戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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駿河編

罠って怖いね

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変な時間に起きてしまった。

 外は真っ暗で、部屋の内部も目を凝らさないと先が見えなくなっている。

 老眼だな...そう思いながらも催したトイレに行きたくなった私は、灯を持って外へと出ていた。

 ん?あれ、私の布団にお藤寝てない!?

 また気づかなかった...忍びって怖い。

  そんなことを考えつつも障子を空けて外に出る、外に出る際に背後から「流石です」と声をかけられた気がするがきっと気のせいだろう。

 ここ、トイレどこだっけ...

 私は昔から、今川館に滞在した期間自体はそんなに長くない。

 その間にも改築がちょいちょいされているようで厠、つまりトイレの場所が全くわからなくなっていた。

 確か、ここを曲がってだと思ったのだが...

 微かな記憶を頼りに前に歩き始める、暗く、灯りが無ければ足元もおぼつかない。そんな廊下を歩き続ける。

 こけた。

「痛っっ...」

 足を強かに打ったようで、思わず足を抑えて蹲ってしまった。

 あまりの痛みに脂汗をかいてしまう。

 こんな姿、誰にも見せられないな。

 周りに巡回の武士がいないことを確認して、私は一息つく。 

「ご隠居様?」

 いたぁぁぁぁぁぁぁ!!恥ずかしいぃぃぃ!

「ご、ご隠居様?大丈夫ですか?」

「あぁ全然大丈夫だ、全く暗いと言うのは困るなぁハッハ、って幸村か。」

「はい、今川館で厠を探していたのですが、見つからなくて」

 幸村か、まぁそれならギリ大丈夫だ。 私がドジ踏んでるのも知ってるだろうしな、危なかった、恥をかくところだった。

 いや恥はかいているのだが。

「あぁ、厠なら私が知っている...筈だ。近くだし一緒に行こう」

「はい!」

 幸村を後ろに従え、私は今川館の廊下を歩く。

 それにしても、厠を探して道に迷ったか。

 ふむ、幸村迷い過ぎじゃないかな。

 例の如くと言うか当然の処置ではあるのだが、私と供回りである幸村、慶次の寝る場所はかなり遠い。

  当然、供回りの寝所にも厠がある。

 それを通り過ぎるとは...

 しかも、ここまで来るには当然供回りの武士にも会う筈だ。

 誰かここまで来るのを止めろよ..特に用向きも無いのに供回りが主人の寝所近くまで来ちゃいけないだろう。

 今日の警備担当誰だよ。

 あ、松井宗信変態ロリコン野郎か。

 あいつ男も女もイケるからな、仕方ないね。

 それにしても、なんか外が騒がしいなぁ。

 何かあったのかな?

 そんなことを思っているうちに、懐かしい場所に差し掛かったので思わず幸村に話しかけてみる。

「ほら見ろ幸村、あそこに穴があるだろう?」

「はい、ありますね。何ですかあれ?」

「私の孫に龍臣丸というものがいるのだが、大層な悪ガキでな。4年ほど前にこの穴から地上へと続く道を見つけてあれを使って良く外を回っていると私にふみで報告してきたことがある。」

「そうなのですか!」

「そうだ、ほら。厠に着いたぞ。先に入ってくれ」

「そうですね!」

 漏れそうだったのか、幸村が走って厠へと入り込む。

 さっきからギリギリだったみたいだな、そう言うの見ると譲りたくなるよ本当。

 私は特に急いでる訳でも無いので、気をきかせて譲ってしまった。

 本当ならば礼儀的にいけないことなのだが、まぁ今夜ぐらいはいいだろう。

 それよりもあの穴だ、人1人が入れるか入れまいかと言うぐらいの小さな穴。

 手紙で、息子がいたずら好きで今川館に罠を仕掛けてるなんていう話も十分驚いたが、それよりもこっちの方が驚いた。

 いや、氏真とか義元の兄者が主に京都を拠点として活躍していたからいいものを、もしバレたらただでは済まないのでは?

 まぁ、なるようになるか。

 穴は、時として忍びや、曲者の侵入経路として使われてしまう。

 裏口などは顕著だ、良く物語に王族専用の隠し通路がなんて話があるけど裏を返せばそれは外から容易く侵入もできてしまうという事だ。

 正直、ここに穴があり、それを放置しているのはアホなんじゃ無いかと思う。

 ほら、今も黒い服を着た男が1人、穴から出てきてこちらに走って来ている。










 あ、え?

 来てるな。

 その格好はどう考えても武士では無い、灯りに照らされて全身が見えているのにも関わらず暗いのは、恐らく真っ黒な服を着ているからだろう。

 そんなザ・忍みたいな格好しないで貰っていいかな。

 まぁ前世の記憶ではあるし、ある意味史実通りと言えなくも無いけどさ。

 「お主、何を急いでいるのだ?」

 思わず声に出してしまっていた。

  声をかけるに妥当な理由も無い。

 門から入って来ていない時点で真っ当な人間では無い、そんな人間に何故か私は話かけていた。

 何故だろうな、そんな私に対して忍びは、こちらを向くなり槍を抜き怒りの表情で叫んでくる。

 「何やら屋敷の外も騒がしいし、何かあったのか?説明してもらえるか?」

「ここで会えるとはなぁ!今川輝宗ぇぇ!」

 あ、刺客かぁ。

 槍を抜き吠える刺客を前にして、のんびりと私はそんなことを考えていた。

 刺客と私の距離は歩いて30歩ほど、いや今20歩程になったかな。

 早すぎないか?

「ご隠居様!」

 幸村の声が聞こえてくる、トイレから出てきたか。

 大声も聞こえただろうからな、無理も無い。

 駆けつけて来た幸村を、私は手で制する。

 何故、そんな顔をしながらも幸村は身体を止めた。

 いやだってさ、幸村刀すら持って無いじゃん。

 じゃあ意味なく無い?

 いざとなれば盾にもなってくれるはずだが、冗談抜きでこんな若い子に肉壁などされて生き延びればそれはそれで目覚めが悪い。

 これは、私が戦うしか無いのか?

 そう思い、刀の鍔に手をかける。

 しかし、その際に1つのことに気づいてしまった。

  それは半蔵の足元だ、彼の足元には、木の葉でわざと隠れたような跡と、目を凝らさなくては見えないほどの極小の糸が張ってあった。

 あ、まずい。

 あれはまずいぞ!

 あれは、、罠丸バカ孫の仕掛けた罠だ!

「ちょ、危ないぞ!」

  そう注意したが、刺客は当然止まらない。

 言いながらも私は平然としていた、と言うか冷めた目で見ていた。

 そりゃそうだよ、止まれって言って止まる訳無いわな。じゃあ仕方ない、私はしーらないっと。

 槍が直前に迫った次の瞬間、罠が作動した。

 その後、私は運命を知ることになる。

 この世界は数奇な世界だ、この時代でも史実通りに名を残すであろう面々との出会い。

 数々の大きな出来事。

 そんな中でもこの再開は、まさに運命と言って差し支え無いだろう。

「ハ、ハンゾー?」

 そう、実に40数年ぶりの再会。

 私はそれを経験することになる。

 
◇◇◇◇


「迷った...」

 今川館にて、私真田幸村は絶賛迷子中であった。

 その足取りは刀や武器の類を所持していないが為に軽い筈なのだが、妙に重たい。

 キリキリとお腹が痛む、そのせいだ。

 厠が無いのだ、紹介を受けていたはずなのだが、焦って判断力を逸したのか、それとも暗闇で神隠しにあったか。

 どちらにせよ、訳のわからないところに来ていた。

 本当、ここどこ~?

 慶次殿に聞けば良かった、でもその時は気づかなかったが、慶次殿はいなかったような気もする。

 慶次殿も厠だったのかな、今考えても仕方がないことだが。

 厠はどこだ!厠は!

 限界が近づいてくるのと同時に私の足も早くなっていく。

 急がねば...

 そんな折に、私は廊下の真ん中で岩のようになっているなにかを見つけた。

 一体なんだ?

 そう思い、灯を近づける。

「ご隠居様?」

 ご隠居様だった、立ち上がり、こちらを見るご隠居様の顔からは大粒の汗が出ている。

 汗?寝巻きで、刀を持って?

 まさか、修練をしていたのか?

 ご隠居様が修練をしている姿は見たことが無い、隠してはいないと仰られているのだが、恐らく人目を避けているのだろう。

 それは当然と言えば当然だ、武士にとって己の戦法は命に関わる秘伝。味方ならいざ知らず敵にむやみやたらと見せるものでは無い。
 
「ご、ご隠居様?大丈夫ですか?」

「あぁ全然大丈夫だ、全く暗いと言うのは困るなぁハッハ、って幸村か。」

「はい、厠を探していたのですが、見つからなくて」

「あぁ、厠なら私が知ってる...筈だ。近くだし一緒に行こう」

「はい!」

 私はご隠居様の後ろに隠れ、厠へと歩き始める。

 表が随分と騒がしい、人の喧騒の声が聞こえて来た。

 誰かが喧嘩でもしているのかな?迷惑な。

 そんなことを考えていると、ご隠居様から話しかけられた。

 しまった、気を使わせてしまったか。

「ほら見ろ幸村、あそこに穴があるだろう?」

「はい、ありますね。何ですかあれは?」

「私の孫に龍臣丸というものがいるのだが、大層な悪ガキでな。4年ほど前にこの穴から地上へと続く道を見つけてあれを使って良く外を回っていると私にふみで報告してきたことがある」

「そうなのですか!」

 龍臣丸、確か私とそんなに歳が変わらなかった筈だ。

 ご隠居様に似て聡明な顔立ちではあったが、粗暴な面もある方だ。

 それでもいつかは氏真様の跡を継ぐであろう龍王丸様の従者になるお方だ、しっかりした方に成長するよう祈っておこう。

 そんなことを考えていたら厠に到着していた。

「そうだ、ほら。厠に着いたぞ。先に入ってくれ」

「そうですね!」

 気を使われた、そう思うものの体が勝手に動く。

 本来便所を上のものより先に入るなど言語道断だが、余裕がなさ過ぎるので先に入らせてもらう。

 危なかった...

  厠に行き終わった後、外からご隠居様の声が聞こえて来た。

 誰か来たのかな?

 そう思い厠を出ると、そこには驚愕の光景が見えていた。

「ここで会えるとはなぁ!今川輝宗ぇぇ!!」

そこには、黒い服を着た男が、ご隠居様に槍を向けていた。 

 心臓が凍りつく。

 頭が真っ白になるということはまさにこのことだろう。

 あわててご隠居様を守ろうと抜刀しようとするが、刀がない!

 心臓が急に起こされたかのようにバクバクと鼓動を始め耳にうるさい。

 1秒が永劫の時を過ごしているようだ。

 護衛とは、いついかなる時でも帯刀し、護衛対象を守らなければならない。

 失敗は切腹を意味する、と言うか切腹すらさせてもらえないかも知れない。

 罪人として斬首される可能性すらあるのだ。

 なにがなんでも守らねば!

「ご隠居様!」

 私は廊下を脱兎の如く走り出す、しかしその行動は、ご隠居様の手によって塞がれた。

 ご隠居様の目が一瞬私の腰にいったのを見て私は赤面する。

 それは確かな戦力外通告、私が刀を刺していないことに対する叱責だ。

 常在戦場、いつでも戦場にいる心構えで事をなせという心得を示す言葉だが、それができていなかった。

 恥ずかしい...

 だが、それでもご隠居様の危機が去った訳ではない。

 刺客の槍がご隠居様に延びる、悲鳴に近い声が私の喉から出た気がするがそれでも槍は止まらない。

 だが、ご隠居様は平然としていた。むしろこの極限状態でむしろ敵を気遣ったのだ。

 なんという余裕か。

 危ないぞ、そうご隠居様は言い放った。当然そんな言葉は無視して盗賊は槍をご隠居様に近づける。

 私もその意味がわからなかった、そう、次の瞬間までは。

 「なっ!ぐぁぁぁぁ!」

「だから言ったろうに」

 次の瞬間、刺客は左右から飛び出して来た鋭い木の杭に挟まれて身動きを取れなくしていた。それに合わせて縄や鎖が出てきて刺客を縛る。

 ほんの数秒で、刺客はその身を完全に拘束されていた。

「き、貴様ぁぁ!」

 刺客はまだ元気とばかりに身をよじるも、罠はぴくりとも動かない。

 まさか、これが狙いだったのか。

 刺客が潜入したのを勘?で先に察知した輝宗様は、私を先に厠に寄せて刺客を待ち伏せ。罠がある場所に誘導して捕獲した。

  なんと言うことなのだろうか、これが兵法か。

 しかし、それを当然とばかりにご隠居様は身動きの取れない刺客を眺めている。

「幸村」

「は、はいっ!?」

 しまった、素っ頓狂な声を出してしまった!

「人を呼んでくれないか、しばらく歩けば巡回のものに出会えるだろう。些細報告せよ」

「はっ!」

 ご隠居様の指示を受けて走り出す、刺客と2人きりは不安ではあるが輝宗様なら問題ないだろう。

 むしろ、最後のご隠居様の顔が気になった。

 ご隠居様は、罠にかかり顔の頭巾が取れた刺客に向かってこう言っていたのだ。

「ハンゾー、なのか...」と。

 あれは一体どういう意味だったのだろう?
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