戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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甲斐編

お茶と間違えて飲んじゃったよ

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「うまいです~」

「こ、これは凄い!」

 なんか、目の前で幸村と慶次がわかめみたいにくにゃくにゃになっているんだが...

  和むすぎでは?いや無理もないか、そのぐらいここのほうとうは美味い。

「はっはっは!そりゃそうだ!うちのほうとうは日本一ひのもといちだからな!」

 この店の大将らしき人が、なんか某筋肉モンスター浅井長政を彷彿とさせるような豪快な笑いを見せる。

 甲斐国、不作の多い不毛の地という印象が強いこの地だが、その地は今や多いに栄えていた。天下統一がなされ、今川の名の下に各大名が一応は従う形を見せた世界では大きな戦があまり起こらなかった。

 それに合わせて、兄義元が行った治世。

 兄義元が行った治世により、本来荒れ果てていた筈の、この不毛の土地たる甲斐でも、人々の笑顔が見れる素晴らしい街ができていた。

 まぁそれでも他の村とかはまだ荒れてはいるらしいけど...
 
 なんだかんだ言って、俺の兄貴って優秀だ。めっちゃワンマンなところはあったけどそれでも良い兄貴だったよ、うん。

 おっと、そんなことより今は目の前のほうとうだな。

ほうとうとは、基本的には小麦粉を練りざっくりと切った太くて長い麺を、カボチャなど野菜と共に味噌仕立ての汁で煮込み、熱いうちに提供される料理の一種である。

 すいとんとかならまだ馴染みが深いかも知れない。

 私個人の感想を言うと、麺がめちゃくちゃぶっとくて汁がすごい独特な味のうどんみたいなものだ。

 それにしてもこのほうとう美味い!

 太い麺は食べ応えを残しながらも柔らかく、かぼちゃのスープはその魅力を最大限に活かしたように甘く、まろやかだ。

  京菓子のようなシンプルな甘みでは無いが、野菜の自然な甘さがそのまま引き出されており、はっきり言って最高だった。

 「美味い!」

 思わずそう叫んでしまう、その声を聞いてこの店の大将は大きな声を出して再度笑った。

「はははははははは!どーよみんな!俺のほうとうを輝宗様がうめぇとよ!」

 「流石清吾さんのほうとうだ!」

「輝宗様!うちのも一杯どうだい!?」

「あぁ、この後頂こう!」

「おぉ!良かったなおい!」

「やったぁ!輝宗様が儂のところの飯を食って下さると!」

 街の者だろうか、次々と集まり店の中は超満員だ。

 下手をすれば外にも大量の群衆ガヤがいるが、それが数十人なのか数百人なのかはわからない。

 どうしてこうなった?

 甲斐国に着いた私たちは、地元の人々に話を聞いて美味いほうとう屋さんを探してこの店に入った。

 その途中で聞かれてしまったのだ、我らの素性を、そしてそれに答えて幸村が堂々と正体をバラしてしまい...今に至る。

  「あれが輝宗様か、風格があるなぁ」

 「鬼には見えないな、儂は城をも超える巨体と聞いていたのだが」

 「あれが、山を斬ったとも言われる村正か...」

 いや、城をも超える巨体ってなんだよ、馬鹿か。

 あと山を斬ったってなんなんだ一体?意味が全くわからない、私の刀は確かに『村正』に連なる至高の逸品だ。この戦国史においても史実程の知名度は無くても、刀の銘としては最大級の賛辞を受けている。

 この刀がどーしても欲しかったので、とあるツテから貰ったのは内緒だ。

 ちなみに藤吉郎が裏で色々やってたらしいんだけど、怖いから聞かないようにしてる。

 というか、寒気がしないから藤吉郎は今ここにはいないのだろう。

『フフフ、ご隠居様、ほうとう位私が作って差し上げますのに...今度お作りしますね』

 いないったらいないのだ。

 というかおかしいだろ、壁の奥から声が聞こえて来たんだけど!

 しかも、いつものことなのだが声が聞こえるのは私だけで、慶次や幸村、民衆には聞こえないというのも不思議だ。

『愛の力です』

 幻聴...これは幻聴なのか?

 無視を決め込もう、このままだと精神上良くないからね。

「輝宗様もおかわりどうですかい?いや~若い男2人は良い食いっぷりだ!主人も負けてはいられんでしょう」

「頂こう」

「承知したぁっ!」

 清吾さん、そう呼ばれていた店長が元気良くそれに答える。

「清吾さんは向こうの村の元名主なんだぜ?」

「おいおい、自慢をするな自分てめぇのことでも無いくせによぅ!」

 へー

 そうなのか、この人が。

  恥ずかしそうに清吾はそれに答える。

 この、ほうとう屋の大将が名主か。

 確かに風格がある、名主ってのは村役人のようなもののことである。

「昔の話でね、今では倅に譲っておりまして、隠居はやることが無くなったのでこうして働いているのですよ」

「いつ頃からこの店は始めたのかね?」

「13年前だから、私が40の頃になりますねぇ。」

 しみじみと清吾はそのことについて振り返る。

「元々料理人になりたくてね、だが家が代々名主の家で、男が俺1人しかいなかったんでさぁ。」

 ま、悪いことばかりじゃありやせんでしたけどね。

 そう言って清吾はこの話を打ち切った。

 「そうだよなぁ、そうだよなぁ!やり切った後、自分が何をするかなんだよなぁ!と言うか隠居後ぐらい好きにやらせて欲しいよなぁ!」

「てっ輝宗様!?どうして泣いてるんです?」

 気づけば私は眼から涙を流し、清吾の手を握りしめていた。

 回りも、凝視するようにそれを見守っている。

 人の眼?関係ありゅかぁ!

「私もね、頑張ったんですよ!今川男子の1人として、精一杯役目を果たしたんですよ。色んな方からやれ戦場に立って手柄を立てろだの貴方が家督を継ぐべきでは無いかとか言われてさ!もう本当阿呆なんじゃ無いかと思うよ!」

「なんと、私にゃ良くわかりやせんが、輝宗様にも苦労があったようですね。もし良ければお付き合い致しますぜ」

「あぁ~ありがとう!もう一杯くれ」

 あ~なんだか気分が良いなぁ。

 そんな気分良く清吾と話をしている横で、幸村と慶次は声を潜めて何やら内緒話をしていた。

「慶次殿、あれは一体?」

「完全に酔っておられるな、ご隠居様はお酒をお飲みにはならなかった筈だが。」

「そうですよね、私も初めてです」

 輝宗は、酒を飲まない。

 これは彼自身が健康に気を使っているだけの話なのだが、その裏では常在戦場の理念を忘れない為と勘違いされている節もあった。

 故に彼らは驚きを隠せない、だが慶次の見解は違った。

「これは恐らくだが、護衛を我々に一任下さるということなのでは無いか?」

「なんと、つまり今まで酒を飲まずにご隠居様が耐えられて来られたのは・・・・」

「俺たちを測っていたのさ、旅の目的である悪徳領主の炙り出しも松平家が取り潰しになったことで落ち着いた。俺たちの能力も把握し終えたし、安心して飲める。そんなところでは無いかな」

「ご隠居様が...我らを信頼して下さっている!」

「そうだ、ちび助、今日は寝れないぞ?」

「はい!」

「ふぁふぁふぁ~」


 ◇◇◇◇


「一体、どうなっているのだ?」

「あぁ、本当にな...」

 街から離れた場所にある清吾の村の家。そこには多くの村の男が集まっていた。

 全員が16以上の男のみであり、その顔に笑顔は無い。

 どう考えても宴会などをしている雰囲気では無く、沈黙と緊張がこの場を占めていた。

「どう考えてもおかしいですよ清吾さん」

「あぁ、まさかこのタイミングであの方たちが来るとはな...」

「本当よ、我々がタイミングで彼らが来るとは...」

一揆とは、代官や守護などの圧政に対して、農民・信徒などが団結して要求・反対のために立ち上がることである。

 彼らの街は確かに栄えていた、だがそれには当然裏が存在する。それは清吾の村を見ればわかるだろう。

 街から離れた場所にあるこの村だが、寂れており作物も育たずらい。土地は荒廃しており、年々村から人が居なくなっているのが現状であった。

「村が荒廃してんのは、街の奴らがおらたちに高利貸しを好き放題してるからだ。一揆を起こして、徳政令を出してもらえば暮らしもきっと楽になる!」

 清吾の息子が、高らかにそう叫ぶと、村の比較的若い衆が勢い良く叫び出す。

 この村を苦しめている要因は大きく分けて2つある。

 1つは単純シンプルなことだが、土地柄による不作である。

 土地が痩せ細っており、作物が育ちにくい環境なのだ。

 2つ目が村人に多くある借金である、おまけにこの時代の金利はとても高い。

 結果、殆どの村人が借金地獄に喘ぐことになり今に至る。

 「やはり輝宗様は我々が一揆を起こすのを止めに来たのでは無いか?」

 清吾は、村人たちの前でそう言う。

「だが、輝宗様はここに来たのは旅の為と言っておられたでは無いか」

「だが、あれほどのお方だ。我々が一揆を起こすことを事前に知っておりここに来た可能性も無くはないだろう。そもそも我々に本来の目的を喋るとも思えん、忘るるな、あのお方は今川輝宗様だぞ」

「偶然では無いと言うんですかい、清吾さん。」

 清吾は、このタイミングで輝宗が来た理由について考えていた。

 今川輝宗、軍略内政いずれをとっても稀代の英雄と呼ばれた男。

 何かある、そう清吾は確信していた。

「街のものに輝宗様の動向を調べさせているのだが、輝宗様の部屋の隣の灯りがつきっぱなしになっているらしい。」

「供回りが主人を守る為に寝ずの番なんて当たり前じゃあ無いか?」

「警戒し過ぎでは無いか、街の宿屋だぞ?そもそも隠居された老人の旅であれほど供が警戒するというのもおかしな話であろう。しかも輝宗様が厠に向かっている姿も目撃されている。あの方も起きておられるのだよ」

「え?あれだけ酔っ払ってたのにかぁ?」

「擬態だ、それにあの方はそもそも数杯しか酒を飲んでおられん。」

「おら、輝宗様はとんでもねぇ酒豪って聞いたぞ!」

「そうだ、あの程度で輝宗様が酔う筈も無い。ここから導き出される結論は1つ。わざと隙を見せて我々の動向を見張っているのだ」

「な、成る程。確かに輝宗様を捕らえれば良い人質になるやも知れん」

 その言葉に、清吾は大きく首を縦に振る。

 加賀の一向一揆はこの世界でも当然起きている、加賀の一向一揆は1488年に起きた百姓の一揆であり、一向宗が大名を倒し、百姓だけの国を作ったという戦国史まれに見る希少案件レアケースだ。

 この世界では今川によって既に鎮圧されてはいるが、その再現、もしくはそれに近い一揆を彼らは狙っていた。

「輝宗様を捕えることができれば一気に事態は有利になる!親父、老いぼれと供回り2人なら簡単だ、俺にやらせてくれ!村を救いたいんだ!」

 清吾の息子が、必死な顔つきでこちらを睨んで来る。

 この一揆は複数の村が合同で行うものである、規模はかなりのものとなるだろう。その総数は男だけでも千に達するかも知れない。

 この村だけでも出せる数は50はいる、明らかに人間じゃない (失礼)前田慶次を除く幸村と輝宗だけならば十分に捕縛できる数だった。

「輝宗様は1週間街に滞在し、街を見て回ったり装備を整えてから出立されるそうだ。ならば狙うのは4日目、中間の日であろう」

 やるなら徹底的に、清吾たち翁の目に光が灯る。

 清吾自身も、そしてこの村に住む30、40代の面々は戦争を経験している。そう、武田軍の戦に農兵として駆り出されていた為だ。

 彼らは本職の武士には技術的にも装備的にも明らかに劣るものの、戦場で生き残ってきた知恵を遺憾なく発揮する機会を待ち望んでいた。

(許して下され輝宗様、この村はもう限界なのです!)

 清吾は、あのほうとうを嬉しそうに食べていた自分より少し年下の男に謝罪する。

 なんの変哲も無い平凡な男、清吾から見て輝宗という男はまさにそんな印象だった。

 大柄でいかにも武人然とした慶次や、その言動に知性が見え隠れする幸村とは異なり、輝宗本人は特に何もない。

 性格も善良、突飛な発言も何も無い普通の武士。

 しかし、それが清吾にとっては逆に恐怖でもあった。

 清吾の仕事は名主だ、村人を見回り、名を覚え、土地を管理する。

 そんな仕事を通して清吾は、人の心象や思考をある程度見通せるようになっていた。

 だが、そんな清吾の洞察力を持ってしても、輝宗が何も無いということ以外

 そんな筈は無い、乾いた喉を潤すように水を口に流し込む。

 稀代の英雄、そう呼ばれ今川家でも随一の名将と謳われた男が何も無い筈が無いのだ。

「現場での指揮は私自らがとる」

「親父!?」

「お前はまだ若い、それに一揆の首謀者は死罪となるは必定...我々年寄りが責任を負わねばなるまい」

 この時代の一揆は、成功し、徳政令を得ることができたとしてもイコール勝利と言う訳では無い。

 加賀の一向一揆とは異なり、今は天下統一が為された世である。

 完全なる百姓が軸となる自治など最初はなから不可能なのだ。

 故に、一揆に参加した村の上役は全員首を刎ねられる。

 清吾は、自分が首謀者となることで皆を守ろうとしていた。

「4日後、一揆を起こす前に輝宗様を捕縛し、領主と交渉する!」

「「「オオオオオオオオオオオォォ!」」」

 起こりさえすえば歴史に名を残すであろう甲斐国総一揆。

 それが、輝宗の全く預かり知らぬところで起ころうとしていた。
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