟梁、その名前が服部半蔵ね」

 忍びの中にも独自の情報網は存在する。

 名の売れた忍びと言うのは、その多くが大きな大名に仕えている故に情報を得ることは容易い。

 風魔小太郎などもそのつてで名前が露見している、最も名前がわかったかと言ってその姿形まで知ることは不可能だ。

 輝宗の非凡さがわかる一因でもある。

 「あの捕えた刺客がご隠居様の言う通り服部半蔵なのならば、その主人は松平元康と言うことになる」

「これは、大問題ね...」

 松井を慶次が無理やり押さえ込み、首を絞め落とそうとしながらも話は続く。

「だが、松平家と言えば今川家に従っている重臣の1人だ。ここでご隠居様に危害を加える意味などあるのか?」

「そう、無いの。でも服部半蔵が勝手に動くとは考えられないから、この騒動は松平元康が指示したものと見て良いのよね?」

「恐らくそれは間違い無いでしょうね。」

 服部半蔵は、捕獲されてから牢に入れれており今でも黙秘を続けている。
 
 全身傷だらけになってもなお脱出の意志を捨てていないらしく、その激しい抵抗により治療にあたった医者や牢番が負傷する事態になっていた。

「氏真様...殿に御報告するべきなのではないか?」

「普通ならそうなのだけど、輝宗様は考え事をしているのか動こうとしないわ」

「輝宗様がそのことにお気づきで無い筈も無い」

 家臣に謀反の兆しあり、本来ならば主君に報告するべきではある。

 とここまでは誰でも思いつくような発想だ。

 話は続く、幸村が松井を見て青褪めた顔をしているが、話は続く。

「ここで問題は、輝宗様は何故刺客の名を知っていたかと言うことになるわね。」

「今川家と松平家には密接な関係がある、たまたま覚えていたのでは無いか?」

「臣従しているとは言え、他家の重臣でもなんでもない一乱破忍びの顔と名前を覚えていると?いえ、あのお方ならあり得るわね。あのお方は他家の有力な家臣の殆どを網羅しているとの噂もあります」

「その説もある、だが私はもう1つの可能性を提示したいと思う」

 「もう1つの可能性?」

 自信満々に言う慶次、青褪めている幸村。

 口から泡を吹いている宗信。

 そんな慶次を前に、怪訝な顔をして藤吉郎は聞く。

「松平元康、名君とも聞かないが愚かとも言えない平凡な男。噂話には話題にも出ず、また剣の才も、文の才も秀でたものは1つも無い普通の男だ。そんな男が下克上を狙っている、それをご隠居様が知ったとするなら、この旅の目的も見えてくるとは思えないか?」

「まさか、自分を囮に使ったと言うの?」

「そうだ、理由はわからないが松平元康が自分の命を狙っていると気付いたご隠居様はわざと供を2人に限定し、まさに誘うようにゆっくりと旅を続けた」

「そうすることで、今まで尻尾を出さなかった獅子身中の虫を炙り出そうとした」

「ご名答、松平元康の他にもきな臭い家はいくつもあるだろう?」

「成る程、貴方方のような新参者を呼んだのは死んでも良い者たちをチョイスしたということですか」

「さて、そこまではわからねぇな」

 そう思いながらも慶次は、自分と幸村が輝宗を守るためだけに供に選ばれた訳では無いことを確信していた。

 人には情と言うものがある、自分よりも歳下の人間を2人だけ集め、囮の為に肉壁にしようなどという考えをするには輝宗は優しすぎる。

 そう慶次は思っていた。

 我らの主人は優しすぎる、自分が見てきたどんな為政者よりも。

 慶次は、今までの旅の間、輝宗の旅の様子から、今までの輝宗に関する噂を全て抜きにした、自分の目で見た彼の評価をこう決定づけていた。

 武においては一流。

 護衛対象という自分のを良く理解しているという点での評価だ。

 輝宗に刀を抜かせたということは護衛である自分たちの失態である。それをしないように気遣っているという点でも輝宗の優しさは垣間見ることができる。

 そして、最も特筆するべきはその知識だ。

 日本ひのもとの書物は大体読んできたと豪語するその長年にわたる読書量は本物で、私や幸村が知らない情報が大量に出て来るのは特筆に値する。

 慶次も文才に優れ、神童と揶揄されたことすらあるが故に、輝宗と自分を見比べてその力量差を感じ取っていたのだ。

 噂をすれば、では無いがそんな4人の部屋の中に輝宗が入ってくる。

 すかさず幸村、慶次、藤吉郎は土下座した。

「全員揃っていたか」

「はっ、ご隠居様の目的もようやく捉えて来ました故」

「ほぅ?ところで、何故宗信は泡を吹いて気絶してあるのだ?」

「慶次殿が絞め落としました」



◇◇◇◇


 宗信が運ばれて行く、いや怖いわ。

 なんで部屋に入って来たらおっさんが1人泡吹いて気絶してんだよ、どう考えてもおかしいだろ。

 慶次が絞め落としたのか、うんそりゃ死ぬわ。あの丸太のような腕で掴まれて締められる。

 うん死ぬな。

 まぁ罰はあれぐらいで良いだろう。

 「藤吉郎、宗信に伝えておいてくれ。今回の一件他言無用、殿への知らせも無用とな」

「はっ」

 今回の一件を報告するつもりは私には無い、これが露見すれば宗信が切腹しないといけないからな。

 あのおっさんいい奴なんだ、できれば死んでほしく無い。

「ご隠居様」

「なんだ?」

 慶次が質問して来た、なんだろう。

 私の目的のことについてかな、そんなの無いんだが...

「半蔵のことについてお聞きしたいのですが」

 ん?

「お主、何故ハンゾーのことを知っているのだ?」

 ハンゾー

 勿論あだ名であるその男は、私のだ。

 歴史マニアで、本名からもじってハンゾーと呼ばれた男と、昨日あった男は顔がそっくりだった。

 恐らく同一人物だろう、それなら私を殺しに来る理由もわかる。私怨という奴だな。

 なんせーーーー

「幸村から聞きました」

「そうか、ハンゾーはな、友だ」

「そ、そうだったのですか!?まさか松平の乱破と友誼を結んでいたとは」

「いや違う、松平元康殿、その頃は竹千代と呼ばれておったがその頃には見ていなかった。ハンゾーと友になったのはもっと昔の話よ。」

 そう、前世の記憶だ、いや未来の話だから未来になるのか?

 まぁどちらでも良いけど。

「ハンゾーだが、皆には済まないが解放しようと思う」

「それは看過できませなんだ、半蔵は優秀な乱破、一度見事に退けられましたからと言って、二度三度とは限りません!ここで殺すべきです!」

「ご隠居様、私も同意見です。間者を解放するなど」

「2人とも、頼む」

 これは意地だ、私は2人に頭を下げることにした。

 私が頭を下げた瞬間、2人は動揺したように悲痛な顔を上げる。

「ご隠居様!」
「顔を上げて下さい!」

「2人の申すことが道理と言うこともわかっている、だが友をここで朽ちさせたくは無い。」

 あれ以来ハンゾーとは会っていない、どのツラ下げて会うと言うのだ。昔と同じ顔をした友がまるで親の敵のような顔をして私を見ていると思うと胸が痛む。

 せめて、どこかで静かに生きて欲しい。

 叶わないかも知れないが、それでもこれが私の願いだった。

「わ、わかり申した。ならばせめて殿にご連絡を、刺客に襲われたという連絡はさせて頂きたく!」

「それもならん」

 報告したら宗信が死ぬだろうが!

「ぐ・・・・」

 慶次も、藤吉郎も、幸村さえ黙ったままだった。

 結局私は、このことを押し通した。

 我儘な主君と思ったかも知れない、だが私は友を殺すことだけはできなかったのだ。



 





 そして、今川館を出発する日。

「父上、やはり今川館に留まっては下さらぬか?」

「うむ、旅がある故な。龍臣丸もあまり悪戯をせぬようにな?」

「はっ、お任せ下さい!」

 元気良く答える龍臣丸、しかしその顔はニヤリと怪しい笑みを浮かべている。

 こりゃ、無理だな。

 私は龍臣丸に何かを言うのを諦め、息子の輝元に向き直って言う。

 「美濃守、私が昔からずっと言っていたことは覚えているな?」

「城主とは、民衆を見て、土地を知り、国を守る。」

「そうだ、良き城主になれよ。」

 これは、昔竹千代、つまり徳川家康に言われたことの丸パクリだ。

 私は歴史の知識が一般常識レベルしか無いからわからないが、徳川家康が言った言葉だ、間違い無いだろう。

「貴様ァ!ここで私を解放すること、後悔するぞ!」

感動の別れを邪魔するようにハンゾーの声が響く。

「ハンゾー」

 私はいつしか彼を凝視していた、ハンゾーを縛っていた縄が慶次によって切られる。

 解放されたハンゾーは、初めは私を睨んでいたがやがてびくりと体を震わせた。

 慶次の眼力にでもびびったのか?

 「私はここでは死なん、あと2人、謝らなければならない人間ひとがいる故な」

「な、何を言っている?」

「わからないのか?お主も記憶が薄れてきたか、私もだ。今では会わなくてはお前の奥さんの顔も思い出せなくてなぁ...」

「き、貴様どうやって妻の素性を調べたのだ!里でも秘匿中の秘匿とされているのだぞ!」

「知っているも何も、君から話してくれたんじゃ無いか。自慢げに」

 この場にいた全員が驚いたような顔をする。

 そんなにおかしいことか?

 コイツ、めちゃくちゃ自慢してたじゃ無いか。

「そんな...一体どんな尋問をされたと言うのだ...」

 いや、尋問なんてして無いって。

 ハンゾーはもう真っ赤になってこちらを見ている、一体どうしたってんだ、酒でも飲んだのか?

「どうしたハンゾー?酒酔いか?お前は酒が弱かったから...」

「くく、コケにしおって!次に会った時が貴様の最期だ!」

 ハンゾーは身を翻し消えてしまった。

 まだ、別れも言って無いというのに、せっかちな奴だな。

 「ご隠居様、お話があります」

 藤吉郎、史実では豊臣秀吉になる女が話しかけて来た。

 私はお藤に関してはここで輝元に仕えるように頼んである、平穏な時代においても忍びというものは貴重だ。

 江戸幕府でも徳川方の間諜が日本中で暗躍した、なんてこともあったらしいしな。

 「ん?なんだお藤?」

「私を、輝宗様の旅に連れて行って下さいませんか?」

「お藤、私は輝元に仕えるよう命じた筈だが?」

「ですが、ご隠居様の旅には危険が多すぎます。慶次殿や幸村殿だけでは・・・・」

「お藤」

 私の言葉に、お藤ははっとした顔でこちらを見つめる。

 そんな顔しないでくれ、こっちも不安になるから。

 そもそも、前田慶次と真田幸村だぞ?

 お藤は確かに強いが、年寄りの旅にこの2人はオーバーキル過ぎるだろう。

 それに、今回はたまたま旧友が襲って来たがこのようなことが何度も来るとは限らない。

 それに女性が旅に加わると言うのはそれだけで影響する。

 第一、慶次あたりがそわそわして落ち着かんだろうが。

「わかりました、御心に従います」

 お藤がわかりやすく落ち込んだように頷いた。

 可愛そうだが、仕方がない。

「よし、では参るぞ!」

「「応!」」

  こうして、私と慶次と幸村は、再度旅へと向かった。

 次の目標地は甲斐国だ。


◇◇◇◇


「行ったな」

「行ってしまわれましたなぁ。もっと色々と話が聞きたかったです。」

 今川輝宗一行が、街の喧騒の中に姿を消して数刻、今川輝元様と龍臣丸様が話を聞いているのを、私木下藤吉郎はもくして聞いていた。

「そうしょげるな、父は昔からそうだった。自分自身の価値に自分だけは気づいておられない。」

「ですが、良い経験になりました。これからはもう少し良い罠を作りますよ。」

「その癖、殿の元へ奉公に出す頃には治しておかねばならんなぁ!」

 輝元様が龍臣丸様を叱りつけている、こうしてみると美濃の長、ひいては天下人の本拠地を守る重要人物にはとても見えない。

 普通の親子の姿がそこにはあった。

  拙にもそんなの未来があったのだろうか?

 普通に亭主を持ち、子供を抱いて過ごす未来が・・・・

 自分が妄想に取り憑かれていることを悟り、ぶんぶんと首を振る。

 拙はご隠居様のお役に立っている、それだけで今は十分だ。

「殿」

「そうであった藤吉郎、お主には別の任務を任せていたな。」

「はっ、ご依頼通り


 そう言い残し、拙は殿と龍臣丸様の前から姿を消した。

 流石に、松平家から放たれた刺客を放置して旅を続けさせる訳にはいかない。ご隠居様はこう言ったが、松平家は間違いなく今川家に、ひいては天下に弓を引いたのだ。

 この責めは負わせなければならない。

 今回の一件は輝元様から氏真様へと報告が行く。

 書状が氏真様に届き次第、松平家は取り潰しになるだろう。

 勿論輝宗様の言いつけ通り宗信殿が責めを負うことは無い。

 全ては完璧だ、あぁ、これもまたご隠居様の掌の上なのでしょう。

 表では臣従したと見せかけて、裏ではまだ今川家に従わない素ぶりを見せる者は多くいる。

 それを炙り出すのがご隠居様の考え、そうでしょう?

 さぁ?ご隠居様♡

 逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしませんよ?
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