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嫁探し編
私は縄も解けんのか?
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「う、む?」
あ、目を覚ましやがった。
体力が尽き、暇を持て余していた今川輝宗は、気絶していた服部半蔵を拾い上げ介抱しようと試みていた。
とは言え、なんかツタやら色々と絡まっていて手が出せない状態ではあったが。
「きっ貴様!一体何をしている!」
「いや、ツタが絡まってるから解こうとしてるんだけど?」
「なのになんで逆に締めてるんだ!逆回しにしろ!」
ん?あれおかしいな、こうか?
「いだだだだ!貴様ぁ!」
おかしいなー
半蔵の言う通りやってるんだけどな。
「す、すまん。こうかな?」
「貴様ぁぁぁぁいだだだだ!」
駄目だ、やればやるほどキツく半蔵を締め上げてしまう。
私は縄を解く才能も無いようだ、知らんけど。
「クッ今川輝宗ェェ!私が越後から主君の元へ戻る際足を滑らせて崖から落ちてしまったのも貴様の策略だったのだな!」
わかりやすい説明ありがとう。
「そんなわけ無いだろ、落ち着け。」
てか、君忍者だろ。縄抜けとかできんの?
「この状況では無理だ、ツタが縦横無尽に絡まっている状態だからな。あ、貴様刀を持って無いのか?」
「すまん、家臣にあげちゃった」
「き、貴様の刀と言えば妖刀『村正』だろう!天下に2つと無い名刀を家臣にやっただと?」
「うん。」
結局殆ど使わなかったし...
「ま、まぁ良い。脇差は無いのか?」
脇差と言うのは、主兵装である刀とは別にある予備の武器のことである。
侍なら必需品の物だ、当然私も持っている。
「あるけど、手を滑らせてお前を斬る可能性があるぞ?」
「もう何も言わん...」
あらら、半蔵くんしょんぼりしちゃったよ。
でもしょうがないんだよなぁ...
「じゃあ、せめてこうしてあげるよ」
「ん、何をする」
私は、半蔵を持ち上げて立たせてあげる。
どうやら足は少しだけ動かせるようで、足を小さくぴょこぴょこと動かせば動けるようだ。
あの服部半蔵が...足をぴょこぴょこ...
「ブフォ!」
「笑うな貴様ぁ!もう知らん、必ず殺してくれるからな、さらばだ!」
そう言うと、半蔵は怒ってその場を立ち去ろうとする。
「まぁまぁ、そんなことを言わずに慶次たちが助けに来るのを待とうよ。そしたらツタも解けると思うよ?」
「そんな悠長なことを言って...何故ついてくるのだ!?」
「暇だから」
「暇だからなど...貴様のその気まぐれが大殿を殺したと言うのか。」
ツタに絡まれたままではあったが、半蔵の言葉には殺気が含まれていた。
いや、絶対私のせいじゃ無い。
松平元康が切腹没落したのは、自らの不正のせいだ。
具体的に言えば今川への報告不備、不正により私腹を肥やしていたのがバレたのだな。
それは罰されるのは仕方が無いだろう、私のせいじゃないしそんなことを私のせいにされても困る。
「しらばっくれるな!大殿の内部を細やかに調べたのは貴様の乱破の仕業だろう、その程度も調べられんと侮るか!」
「え~」
「え~じゃないわぁ!」
唾を飛ばすな、汚いから。
そうか、お藤そんなこともやってたのか。
特に命令してないけど、まぁそれなら松平元康を貶めたのは私の責任なのだろう。
「なら、その借りは返さないとな。護衛ぐらいなら引き受けるぞ。」
「フッ、それは数奇な事だ。いずれ殺す相手に護衛をしてもらうとはな!」
それにしても半蔵、適応能力高いな。
まぁ主君がアレだからな...慣れが速いのだろう。
半蔵は道もわからないだろうにズンズンと前に進んでいく、足をぴょこぴょこさせているだけなのだが妙に可愛らしい。
また吹き出しそうになり、私は口元を抑える。
や、やばい。吹き出そう。
面白いことがあると悪いことがある、輝宗が人を笑うのをやめようと決意したのはこれから直ぐのことである。
「なぁ、輝宗。」
「ん、なんだ?」
「お前、狼ぐらいは倒せるな?」
「へ?」
気づけば、目の前には大きな狼たちがいた。
茶色の美しい毛並みとギラギラと光る目、下手をすれば馬の半分ぐらいあるその巨躯は爪を立て明らかにこちらを狙っている事が理解できる。
あれ知ってる、ニホンオオカミだ。
無論、脇差しか無い私に倒せるような相手では無い!
・・・・もう人を笑ったりするのはやめよう、お天道様は見ている。
「逃げるぞ!」
「は?ちょま待てええええええええ!!!」
走れ!走れ!
深い木々の間をすり抜けるようにして走る、傾斜があるので殆ど滑り落ちるような格好で私は走って行く。
風を切るような感覚、馬なら気軽に味わえるが自分でやるとしんどすぎる!
などと思ってる暇も無しよな!
「輝宗、遅いぞ!」
お前、その状態で私より速いの!?
足をぴょこぴょこさせながら半蔵は走っている、流石は服部半蔵だな。
私もそれなりに速いが、半蔵の方が遥かに速い。
なんでだ、爺だからか!?
「もしや、それが本気か?まぁ一般人よりは速いか。後ろを振り返るな!」
後ろを振り返る余裕など初めから無い、後ろではガサガサという死の足音が迫ってきている。
『ニホンオオカミ』
20世紀初頭に絶滅したとされている日本の狼だ、2~3から10頭程度の群れで行動した。
主にニホンジカを獲物としていたが、人里に出現し、犬や馬を襲うこともあったらしい。
おかしいな、ニホンオオカミと言えば中型犬ぐらいのイメージだったんだけどな。
めちゃくちゃデカイぞ本当、どーなってるんだマジで!
「先に行くぞ」
「待ってええええええ」
「情けない声を出すな、貴様本当に俺の仇か!?」
「一応、これでも、全力ッだ!」
走る、地面を蹴るなんて感覚は本当に久しぶりだ。
こんな気持ちを味わったのは、いつ以来だろうか。
馬に乗って、偉くなって、偉い人のふりをして...
うん、何も変わって無い、無い筈だ。
だけどうん、こんなことをしたのはーーーー
『輝宗様?何故そんなに本ばかり読んでおられるのですか!』
『君か...私はね、ここにいることが仕事なのだよ。』
『城主とは、そういうものではありませぬ!城主とは、民衆を見て、土地を知り、国を守るものです!』
『素晴らしい、実に模範的だ。それが正解とは言わないが、それを正解と言えない世界は寂しいものだな』
『皮肉を...!』
『まぁまぁ、どちらにせよ私はこの片田舎の城で本を読んで過ごすのがお似合いさ。それよりどうだい、そこまで言うなら気晴らしに遠乗りに出かけようじゃ無いか。』
「竹千代くんと、遠乗りに出かけた時ぐらいかな?お忍びで行かなきゃだから馬を出すわけにもいかない。走ったなぁ。」
竹千代とは、松平元康の幼名である。
「貴様が!大殿の名を口に出すな!」
「半蔵、私は三河守の末路を本当に知らない。だがその結末は彼自身が呼んだものだ。」
「それでもだ!!」
半蔵は、叫んでいた。その異様に私はおし黙る。
その言葉を、受け入れねばならない。受け止めねばならない。
そう感じたから。
「何故なのだ!大殿が何をしたと言うのだ!」
「不正を行い、主家を騙し、民を苦しめただろう?...ハァッその罪は重い!」
「どこもやっていることだ!」
「君は、空腹で死にかけた子供を誰も助けないからと言って助けないのか?誰もがやっているからとのたまい自らも下に落ちるなど言語道断!」
「主家だと、貴様らはいつも偉そうに!殿の何が分かると言うのだ!」
「何も知らない、知りようも無い。私が知るのは会って話をしたあの子の姿だけでね。」
松平元康、否徳川家康と呼ばれるべきであった男。
彼は間違いなく英雄だった、誰よりも弱いということを知っていた。弱者は虐げられ、苦しめられることを誰よりも知っていた。
幼い頃から人質に取られ、その生涯はこの世界では不遇なものとして終わっただろう。
だが、それも1つの結末だ。
「それでも...それでもそれでも...弱くても良い、苦しくても良いのだ!!私は確かに、あの方との明日を見た。」
「半蔵」
「ここにいる私は脱け殻だ、主君を護れず、誰も望まない復讐を1人で請け負いここにいる。せめて最期の命ぐらいは守らんと。可笑しな話だ、こんなこと大殿も望んでおるまい。」
半蔵は、私の少し先を走りながら泣いていた。
それは鬼が見せた、懺悔だったのかも知れない。
ーー故にだろうか、半蔵は右手から来た狼に気付かなかった。
それは、鬼半蔵と呼ばれた男が見せた唯一の隙だったのかも知れない。
茂みから急に飛び出したニホンオオカミは、確実に半蔵の頭を狙っていた。
故に、私の体は今までで1番速く動いた。
「ぐっーー」
「何を!」
私は、半蔵を押し倒し茂みの中に転がる。
腕に熱い感触と、その直後に鋭い痛みが襲う。
かわしきれなかったようだな、イテテ
「なっ何故庇う!私はお前を殺そうとーー」
「あぁ、そうだな...私がここで君を助けようと利は無いだろう。だけどさ。」
そういうのもなきゃ、寂しいじゃ無いか
瞬間、私と半蔵の時が止まったような感覚に襲われる。
とは言え、その感覚を共有したのは私と半蔵だけだ。ニホンオオカミは容赦無く私たちを襲って来る。
そんな中、服部半蔵の何かが、切れた音がした。
「くっ...脇差を寄越せ!」
私は、咄嗟に半蔵に脇差を渡す。
恐らく、転んだ拍子にツタが木にでも引っかかって解けたのだろう。
先程よりも半蔵に絡まるツタ、解けてね?
「おおおおおおおおおおおおおお!」
半蔵はブチブチという音を鳴らしながら力づくでツタを引きちぎって行く。
そして全てのツタを剥がすと、盾になるように私の前に踏み出した。
「2度...既に貴様には助けられた、故にこれは借りだ。借りは返す。まずはこの場、次に貴様の家臣のところまでこの服部半蔵が送り届けてやろう!」
「あぁ、任せた!」
そう言うと、半蔵は狼の中に躍り出る。
半蔵なら大丈夫だろうと、私はゆっくりと柔らかい草に身を投げ出した。
あ、目を覚ましやがった。
体力が尽き、暇を持て余していた今川輝宗は、気絶していた服部半蔵を拾い上げ介抱しようと試みていた。
とは言え、なんかツタやら色々と絡まっていて手が出せない状態ではあったが。
「きっ貴様!一体何をしている!」
「いや、ツタが絡まってるから解こうとしてるんだけど?」
「なのになんで逆に締めてるんだ!逆回しにしろ!」
ん?あれおかしいな、こうか?
「いだだだだ!貴様ぁ!」
おかしいなー
半蔵の言う通りやってるんだけどな。
「す、すまん。こうかな?」
「貴様ぁぁぁぁいだだだだ!」
駄目だ、やればやるほどキツく半蔵を締め上げてしまう。
私は縄を解く才能も無いようだ、知らんけど。
「クッ今川輝宗ェェ!私が越後から主君の元へ戻る際足を滑らせて崖から落ちてしまったのも貴様の策略だったのだな!」
わかりやすい説明ありがとう。
「そんなわけ無いだろ、落ち着け。」
てか、君忍者だろ。縄抜けとかできんの?
「この状況では無理だ、ツタが縦横無尽に絡まっている状態だからな。あ、貴様刀を持って無いのか?」
「すまん、家臣にあげちゃった」
「き、貴様の刀と言えば妖刀『村正』だろう!天下に2つと無い名刀を家臣にやっただと?」
「うん。」
結局殆ど使わなかったし...
「ま、まぁ良い。脇差は無いのか?」
脇差と言うのは、主兵装である刀とは別にある予備の武器のことである。
侍なら必需品の物だ、当然私も持っている。
「あるけど、手を滑らせてお前を斬る可能性があるぞ?」
「もう何も言わん...」
あらら、半蔵くんしょんぼりしちゃったよ。
でもしょうがないんだよなぁ...
「じゃあ、せめてこうしてあげるよ」
「ん、何をする」
私は、半蔵を持ち上げて立たせてあげる。
どうやら足は少しだけ動かせるようで、足を小さくぴょこぴょこと動かせば動けるようだ。
あの服部半蔵が...足をぴょこぴょこ...
「ブフォ!」
「笑うな貴様ぁ!もう知らん、必ず殺してくれるからな、さらばだ!」
そう言うと、半蔵は怒ってその場を立ち去ろうとする。
「まぁまぁ、そんなことを言わずに慶次たちが助けに来るのを待とうよ。そしたらツタも解けると思うよ?」
「そんな悠長なことを言って...何故ついてくるのだ!?」
「暇だから」
「暇だからなど...貴様のその気まぐれが大殿を殺したと言うのか。」
ツタに絡まれたままではあったが、半蔵の言葉には殺気が含まれていた。
いや、絶対私のせいじゃ無い。
松平元康が切腹没落したのは、自らの不正のせいだ。
具体的に言えば今川への報告不備、不正により私腹を肥やしていたのがバレたのだな。
それは罰されるのは仕方が無いだろう、私のせいじゃないしそんなことを私のせいにされても困る。
「しらばっくれるな!大殿の内部を細やかに調べたのは貴様の乱破の仕業だろう、その程度も調べられんと侮るか!」
「え~」
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唾を飛ばすな、汚いから。
そうか、お藤そんなこともやってたのか。
特に命令してないけど、まぁそれなら松平元康を貶めたのは私の責任なのだろう。
「なら、その借りは返さないとな。護衛ぐらいなら引き受けるぞ。」
「フッ、それは数奇な事だ。いずれ殺す相手に護衛をしてもらうとはな!」
それにしても半蔵、適応能力高いな。
まぁ主君がアレだからな...慣れが速いのだろう。
半蔵は道もわからないだろうにズンズンと前に進んでいく、足をぴょこぴょこさせているだけなのだが妙に可愛らしい。
また吹き出しそうになり、私は口元を抑える。
や、やばい。吹き出そう。
面白いことがあると悪いことがある、輝宗が人を笑うのをやめようと決意したのはこれから直ぐのことである。
「なぁ、輝宗。」
「ん、なんだ?」
「お前、狼ぐらいは倒せるな?」
「へ?」
気づけば、目の前には大きな狼たちがいた。
茶色の美しい毛並みとギラギラと光る目、下手をすれば馬の半分ぐらいあるその巨躯は爪を立て明らかにこちらを狙っている事が理解できる。
あれ知ってる、ニホンオオカミだ。
無論、脇差しか無い私に倒せるような相手では無い!
・・・・もう人を笑ったりするのはやめよう、お天道様は見ている。
「逃げるぞ!」
「は?ちょま待てええええええええ!!!」
走れ!走れ!
深い木々の間をすり抜けるようにして走る、傾斜があるので殆ど滑り落ちるような格好で私は走って行く。
風を切るような感覚、馬なら気軽に味わえるが自分でやるとしんどすぎる!
などと思ってる暇も無しよな!
「輝宗、遅いぞ!」
お前、その状態で私より速いの!?
足をぴょこぴょこさせながら半蔵は走っている、流石は服部半蔵だな。
私もそれなりに速いが、半蔵の方が遥かに速い。
なんでだ、爺だからか!?
「もしや、それが本気か?まぁ一般人よりは速いか。後ろを振り返るな!」
後ろを振り返る余裕など初めから無い、後ろではガサガサという死の足音が迫ってきている。
『ニホンオオカミ』
20世紀初頭に絶滅したとされている日本の狼だ、2~3から10頭程度の群れで行動した。
主にニホンジカを獲物としていたが、人里に出現し、犬や馬を襲うこともあったらしい。
おかしいな、ニホンオオカミと言えば中型犬ぐらいのイメージだったんだけどな。
めちゃくちゃデカイぞ本当、どーなってるんだマジで!
「先に行くぞ」
「待ってええええええ」
「情けない声を出すな、貴様本当に俺の仇か!?」
「一応、これでも、全力ッだ!」
走る、地面を蹴るなんて感覚は本当に久しぶりだ。
こんな気持ちを味わったのは、いつ以来だろうか。
馬に乗って、偉くなって、偉い人のふりをして...
うん、何も変わって無い、無い筈だ。
だけどうん、こんなことをしたのはーーーー
『輝宗様?何故そんなに本ばかり読んでおられるのですか!』
『君か...私はね、ここにいることが仕事なのだよ。』
『城主とは、そういうものではありませぬ!城主とは、民衆を見て、土地を知り、国を守るものです!』
『素晴らしい、実に模範的だ。それが正解とは言わないが、それを正解と言えない世界は寂しいものだな』
『皮肉を...!』
『まぁまぁ、どちらにせよ私はこの片田舎の城で本を読んで過ごすのがお似合いさ。それよりどうだい、そこまで言うなら気晴らしに遠乗りに出かけようじゃ無いか。』
「竹千代くんと、遠乗りに出かけた時ぐらいかな?お忍びで行かなきゃだから馬を出すわけにもいかない。走ったなぁ。」
竹千代とは、松平元康の幼名である。
「貴様が!大殿の名を口に出すな!」
「半蔵、私は三河守の末路を本当に知らない。だがその結末は彼自身が呼んだものだ。」
「それでもだ!!」
半蔵は、叫んでいた。その異様に私はおし黙る。
その言葉を、受け入れねばならない。受け止めねばならない。
そう感じたから。
「何故なのだ!大殿が何をしたと言うのだ!」
「不正を行い、主家を騙し、民を苦しめただろう?...ハァッその罪は重い!」
「どこもやっていることだ!」
「君は、空腹で死にかけた子供を誰も助けないからと言って助けないのか?誰もがやっているからとのたまい自らも下に落ちるなど言語道断!」
「主家だと、貴様らはいつも偉そうに!殿の何が分かると言うのだ!」
「何も知らない、知りようも無い。私が知るのは会って話をしたあの子の姿だけでね。」
松平元康、否徳川家康と呼ばれるべきであった男。
彼は間違いなく英雄だった、誰よりも弱いということを知っていた。弱者は虐げられ、苦しめられることを誰よりも知っていた。
幼い頃から人質に取られ、その生涯はこの世界では不遇なものとして終わっただろう。
だが、それも1つの結末だ。
「それでも...それでもそれでも...弱くても良い、苦しくても良いのだ!!私は確かに、あの方との明日を見た。」
「半蔵」
「ここにいる私は脱け殻だ、主君を護れず、誰も望まない復讐を1人で請け負いここにいる。せめて最期の命ぐらいは守らんと。可笑しな話だ、こんなこと大殿も望んでおるまい。」
半蔵は、私の少し先を走りながら泣いていた。
それは鬼が見せた、懺悔だったのかも知れない。
ーー故にだろうか、半蔵は右手から来た狼に気付かなかった。
それは、鬼半蔵と呼ばれた男が見せた唯一の隙だったのかも知れない。
茂みから急に飛び出したニホンオオカミは、確実に半蔵の頭を狙っていた。
故に、私の体は今までで1番速く動いた。
「ぐっーー」
「何を!」
私は、半蔵を押し倒し茂みの中に転がる。
腕に熱い感触と、その直後に鋭い痛みが襲う。
かわしきれなかったようだな、イテテ
「なっ何故庇う!私はお前を殺そうとーー」
「あぁ、そうだな...私がここで君を助けようと利は無いだろう。だけどさ。」
そういうのもなきゃ、寂しいじゃ無いか
瞬間、私と半蔵の時が止まったような感覚に襲われる。
とは言え、その感覚を共有したのは私と半蔵だけだ。ニホンオオカミは容赦無く私たちを襲って来る。
そんな中、服部半蔵の何かが、切れた音がした。
「くっ...脇差を寄越せ!」
私は、咄嗟に半蔵に脇差を渡す。
恐らく、転んだ拍子にツタが木にでも引っかかって解けたのだろう。
先程よりも半蔵に絡まるツタ、解けてね?
「おおおおおおおおおおおおおお!」
半蔵はブチブチという音を鳴らしながら力づくでツタを引きちぎって行く。
そして全てのツタを剥がすと、盾になるように私の前に踏み出した。
「2度...既に貴様には助けられた、故にこれは借りだ。借りは返す。まずはこの場、次に貴様の家臣のところまでこの服部半蔵が送り届けてやろう!」
「あぁ、任せた!」
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半蔵なら大丈夫だろうと、私はゆっくりと柔らかい草に身を投げ出した。
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