8 / 100
駿河編
忍って大変だね
しおりを挟む
さて、明智光秀や島左近がある程度その数を減らしたものの、多くの忍びたちは今川館に侵入を果たしていた。
本来、暗殺という稼業の特性上忍びに必要なのは絶対にバレてはいけないという隠密性であり300人という人数は全くもって必要無い。
それを証拠に今川館に潜入するという条件だけならば1人、もしくは2人でも事足りるのだ。
それなのに大人数で行く、それは半蔵の策ではあったが同時にそれは輝宗に対する畏怖の表れでもあった。
そして、人数をわざわざ多くしたのにはもう1つ理由がある。
「おいおい、不粋だなぁ。今日は親子の再開日、墓参りの帰りだ。こんな日に殺しに来るなんてどんな不細工な奴だと思ったら、顔も見えないじゃ無いか。論外だ!」
前田慶次、この男の存在だ。
手に皆朱の槍と呼ばれる紅色をした丸太の如く太い槍を持ったこの男は、ただの供回りとはかけ離れた活躍をしていた。
「強すぎる...何故これほどの男が無名でいたのだ!」
服部半蔵は、この報告を受けて愕然としていた。
明らかに常軌を逸脱しているでは無いか!
甲賀、伊賀もの達が集めた前田慶次に関する情報は少ない。
と言うより、輝宗がとりたてる者の殆どがそう言った境遇なのだ。
普通の武士として生まれ、才覚がありながらも問題があったり、主人に嫌われていたりして不遇だった者達を、輝宗は見事に引き上げていた。
それは、明智光秀や島左近といった者たちも同じことであり、それはたびたび今川家中を騒がせた。
そしてそれは、半蔵も同じことである。
ただ、明智光秀も島左近も今川館には不在だと言う。
好機は今しか無い、明智光秀も島左近も、特に島左近においては度々紛争地帯に足を突っ込んでは、敵味方関係なく暴れまわって去るという狂戦士だ。
あれを相手取るにはそれこそ大隊が必要だろう。
故に、前田慶次だけというのが、半蔵側にとって最大のチャンスであったのだ。
「オラオラ!こんなもんかよ!」
慶次の槍が暗い闇の中で紅く光る、その閃光が一筋の線を描くたび、忍びの死体が落ちてくる。
洞察力、勘では無く、あくまで実戦経験に基づいた戦略的理論は、一流と呼ばれた忍びを寄せ付けない強さを持っていた。
「あ~だが数が少ねぇな、楽なのは良いんだが、取りこぼしとかはねぇのかよ!藤吉郎の姐さん!」
「無い」
藤吉郎もこの場に現れていた、服装こそ寝起きの格好だが、その内部には暗器が多数仕込まれているのだろう。酷く重そうに見えた。
彼女自身も、慶次と同等かそれ以上の敵を葬っている。どちらかと言えば慶次の取りこぼしを殺しているイメージだ。
「ご隠居様はどーしたんだ?」
「賊が動き出す数刻前に寝床を離れました。」
「おいおい、護衛は良いのかよ?」
「ついてこいと言われなかったもので」
そう言うと、藤吉郎は服の裾を悔しげに握りしめる。
ついてこいと言われなかった、これはつまり彼女が輝宗に必要とされていないことを意味している。
基本的に輝宗は裏で暗躍する際に人に指示を出すと言うことをしない。
勿論、指示を出すことはあるがそれは殆どが間接的に助けになることであり、輝宗から真意や目的を言われて行なっていることでは無いのだ。
信用されていない。
これが、藤吉郎や慶次がかかえる、輝宗に対する偽らざる本心だった。
嫉妬などという感情では決して無い、むしろそこにあるのは諦めだ。
あの方と同じ場所で同じものを見ることは敵わない、そう思う心の方が大きくなっている部分もある。
それが無理だと言うのは当たり前の話だ、だが相談してくれるだけでも良いのでは無いか、あの方の力に私はなれているのか。
不安なのだ、自らの主人に役に立って無いと思われるのが嫌なのだ。
これが、輝宗に心酔しているものたちの心情を加速している。
しかしこの話をしていても仕方がない、2人とも話題を変えようとしていた。
「貴方は?確かもう1人供回りがいたはずだけど」
「あぁ、幸村か?アイツは今日は放置だ。危なっかしくて見てられねぇよ。」
誤魔化すようにそう言った藤吉郎の姉御の言葉を、慶次はやれやれといった素ぶりで答える。
幸村は起こさない。
これは慶次にとって決定事項だ。その発端は、輝宗の命を狙ったあの襲撃にまで遡る。
慶次は、輝宗を護衛する際、幸村を起こしてから輝宗を守りにいった。
これは、供回りとして同等と一応幸村を認めていたからなのだが、慶次は気が回らなかったのだ、幸村はまだ童で、自制が効かない子供であるという認識を忘れていたのだ。
結果、幸村は刀が折れるほどの激闘を繰り広げ、かつ輝宗に助けてもらうという失態まで犯した。
輝宗に追求こそされなかったが、この責任は自分にある。そう慶次は考えていた。
まだ若い幸村を、起こして放置しておけば敵と戦いに行くだろうなどというのは慶次でも当然わかる事態だ。
(当たり前だ、幸村はまだガキだぜ?俺だって無茶したことぐらい幾らでもある。そこを考慮できなかったとは...)
恐らく輝宗は、慶次が幸村を起こし、幸村が逸って敵を討ちに行くことを見抜いていたのだろう。
故に、慶次と入れ違いにはなったが幸村を守りに行った。そして、護衛対象に自身も、そして自身の失態も守ってもらったなど、慶次の自尊心が許さない。
故に慶次は幸村を放置した、荒事に参加させるには少しばかり早すぎた。
そんな気持ちも込めて。
「忍びはどーするんだよ?」
「明智光秀殿、島左近殿、私、貴方で掃討してしまえば良いのでは?今川の警護はザルですが」
「普段は明智殿と島殿がおられるからって怠慢が過ぎるだろうがよぉ、まぁいいか」
「あとは、頭ですかね」
「頭?」
「これだけ大掛かりな計画ですもの、どこかに指揮官クラスがいる筈ですわ。でもいないんですよねぇ」
「これだけの手練れを率いている奴だ、それなりに強ぇんだろうな」
「そう、強いなら名前も売れている筈。ならば今回の首魁の団体を絞ることはできないかな?」
(まず、それ以前にこれだけ多くの乱破を抱えている時点でかなり大きな組織、優秀な頭ね。まぁだいたい絞れてきているけど。)
勿論、藤吉郎も知り得ない忍びの組織がいるなら話は別だが、これだけの人数が完璧に擬態できるという可能性は殆ど考えていない為除外する。
北条率いる風魔党
加藤段蔵は、頭目では無いので除外だ。
そして
「伊賀、かな」
「伊賀?」
「聞いたことがある、伊賀、甲賀を纏めて召抱えた大名がいるって。松平家、今川家の腹心よ」
松平元康、いずれの徳川家康であるが、この歴史においては今川に臣従している1大名にしか過ぎない。
「あ?今川に従ってるなら、何故ご隠居様の命を狙うんだ」
「わからない、ただ可能性の1つとしてそれもあるというだけ。情報を引き出すには賊を捕まえて情報を引き出すしか無いね」
「そうかい、じゃあ俺の出番だ!おぉい、出てこいや!」
「出てきたら貴方殺してしまうでしょう、全く」
前田慶次の先導で2人は歩いて行く。
いずれ、2人によって侵入してきた忍びは全滅するだろう。
だが、首謀者の行方についてはわからないままだった。
◇◇◇◇
一体、どういうことだ!
そう叫びたい気持ちを、半蔵は強制的に抑えつける。
300を超える精鋭、半蔵自慢の兵士たちだ。そんな兵士たちからの連絡が、一隊も取れなくなっていた。
おかしい
まさか、前田慶次の能力を低く見積もり過ぎていた?
それとも今川館の情報を集めきっていなかったのか?
ここから動けない半蔵は、そう考えつつも頭の回転を些かも鈍らせない。
落ち着け。
1人での任務など、これまで幾らでもあった筈だ。
本来乱破とは本来、孤独に生きるものである。その稼業は決して華々しいものでは無く、闇に潜まねばならないものが殆どだ。
だが、必要なのだ。
敵に流言を、味方に情報を。
服部半蔵はこの仕事に誇りを持っていた。
そう、これが例え日本一の英雄を殺すことだとしてもだ。
身長を出来るだけ低くし、音を立てずに今川館の内部を走る。
誰にも教えていなかったが、かつて半蔵はこの屋敷に潜入したことがあった。
5年ほど前の話だ、今川が中央を掌握し始めた頃。
今川の動向を探る為、私は今川館に潜入した。
その時の経路が残っていて助かったな、この場所なら人と蜂会うこともほぼ無く行くことができる。
しかも、ここから走れば、丁度輝宗たちが寝ているであろうと推測されるところまで近いところに行ける。
半蔵は、自ら背負っていた槍を見て呟く。
「重い」
恐らく、これが彼の最期の仕事になるだろう。
既に屋敷は厳戒態勢となっている、輝宗は護衛の厳重な守りの中にあるだろう。そんな中を殺さなくてはならない。
日を改めるという選択肢は無い、元より自分がやろうとした作戦だ。しかも完全なる失敗だ。
生きて主人の元へと戻ろうなどとは考えていない。
どこだ、どこだ!!
人の多くいる場所は、どこだ!
「お主、何を急いでいるのだ?」
急に、半蔵の体が固まった気がした。
心臓の音が聞こえてくる。
そんな、まさか、あり得ない!
「何やら屋敷の外も騒がしいし、何かあったのか?説明してもらえるか?」
その男は、遠くから見た自らの標的にそっくりだった。
あり得ない!
その男は、腰に刀こそ刺しているが、それ以外に武器は所持していない。
あり得ない!
「ここで会えるとはなぁ!今川輝宗ぇ!」
あり得ない!
そう思っていた心を、強制的に閉じる。
槍を背中からとり、その槍を標的に向けて構えた。
「お命、頂戴いたす!」
「ちょ、危ないぞ!」
輝宗が何か言っているかなぞ、知るか!
戦場で敵の言葉に惑わされるようなことは無い!
服部半蔵
別名、服部正成
史実では徳川十二神将の1人であり、徳川の旗本武将の1人として活躍している。
半蔵は忍びとしても優秀だったが、それ以上に武将として高名な男だった。
数多の戦場を巡り、史実では遠江掛川城攻略、姉川の戦い、三方ヶ原の戦いなどで戦功を重ねた。
そう、彼の真価はその卓越した忍びとしての技術では無く、その槍さばきなのである。
半蔵の槍が輝宗の元へと伸びる、しかし輝宗は余裕そうに、顔を動かしもしておらず、また避ける素ぶりも見せなかった。
殺った!
そう確信した、その時
半蔵の視界は、暗転した。
本来、暗殺という稼業の特性上忍びに必要なのは絶対にバレてはいけないという隠密性であり300人という人数は全くもって必要無い。
それを証拠に今川館に潜入するという条件だけならば1人、もしくは2人でも事足りるのだ。
それなのに大人数で行く、それは半蔵の策ではあったが同時にそれは輝宗に対する畏怖の表れでもあった。
そして、人数をわざわざ多くしたのにはもう1つ理由がある。
「おいおい、不粋だなぁ。今日は親子の再開日、墓参りの帰りだ。こんな日に殺しに来るなんてどんな不細工な奴だと思ったら、顔も見えないじゃ無いか。論外だ!」
前田慶次、この男の存在だ。
手に皆朱の槍と呼ばれる紅色をした丸太の如く太い槍を持ったこの男は、ただの供回りとはかけ離れた活躍をしていた。
「強すぎる...何故これほどの男が無名でいたのだ!」
服部半蔵は、この報告を受けて愕然としていた。
明らかに常軌を逸脱しているでは無いか!
甲賀、伊賀もの達が集めた前田慶次に関する情報は少ない。
と言うより、輝宗がとりたてる者の殆どがそう言った境遇なのだ。
普通の武士として生まれ、才覚がありながらも問題があったり、主人に嫌われていたりして不遇だった者達を、輝宗は見事に引き上げていた。
それは、明智光秀や島左近といった者たちも同じことであり、それはたびたび今川家中を騒がせた。
そしてそれは、半蔵も同じことである。
ただ、明智光秀も島左近も今川館には不在だと言う。
好機は今しか無い、明智光秀も島左近も、特に島左近においては度々紛争地帯に足を突っ込んでは、敵味方関係なく暴れまわって去るという狂戦士だ。
あれを相手取るにはそれこそ大隊が必要だろう。
故に、前田慶次だけというのが、半蔵側にとって最大のチャンスであったのだ。
「オラオラ!こんなもんかよ!」
慶次の槍が暗い闇の中で紅く光る、その閃光が一筋の線を描くたび、忍びの死体が落ちてくる。
洞察力、勘では無く、あくまで実戦経験に基づいた戦略的理論は、一流と呼ばれた忍びを寄せ付けない強さを持っていた。
「あ~だが数が少ねぇな、楽なのは良いんだが、取りこぼしとかはねぇのかよ!藤吉郎の姐さん!」
「無い」
藤吉郎もこの場に現れていた、服装こそ寝起きの格好だが、その内部には暗器が多数仕込まれているのだろう。酷く重そうに見えた。
彼女自身も、慶次と同等かそれ以上の敵を葬っている。どちらかと言えば慶次の取りこぼしを殺しているイメージだ。
「ご隠居様はどーしたんだ?」
「賊が動き出す数刻前に寝床を離れました。」
「おいおい、護衛は良いのかよ?」
「ついてこいと言われなかったもので」
そう言うと、藤吉郎は服の裾を悔しげに握りしめる。
ついてこいと言われなかった、これはつまり彼女が輝宗に必要とされていないことを意味している。
基本的に輝宗は裏で暗躍する際に人に指示を出すと言うことをしない。
勿論、指示を出すことはあるがそれは殆どが間接的に助けになることであり、輝宗から真意や目的を言われて行なっていることでは無いのだ。
信用されていない。
これが、藤吉郎や慶次がかかえる、輝宗に対する偽らざる本心だった。
嫉妬などという感情では決して無い、むしろそこにあるのは諦めだ。
あの方と同じ場所で同じものを見ることは敵わない、そう思う心の方が大きくなっている部分もある。
それが無理だと言うのは当たり前の話だ、だが相談してくれるだけでも良いのでは無いか、あの方の力に私はなれているのか。
不安なのだ、自らの主人に役に立って無いと思われるのが嫌なのだ。
これが、輝宗に心酔しているものたちの心情を加速している。
しかしこの話をしていても仕方がない、2人とも話題を変えようとしていた。
「貴方は?確かもう1人供回りがいたはずだけど」
「あぁ、幸村か?アイツは今日は放置だ。危なっかしくて見てられねぇよ。」
誤魔化すようにそう言った藤吉郎の姉御の言葉を、慶次はやれやれといった素ぶりで答える。
幸村は起こさない。
これは慶次にとって決定事項だ。その発端は、輝宗の命を狙ったあの襲撃にまで遡る。
慶次は、輝宗を護衛する際、幸村を起こしてから輝宗を守りにいった。
これは、供回りとして同等と一応幸村を認めていたからなのだが、慶次は気が回らなかったのだ、幸村はまだ童で、自制が効かない子供であるという認識を忘れていたのだ。
結果、幸村は刀が折れるほどの激闘を繰り広げ、かつ輝宗に助けてもらうという失態まで犯した。
輝宗に追求こそされなかったが、この責任は自分にある。そう慶次は考えていた。
まだ若い幸村を、起こして放置しておけば敵と戦いに行くだろうなどというのは慶次でも当然わかる事態だ。
(当たり前だ、幸村はまだガキだぜ?俺だって無茶したことぐらい幾らでもある。そこを考慮できなかったとは...)
恐らく輝宗は、慶次が幸村を起こし、幸村が逸って敵を討ちに行くことを見抜いていたのだろう。
故に、慶次と入れ違いにはなったが幸村を守りに行った。そして、護衛対象に自身も、そして自身の失態も守ってもらったなど、慶次の自尊心が許さない。
故に慶次は幸村を放置した、荒事に参加させるには少しばかり早すぎた。
そんな気持ちも込めて。
「忍びはどーするんだよ?」
「明智光秀殿、島左近殿、私、貴方で掃討してしまえば良いのでは?今川の警護はザルですが」
「普段は明智殿と島殿がおられるからって怠慢が過ぎるだろうがよぉ、まぁいいか」
「あとは、頭ですかね」
「頭?」
「これだけ大掛かりな計画ですもの、どこかに指揮官クラスがいる筈ですわ。でもいないんですよねぇ」
「これだけの手練れを率いている奴だ、それなりに強ぇんだろうな」
「そう、強いなら名前も売れている筈。ならば今回の首魁の団体を絞ることはできないかな?」
(まず、それ以前にこれだけ多くの乱破を抱えている時点でかなり大きな組織、優秀な頭ね。まぁだいたい絞れてきているけど。)
勿論、藤吉郎も知り得ない忍びの組織がいるなら話は別だが、これだけの人数が完璧に擬態できるという可能性は殆ど考えていない為除外する。
北条率いる風魔党
加藤段蔵は、頭目では無いので除外だ。
そして
「伊賀、かな」
「伊賀?」
「聞いたことがある、伊賀、甲賀を纏めて召抱えた大名がいるって。松平家、今川家の腹心よ」
松平元康、いずれの徳川家康であるが、この歴史においては今川に臣従している1大名にしか過ぎない。
「あ?今川に従ってるなら、何故ご隠居様の命を狙うんだ」
「わからない、ただ可能性の1つとしてそれもあるというだけ。情報を引き出すには賊を捕まえて情報を引き出すしか無いね」
「そうかい、じゃあ俺の出番だ!おぉい、出てこいや!」
「出てきたら貴方殺してしまうでしょう、全く」
前田慶次の先導で2人は歩いて行く。
いずれ、2人によって侵入してきた忍びは全滅するだろう。
だが、首謀者の行方についてはわからないままだった。
◇◇◇◇
一体、どういうことだ!
そう叫びたい気持ちを、半蔵は強制的に抑えつける。
300を超える精鋭、半蔵自慢の兵士たちだ。そんな兵士たちからの連絡が、一隊も取れなくなっていた。
おかしい
まさか、前田慶次の能力を低く見積もり過ぎていた?
それとも今川館の情報を集めきっていなかったのか?
ここから動けない半蔵は、そう考えつつも頭の回転を些かも鈍らせない。
落ち着け。
1人での任務など、これまで幾らでもあった筈だ。
本来乱破とは本来、孤独に生きるものである。その稼業は決して華々しいものでは無く、闇に潜まねばならないものが殆どだ。
だが、必要なのだ。
敵に流言を、味方に情報を。
服部半蔵はこの仕事に誇りを持っていた。
そう、これが例え日本一の英雄を殺すことだとしてもだ。
身長を出来るだけ低くし、音を立てずに今川館の内部を走る。
誰にも教えていなかったが、かつて半蔵はこの屋敷に潜入したことがあった。
5年ほど前の話だ、今川が中央を掌握し始めた頃。
今川の動向を探る為、私は今川館に潜入した。
その時の経路が残っていて助かったな、この場所なら人と蜂会うこともほぼ無く行くことができる。
しかも、ここから走れば、丁度輝宗たちが寝ているであろうと推測されるところまで近いところに行ける。
半蔵は、自ら背負っていた槍を見て呟く。
「重い」
恐らく、これが彼の最期の仕事になるだろう。
既に屋敷は厳戒態勢となっている、輝宗は護衛の厳重な守りの中にあるだろう。そんな中を殺さなくてはならない。
日を改めるという選択肢は無い、元より自分がやろうとした作戦だ。しかも完全なる失敗だ。
生きて主人の元へと戻ろうなどとは考えていない。
どこだ、どこだ!!
人の多くいる場所は、どこだ!
「お主、何を急いでいるのだ?」
急に、半蔵の体が固まった気がした。
心臓の音が聞こえてくる。
そんな、まさか、あり得ない!
「何やら屋敷の外も騒がしいし、何かあったのか?説明してもらえるか?」
その男は、遠くから見た自らの標的にそっくりだった。
あり得ない!
その男は、腰に刀こそ刺しているが、それ以外に武器は所持していない。
あり得ない!
「ここで会えるとはなぁ!今川輝宗ぇ!」
あり得ない!
そう思っていた心を、強制的に閉じる。
槍を背中からとり、その槍を標的に向けて構えた。
「お命、頂戴いたす!」
「ちょ、危ないぞ!」
輝宗が何か言っているかなぞ、知るか!
戦場で敵の言葉に惑わされるようなことは無い!
服部半蔵
別名、服部正成
史実では徳川十二神将の1人であり、徳川の旗本武将の1人として活躍している。
半蔵は忍びとしても優秀だったが、それ以上に武将として高名な男だった。
数多の戦場を巡り、史実では遠江掛川城攻略、姉川の戦い、三方ヶ原の戦いなどで戦功を重ねた。
そう、彼の真価はその卓越した忍びとしての技術では無く、その槍さばきなのである。
半蔵の槍が輝宗の元へと伸びる、しかし輝宗は余裕そうに、顔を動かしもしておらず、また避ける素ぶりも見せなかった。
殺った!
そう確信した、その時
半蔵の視界は、暗転した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました
miko.m
ファンタジー
※最終話までプロット作成済み。
※毎日19時に更新予定(たまに12時にも更新します)。
「勇者が500人!? 無理無理、勝てるわけないだろ! 和平だ、今すぐ娘を嫁に出せ!!」
魔王軍第一軍団長・ゴルドーは困っていた。たった5人の勇者に惨敗したなど、出世欲の塊である魔王ゼノンに言えるわけがない。保身のために彼がついた嘘。それは「勇者が500人いた」という、あまりにも適当な虚偽報告だった。
しかし、小心者の魔王様はそれを真に受けてパニックに! 「500人の勇者と全面戦争なんてしたら魔王軍が破産する!」と、威厳をかなぐり捨ててまさかの「終戦準備」を開始してしまう。
一方、真実を知った魔王家の三姉妹は、父の弱腰を逆手に取ってとんでもない作戦を企てる。
「500人は嘘? ちょうどいいわ。お父様を売って、あのハイスペックな勇者様たちを婿にしましょう!」
嘘を塗り重ねる軍団長、絶望する魔王、そして勇者を「逆スカウト」して実家脱出を目論む肉食系姫君たち。人間界のブラックな王様に使い潰される勇者たちを、魔王軍が「厚遇」で囲い込む!? 嘘から始まる、勘違いだらけの経営再建ファンタジーコメディ、開幕!
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる