戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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越後動乱編

話が通じない

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「久しいな、輝宗殿。」

 「誠に、いつぶりになりますかね。」

 「さて、いつか。我が身ももう老境に至ろうとしている、忘れてしまっても無理はあるまい。」

 目の前でガンダ〇みたいな硬質感のある男が笑っている、上杉謙信。軍神だ。

  左右には上杉の家臣が並んでいる、ここは春日山城。上杉謙信を代表する城である。

 そんな城の一室に我々は通されていた、私の後ろには幸村と慶次がいつものように控えている。

 2人とも、まるで自らの着ている衣服が頼りなさそうに震えていた。

 ハンゾーのところで慣れただろうけど、目の前にいるのは戦の神様と巷で評されているような人物だ。緊張するなと言う方が無理か。

 「この度は私の願いを聞いて頂き感謝する。」

 そう言うと、謙信は会釈するように頭を下げる。

 「気にする程のことでも無い、隠居の気ままな旅です。少しぐらい寄り道してもバチは当たらないでしょう。」

 「誠に。それにしても隠居か、輝宗殿が隠居されたと聞いた時は時代の流れを感じたものだ。義元殿がお亡くなりになられた時も思ったことではあるがな。」

 「後事に後を託して今は気ままな旅です、奥州の冬の厳しさを経験したことは忘れませなんだ。」

 「ふふ、気ままな旅か。翻意を持っていた松平家を潰し村を救い、上方と関係の薄かった伊達家との結びつきをより強固なものにする隠居など聞いたことが無い。まるで一流の取次外交官のようなものでは無いか。」

 怪しい笑みで謙信はこちらを見てくる。

 いや、知らんわ。

 村を救ったのはフロイスだ、にも関わらず世間は私を持ち上げておりフロイスやキリスト教にはあまり触れられて無い。本願寺顕如とかが何か手回ししているのかな?まぁそこは構わないのだが。

 伊達家との結びつき云々についてはまぁ確かにそうではあるのだが、元々仲が良かっただけで特別なことは何もしていない。

 松平家を取り潰したってなんでそうなるんだよ...

 「買い被りですよ、左京大夫殿とは昔からの知己でしてね。村を救ったのも知り合いの宣教師に頼んでのこと、私は何もしておりませなんだ。」

 「フ、それだけの人脈を持つという時点で凡庸とは程遠いのだがな。まぁいい。」

 そう言うと、謙信は興味を失ったように首を振り、近くに控えていた小姓に地図を持って来させた。

 私の目の前に大きな地図が広げられる、越後の地図か。

 「本題に入るとしよう、大きく2方向に分かれて一揆勢の近くまで侵攻する。数は4万」

 「多いですな。」

 「それだけ本気と言うことだ、一隊は私が率いる。もう一隊の客将として輝宗殿にはついて行って欲しい。」

 「承知した、ところで」

  「輝宗殿には補佐として鬼小島弥太郎と柿崎影家をつける、数は1万だ。」

 ん?

 1万か、上杉謙信本人なのだから多くの手勢を率いるのは当然か。

 いやいや、言いたいことは違う!

 私は一揆勢と講和をして欲しいんだ、戦争は嫌いだしね。

 「承知した、ところで」

 「こちらは宇佐美定満、斎藤朝信、色部勝長、北条高広を大将に3万の軍勢で進行する。」

 んん?

 おかしいな。

 「はっ!」

 左右に広がる家臣たちの大声が響き渡る、まるで示し合わされたかのような号令は上杉勢の結束を表すかのように美しいものだった。

 じゃなくて!

  「あのー」

 「これより進軍を開始する!長年我々を苦しみ続けて来た奴らを許すわけにはいかん!一揆勢を根絶やしにするまで戦いは終わらぬと知れ!」

 「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 上杉の家臣たちの叫び声が聞こえる、私は居場所を無くしたように頼りなさげに頭を下げることしかできなかった。

 口を挟む暇も無いとはこのことで、私に遠慮することなく軍議は進んで行く。

 私は、もしかしたらこの一揆を甘く見過ぎでいたのかも知れない。

 この一揆の歴史は長い、当然中には自らの親や兄弟を殺されたものもいるのだろう。

 武士とはそういうもの、割り切ってはいるだろうがそれでも心の整理がつかないものもいるに違いない。彼らにとって宗教とは、奴らはかたきなのだ。

 その恨みは唐突に来た者が話し合いで解決しようなどとのたまった程度で止まるようなものでは無い。

 「危うい」

 ただ一言だけ、誰にも聞こえぬようなか細い声で私はこの戦争の行く末を憂いていた。



 ◇◇◇◇



 「だからぁ~上杉方と和睦するから、戦争おしまいっ!以上!」

 「そんな急に!」

 「これから我々はどうすれば良いのですか。」

 「領民が酷い目に合わないと良いのですが...」
 
 私の名前は望月叶、転生者だ。

 とある火事にて命を失った私は、この戦国時代にとある武家のお姫様として生を受けることになった。ちなみに、私の家は既に滅亡しておりお姫様と言うには頼りないのだが皆からはそう呼ばれている。

 まぁ皆には千代様って呼ばせてるけど、実年齢3、40代なのに姫呼びは少し辛いわ....

 そして、この世は女が1人で生きて行けるほど甘くは無い。そこで私がツテを頼ってたどり着いたのがこのクソ坊主たちが中心となって成立している一揆だ、長年この地で暴れて来たこいつらは民衆を味方につけ資材は潤っており私が物を作るのには最適な土地だったからだ。

 もう直ぐ春になる、戦争が喉元まで迫り戦意が高まっているこの時に首領同然の私が講和なんて言い始めたのだから坊主たちはそりゃあ驚くだろう。

 「お待ち下さい千代様、講和と言うことは我々が上杉の下に降るということでしょうか?」

 「上杉が私たちの下に降るなんてあると思う?」

 「それでは反対です、我々は民衆の為にこの地で戦って来ました。その先人たちの努力を無にしてまで降ることはできません。」

 そうだ、と言う声をあげ後ろにいる若い奴らが同調する。後ろではオタオタと本多正信が狼狽えていた。

 まぁ、そりゃ当然反対だわな。

 こいつら坊主は、この土地で一見すると都の貴族と同じような特権階級的地位を確立している。現代感覚ではめちゃくちゃ贅沢をしていると言う訳では無いのだが、それでも好き放題やれているというのは大きいだろう。

 上杉に降った後は凄惨なのだろう。元々の、ただの坊主に戻って寺で経を唱える生活に戻るのだから。

 戻れば良いのに、彼らのことを見ると滑稽で口から笑みが溢れるのを止められそうに無い。

 「民衆のー」

 「天下のー」

 「御仏のー」

 口では大層なことを考えておきながらその実自らの利権しか考えていないこいつらが、何故このようなを話しているかと言えば、私のような子供を説得するのにはそれが丁度良いからなのだ。

 あーだるい。

 交渉とか私やっぱり向いてないわ、全員爆破してしまっても構わないかな?

 でもどうせ一揆の責任を取って何人かは死んでもらうつもりだから、あまり殺しすぎるのもなぁ。

 「皆の言う通りだ、ここは戦うしかあるまい。」

 「杉浦玄任すぎうらげんにん様!」

  そんな軍議の場に現れたのは、1人の鎧姿の男だった。

 禿げ上がった頭が、仏に仕える者であることを確信させる。だがその面構えは僧侶特有の穏やかな顔には程遠い、禿げ上がった鬼。それが私の見るこの男の印象だ。

  杉浦玄任、本願寺の坊官であり一揆軍の戦争面での指揮を執る男である。

 要するに今一番来られると困る人物だ。

  「戦況は確かに厳しい...だが我々には御仏の遣わされた力を持つ千代様がおられる!毘沙門天に宝棒(仏敵を打ち据える護法の棍棒)があるならば、我らに千代様の武器はあり!」

 こりゃ無理だ。

 あーあ、ハンゾーとかいればな~なんとかなったんだけどなぁ。

 ごめん桃ちゃん、説得無理だわ~これ。

 皆の支持を得られてご満悦なのか、杉浦玄任はずかずかと無遠慮に近づいて来る。

 そして、汚いオヤジ特有の下卑た笑みを見せながら話しかけて来た。

 「千代様、不安に思う気持ちはわかりまするが、ご安心召されよ。正義と、御仏の加護は我らにあります。千代様の作る武器にて必ずや勝利を。」

 狂信者が。

 そう言いたいのは山々だがここでの立場が悪くなるのは避けたい、武のトップの象徴が衝突するなどエネルギーの無駄遣いだ。

  これは、一回負けなきゃ収まらないかなぁ...

 そう思いながらも、私はこの戦国時代に生み出してしまった数々の最新兵器バランスブレイカー達を思い出してため息をつく。

 あれ使っちゃうとウチに負け無いんだよなぁ....

 今だけは、自分の才能が恨めしい。

 まぁ、桃ちゃんならなんとかしてくれるでしょう!











 かくして、2人の転生者の思いとは裏腹に戦は始まろうとしていた。

 この世界において、起きていない戦はそれこそ星の数ほど存在する。桶狭間の戦い、長篠の戦い、徳川が滅んだことにより関ヶ原の戦いも起きようが無いだろう。

 そんな中でこの戦いが、日本史に名を残す大きな戦いになることに気づいていたのは、奥州にいるハンゾーのみであった。
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