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奥州編
雪かき手伝ってこい
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「ご隠居様、左京大夫輝宗様ともお知り合いだったのですね...!!」
客間に通されてしばらく、幸村と慶次の質問責めにあった。
適当に流すしかないんだけどね。
『前世って知ってる?私と左京大夫殿、いやハンゾーは前世で友達だったの。』
こんなこと言えるか、アホ。
心の中で、アホ顔下げてそんなことを言っている自分を想像して少し顔を顰める。
第一信用される筈が無い、なんだよそもそも前世っておかしいだろ。化け物扱いされるのが関の山だ。
仕方がなく、文通をしていたと適当に誤魔化した。
ポカンとした目で見られたけど、私の奇行はいつものことだから慣れられたのだろう。
数えで2年、幸村も慶次もすっかり私の奇行に慣れたようだ。
どちらかと言えば2人の対応も、上位者に対するものと言うよりもおとなしくしていれば有能だけど放っておくと何をするかわからない基地外野郎みたいな扱いになってる気がする。
いや、別に扱いが雑になったとかそういう訳じゃ無いんだけどね?
それに決して居心地が悪い訳でも無い、今川に留まって仕事ばかりしていたあの頃に比べれば雲泥の差ではある。
やだ、流石未来の英雄。有能過ぎない?
「冬の間は伊達殿に世話になる、その間は2人にも折を見て休みを与えるから好きなところに行ってて良いぞ。」
「ご隠居様はどうされるのですか?」
「私は左京大夫殿とこの辺りを見て回る、なにこの雪でどうせ遠出はできん。安心するがいい。」
「私もご一緒しとう御座います!」
え?なんで?
オッサン2人で遊びに行くだけだぞ。
幸村がそう言うと、慶次も同調したように頷く。
「私はいくらかお休みを頂きますが...まぁ慣れない土地で訳もわかりませんからねぇ。そもそも遊び場所あるんですかココ?」
そうか...こいつら、さては仕事中毒だな?
そう言われてみればこの2人には殆どと言って良いほど休みを与えていなかったような気がする。
大体今さらだが労働環境が1人の男の介護で従業員が2人で休み無しってどんなブラック企業だ? (混乱)
話が脱線しそうだから深くは考えないようにしよう。
さて、2人には仕事を与えねばならない。
だがまぁ、そこまで負担になるようなことは任せられないだろう。2人には前提として、私の護衛という任務がある。
いやまぁハンゾーの護衛がいるからついでに守ってもらおうかなとか思っているのだが、2人がこういうのだから2人ともついて来てもらおう。
その他に仕事...仕事か...
あ、良いこと思いついた。
「慶次、お主左京大夫殿に従い働いて来るが良い。」
「は、は?」
え?何それ?と言った風に慶次が返事を返す。
すまんな、慶次。
お前には雪かきをしてもらうぞ!
ハンゾーとさっき話をした際、ふと気になってこの時期の奥州の侍は何してんの?と聞いてみた。
すると書類仕事や年末の大掃除&お正月の準備、雪かきなんかをしているらしいという答えを得られた。
大掃除か。年末の大掃除ってなんで年末にするんだろうって思っていたのだが、もしかしたら武家が冬になると戦ができなくなって暇になるから掃除してた。
そんな理由もあったのでは無いかと思うと笑えて来る。
さて、雪かきだ。
力仕事だが、我々はタダ飯喰らいの客人だ。
少しは働かないと示しがつかないだろう、頼んだぞ慶次!
え、私?書類仕事とかならちょっとは手伝えますよ?
あ、幸村はここ最近背丈も伸びて来たけどまだ線が細いからNGで。
まだ体ができてない内に肉つけちゃうと背丈が伸び切らなくなっちゃうからね、中学生で筋トレし過ぎちゃうと背伸びなくなるって話聞いたことあるでしょ?それよそれ。
私は従業員の体調や身体作りにもきちんと気を使う上司だからな、今川はブラック企業じゃ無いぞ!
「それと、お藤」
「はいっご隠居♡」
「お前、本当に息子のところでもちゃんと働いてる?」
最近呼んだらすぐ来るんだけど...
「勿論です!最近は御役目で長尾景虎殿への文を届けに行きました!」
「そうか...お藤、慶次のことを手伝ってやってくれ。」
「はい!」
ちょ、流石に怖いから遠ざけよう。なに、ハンゾーのことだから肉体労働にはならないだろう。
多分書類仕事かな?文字の読み書きができる人間はこの時代かなり珍しい部類に入る。
江戸時代上方になり寺子屋制度が本格的に全国に頒布されてからは一般庶民にも文字の読み書きが広まっていったが、この時代に文字の読み書きもっと言えば書類仕事ができる人間となると多いとはお世辞にも言えない。
そっちらへんをやらせるようにハンゾーに頼んでおこう。
さて、そうと決まればもう一度ハンゾーに会って話をしなければな。
速く言わなければ伝えるのを忘れてしまうかも知れん。
「少し休んだ後、また左京大夫殿と会う。2人とも休んでて良いぞ。」
「はっ、ご隠居様。こちら左京大夫殿から、東北の菓子らしいです。」
え、まじ?美味そう。
◇◇◇◇
あの爺が!!
見張りの使命を忘れてその辺にある木を蹴り倒してしまいたい衝動を抑えて若者はぐっと歯を食いしばる。
その目は紅く充血しており、何も知らない者が見れば反省して門兵の仕事に従事しているように見えるだろう。
彼は伊達左京大夫輝宗に仕える小姓である、先日伊達家嫡男である梵天丸が川に流されあわやという事態になった。
その事件の全責任を取らされたのが彼だ、と言うよりむしろ彼自身が全責任を負ったと言うこともあるのだが。
彼は非常に真面目で、勤勉だった。何事も卒なくこなし物腰も柔らかい。伊達左京大夫輝宗の小姓に選ばれる程の男なのだから当然なのだが、その中でも彼は一歩先んじていた。
故に、彼がこんな些細なミスを犯したことに重臣たちは頭を捻らせる。他の小姓に聞いても、彼に任せていたの一点張りで重要な言質は取れない。
そして伊達輝宗本人もその当時の光景を明確に見ていた訳では無いので思い出せないのだ。
そこで重臣たちは、伊達輝宗が狩りをしていてもう少しで獲物を取れそうなところまで来たタイミングで小姓たちも目を離した。
責任感からか彼は梵天丸をずっと見ていたが、獲物が捕れた一瞬だけ目を離してしまい梵天丸が川に流される。
責任を感じた彼が全責任を負い、罰を申し出た...
そんな風に解釈していた。
彼は誠実な男だ、そういうこともあるだろうと重臣たちは勝手に解釈していた。
そもそも梵天丸から目を離したのだって他の小姓も同じなのだ、故に重臣たちは責任を追及するべきでは無くむしろ罪の軽減を願う始末であった。
当然だ、他の小姓が言っていたことなぞ出鱈目に決まっている。
誰が「梵天丸様はいいから殿と近くにいて良いぞ」なんて言うものか、そんなものは自殺行為だ。もし1人で梵天丸を見ている時に何かあれば責任を取らねばならないのだ。重ければ切腹もあったかも知れない。そんなのはゴメンだ、それではまるで罰を受けたがっている様では無いか。
重臣たちの読みは外れていた、彼は評価を殆ど落とすことなく目的の2つのうち1つを達成していた。
1つ目は梵天丸、そして伊達輝宗の殺害だ、伊達家の嫡男と当主を殺害できるのは伊達家としてはかなりの損害だ。
伊達家は麻痺し身動きが取れなくなるだろう。
2つ目はこれから来る。
彼はとある国人領主の1人息子であった、恐らく史実であれば平凡な戦国時代を過ごしてとっとと豊臣秀吉に服従しただろう。
禄高も1万石にも満たないかも知れない、そんな国人領主の1人息子の家は伊達輝宗によって攻め滅ぼされ滅亡した。
父は降伏し切腹、母もそんな父の後を追い死ぬ。
1人残され天涯孤独となった少年とその家臣はそのまま伊達家に召し抱えられ、家再興の為に手柄をたてようと躍起になっている。
重臣からはそう思われていた、そんな悲劇の少年だからこそ皆からの受けも良いのだろう。
だが実態は違う、彼は本気で伊達家の滅亡を望んでいる。
梵天丸は川から落ちたのでは無い、川へと落とされたのだ。
犯人がわからないよう他のものを遠ざけ、自然な形で梵天丸を川に落とした時彼は殺したことを確信した。
この時期の川は極寒だ、それにまだ3歳程度の梵天丸は当然ながら泳げる訳も無い。
救助は間に合わない、そう確信した。
だが、その読みは外れることになる。
突如として反対側からもの凄い勢いで爺が泳いで現れて梵天丸を救ったのだ。
泳法も、爺もこの辺りではまるで見たことが無い人物だ。
そして聞けばその爺は今川輝宗だと言うでは無いか!
上方での信奉が厚いという噂は聞いていたが、もしや今回のことを知っていてそれを阻止したのか?
それは無いと言いたいところだがあながち否定もできない。
梵天丸を沈めた後、伊達輝宗を襲撃する筈だった野盗は全員謎の死を遂げていた。
全員撲殺されている、爪の痕跡や生物の毛跡などは無い。つまり熊などの仕業では無いという事だ。
まぁその辺りを考えていても仕方が無い事だ、今は2つ目の目的を果たそう。
門兵の仕事は多岐に渡る、城の内部に入ろうとする者は多い。
料理人、鍛治職人、登城して来る家臣の確認。
登城する者の顔と名前を出来るだけ覚えておき、怪しい者は捕える。
そんな仕事だった、そして今目の前にいる商人も見慣れた男の1人だ。
「おう!久しぶりだな、どこに行ってたんだ今まで。」
門兵は2人1組だ、もう1人のベテラン門兵が商人に話しかける。
「へへっ、ちょっと足を伸ばして越後まで行って来やしたがきな臭い雰囲気がしたんですぐ戻って来やした。」
「ほぅ、何かあんのかい?」
「例の一向一揆、もうすぐ長尾の殿様と坊主たちがぶつかり合うみてぇで...」
「そうか、大変だったな。まぁ城で稼いで来な。」
「ありがとうごぜぇやす!」
ペコリと頭を下げ、荷物を押し出す商人。
ベテラン門兵は気づかなかった、商人と彼がお互いの服に手紙を滑らせたことに。
彼は伊達家の情報を。
商人は本家からの情報を。
そう、彼と商人とある家の間者でもあった。彼らはお互いに情報を集めて彼は情報を渡し商人は報酬と指令を手渡す。
あの時、父と母が死んだ日。
彼は復讐を誓っていたのだ、伊達家と言うあまりに強大な敵を相手取る復讐劇を。
「成る程、そう言うことだったか。僕はお前を買ってたんだけどねぇ、残念残念。」
「なっーーーー!?」
彼から、空気の抜けたような声が聞こえた。
それは声に出したと言うより腹から勝手に出たといったものに等しい。
そこにいたのは伊達左京大夫輝宗本人だった、その隣には先日来た今川輝宗の供回りの男が控えている。
熊を思わせる男だ、返り血で若干汚れているもののその顔に野暮ったい暗さは無い。
その隣には、美しい女性と生首が取られている。
当然、先程手紙を交換した商人のものである。
馬鹿な!
彼はその叫びを強制的に抑え込む、商人も勿論とある家に仕える間者だ。その辺りの訓練は受けている。
商人に擬態するために隙だらけに見せてはいるがその実力は例え城の者に囲まれても脱出できるか敵わないまでも自殺できる実力を携えている。
それが、目の前でいつもの下卑た顔をして死んでいる。
これは、つまり反応すら出来ずに即死したことを意味している。
奇襲でも不可能である、相当の手練れなのであろう。
あり得ない、若者はそう言いたい気持ちを再度抑え込んだ。
「すまんね、じゃあーーやろうか?」
商人が死んだと言うことは、彼と商人の関係は看破されているのだろう。それは口調からも明らかだ。
「伊達左京大夫輝宗...お前を殺す!」
伊達家の小姓である彼は、ゆっくりと刀を抜いた。
客間に通されてしばらく、幸村と慶次の質問責めにあった。
適当に流すしかないんだけどね。
『前世って知ってる?私と左京大夫殿、いやハンゾーは前世で友達だったの。』
こんなこと言えるか、アホ。
心の中で、アホ顔下げてそんなことを言っている自分を想像して少し顔を顰める。
第一信用される筈が無い、なんだよそもそも前世っておかしいだろ。化け物扱いされるのが関の山だ。
仕方がなく、文通をしていたと適当に誤魔化した。
ポカンとした目で見られたけど、私の奇行はいつものことだから慣れられたのだろう。
数えで2年、幸村も慶次もすっかり私の奇行に慣れたようだ。
どちらかと言えば2人の対応も、上位者に対するものと言うよりもおとなしくしていれば有能だけど放っておくと何をするかわからない基地外野郎みたいな扱いになってる気がする。
いや、別に扱いが雑になったとかそういう訳じゃ無いんだけどね?
それに決して居心地が悪い訳でも無い、今川に留まって仕事ばかりしていたあの頃に比べれば雲泥の差ではある。
やだ、流石未来の英雄。有能過ぎない?
「冬の間は伊達殿に世話になる、その間は2人にも折を見て休みを与えるから好きなところに行ってて良いぞ。」
「ご隠居様はどうされるのですか?」
「私は左京大夫殿とこの辺りを見て回る、なにこの雪でどうせ遠出はできん。安心するがいい。」
「私もご一緒しとう御座います!」
え?なんで?
オッサン2人で遊びに行くだけだぞ。
幸村がそう言うと、慶次も同調したように頷く。
「私はいくらかお休みを頂きますが...まぁ慣れない土地で訳もわかりませんからねぇ。そもそも遊び場所あるんですかココ?」
そうか...こいつら、さては仕事中毒だな?
そう言われてみればこの2人には殆どと言って良いほど休みを与えていなかったような気がする。
大体今さらだが労働環境が1人の男の介護で従業員が2人で休み無しってどんなブラック企業だ? (混乱)
話が脱線しそうだから深くは考えないようにしよう。
さて、2人には仕事を与えねばならない。
だがまぁ、そこまで負担になるようなことは任せられないだろう。2人には前提として、私の護衛という任務がある。
いやまぁハンゾーの護衛がいるからついでに守ってもらおうかなとか思っているのだが、2人がこういうのだから2人ともついて来てもらおう。
その他に仕事...仕事か...
あ、良いこと思いついた。
「慶次、お主左京大夫殿に従い働いて来るが良い。」
「は、は?」
え?何それ?と言った風に慶次が返事を返す。
すまんな、慶次。
お前には雪かきをしてもらうぞ!
ハンゾーとさっき話をした際、ふと気になってこの時期の奥州の侍は何してんの?と聞いてみた。
すると書類仕事や年末の大掃除&お正月の準備、雪かきなんかをしているらしいという答えを得られた。
大掃除か。年末の大掃除ってなんで年末にするんだろうって思っていたのだが、もしかしたら武家が冬になると戦ができなくなって暇になるから掃除してた。
そんな理由もあったのでは無いかと思うと笑えて来る。
さて、雪かきだ。
力仕事だが、我々はタダ飯喰らいの客人だ。
少しは働かないと示しがつかないだろう、頼んだぞ慶次!
え、私?書類仕事とかならちょっとは手伝えますよ?
あ、幸村はここ最近背丈も伸びて来たけどまだ線が細いからNGで。
まだ体ができてない内に肉つけちゃうと背丈が伸び切らなくなっちゃうからね、中学生で筋トレし過ぎちゃうと背伸びなくなるって話聞いたことあるでしょ?それよそれ。
私は従業員の体調や身体作りにもきちんと気を使う上司だからな、今川はブラック企業じゃ無いぞ!
「それと、お藤」
「はいっご隠居♡」
「お前、本当に息子のところでもちゃんと働いてる?」
最近呼んだらすぐ来るんだけど...
「勿論です!最近は御役目で長尾景虎殿への文を届けに行きました!」
「そうか...お藤、慶次のことを手伝ってやってくれ。」
「はい!」
ちょ、流石に怖いから遠ざけよう。なに、ハンゾーのことだから肉体労働にはならないだろう。
多分書類仕事かな?文字の読み書きができる人間はこの時代かなり珍しい部類に入る。
江戸時代上方になり寺子屋制度が本格的に全国に頒布されてからは一般庶民にも文字の読み書きが広まっていったが、この時代に文字の読み書きもっと言えば書類仕事ができる人間となると多いとはお世辞にも言えない。
そっちらへんをやらせるようにハンゾーに頼んでおこう。
さて、そうと決まればもう一度ハンゾーに会って話をしなければな。
速く言わなければ伝えるのを忘れてしまうかも知れん。
「少し休んだ後、また左京大夫殿と会う。2人とも休んでて良いぞ。」
「はっ、ご隠居様。こちら左京大夫殿から、東北の菓子らしいです。」
え、まじ?美味そう。
◇◇◇◇
あの爺が!!
見張りの使命を忘れてその辺にある木を蹴り倒してしまいたい衝動を抑えて若者はぐっと歯を食いしばる。
その目は紅く充血しており、何も知らない者が見れば反省して門兵の仕事に従事しているように見えるだろう。
彼は伊達左京大夫輝宗に仕える小姓である、先日伊達家嫡男である梵天丸が川に流されあわやという事態になった。
その事件の全責任を取らされたのが彼だ、と言うよりむしろ彼自身が全責任を負ったと言うこともあるのだが。
彼は非常に真面目で、勤勉だった。何事も卒なくこなし物腰も柔らかい。伊達左京大夫輝宗の小姓に選ばれる程の男なのだから当然なのだが、その中でも彼は一歩先んじていた。
故に、彼がこんな些細なミスを犯したことに重臣たちは頭を捻らせる。他の小姓に聞いても、彼に任せていたの一点張りで重要な言質は取れない。
そして伊達輝宗本人もその当時の光景を明確に見ていた訳では無いので思い出せないのだ。
そこで重臣たちは、伊達輝宗が狩りをしていてもう少しで獲物を取れそうなところまで来たタイミングで小姓たちも目を離した。
責任感からか彼は梵天丸をずっと見ていたが、獲物が捕れた一瞬だけ目を離してしまい梵天丸が川に流される。
責任を感じた彼が全責任を負い、罰を申し出た...
そんな風に解釈していた。
彼は誠実な男だ、そういうこともあるだろうと重臣たちは勝手に解釈していた。
そもそも梵天丸から目を離したのだって他の小姓も同じなのだ、故に重臣たちは責任を追及するべきでは無くむしろ罪の軽減を願う始末であった。
当然だ、他の小姓が言っていたことなぞ出鱈目に決まっている。
誰が「梵天丸様はいいから殿と近くにいて良いぞ」なんて言うものか、そんなものは自殺行為だ。もし1人で梵天丸を見ている時に何かあれば責任を取らねばならないのだ。重ければ切腹もあったかも知れない。そんなのはゴメンだ、それではまるで罰を受けたがっている様では無いか。
重臣たちの読みは外れていた、彼は評価を殆ど落とすことなく目的の2つのうち1つを達成していた。
1つ目は梵天丸、そして伊達輝宗の殺害だ、伊達家の嫡男と当主を殺害できるのは伊達家としてはかなりの損害だ。
伊達家は麻痺し身動きが取れなくなるだろう。
2つ目はこれから来る。
彼はとある国人領主の1人息子であった、恐らく史実であれば平凡な戦国時代を過ごしてとっとと豊臣秀吉に服従しただろう。
禄高も1万石にも満たないかも知れない、そんな国人領主の1人息子の家は伊達輝宗によって攻め滅ぼされ滅亡した。
父は降伏し切腹、母もそんな父の後を追い死ぬ。
1人残され天涯孤独となった少年とその家臣はそのまま伊達家に召し抱えられ、家再興の為に手柄をたてようと躍起になっている。
重臣からはそう思われていた、そんな悲劇の少年だからこそ皆からの受けも良いのだろう。
だが実態は違う、彼は本気で伊達家の滅亡を望んでいる。
梵天丸は川から落ちたのでは無い、川へと落とされたのだ。
犯人がわからないよう他のものを遠ざけ、自然な形で梵天丸を川に落とした時彼は殺したことを確信した。
この時期の川は極寒だ、それにまだ3歳程度の梵天丸は当然ながら泳げる訳も無い。
救助は間に合わない、そう確信した。
だが、その読みは外れることになる。
突如として反対側からもの凄い勢いで爺が泳いで現れて梵天丸を救ったのだ。
泳法も、爺もこの辺りではまるで見たことが無い人物だ。
そして聞けばその爺は今川輝宗だと言うでは無いか!
上方での信奉が厚いという噂は聞いていたが、もしや今回のことを知っていてそれを阻止したのか?
それは無いと言いたいところだがあながち否定もできない。
梵天丸を沈めた後、伊達輝宗を襲撃する筈だった野盗は全員謎の死を遂げていた。
全員撲殺されている、爪の痕跡や生物の毛跡などは無い。つまり熊などの仕業では無いという事だ。
まぁその辺りを考えていても仕方が無い事だ、今は2つ目の目的を果たそう。
門兵の仕事は多岐に渡る、城の内部に入ろうとする者は多い。
料理人、鍛治職人、登城して来る家臣の確認。
登城する者の顔と名前を出来るだけ覚えておき、怪しい者は捕える。
そんな仕事だった、そして今目の前にいる商人も見慣れた男の1人だ。
「おう!久しぶりだな、どこに行ってたんだ今まで。」
門兵は2人1組だ、もう1人のベテラン門兵が商人に話しかける。
「へへっ、ちょっと足を伸ばして越後まで行って来やしたがきな臭い雰囲気がしたんですぐ戻って来やした。」
「ほぅ、何かあんのかい?」
「例の一向一揆、もうすぐ長尾の殿様と坊主たちがぶつかり合うみてぇで...」
「そうか、大変だったな。まぁ城で稼いで来な。」
「ありがとうごぜぇやす!」
ペコリと頭を下げ、荷物を押し出す商人。
ベテラン門兵は気づかなかった、商人と彼がお互いの服に手紙を滑らせたことに。
彼は伊達家の情報を。
商人は本家からの情報を。
そう、彼と商人とある家の間者でもあった。彼らはお互いに情報を集めて彼は情報を渡し商人は報酬と指令を手渡す。
あの時、父と母が死んだ日。
彼は復讐を誓っていたのだ、伊達家と言うあまりに強大な敵を相手取る復讐劇を。
「成る程、そう言うことだったか。僕はお前を買ってたんだけどねぇ、残念残念。」
「なっーーーー!?」
彼から、空気の抜けたような声が聞こえた。
それは声に出したと言うより腹から勝手に出たといったものに等しい。
そこにいたのは伊達左京大夫輝宗本人だった、その隣には先日来た今川輝宗の供回りの男が控えている。
熊を思わせる男だ、返り血で若干汚れているもののその顔に野暮ったい暗さは無い。
その隣には、美しい女性と生首が取られている。
当然、先程手紙を交換した商人のものである。
馬鹿な!
彼はその叫びを強制的に抑え込む、商人も勿論とある家に仕える間者だ。その辺りの訓練は受けている。
商人に擬態するために隙だらけに見せてはいるがその実力は例え城の者に囲まれても脱出できるか敵わないまでも自殺できる実力を携えている。
それが、目の前でいつもの下卑た顔をして死んでいる。
これは、つまり反応すら出来ずに即死したことを意味している。
奇襲でも不可能である、相当の手練れなのであろう。
あり得ない、若者はそう言いたい気持ちを再度抑え込んだ。
「すまんね、じゃあーーやろうか?」
商人が死んだと言うことは、彼と商人の関係は看破されているのだろう。それは口調からも明らかだ。
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