戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

文字の大きさ
55 / 100
嫁探し編

私は縄も解けんのか?

しおりを挟む
「う、む?」

 あ、目を覚ましやがった。

 体力が尽き、暇を持て余していた今川輝宗は、気絶していた服部半蔵を拾い上げ介抱しようと試みていた。

 とは言え、なんかツタやら色々と絡まっていて手が出せない状態ではあったが。

 「きっ貴様!一体何をしている!」

 「いや、ツタが絡まってるから解こうとしてるんだけど?」

 「なのになんで逆に締めてるんだ!逆回しにしろ!」

 ん?あれおかしいな、こうか?

 「いだだだだ!貴様ぁ!」

 おかしいなー

 半蔵の言う通りやってるんだけどな。

 「す、すまん。こうかな?」

 「貴様ぁぁぁぁいだだだだ!」

 駄目だ、やればやるほどキツく半蔵を締め上げてしまう。

 私は縄を解く才能も無いようだ、知らんけど。

 「クッ今川輝宗ェェ!私が越後から主君の元へ戻る際足を滑らせて崖から落ちてしまったのも貴様の策略だったのだな!」

 わかりやすい説明ありがとう。

 「そんなわけ無いだろ、落ち着け。」

 てか、君忍者だろ。縄抜けとかできんの?

 「この状況では無理だ、ツタが縦横無尽に絡まっている状態だからな。あ、貴様刀を持って無いのか?」

 「すまん、家臣にあげちゃった」

 「き、貴様の刀と言えば妖刀『村正』だろう!天下に2つと無い名刀を家臣にやっただと?」

 「うん。」

 結局殆ど使わなかったし...

 「ま、まぁ良い。脇差は無いのか?」

 脇差と言うのは、主兵装である本差とは別にある予備の武器のことである。

 侍なら必需品の物だ、当然私も持っている。

 「あるけど、手を滑らせてお前を斬る可能性があるぞ?」

 「もう何も言わん...」

 あらら、半蔵くんしょんぼりしちゃったよ。

 でもしょうがないんだよなぁ...

 「じゃあ、せめてこうしてあげるよ」

 「ん、何をする」

 私は、半蔵を持ち上げて立たせてあげる。

 どうやら足は少しだけ動かせるようで、足を小さくぴょこぴょこと動かせば動けるようだ。

 あの服部半蔵が...足をぴょこぴょこ...

 「ブフォ!」

 「笑うな貴様ぁ!もう知らん、必ず殺してくれるからな、さらばだ!」

 そう言うと、半蔵は怒ってその場を立ち去ろうとする。

 「まぁまぁ、そんなことを言わずに慶次たちが助けに来るのを待とうよ。そしたらツタも解けると思うよ?」

 「そんな悠長なことを言って...何故ついてくるのだ!?」

 「暇だから」

 「暇だからなど...貴様のその気まぐれが大殿を殺したと言うのか。」

 ツタに絡まれたままではあったが、半蔵の言葉には殺気が含まれていた。

 いや、絶対私のせいじゃ無い。

 松平元康が切腹没落したのは、自らの不正のせいだ。

 具体的に言えば今川への報告不備、不正により私腹を肥やしていたのがバレたのだな。

 それは罰されるのは仕方が無いだろう、私のせいじゃないしそんなことを私のせいにされても困る。

  「しらばっくれるな!大殿の内部を細やかに調べたのは貴様の乱破の仕業だろう、その程度も調べられんと侮るか!」

  「え~」

 「え~じゃないわぁ!」

 唾を飛ばすな、汚いから。

 そうか、お藤そんなこともやってたのか。

 特に命令してないけど、まぁそれなら松平元康を貶めたのは私の責任なのだろう。

 「なら、その借りは返さないとな。護衛ぐらいなら引き受けるぞ。」

 「フッ、それは数奇な事だ。いずれ殺す相手に護衛をしてもらうとはな!」

 それにしても半蔵、適応能力高いな。

 まぁ主君がアレ徳川家康だからな...慣れが速いのだろう。

 半蔵は道もわからないだろうにズンズンと前に進んでいく、足をぴょこぴょこさせているだけなのだが妙に可愛らしい。

 また吹き出しそうになり、私は口元を抑える。

 や、やばい。吹き出そう。

 面白い良いことがあると悪いことがある、輝宗が人を笑うのをやめようと決意したのはこれから直ぐのことである。

 「なぁ、輝宗。」

 「ん、なんだ?」

 「お前、狼ぐらいは倒せるな?」

 「へ?」

 気づけば、目の前には大きな狼たちがいた。

 茶色の美しい毛並みとギラギラと光る目、下手をすれば馬の半分ぐらいあるその巨躯は爪を立て明らかにこちらを狙っている事が理解できる。

 あれ知ってる、

 無論、脇差しか無い私に倒せるような相手では無い!

 ・・・・もう人を笑ったりするのはやめよう、お天道様は見ている。

 「逃げるぞ!」

 「は?ちょま待てええええええええ!!!」













 走れ!走れ!

 深い木々の間をすり抜けるようにして走る、傾斜があるので殆ど滑り落ちるような格好で私は走って行く。

風を切るような感覚、馬なら気軽に味わえるが自分でやるとしんどすぎる!

 などと思ってる暇も無しよな!

 「輝宗、遅いぞ!」
 
 お前、その状態で私より速いの!?

 足をぴょこぴょこさせながら半蔵は走っている、流石は服部半蔵だな。

 私もそれなりに速いが、半蔵の方が遥かに速い。

 なんでだ、爺だからか!?

 「もしや、それが本気か?まぁ一般人よりは速いか。後ろを振り返るな!」

 後ろを振り返る余裕など初めから無い、後ろではガサガサという死の足音が迫ってきている。

『ニホンオオカミ』

 20世紀初頭に絶滅したとされている日本の狼だ、2~3から10頭程度の群れで行動した。

 主にニホンジカを獲物としていたが、人里に出現し、犬や馬を襲うこともあったらしい。

 おかしいな、ニホンオオカミと言えば中型犬ぐらいのイメージだったんだけどな。

 めちゃくちゃデカイぞ本当、どーなってるんだマジで!

  「先に行くぞ」

 「待ってええええええ」

 「情けない声を出すな、貴様本当に俺の仇か!?」

 「一応、これでも、全力ッだ!」

 走る、地面を蹴るなんて感覚は本当に久しぶりだ。

 こんな気持ちを味わったのは、いつ以来だろうか。

 馬に乗って、偉くなってつもりになって、偉い人のふりをして...

 うん、何も変わって無い、無い筈だ。

 だけどうん、こんなことをしたのはーーーー

  『輝宗様?何故そんなに本ばかり読んでおられるのですか!』

『君か...私はね、ここにいることが仕事なのだよ。』

『城主とは、そういうものではありませぬ!城主とは、民衆を見て、土地を知り、国を守るものです!』

『素晴らしい、実に模範的だ。それが正解とは言わないが、それを正解と言えない世界は寂しいものだな』

『皮肉を...!』

『まぁまぁ、どちらにせよ私はこの片田舎の城で本を読んで過ごすのがお似合いさ。それよりどうだい、そこまで言うなら気晴らしに遠乗りに出かけようじゃ無いか。』






 「竹千代くんと、遠乗りに出かけた時ぐらいかな?お忍びで行かなきゃだから馬を出すわけにもいかない。走ったなぁ。」

 竹千代とは、松平元康徳川家康の幼名である。

 「貴様が!大殿の名を口に出すな!」

 「半蔵、私は三河守松平元康の末路を本当に知らない。だがその結末は彼自身が呼んだものだ。」

 「!!」

 半蔵は、叫んでいた。その異様に私はおし黙る。

 その言葉を、受け入れねばならない。受け止めねばならない。

 そう感じたから。

 「何故なのだ!大殿が何をしたと言うのだ!」

 「不正を行い、主家を騙し、民を苦しめただろう?...ハァッその罪は重い!」

 「どこもやっていることだ!」

 「君は、空腹で死にかけた子供を誰も助けないからと言って助けないのか?とのたまい自らも下に落ちるなど言語道断!」

 「主家だと、貴様らはいつも偉そうに!殿の何が分かると言うのだ!」

 「何も知らない、知りようも無い。私が知るのは会って話をしたあの子の姿だけでね。」

 松平元康、否徳川家康と

 彼は間違いなく英雄だった、誰よりも弱いということを知っていた。弱者は虐げられ、苦しめられることを誰よりも知っていた。

 幼い頃から人質に取られ、その生涯はこの世界では不遇なものとして終わっただろう。

 だが、それも1つの結末だ。

 「それでも...それでもそれでも...弱くても良い、苦しくても良いのだ!!私は確かに、あの方との明日を見た。」

 「半蔵」

 「ここにいる私は脱け殻だ、主君を護れず、誰も望まない復讐を1人で請け負いここにいる。せめて最期の命ぐらいは守らんと。可笑しな話だ、こんなこと大殿も望んでおるまい。」

 半蔵は、私の少し先を走りながら泣いていた。

 それは鬼が見せた、懺悔だったのかも知れない。

 ーー故にだろうか、半蔵は右手から来た狼に気付かなかった。

 それは、鬼半蔵と呼ばれた男が見せた唯一の隙だったのかも知れない。
 
 茂みから急に飛び出したニホンオオカミは、確実に半蔵の頭を狙っていた。

 故に、私の体は今までで1番速く動いた。

 「ぐっーー」

 「何を!」

 私は、半蔵を押し倒し茂みの中に転がる。

 腕に熱い感触と、その直後に鋭い痛みが襲う。

 かわしきれなかったようだな、イテテ

 「なっ何故庇う!私はお前を殺そうとーー」

 「あぁ、そうだな...私がここで君を助けようと利は無いだろう。だけどさ。」

 

 瞬間、私と半蔵の時が止まったような感覚に襲われる。

 とは言え、その感覚を共有したのは私と半蔵だけだ。ニホンオオカミは容赦無く私たちを襲って来る。

 そんな中、服部半蔵の何かが、切れた音がした。

 「くっ...脇差を寄越せ!」

 私は、咄嗟に半蔵に脇差を渡す。

 恐らく、転んだ拍子にツタが木にでも引っかかって解けたのだろう。

 先程よりも半蔵に絡まるツタ、解けてね?

 「おおおおおおおおおおおおおお!」

 半蔵はブチブチという音を鳴らしながら力づくでツタを引きちぎって行く。

 そして全てのツタを剥がすと、盾になるように私の前に踏み出した。

 「2度...既に貴様には助けられた、故にこれは借りだ。借りは返す。まずはこの場、次に貴様の家臣のところまでこの服部半蔵が送り届けてやろう!」

 「あぁ、任せた!」

 そう言うと、半蔵は狼の中に躍り出る。

 半蔵なら大丈夫だろうと、私はゆっくりと柔らかい草に身を投げ出した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...