戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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越後動乱編

息を潜めてやり過ごそう

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「影家、弥太郎はどうした?」

 「殿、弥太郎は控えるよう命じております。あの状態ではまともに軍議を行うことはできますまい。」

 「手酷く叱ったらしいな。」

 「上杉の為、嫌われるぐらいの覚悟はしております。」

 ぺこりと目の前に座る影家殿が頭を下げる、軍議のピリついた感覚が家臣全体に広がっていた。それと同時に、上杉方の面々の鎧姿が目に入る。

 あ、「愛」の字の鎧武者みーっけ。

 あれが直江兼続か、まぁまだ直江景綱の息子として下働きをする若造でしか無い。父の後ろで、私と眼が合った瞬間顔を伏せた。

 精悍な顔立ちの若者だ、歳は幸村より少し下ぐらいだが、負けん気の強そうな顔をしている。

 見ていて安心できる顔だ。卑しい人間特有のあれだ、嫌な感じがしないよな。

 それは若い者にあることが多い、その殆どが私の虚構の英雄像にある嫉妬心というものなのだが。

 ちなみに壮年になっていくにつれそういうものは薄れていくか、殆どは隠すのが上手くなる。

 まぁ、ともかく直江兼続にはそういう感じがしない。一本気なのはこの頃からか、苦労しそうだな。

 「輝宗様、うちの倅を見ているようでしたが何か粗相でも?」

 「いや、良い気を放っていたものでつい目で追ってしもうた。すまぬな、兼続殿。」

 「ウチの息子の名まで知って下さっているとは、光栄です。」

 「直江兼続と申します!この戦場が初陣ですが、必ずや手柄を立ててみせます!」

 「兼続殿、畏る必要など無い。ただの隠居だ、だが1つだけ助言をさせて貰っても良いかな?」

 13、4の少年が輝くような笑顔でこちらを見てくる。別に必勝法を授ける訳では無いんだがな。

 「お願いします!」

 「では...『初陣は生き残れば大手柄』これを忘れぬよう。」

 そう言うと、兼続の顔が驚いたように固まった。

 すぐに顔を固く戻し、畏って謝罪する。

 「も、申し訳ありませぬ。父と同じことを言ったので少し驚きました。」

 「景綱殿は歴戦の猛者、それ程の方に助言頂いているとあれば私の出る幕は無かったかな?」

 「いいえ、ご助言感謝いたします。」

 「私からも礼を言わせて頂きたい、倅は優秀だがやや血気に逸るところがありましてな。」

 若武者が血気に逸り死ぬ、戦のあまりにありふれたパターンだ。

 戦場の命の価値は皆同じだ、雑兵も大将も関係無い。

 運の強い者、実力の強い者が生き、弱い者は死んでいく。

 「兼続殿、敵にあったらまず己の身を、そして次に部下の身を守りなされ。それが良き大将になる第一歩ですぞ。」

 「ありがとうございます。輝宗様のお言葉、この身に刻みつけます。」

 景綱殿も、謙信殿も皆ニコニコしている。

 幾らか緊張は解けたようだな。

 「そろそろ軍議を再開しても良いかな?」

 「これは失礼した。」

 「いや、我が家臣への助言に感謝申し上げる。」

 「なんの、未来の天下を支える若武者の成長の一如となれたなら隠居冥利に尽きるというものです。」

 こうして、軍議は始まった。

 とはいえ1つだけ言わせて、私上座過ぎない?

 謙信殿が真ん中にいるのは当たり前として、私がその隣なんだけど。

 戦国時代における上座、下座というものは結構大事なものだ。

 当主が中央に座り、その両隣を信頼できる重臣もしくは跡継ぎが占める。私は客人だから優遇されるとは思ってたけど、家臣の視線が痛いよ。

 「輝宗殿の策...漏洩を防ぐ為とは言え、弥太郎は若い。少しは助言が欲しかったところではあったな。」

 「申し訳無い。」

 「謝る必要は無い、それだけ上杉の将を高く評価して下さっているということだ。だが下がってしまったかな?」

 「いいえ、弥太郎殿には先陣を任せようと思っております。」

 「成る程、相手の出方を伺う役回りを...厳しいな輝宗殿は。」

 いや、それぐらい任せないといかんやろこれ。

 本当なら弥太郎殿に任せるのは不安だよ、本当なら光秀に全軍の指揮を任せて私は軍配片手に座ってたい。

 慶次や左近、幸村を程々に戦に入れて手柄を立てさせ、我らの活躍はそこで終わり。

 それが現状の理想ムーブの筈だ、ただえさえ今のところやらかしまくっているのだ。

 ここから先は息を潜めてやり過ごそう。

 「そろそろ軍議に入りましょう、戦場の様子はお分かりになりましたか?」

 その為にも、早く軍議を終わらせなければ。

 索敵を行なっていたと報告を受けた大将が、私が意見を促すと急に背筋を正して答える。

 「はっ!この決戦の地であるこの平野が霧に包まれているのはご存知でしょうか?」

 「無論だ。」

 え、知らんけど。

 なんか霧深いな~とかしか思ってなかったけど?

 「失礼しました、敵の様子ですが物見に調べさせたところ敵兵と見られる一揆の者たちを何度か発見しました。一揆勢がこの先に陣を構えているのは間違い無いようです。」

  物見と言うのは、戦場において敵の様子を偵察する役回りのことだ。

 「で、敵陣中の様子は?」

 謙信殿がそう言うと、説明をしていた将は残念そうに答えた。

 「そこまでを命じた者は戻って来ませなんだ、申し訳ありません。」

 「成る程、うちの軒猿も同じようなことを言うておる。輝宗殿はどうか、何か掴んであるのでは無いか?」

 いや、知らんよ?

 お藤にも調べさせて無い、霧の中いかせたら何があるかわからんしな。

 「残念ながら、この場で言えるようなことは何もありませぬ。」

 そう言うと、謙信殿は興味を無くしたように前を向いた。

 「そうか、ならば仕方ないな。敵兵に動く気は無いと私は見ている、こちらから出向くしかあるまいよ。輝宗殿、右方からの攻め手を頼まぬか?やり方はお任せしよう。」

 「承知した。謙信殿、武運を祈りますぞ。」

 「貴殿もな。」

 こうして、明日敵兵がいると推測される場所に攻めることが決定した。

 後に『不帰ノ嶮かえらずのけんの戦い』と呼ばれる戦いが始まろうとしていた。















 「弥太郎様!輝宗様より攻め方の指示がありますのでお話します!」

 「なんだ!手短に言え!」

 「・・・・・・」








 「な、な、なんじゃそりゃあああああああああああ!?」
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