10 / 100
駿河編
ハンゾーのことなんで知ってんだコイツら
しおりを挟む
「半蔵?ご隠居様は本当にそう言ったのね?」
「は、はい。確かに!」
夜が明け、今川館は騒然としていた。
それもそのはずだ、外がざわついてるな~と思っていたら外に複数人の死体が転がっているのだ。
むしろ騒ぎにならない方がおかしい。
真田幸村
前田慶次
木下藤吉郎
そして、夜の警備を勤めていた松井宗信がこの場にはいた。
夜の騒動については、遅れながらも騒乱に気づいた松井宗信によって殆どの死体処理は終わっていた。
しかし、護衛対象にまで刺客が向かってしまったのは事実、本来松井は死罪でもおかしくは無い。
と言うか、切腹しようとしていた。
「誠に申し訳無い...亡き大殿に見せる顔が無い!やはり死んでお詫びをぉぉぉぉ!」
「勝手にしてて頂戴。」
「「いや、止めろよ (て下さいよ)!!」」
松井宗信を幸村と慶次が必死で抑え込んでいる。
「伊賀と甲賀の両方を兼ねる棟梁、その名前が服部半蔵ね」
忍びの中にも独自の情報網は存在する。
名の売れた忍びと言うのは、その多くが大きな大名に仕えている故に情報を得ることは容易い。
風魔小太郎などもそのつてで名前が露見している、最も名前がわかったかと言ってその姿形まで知ることは不可能だ。
輝宗の非凡さがわかる一因でもある。
「あの捕えた刺客がご隠居様の言う通り服部半蔵なのならば、その主人は松平元康と言うことになる」
「これは、大問題ね...」
松井を慶次が無理やり押さえ込み、首を絞め落とそうとしながらも話は続く。
「だが、松平家と言えば今川家に従っている重臣の1人だ。ここでご隠居様に危害を加える意味などあるのか?」
「そう、無いの。でも服部半蔵が勝手に動くとは考えられないから、この騒動は松平元康が指示したものと見て良いのよね?」
「恐らくそれは間違い無いでしょうね。」
服部半蔵は、捕獲されてから牢に入れれており今でも黙秘を続けている。
全身傷だらけになってもなお脱出の意志を捨てていないらしく、その激しい抵抗により治療にあたった医者や牢番が負傷する事態になっていた。
「氏真様...殿に御報告するべきなのではないか?」
「普通ならそうなのだけど、輝宗様は考え事をしているのか動こうとしないわ」
「輝宗様がそのことにお気づきで無い筈も無い」
家臣に謀反の兆しあり、本来ならば主君に報告するべきではある。
とここまでは誰でも思いつくような発想だ。
話は続く、幸村が松井を見て青褪めた顔をしているが、話は続く。
「ここで問題は、輝宗様は何故刺客の名を知っていたかと言うことになるわね。」
「今川家と松平家には密接な関係がある、たまたま覚えていたのでは無いか?」
「臣従しているとは言え、他家の重臣でもなんでもない一乱破の顔と名前を覚えていると?いえ、あのお方ならあり得るわね。あのお方は他家の有力な家臣の殆どを網羅しているとの噂もあります」
「その説もある、だが私はもう1つの可能性を提示したいと思う」
「もう1つの可能性?」
自信満々に言う慶次、青褪めている幸村。
口から泡を吹いている宗信。
そんな慶次を前に、怪訝な顔をして藤吉郎は聞く。
「松平元康、名君とも聞かないが愚かとも言えない平凡な男。噂話には話題にも出ず、また剣の才も、文の才も秀でたものは1つも無い普通の男だ。そんな男が下克上を狙っている、それをご隠居様が知ったとするなら、この旅の目的も見えてくるとは思えないか?」
「まさか、自分を囮に使ったと言うの?」
「そうだ、理由はわからないが松平元康が自分の命を狙っていると気付いたご隠居様はわざと供を2人に限定し、まさに誘うようにゆっくりと旅を続けた」
「そうすることで、今まで尻尾を出さなかった獅子身中の虫を炙り出そうとした」
「ご名答、松平元康の他にもきな臭い家はいくつもあるだろう?」
「成る程、貴方方のような新参者を呼んだのは死んでも良い者たちをチョイスしたということですか」
「さて、そこまではわからねぇな」
そう思いながらも慶次は、自分と幸村が輝宗を守るためだけに供に選ばれた訳では無いことを確信していた。
人には情と言うものがある、自分よりも歳下の人間を2人だけ集め、囮の為に肉壁にしようなどという考えをするには輝宗は優しすぎる。
そう慶次は思っていた。
我らの主人は優しすぎる、自分が見てきたどんな為政者よりも。
慶次は、今までの旅の間、輝宗の旅の様子から、今までの輝宗に関する噂を全て抜きにした、自分の目で見た彼の評価をこう決定づけていた。
武においては一流。
護衛対象という自分の役目を良く理解しているという点での評価だ。
輝宗に刀を抜かせたということは護衛である自分たちの失態である。それをしないように気遣っているという点でも輝宗の優しさは垣間見ることができる。
そして、最も特筆するべきはその知識だ。
日本の書物は大体読んできたと豪語するその長年にわたる読書量は本物で、私や幸村が知らない情報が大量に出て来るのは特筆に値する。
慶次も文才に優れ、神童と揶揄されたことすらあるが故に、輝宗と自分を見比べてその力量差を感じ取っていたのだ。
噂をすれば、では無いがそんな4人の部屋の中に輝宗が入ってくる。
すかさず幸村、慶次、藤吉郎は土下座した。
「全員揃っていたか」
「はっ、ご隠居様の目的もようやく捉えて来ました故」
「ほぅ?ところで、何故宗信は泡を吹いて気絶してあるのだ?」
「慶次殿が絞め落としました」
◇◇◇◇
宗信が運ばれて行く、いや怖いわ。
なんで部屋に入って来たらおっさんが1人泡吹いて気絶してんだよ、どう考えてもおかしいだろ。
慶次が絞め落としたのか、うんそりゃ死ぬわ。あの丸太のような腕で掴まれて締められる。
うん死ぬな。
まぁ罰はあれぐらいで良いだろう。
「藤吉郎、宗信に伝えておいてくれ。今回の一件他言無用、殿への知らせも無用とな」
「はっ」
今回の一件を報告するつもりは私には無い、これが露見すれば宗信が切腹しないといけないからな。
あのおっさんいい奴なんだ、できれば死んでほしく無い。
「ご隠居様」
「なんだ?」
慶次が質問して来た、なんだろう。
私の目的のことについてかな、そんなの無いんだが...
「半蔵のことについてお聞きしたいのですが」
ん?
「お主、何故ハンゾーのことを知っているのだ?」
ハンゾー
勿論あだ名であるその男は、私の前世の幼馴染だ。
歴史マニアで、本名からもじってハンゾーと呼ばれた男と、昨日あった男は顔がそっくりだった。
恐らく同一人物だろう、それなら私を殺しに来る理由もわかる。私怨という奴だな。
なんせ私のせいで皆は死んだのだからーーーー
「幸村から聞きました」
「そうか、ハンゾーはな、友だ」
「そ、そうだったのですか!?まさか松平の乱破と友誼を結んでいたとは」
「いや違う、松平元康殿、その頃は竹千代と呼ばれておったがその頃には見ていなかった。ハンゾーと友になったのはもっと昔の話よ。」
そう、前世の記憶だ、いや未来の話だから未来になるのか?
まぁどちらでも良いけど。
「ハンゾーだが、皆には済まないが解放しようと思う」
「それは看過できませなんだ、半蔵は優秀な乱破、一度見事に退けられましたからと言って、二度三度とは限りません!ここで殺すべきです!」
「ご隠居様、私も同意見です。間者を解放するなど」
「2人とも、頼む」
これは意地だ、私は2人に頭を下げることにした。
私が頭を下げた瞬間、2人は動揺したように悲痛な顔を上げる。
「ご隠居様!」
「顔を上げて下さい!」
「2人の申すことが道理と言うこともわかっている、だが友をここで朽ちさせたくは無い。」
あれ以来ハンゾーとは会っていない、どの顔下げて会うと言うのだ。昔と同じ顔をした友がまるで親の敵のような顔をして私を見ていると思うと胸が痛む。
せめて、どこかで静かに生きて欲しい。
叶わないかも知れないが、それでもこれが私の願いだった。
「わ、わかり申した。ならばせめて殿にご連絡を、刺客に襲われたという連絡はさせて頂きたく!」
「それもならん」
報告したら宗信が死ぬだろうが!
「ぐ・・・・」
慶次も、藤吉郎も、幸村さえ黙ったままだった。
結局私は、このことを押し通した。
我儘な主君と思ったかも知れない、だが私は友を殺すことだけはできなかったのだ。
そして、今川館を出発する日。
「父上、やはり今川館に留まっては下さらぬか?」
「うむ、旅がある故な。龍臣丸もあまり悪戯をせぬようにな?」
「はっ、お任せ下さい!」
元気良く答える龍臣丸、しかしその顔はニヤリと怪しい笑みを浮かべている。
こりゃ、無理だな。
私は龍臣丸に何かを言うのを諦め、息子の輝元に向き直って言う。
「美濃守、私が昔からずっと言っていたことは覚えているな?」
「城主とは、民衆を見て、土地を知り、国を守る。」
「そうだ、良き城主になれよ。」
これは、昔竹千代、つまり徳川家康に言われたことの丸パクリだ。
私は歴史の知識が一般常識レベルしか無いからわからないが、徳川家康が言った言葉だ、間違い無いだろう。
「貴様ァ!ここで私を解放すること、後悔するぞ!」
感動の別れを邪魔するようにハンゾーの声が響く。
「ハンゾー」
私はいつしか彼を凝視していた、ハンゾーを縛っていた縄が慶次によって切られる。
解放されたハンゾーは、初めは私を睨んでいたがやがてびくりと体を震わせた。
慶次の眼力にでもびびったのか?
「私はここでは死なん、あと2人、謝らなければならない人間がいる故な」
「な、何を言っている?」
「わからないのか?お主も記憶が薄れてきたか、私もだ。今では会わなくてはお前の奥さんの顔も思い出せなくてなぁ...」
「き、貴様どうやって妻の素性を調べたのだ!里でも秘匿中の秘匿とされているのだぞ!」
「知っているも何も、君から話してくれたんじゃ無いか。自慢げに」
この場にいた全員が驚いたような顔をする。
そんなにおかしいことか?
コイツ、めちゃくちゃ自慢してたじゃ無いか。
「そんな...一体どんな尋問をされたと言うのだ...」
いや、尋問なんてして無いって。
ハンゾーはもう真っ赤になってこちらを見ている、一体どうしたってんだ、酒でも飲んだのか?
「どうしたハンゾー?酒酔いか?お前は酒が弱かったから...」
「くく、コケにしおって!次に会った時が貴様の最期だ!」
ハンゾーは身を翻し消えてしまった。
まだ、別れも言って無いというのに、せっかちな奴だな。
「ご隠居様、お話があります」
藤吉郎、史実では豊臣秀吉になる女が話しかけて来た。
私はお藤に関してはここで輝元に仕えるように頼んである、平穏な時代においても忍びというものは貴重だ。
江戸幕府でも徳川方の間諜が日本中で暗躍した、なんてこともあったらしいしな。
「ん?なんだお藤?」
「私を、輝宗様の旅に連れて行って下さいませんか?」
「お藤、私は輝元に仕えるよう命じた筈だが?」
「ですが、ご隠居様の旅には危険が多すぎます。慶次殿や幸村殿だけでは・・・・」
「お藤」
私の言葉に、お藤ははっとした顔でこちらを見つめる。
そんな顔しないでくれ、こっちも不安になるから。
そもそも、前田慶次と真田幸村だぞ?
お藤は確かに強いが、年寄りの旅にこの2人はオーバーキル過ぎるだろう。
それに、今回はたまたま旧友が襲って来たがこのようなことが何度も来るとは限らない。
それに女性が旅に加わると言うのはそれだけで影響する。
第一、慶次あたりがそわそわして落ち着かんだろうが。
「わかりました、御心に従います」
お藤がわかりやすく落ち込んだように頷いた。
可愛そうだが、仕方がない。
「よし、では参るぞ!」
「「応!」」
こうして、私と慶次と幸村は、再度旅へと向かった。
次の目標地は甲斐国だ。
◇◇◇◇
「行ったな」
「行ってしまわれましたなぁ。もっと色々と話が聞きたかったです。」
今川輝宗一行が、街の喧騒の中に姿を消して数刻、今川輝元様と龍臣丸様が話を聞いているのを、私木下藤吉郎は黙して聞いていた。
「そうしょげるな、父は昔からそうだった。自分自身の価値に自分だけは気づいておられない。」
「ですが、良い経験になりました。これからはもう少し良い罠を作りますよ。」
「その癖、殿の元へ奉公に出す頃には治しておかねばならんなぁ!」
輝元様が龍臣丸様を叱りつけている、こうしてみると美濃の長、ひいては天下人の本拠地を守る重要人物にはとても見えない。
普通の親子の姿がそこにはあった。
拙にもそんな普通の未来があったのだろうか?
普通に亭主を持ち、子供を抱いて過ごす未来が・・・・
自分が妄想に取り憑かれていることを悟り、ぶんぶんと首を振る。
拙はご隠居様のお役に立っている、それだけで今は十分だ。
「殿」
「そうであった藤吉郎、お主には別の任務を任せていたな。」
「はっ、ご依頼通りご隠居様を隠れて護衛します」
そう言い残し、拙は殿と龍臣丸様の前から姿を消した。
流石に、松平家から放たれた刺客を放置して旅を続けさせる訳にはいかない。ご隠居様はこう言ったが、松平家は間違いなく今川家に、ひいては天下に弓を引いたのだ。
この責めは負わせなければならない。
今回の一件は輝元様から氏真様へと報告が行く。
書状が氏真様に届き次第、松平家は取り潰しになるだろう。
勿論輝宗様の言いつけ通り宗信殿が責めを負うことは無い。
全ては完璧だ、あぁ、これもまたご隠居様の掌の上なのでしょう。
表では臣従したと見せかけて、裏ではまだ今川家に従わない素ぶりを見せる者は多くいる。
それを炙り出すのがご隠居様の考え、そうでしょう?
さぁ?ご隠居様♡
逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしませんよ?
「は、はい。確かに!」
夜が明け、今川館は騒然としていた。
それもそのはずだ、外がざわついてるな~と思っていたら外に複数人の死体が転がっているのだ。
むしろ騒ぎにならない方がおかしい。
真田幸村
前田慶次
木下藤吉郎
そして、夜の警備を勤めていた松井宗信がこの場にはいた。
夜の騒動については、遅れながらも騒乱に気づいた松井宗信によって殆どの死体処理は終わっていた。
しかし、護衛対象にまで刺客が向かってしまったのは事実、本来松井は死罪でもおかしくは無い。
と言うか、切腹しようとしていた。
「誠に申し訳無い...亡き大殿に見せる顔が無い!やはり死んでお詫びをぉぉぉぉ!」
「勝手にしてて頂戴。」
「「いや、止めろよ (て下さいよ)!!」」
松井宗信を幸村と慶次が必死で抑え込んでいる。
「伊賀と甲賀の両方を兼ねる棟梁、その名前が服部半蔵ね」
忍びの中にも独自の情報網は存在する。
名の売れた忍びと言うのは、その多くが大きな大名に仕えている故に情報を得ることは容易い。
風魔小太郎などもそのつてで名前が露見している、最も名前がわかったかと言ってその姿形まで知ることは不可能だ。
輝宗の非凡さがわかる一因でもある。
「あの捕えた刺客がご隠居様の言う通り服部半蔵なのならば、その主人は松平元康と言うことになる」
「これは、大問題ね...」
松井を慶次が無理やり押さえ込み、首を絞め落とそうとしながらも話は続く。
「だが、松平家と言えば今川家に従っている重臣の1人だ。ここでご隠居様に危害を加える意味などあるのか?」
「そう、無いの。でも服部半蔵が勝手に動くとは考えられないから、この騒動は松平元康が指示したものと見て良いのよね?」
「恐らくそれは間違い無いでしょうね。」
服部半蔵は、捕獲されてから牢に入れれており今でも黙秘を続けている。
全身傷だらけになってもなお脱出の意志を捨てていないらしく、その激しい抵抗により治療にあたった医者や牢番が負傷する事態になっていた。
「氏真様...殿に御報告するべきなのではないか?」
「普通ならそうなのだけど、輝宗様は考え事をしているのか動こうとしないわ」
「輝宗様がそのことにお気づきで無い筈も無い」
家臣に謀反の兆しあり、本来ならば主君に報告するべきではある。
とここまでは誰でも思いつくような発想だ。
話は続く、幸村が松井を見て青褪めた顔をしているが、話は続く。
「ここで問題は、輝宗様は何故刺客の名を知っていたかと言うことになるわね。」
「今川家と松平家には密接な関係がある、たまたま覚えていたのでは無いか?」
「臣従しているとは言え、他家の重臣でもなんでもない一乱破の顔と名前を覚えていると?いえ、あのお方ならあり得るわね。あのお方は他家の有力な家臣の殆どを網羅しているとの噂もあります」
「その説もある、だが私はもう1つの可能性を提示したいと思う」
「もう1つの可能性?」
自信満々に言う慶次、青褪めている幸村。
口から泡を吹いている宗信。
そんな慶次を前に、怪訝な顔をして藤吉郎は聞く。
「松平元康、名君とも聞かないが愚かとも言えない平凡な男。噂話には話題にも出ず、また剣の才も、文の才も秀でたものは1つも無い普通の男だ。そんな男が下克上を狙っている、それをご隠居様が知ったとするなら、この旅の目的も見えてくるとは思えないか?」
「まさか、自分を囮に使ったと言うの?」
「そうだ、理由はわからないが松平元康が自分の命を狙っていると気付いたご隠居様はわざと供を2人に限定し、まさに誘うようにゆっくりと旅を続けた」
「そうすることで、今まで尻尾を出さなかった獅子身中の虫を炙り出そうとした」
「ご名答、松平元康の他にもきな臭い家はいくつもあるだろう?」
「成る程、貴方方のような新参者を呼んだのは死んでも良い者たちをチョイスしたということですか」
「さて、そこまではわからねぇな」
そう思いながらも慶次は、自分と幸村が輝宗を守るためだけに供に選ばれた訳では無いことを確信していた。
人には情と言うものがある、自分よりも歳下の人間を2人だけ集め、囮の為に肉壁にしようなどという考えをするには輝宗は優しすぎる。
そう慶次は思っていた。
我らの主人は優しすぎる、自分が見てきたどんな為政者よりも。
慶次は、今までの旅の間、輝宗の旅の様子から、今までの輝宗に関する噂を全て抜きにした、自分の目で見た彼の評価をこう決定づけていた。
武においては一流。
護衛対象という自分の役目を良く理解しているという点での評価だ。
輝宗に刀を抜かせたということは護衛である自分たちの失態である。それをしないように気遣っているという点でも輝宗の優しさは垣間見ることができる。
そして、最も特筆するべきはその知識だ。
日本の書物は大体読んできたと豪語するその長年にわたる読書量は本物で、私や幸村が知らない情報が大量に出て来るのは特筆に値する。
慶次も文才に優れ、神童と揶揄されたことすらあるが故に、輝宗と自分を見比べてその力量差を感じ取っていたのだ。
噂をすれば、では無いがそんな4人の部屋の中に輝宗が入ってくる。
すかさず幸村、慶次、藤吉郎は土下座した。
「全員揃っていたか」
「はっ、ご隠居様の目的もようやく捉えて来ました故」
「ほぅ?ところで、何故宗信は泡を吹いて気絶してあるのだ?」
「慶次殿が絞め落としました」
◇◇◇◇
宗信が運ばれて行く、いや怖いわ。
なんで部屋に入って来たらおっさんが1人泡吹いて気絶してんだよ、どう考えてもおかしいだろ。
慶次が絞め落としたのか、うんそりゃ死ぬわ。あの丸太のような腕で掴まれて締められる。
うん死ぬな。
まぁ罰はあれぐらいで良いだろう。
「藤吉郎、宗信に伝えておいてくれ。今回の一件他言無用、殿への知らせも無用とな」
「はっ」
今回の一件を報告するつもりは私には無い、これが露見すれば宗信が切腹しないといけないからな。
あのおっさんいい奴なんだ、できれば死んでほしく無い。
「ご隠居様」
「なんだ?」
慶次が質問して来た、なんだろう。
私の目的のことについてかな、そんなの無いんだが...
「半蔵のことについてお聞きしたいのですが」
ん?
「お主、何故ハンゾーのことを知っているのだ?」
ハンゾー
勿論あだ名であるその男は、私の前世の幼馴染だ。
歴史マニアで、本名からもじってハンゾーと呼ばれた男と、昨日あった男は顔がそっくりだった。
恐らく同一人物だろう、それなら私を殺しに来る理由もわかる。私怨という奴だな。
なんせ私のせいで皆は死んだのだからーーーー
「幸村から聞きました」
「そうか、ハンゾーはな、友だ」
「そ、そうだったのですか!?まさか松平の乱破と友誼を結んでいたとは」
「いや違う、松平元康殿、その頃は竹千代と呼ばれておったがその頃には見ていなかった。ハンゾーと友になったのはもっと昔の話よ。」
そう、前世の記憶だ、いや未来の話だから未来になるのか?
まぁどちらでも良いけど。
「ハンゾーだが、皆には済まないが解放しようと思う」
「それは看過できませなんだ、半蔵は優秀な乱破、一度見事に退けられましたからと言って、二度三度とは限りません!ここで殺すべきです!」
「ご隠居様、私も同意見です。間者を解放するなど」
「2人とも、頼む」
これは意地だ、私は2人に頭を下げることにした。
私が頭を下げた瞬間、2人は動揺したように悲痛な顔を上げる。
「ご隠居様!」
「顔を上げて下さい!」
「2人の申すことが道理と言うこともわかっている、だが友をここで朽ちさせたくは無い。」
あれ以来ハンゾーとは会っていない、どの顔下げて会うと言うのだ。昔と同じ顔をした友がまるで親の敵のような顔をして私を見ていると思うと胸が痛む。
せめて、どこかで静かに生きて欲しい。
叶わないかも知れないが、それでもこれが私の願いだった。
「わ、わかり申した。ならばせめて殿にご連絡を、刺客に襲われたという連絡はさせて頂きたく!」
「それもならん」
報告したら宗信が死ぬだろうが!
「ぐ・・・・」
慶次も、藤吉郎も、幸村さえ黙ったままだった。
結局私は、このことを押し通した。
我儘な主君と思ったかも知れない、だが私は友を殺すことだけはできなかったのだ。
そして、今川館を出発する日。
「父上、やはり今川館に留まっては下さらぬか?」
「うむ、旅がある故な。龍臣丸もあまり悪戯をせぬようにな?」
「はっ、お任せ下さい!」
元気良く答える龍臣丸、しかしその顔はニヤリと怪しい笑みを浮かべている。
こりゃ、無理だな。
私は龍臣丸に何かを言うのを諦め、息子の輝元に向き直って言う。
「美濃守、私が昔からずっと言っていたことは覚えているな?」
「城主とは、民衆を見て、土地を知り、国を守る。」
「そうだ、良き城主になれよ。」
これは、昔竹千代、つまり徳川家康に言われたことの丸パクリだ。
私は歴史の知識が一般常識レベルしか無いからわからないが、徳川家康が言った言葉だ、間違い無いだろう。
「貴様ァ!ここで私を解放すること、後悔するぞ!」
感動の別れを邪魔するようにハンゾーの声が響く。
「ハンゾー」
私はいつしか彼を凝視していた、ハンゾーを縛っていた縄が慶次によって切られる。
解放されたハンゾーは、初めは私を睨んでいたがやがてびくりと体を震わせた。
慶次の眼力にでもびびったのか?
「私はここでは死なん、あと2人、謝らなければならない人間がいる故な」
「な、何を言っている?」
「わからないのか?お主も記憶が薄れてきたか、私もだ。今では会わなくてはお前の奥さんの顔も思い出せなくてなぁ...」
「き、貴様どうやって妻の素性を調べたのだ!里でも秘匿中の秘匿とされているのだぞ!」
「知っているも何も、君から話してくれたんじゃ無いか。自慢げに」
この場にいた全員が驚いたような顔をする。
そんなにおかしいことか?
コイツ、めちゃくちゃ自慢してたじゃ無いか。
「そんな...一体どんな尋問をされたと言うのだ...」
いや、尋問なんてして無いって。
ハンゾーはもう真っ赤になってこちらを見ている、一体どうしたってんだ、酒でも飲んだのか?
「どうしたハンゾー?酒酔いか?お前は酒が弱かったから...」
「くく、コケにしおって!次に会った時が貴様の最期だ!」
ハンゾーは身を翻し消えてしまった。
まだ、別れも言って無いというのに、せっかちな奴だな。
「ご隠居様、お話があります」
藤吉郎、史実では豊臣秀吉になる女が話しかけて来た。
私はお藤に関してはここで輝元に仕えるように頼んである、平穏な時代においても忍びというものは貴重だ。
江戸幕府でも徳川方の間諜が日本中で暗躍した、なんてこともあったらしいしな。
「ん?なんだお藤?」
「私を、輝宗様の旅に連れて行って下さいませんか?」
「お藤、私は輝元に仕えるよう命じた筈だが?」
「ですが、ご隠居様の旅には危険が多すぎます。慶次殿や幸村殿だけでは・・・・」
「お藤」
私の言葉に、お藤ははっとした顔でこちらを見つめる。
そんな顔しないでくれ、こっちも不安になるから。
そもそも、前田慶次と真田幸村だぞ?
お藤は確かに強いが、年寄りの旅にこの2人はオーバーキル過ぎるだろう。
それに、今回はたまたま旧友が襲って来たがこのようなことが何度も来るとは限らない。
それに女性が旅に加わると言うのはそれだけで影響する。
第一、慶次あたりがそわそわして落ち着かんだろうが。
「わかりました、御心に従います」
お藤がわかりやすく落ち込んだように頷いた。
可愛そうだが、仕方がない。
「よし、では参るぞ!」
「「応!」」
こうして、私と慶次と幸村は、再度旅へと向かった。
次の目標地は甲斐国だ。
◇◇◇◇
「行ったな」
「行ってしまわれましたなぁ。もっと色々と話が聞きたかったです。」
今川輝宗一行が、街の喧騒の中に姿を消して数刻、今川輝元様と龍臣丸様が話を聞いているのを、私木下藤吉郎は黙して聞いていた。
「そうしょげるな、父は昔からそうだった。自分自身の価値に自分だけは気づいておられない。」
「ですが、良い経験になりました。これからはもう少し良い罠を作りますよ。」
「その癖、殿の元へ奉公に出す頃には治しておかねばならんなぁ!」
輝元様が龍臣丸様を叱りつけている、こうしてみると美濃の長、ひいては天下人の本拠地を守る重要人物にはとても見えない。
普通の親子の姿がそこにはあった。
拙にもそんな普通の未来があったのだろうか?
普通に亭主を持ち、子供を抱いて過ごす未来が・・・・
自分が妄想に取り憑かれていることを悟り、ぶんぶんと首を振る。
拙はご隠居様のお役に立っている、それだけで今は十分だ。
「殿」
「そうであった藤吉郎、お主には別の任務を任せていたな。」
「はっ、ご依頼通りご隠居様を隠れて護衛します」
そう言い残し、拙は殿と龍臣丸様の前から姿を消した。
流石に、松平家から放たれた刺客を放置して旅を続けさせる訳にはいかない。ご隠居様はこう言ったが、松平家は間違いなく今川家に、ひいては天下に弓を引いたのだ。
この責めは負わせなければならない。
今回の一件は輝元様から氏真様へと報告が行く。
書状が氏真様に届き次第、松平家は取り潰しになるだろう。
勿論輝宗様の言いつけ通り宗信殿が責めを負うことは無い。
全ては完璧だ、あぁ、これもまたご隠居様の掌の上なのでしょう。
表では臣従したと見せかけて、裏ではまだ今川家に従わない素ぶりを見せる者は多くいる。
それを炙り出すのがご隠居様の考え、そうでしょう?
さぁ?ご隠居様♡
逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしません逃がしませんよ?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました
miko.m
ファンタジー
※最終話までプロット作成済み。
※毎日19時に更新予定(たまに12時にも更新します)。
「勇者が500人!? 無理無理、勝てるわけないだろ! 和平だ、今すぐ娘を嫁に出せ!!」
魔王軍第一軍団長・ゴルドーは困っていた。たった5人の勇者に惨敗したなど、出世欲の塊である魔王ゼノンに言えるわけがない。保身のために彼がついた嘘。それは「勇者が500人いた」という、あまりにも適当な虚偽報告だった。
しかし、小心者の魔王様はそれを真に受けてパニックに! 「500人の勇者と全面戦争なんてしたら魔王軍が破産する!」と、威厳をかなぐり捨ててまさかの「終戦準備」を開始してしまう。
一方、真実を知った魔王家の三姉妹は、父の弱腰を逆手に取ってとんでもない作戦を企てる。
「500人は嘘? ちょうどいいわ。お父様を売って、あのハイスペックな勇者様たちを婿にしましょう!」
嘘を塗り重ねる軍団長、絶望する魔王、そして勇者を「逆スカウト」して実家脱出を目論む肉食系姫君たち。人間界のブラックな王様に使い潰される勇者たちを、魔王軍が「厚遇」で囲い込む!? 嘘から始まる、勘違いだらけの経営再建ファンタジーコメディ、開幕!
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる