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京都編
天下人との会談
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疲れた...
けど寝れない、寝れる筈も無い。
何故私が京都に戻る際にあんなに多くの軍勢がいたか、その理由は真田昌幸殿のせいだ。
私が幸村のことについて真田昌幸殿に文を出し、それについて詳しい話を聞くために昌幸殿が軍を率いて京に戻る途中の我々に合流。
それであのような凱旋になったと言う訳だ。
あー疲れた、ああいうの初めてやったよ。
緊張した、軍勢を率いて (率いて無いけど)格好良く帰って来るってのは新鮮な体験だったな。
さて、帰りたい心で一杯な私が何故京にある今川の本拠地に来ているかと言うと可愛い甥への挨拶の為だ。
いかん、可愛い甥とか舐めてると対応に出そうだ。
大人しく殿とお呼びせねば。
今川氏真、事実上の天下の中心にいる男だ。
最後に会ったのは旅に出る前だから2年と少しぶりだな、さてどんな感じで変わっているのやら...
「ご隠居様、お久しゅうございます」
「んん?宗信、どうしてここにいるのだ」
最初に出迎えてくれたのは、今川配下の重臣である松井宗信であった。
今川館で会った時よりやや痩せたかな?
壮年と言うにはかなり老いているこの男は、変わらぬ笑顔でこちらを見ながら言った。
「もう歳でしてな、今は殿の相談役としてこちらにお邪魔しております」
「そうか、殿もお前がいてくれて安心だろうな」
松井宗信は文武共にバランスの良い将だ、経験もプラスしてこちらの想像通りの働きをしてくれることで定評がある。
今川の譜代の中ではトップクラスと言えるだろう、井伊との双璧は天下に轟いている。
「井伊もおりますが、呼びますか?」
「良い、忙しいのに無理に来てもらう必要も無いだろう?」
今や今川の首脳を勤めてる2人が揃って挨拶に来るな。
挨拶が面倒だろ!
「そうですか、私も井伊もご隠居様のお呼びあらばいつでも駆けつけると言っておりますのに...」
「すまんな、光秀も左近もいる。爺に出番は無い、私も含めてな?」
「相も変わらず冗談がお好きなようですな」
いや、本気なんだけど...
「幸村や慶次は下がらせる、警護を任せてもいいかな?」
「無論で」
「聞いたな、幸村、慶次には暇をやる。3日ほど京を見てこい。」
先にこうなることを伝えておいたからか、幸村も慶次は下がって行く。
お藤と千代は先に宿に戻らせている、殿に合わせたら千代が何やらかすかマジでわかんないしな。
つーかやめよう、絶対死ぬし。
私が。
「そろそろ殿の元に着きます、殿もご隠居様の到着を心待ちにしていたのですぞ?」
「おお、そうなのか?嬉しいな」
マジか、殿私のこと待ってたの?
嬉しいけど、そんなことしてる場合じゃ無いと思うんだけどなぁ。
「久しいな、叔父上」
「はっ、殿もお変わり無く」
このピリつくような空気、確かに兄義元に比べればまだ甘い。
だが、纏う覇気はまさしく王のものであり天下人に相応しいものだ。
今川氏真、可愛い甥は遥か遠くの上座で座っている。
側には松井宗信が控え、その右隣には1人の若い男が座っている。
名を今川左衛門佐直房、かつて罠丸と呼ばれた男である。
なんか、えぐい見た目してるな。
その隣には痩せた男が大人しく座っているが、誰だか忘れた。
「旅のこと、色々と教えて欲しいな。随分な活躍だったようでは無いか」
「報告に書いてあった通りですぞ?」
「構わん、叔父上の口から聞きたいのだ」
殿が身を乗り出し、興味深そうにこちらを見てくる。
嬉しいけど、語れること何にも無いぞ?
「は、まず駿河へ行き今川館へ。父や母の墓前に花をやりました」
「ほうほう」
「次に甲斐国へ、小さな村の為に奔走しましたな」
「叔父上が宣教師を呼ぶと聞いた時は驚いたぞ」
「これは失礼致した」
部屋内に殿の笑い声が響く、私は今までの旅を少しずつ振り返っていた。
駿河での騒動、甲斐国での騒動。
そしてーーーー
「そして、伊達輝宗殿と出会い申した」
「北方との繋がりはお世辞にも太いとは言えなかった、見事だ」
「偶々です、左京大夫殿とは個人的な友好もあり申した」
そんな私の言葉に首を振って殿は否定する、殿は謙遜を嫌う、ただ結果だけを求めるのは今川の家風なのかも知れないなぁ。
「それで、最も気になっているのは越後なのだ」
「はっ、越後では越後守と共に一揆勢を撃破し申した」
「それも聞いたな、戦果もあったとか」
「はっ、少女を勝手に養女にしたこと平にご容赦を」
やべ、やっぱり怒られた。
今川は天下人の家だ、その一族に当主に無許可で赤の他人を入れる。明らかに許される話では無い。
コッソリとなら許してくれるかなと、思ったんだよ。
「まぁ、それは良い。叔父上の判断だからな、それにしてもその千代とかいう娘。こちらで預かることはできないか?」
「お断り致します」
あ、やべ
言ってもうた。
「いかにご隠居様と言え、聞き捨てなりませんな。たかが少女を1人預かるだけでしょう、何かご不満が?」
じろりとこちらを見るのは松井宗信だ、不味いことになったな。
千代のことはある程度調べているだろう、その情報の中には兵器開発などといった分野も含まれている筈だ。
この技術、今川に渡して良いのか?
今川の財力をバックに千代は色々な発明をするだろう、恐らくそれは世界のパワーバランスをひっくり返すようなものだ。
20年、30年という長期的な目で見ればそれこそ最強海洋国家日本の誕生だ。
間違いなく歴史が大きく変わる、それは許容して良いものなのだろうか?
あー、参ったなぁ。
言いあぐねる、気付けば穏やかな会談は一気に緊張感を増していた。左右に控える今川家臣もオロオロとしている。
そんな空気に終止符を打ったのは他ならぬ殿本人だった。
「まぁ待て宗信、叔父上、何か理由があるのだろう?」
「あー!えーと、うん。千代は...少し...ちょっと...いやかなり癖が強いので我が下で管理した方が今川の役に立つかと」
「それは貴様の考えることでは無い!」という叱責は飛ばなかった。
絶対誰か言うと思ったんだがな、まぁ良いか。
「そうか、叔父上の判断なら止める訳にも行くまい。叔父上に任せよう」
部屋がざわりと揺れる、え、そんなんで良いの?
口から出そうになった言葉を上手く引っ込める、おい直房テメェ何笑ってやがる!
罠丸め、私が苦しんでいるのを見てほくそ笑んでいるに違いない。
あとで捌いてやる。
◇◇◇◇
震える部屋、誰もが青ざめた顔をする修羅場こそが今川左衛門佐直房の独壇場だろう。
やはり爺様は素晴らしいと確信する、まさに稀代の謀略家と呼ぶに相応しい一手だろう。
「あの方のやりようは独断が過ぎる!」
「左様、殿を蔑ろにし好き放題!このままで宜しいとお思いなのですか!?」
爺様が居なくなった後に好き勝手なことを言っているのは我が殿氏真様の側近たちだ、彼らは自称殿派を称しており側近としてその手腕を振るっている。
松井宗信殿も最近その位置に入ったのだったな、いやあのお方は相談役か。
普段はわめくばかりで無能な側近たちを嗜める役割なのだが今回は大人しくしている、宗信殿なりに思うところもあるのだろう。
「うん、叔父上殿のことだ。何か考えがあると思うのだが」
殿がそう言うと、側近どもはより強い口調で殿ににじり寄る。
彼らにとって爺様は目の上のたんこぶと言って良いのだろう、未だ気弱な殿の近くで力を払い思いのままにして来た彼らにとって思い通りにならない爺様は邪魔ということか。
「のう直房、そちはどうすれば良いと思う?」
殿からの質問か、仕方ない話すか。
「はっ、まず千代姫のことですが放置で宜しいかと思います。」
「何を勝手なことを!ご隠居様の暴挙を許すと言うのか!」
てめぇ、爺様が居た時には大人しくしてたってのに大きな態度を取りやがって。
「待て、直房、どういう意味か説明してくれ」
「かしこまりました、まず千代姫ですが彼女のことを論ずるには、まず我らの所持する情報をまずは整理せねばなりますまい」
「ふむ、一揆勢の頭領、数々の兵器を持つ。武田家臣の姫君だな」
「はい、ここまでの情報で注目するべきは彼女の兵器に纏わる逸話です」
「正直信憑性に欠けるとしか言いようが無いな、女があのような発明品を次々と産み出すなど考えにくいのでは無いか?」
「それは、ご隠居様が千代姫を養女にしていることで確信に変わるでしょう。ご隠居様がただの姫をなんの理由も我らに提示せず勝手に養女にした、何か理由があるのは間違い無いですな?」
そこまで言うと、直房は一度息を吸う。
その間に己の頭を必死でフル回転させて頭の整理を完了した、これは爺様や父上の助言である。
直房は間違いなく天才だ、頭の中だけならば自分は誰よりも天才だと確信している。 (輝宗を除いて)
だが、それを人に伝えるのは難しい。彼の言葉を凡人が理解するのは非常に難解だからだ。
故に彼は、凡人でも話がわかるように話自体を一旦整理する。
その習慣は、彼を天才と呼べるまでに成長させた。
まぁ具体的に言うならば元々天才だったが人に伝えるのが上手くなった、という認識で間違い無いだろう。
「あぁ、そうだな」
「理由はここでは憶測になるので置いておきますが、殿は彼女の作った兵器の情報を存じてありましょう」
「大軍を撃破し、一揆勢を大勝に導いた、そうか!」
「ええ、ご隠居様はその武力を手に入れた。と言うことは兵器の数々はご隠居様に伝わっているでしょう。既に我々は詰んでいるのですよ」
殿に伝わったことに直房は満足し前を向く。
と言うか、元々輝宗と千代には親交があったという情報さえある。つまりそれを加味すると最低でも輝宗は元から兵器の存在を知っていた。
最高だとそれらを所持していたことも考えられるのだ。
戦力差は推して知るべしだろう。
「何を言っているのだ直房殿、ご隠居様が兵器を持っているなら奪えば良いだろう?我らの命令には逆らえない筈だ」
「そのようなことを命じればご隠居様に恩義のある大名家が黙っていないぞ、ご隠居様が一声かければ最低でも諏訪、真田、伊達、そして我らが本拠地である駿河遠江、下手をすれば上杉も立つぞ?」
西の大名、そして今川の同盟国である朝倉・浅井は様子見を決め込むだろう。
ここまで話をしたのはあくまで武力的な話だ、朝廷や幕府は間違い無く爺様につくということも明記せねばなるまい。
故に天下が半分になるどころでは無い、下手をすればいや下手をしなくても大負けする可能性があるのだ。
やっと理解できたのか側近も黙りこくる。
「殿、残念ですが千代姫が手に入らなかった時点でこちらはほぼ詰んでいるかと。凡庸なこの身でさえ今川が潰れる方法が3つは思い浮かびます。」
はっきり言って負けるな、自殺する趣味は無いのでそうすれば自分は輝宗側に着く。
それを直房は確信していた。
千代の持つ実力は最低でもガトリング砲などだ、この情報は乱破たち経由でこの前知らされたものだが精度だけは信用できる。
「お、叔父上の機嫌を損ねぬにはどうすれば良いのか?直房」
「それは非常に簡単です、『戦乱の世は終結せり』ですよ」
「成る程、そういうことか」
爺様にとって敵とは、戦乱の世を乱すものだ。
爺様はその敵が来ないよう、時には内から、時には外から活動をされている。
それがどれだけ危険なことなのか直房には理解することができない。
だがその立派さ、高潔さは知っている。
「今川が平和を乱すことはしてはなりません、天下万民にとって今川が敵になった瞬間、そうなった時、ご隠居様は迷わず今川に刃を抜くでしょう。」
脅しとも取れる直房の言葉だが、想いの外氏真はあっさりと受け止める。
これで話は終わりだ、対策ナシというあまりに酷い結末で終わりを過ぎた話し合い。
だが、直房は1つのことが気になっていた。
「殿、御隠居様にあのことをお伝えしていませんよね?」
「あ、叔父上怖すぎて忘れてた」
氏真の虚しい叫びは、風に消えて飛んでいくこととなった。
けど寝れない、寝れる筈も無い。
何故私が京都に戻る際にあんなに多くの軍勢がいたか、その理由は真田昌幸殿のせいだ。
私が幸村のことについて真田昌幸殿に文を出し、それについて詳しい話を聞くために昌幸殿が軍を率いて京に戻る途中の我々に合流。
それであのような凱旋になったと言う訳だ。
あー疲れた、ああいうの初めてやったよ。
緊張した、軍勢を率いて (率いて無いけど)格好良く帰って来るってのは新鮮な体験だったな。
さて、帰りたい心で一杯な私が何故京にある今川の本拠地に来ているかと言うと可愛い甥への挨拶の為だ。
いかん、可愛い甥とか舐めてると対応に出そうだ。
大人しく殿とお呼びせねば。
今川氏真、事実上の天下の中心にいる男だ。
最後に会ったのは旅に出る前だから2年と少しぶりだな、さてどんな感じで変わっているのやら...
「ご隠居様、お久しゅうございます」
「んん?宗信、どうしてここにいるのだ」
最初に出迎えてくれたのは、今川配下の重臣である松井宗信であった。
今川館で会った時よりやや痩せたかな?
壮年と言うにはかなり老いているこの男は、変わらぬ笑顔でこちらを見ながら言った。
「もう歳でしてな、今は殿の相談役としてこちらにお邪魔しております」
「そうか、殿もお前がいてくれて安心だろうな」
松井宗信は文武共にバランスの良い将だ、経験もプラスしてこちらの想像通りの働きをしてくれることで定評がある。
今川の譜代の中ではトップクラスと言えるだろう、井伊との双璧は天下に轟いている。
「井伊もおりますが、呼びますか?」
「良い、忙しいのに無理に来てもらう必要も無いだろう?」
今や今川の首脳を勤めてる2人が揃って挨拶に来るな。
挨拶が面倒だろ!
「そうですか、私も井伊もご隠居様のお呼びあらばいつでも駆けつけると言っておりますのに...」
「すまんな、光秀も左近もいる。爺に出番は無い、私も含めてな?」
「相も変わらず冗談がお好きなようですな」
いや、本気なんだけど...
「幸村や慶次は下がらせる、警護を任せてもいいかな?」
「無論で」
「聞いたな、幸村、慶次には暇をやる。3日ほど京を見てこい。」
先にこうなることを伝えておいたからか、幸村も慶次は下がって行く。
お藤と千代は先に宿に戻らせている、殿に合わせたら千代が何やらかすかマジでわかんないしな。
つーかやめよう、絶対死ぬし。
私が。
「そろそろ殿の元に着きます、殿もご隠居様の到着を心待ちにしていたのですぞ?」
「おお、そうなのか?嬉しいな」
マジか、殿私のこと待ってたの?
嬉しいけど、そんなことしてる場合じゃ無いと思うんだけどなぁ。
「久しいな、叔父上」
「はっ、殿もお変わり無く」
このピリつくような空気、確かに兄義元に比べればまだ甘い。
だが、纏う覇気はまさしく王のものであり天下人に相応しいものだ。
今川氏真、可愛い甥は遥か遠くの上座で座っている。
側には松井宗信が控え、その右隣には1人の若い男が座っている。
名を今川左衛門佐直房、かつて罠丸と呼ばれた男である。
なんか、えぐい見た目してるな。
その隣には痩せた男が大人しく座っているが、誰だか忘れた。
「旅のこと、色々と教えて欲しいな。随分な活躍だったようでは無いか」
「報告に書いてあった通りですぞ?」
「構わん、叔父上の口から聞きたいのだ」
殿が身を乗り出し、興味深そうにこちらを見てくる。
嬉しいけど、語れること何にも無いぞ?
「は、まず駿河へ行き今川館へ。父や母の墓前に花をやりました」
「ほうほう」
「次に甲斐国へ、小さな村の為に奔走しましたな」
「叔父上が宣教師を呼ぶと聞いた時は驚いたぞ」
「これは失礼致した」
部屋内に殿の笑い声が響く、私は今までの旅を少しずつ振り返っていた。
駿河での騒動、甲斐国での騒動。
そしてーーーー
「そして、伊達輝宗殿と出会い申した」
「北方との繋がりはお世辞にも太いとは言えなかった、見事だ」
「偶々です、左京大夫殿とは個人的な友好もあり申した」
そんな私の言葉に首を振って殿は否定する、殿は謙遜を嫌う、ただ結果だけを求めるのは今川の家風なのかも知れないなぁ。
「それで、最も気になっているのは越後なのだ」
「はっ、越後では越後守と共に一揆勢を撃破し申した」
「それも聞いたな、戦果もあったとか」
「はっ、少女を勝手に養女にしたこと平にご容赦を」
やべ、やっぱり怒られた。
今川は天下人の家だ、その一族に当主に無許可で赤の他人を入れる。明らかに許される話では無い。
コッソリとなら許してくれるかなと、思ったんだよ。
「まぁ、それは良い。叔父上の判断だからな、それにしてもその千代とかいう娘。こちらで預かることはできないか?」
「お断り致します」
あ、やべ
言ってもうた。
「いかにご隠居様と言え、聞き捨てなりませんな。たかが少女を1人預かるだけでしょう、何かご不満が?」
じろりとこちらを見るのは松井宗信だ、不味いことになったな。
千代のことはある程度調べているだろう、その情報の中には兵器開発などといった分野も含まれている筈だ。
この技術、今川に渡して良いのか?
今川の財力をバックに千代は色々な発明をするだろう、恐らくそれは世界のパワーバランスをひっくり返すようなものだ。
20年、30年という長期的な目で見ればそれこそ最強海洋国家日本の誕生だ。
間違いなく歴史が大きく変わる、それは許容して良いものなのだろうか?
あー、参ったなぁ。
言いあぐねる、気付けば穏やかな会談は一気に緊張感を増していた。左右に控える今川家臣もオロオロとしている。
そんな空気に終止符を打ったのは他ならぬ殿本人だった。
「まぁ待て宗信、叔父上、何か理由があるのだろう?」
「あー!えーと、うん。千代は...少し...ちょっと...いやかなり癖が強いので我が下で管理した方が今川の役に立つかと」
「それは貴様の考えることでは無い!」という叱責は飛ばなかった。
絶対誰か言うと思ったんだがな、まぁ良いか。
「そうか、叔父上の判断なら止める訳にも行くまい。叔父上に任せよう」
部屋がざわりと揺れる、え、そんなんで良いの?
口から出そうになった言葉を上手く引っ込める、おい直房テメェ何笑ってやがる!
罠丸め、私が苦しんでいるのを見てほくそ笑んでいるに違いない。
あとで捌いてやる。
◇◇◇◇
震える部屋、誰もが青ざめた顔をする修羅場こそが今川左衛門佐直房の独壇場だろう。
やはり爺様は素晴らしいと確信する、まさに稀代の謀略家と呼ぶに相応しい一手だろう。
「あの方のやりようは独断が過ぎる!」
「左様、殿を蔑ろにし好き放題!このままで宜しいとお思いなのですか!?」
爺様が居なくなった後に好き勝手なことを言っているのは我が殿氏真様の側近たちだ、彼らは自称殿派を称しており側近としてその手腕を振るっている。
松井宗信殿も最近その位置に入ったのだったな、いやあのお方は相談役か。
普段はわめくばかりで無能な側近たちを嗜める役割なのだが今回は大人しくしている、宗信殿なりに思うところもあるのだろう。
「うん、叔父上殿のことだ。何か考えがあると思うのだが」
殿がそう言うと、側近どもはより強い口調で殿ににじり寄る。
彼らにとって爺様は目の上のたんこぶと言って良いのだろう、未だ気弱な殿の近くで力を払い思いのままにして来た彼らにとって思い通りにならない爺様は邪魔ということか。
「のう直房、そちはどうすれば良いと思う?」
殿からの質問か、仕方ない話すか。
「はっ、まず千代姫のことですが放置で宜しいかと思います。」
「何を勝手なことを!ご隠居様の暴挙を許すと言うのか!」
てめぇ、爺様が居た時には大人しくしてたってのに大きな態度を取りやがって。
「待て、直房、どういう意味か説明してくれ」
「かしこまりました、まず千代姫ですが彼女のことを論ずるには、まず我らの所持する情報をまずは整理せねばなりますまい」
「ふむ、一揆勢の頭領、数々の兵器を持つ。武田家臣の姫君だな」
「はい、ここまでの情報で注目するべきは彼女の兵器に纏わる逸話です」
「正直信憑性に欠けるとしか言いようが無いな、女があのような発明品を次々と産み出すなど考えにくいのでは無いか?」
「それは、ご隠居様が千代姫を養女にしていることで確信に変わるでしょう。ご隠居様がただの姫をなんの理由も我らに提示せず勝手に養女にした、何か理由があるのは間違い無いですな?」
そこまで言うと、直房は一度息を吸う。
その間に己の頭を必死でフル回転させて頭の整理を完了した、これは爺様や父上の助言である。
直房は間違いなく天才だ、頭の中だけならば自分は誰よりも天才だと確信している。 (輝宗を除いて)
だが、それを人に伝えるのは難しい。彼の言葉を凡人が理解するのは非常に難解だからだ。
故に彼は、凡人でも話がわかるように話自体を一旦整理する。
その習慣は、彼を天才と呼べるまでに成長させた。
まぁ具体的に言うならば元々天才だったが人に伝えるのが上手くなった、という認識で間違い無いだろう。
「あぁ、そうだな」
「理由はここでは憶測になるので置いておきますが、殿は彼女の作った兵器の情報を存じてありましょう」
「大軍を撃破し、一揆勢を大勝に導いた、そうか!」
「ええ、ご隠居様はその武力を手に入れた。と言うことは兵器の数々はご隠居様に伝わっているでしょう。既に我々は詰んでいるのですよ」
殿に伝わったことに直房は満足し前を向く。
と言うか、元々輝宗と千代には親交があったという情報さえある。つまりそれを加味すると最低でも輝宗は元から兵器の存在を知っていた。
最高だとそれらを所持していたことも考えられるのだ。
戦力差は推して知るべしだろう。
「何を言っているのだ直房殿、ご隠居様が兵器を持っているなら奪えば良いだろう?我らの命令には逆らえない筈だ」
「そのようなことを命じればご隠居様に恩義のある大名家が黙っていないぞ、ご隠居様が一声かければ最低でも諏訪、真田、伊達、そして我らが本拠地である駿河遠江、下手をすれば上杉も立つぞ?」
西の大名、そして今川の同盟国である朝倉・浅井は様子見を決め込むだろう。
ここまで話をしたのはあくまで武力的な話だ、朝廷や幕府は間違い無く爺様につくということも明記せねばなるまい。
故に天下が半分になるどころでは無い、下手をすればいや下手をしなくても大負けする可能性があるのだ。
やっと理解できたのか側近も黙りこくる。
「殿、残念ですが千代姫が手に入らなかった時点でこちらはほぼ詰んでいるかと。凡庸なこの身でさえ今川が潰れる方法が3つは思い浮かびます。」
はっきり言って負けるな、自殺する趣味は無いのでそうすれば自分は輝宗側に着く。
それを直房は確信していた。
千代の持つ実力は最低でもガトリング砲などだ、この情報は乱破たち経由でこの前知らされたものだが精度だけは信用できる。
「お、叔父上の機嫌を損ねぬにはどうすれば良いのか?直房」
「それは非常に簡単です、『戦乱の世は終結せり』ですよ」
「成る程、そういうことか」
爺様にとって敵とは、戦乱の世を乱すものだ。
爺様はその敵が来ないよう、時には内から、時には外から活動をされている。
それがどれだけ危険なことなのか直房には理解することができない。
だがその立派さ、高潔さは知っている。
「今川が平和を乱すことはしてはなりません、天下万民にとって今川が敵になった瞬間、そうなった時、ご隠居様は迷わず今川に刃を抜くでしょう。」
脅しとも取れる直房の言葉だが、想いの外氏真はあっさりと受け止める。
これで話は終わりだ、対策ナシというあまりに酷い結末で終わりを過ぎた話し合い。
だが、直房は1つのことが気になっていた。
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