戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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越後動乱編

孫子は読みました

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馬は良い、この時代の鞍と言うものは椅子に比べれば遥かに固く難儀こそするものの、まぁもう慣れた。

 なにせ、歩く必要が無い。

 慣れた今とあっては硬くて揺れる椅子のようなものだ。

 あ~良い散歩日和だなぁ、軍勢を引き連れて無いのならね...

 落ち込むわ、1万の軍勢を引き連れてるなんてな。千代怒るだろうなぁ...

 戦が始まる、慶次も幸村も鎧姿だ。私もお藤から全身鎧をと言われているが、私は平服でいいと断った。

 そしたら次の日にお藤は消えていた、愛想を尽かされたかな?

 ちなみに、私が乗っている老馬にも美しい馬鎧がつけられている。若くて元気な馬ならいざ知らず、ウチの老馬にはちと重いだろう。

 申し訳無いな、だが本人は嬉しそうだしまぁ良いか。

 1万の大軍は、鬼小島弥太郎殿が先陣、柿崎殿が後陣を纏めてくれている為私は丁度軍の真ん中辺りを進んでいた。

 行軍とは言え平和なものだ、ここから地獄に挑むとなれば少しピンと来ない気もするな。

 これこそが雑兵視点の戦と言うものなのだろうな、戦が始まるまではその気配すら無く、いつの間にか戦場へと向かわされ、敵の具体的な兵数もわからずに遮二無二突撃をかけて死んでいく。

 大将がこんな調子では心配だろうな、お藤に頼んで敵の情報をもっと集めて置かなくては・・・・。

 てか、お藤はそもそも息子に預けてあるんだよ。それをあまりこき使うのは今更ながらどうなんだろうかっていう話になるんだよなぁ。

 今川から何人か忍びを紹介してもらうか?まぁこれは要相談だ。

 いないのだから話のしようも無いしね。

 「慶次、軍の様子はどうだ?」

 「ご隠居様の指示通り進んでおります、ご安心下さい。」

  慶次は、先日の一件からか上機嫌だ。無理も無いだろう、私の内心を見抜けたと思っているのだからな。

 残念だったな慶次、貴様が深読みした全ての策は実は私は何も考えて無かったのだ、わはは (意味不明)

 「ご隠居様、この先はどうなさるのですか?」

 変化があったのは幸村も同じだ、今までは遠慮して最低限のことしかして来なかった質問がバンバン飛んで来る。

 質問は慶次に7、私に3ぐらいだな。本当に大事なことしか質問はして来ていないようだ。

 答えられる気は全くしないけど、もっと来ても良いのよ?

 そう意気込んだが、これの答えは普通だ。

 お藤から貰った地図を広げ、この先の進軍ルートを見る。

 もうルートから外れないようにしないと...

 「ここを真っ直ぐ言って山下を通る道だな。気候は悪く無いが、念のために土砂崩れや落石に注意するようにな。」

 「はっ!」

 「はっ!」

 ん、なんで慶次も返事するの?

 慶次はルート知ってるだろうに...



 ◇◇◇◇



 「殿!どうかお考え直しを!」

 「左様、輝宗様の手腕は人づてに聞いてはおりますがそれにしても1隊をお預けになるなど当家の恥にございます!」

 「もう決まったことだ、影家、弥太郎。弁えよ。」

 「なれど!」

 上杉謙信、言わずとしれた軍神を前にしても一歩も引くこと無く意見を述べる2人は鬼小島弥太郎、柿崎影家。

 共に今川輝宗につき大将として采配を任された者たちだ。

 本来ならばこの1万の軍勢を柿崎影家、副将として鬼小島弥太郎が付く筈だった。

 だが今彼らは輝宗の補佐に甘んじている。

 別に、彼らとて今川輝宗に采配で勝てるとかそう言ったことを夢見ているのでは無い。単に他家から来た者に采配を任せることに不安を覚えたと言うだけの話だ。

 「輝宗殿の采配は私も知っておる、不服か?」

 「そ、それは。」

 「殿、客将としての参加ではいけないのですか?兵の士気を上げる為のお飾り、それではならない理由があったと言うのですか?」

  弥太郎が言い澱む、軍神が認めた男。それは上杉の家臣の誰もが与えられていない称号だ。

 自分と同等、もしくは上と認めた好敵手あいてしか褒めない謙信にとってそれはこの戦国において最強かそれに近いということを意味する。

 だが影家は引き下がらない、ここで引き下がる程度の覚悟なら最初から謙信の不興を買う危険性リスクを犯してまで意見などしないのだ。

 「勘だ。」

 そんな影家の進言を、謙信はばっさりと切り捨てた。

 「あの男に軍の全権を渡さねばこの戦は負ける、そんな気がしたのよ。」

 なれど、そう言い募る影家の前に謙信は一枚の書状を置いた。

 「殿、これは?」

 「読んで見よ。」

それは、上杉に仕える軒猿、つまりは忍びの報告書であった。

 これには、たまたま一揆軍の首魁である千代を見つけた忍びが、輝宗と千代が会談をしているのを見つけたと書いてある。

 軒猿はそれを見て輝宗が敵に通じているのかと身構えたが、そのようなことは無いと文で断言していた。

  輝宗と千代の会談後、領地に戻った千代は戦争推進派から急に講和に舵を切り一揆軍は2つに別れている。

 輝宗が何かをしたのは火を見るより明らかだった、軒猿は、輝宗が謙信の勝利の為に動いていると確信したのだ。

 「二虎競食の計...だが、そんな馬鹿な!?殿が輝宗殿に文を書いたのは前年の暮れ!この短期間でそんな策を用いることができるとは到底思えませぬ!」

 「私が文を書く前に準備していたとすればどうだ?」

 「そんな馬鹿な...」

 「いや、もしやから戯れに準備していたのかものぅ。」

 弥太郎は最早口をぱくぱくとさせるだけで何も言わない。

『二虎競食の計』

 三国志時代において荀彧じゃんいく (王佐の才と呼ばれた三国志時代トップクラスの軍師、曹操の下で様々な策をたてた。)が用いた策である、二匹の飢えた虎の間にエサを投げ与えれば、二匹はエサを奪い合って争う。一匹は倒れ、勝った一匹も満身傷だらけになれば、二匹をしとめるのも容易くなるという作戦だ。

 一揆軍の虎は当然千代と杉浦玄任だ。

 しかも荀彧はこの策を失敗している。

 「フフフ、輝宗殿は古の荀彧をも超えるか。この報告を受けて私はあの男に軍を託したのよ。隠居は怖いのぅ、あの男のような切れ者は特にな。」

 「偶然と言うことは...ある筈もありませぬな、一揆軍の千代は未だ子供にございます。輝宗様と知己な筈も無く輝宗様より連絡をとったと考える方が自然です。」

 そう考えながらも、影家は軍議が終わった後の輝宗の形相を思い出していた。

 意気揚々と一揆軍を血祭りに上げることしか考えていない浅はかな我々とは異なり、輝宗の表情はどこまでも怒りと冷たさに溢れていた。

 あれが、百戦錬磨の戦人の顔か。

 ぶるりと、悪寒が走る。

 あの顔を見た上杉勢で気負されなかった者がどれだけいるのだろうか。

 恐らく...いないのでは無いか?

 もう一度、影家は体を震わせた。

 この震えは恐怖の震えでは無い、歓喜だ。あの方がどのような采配を振るうのか楽しみで仕方がない、そんな震えだ。

 謙信はそんな影家を見つめながら、一体どれだけの共感者シンパを作るつもりかとほくそ笑んでいた。

  あの人たらしめ、そう心の中で嫌味を言いながらも自分もその1人であることに笑みが止まないのもまた事実なのだ。
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