戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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閑話・甲斐編

明智光秀と島左近

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 「ハァ、ハァ、曲者めが!」

  「残念だ、1番歯応えがあったんだけどなぁ」

  左近が目の前に立つ男は全身に鎧を着込んだ大男だ、名は山県源四郎昌満、武田四天王山県昌景を父に持つ彼は四天王の中でも屈指の巨躯を用いて戦友を守る。

 戦闘経験こそ殆ど無いものの、修練の成果は如何無く発揮されていた。

 「オラァ!」

 左近の槍を、刀で受け止める。その剛力を受け止めるごとに玉のような汗が昌満から流れ死に近づいて行く。

 「昌満様!」

 「逃げろ、貴様らで叶う男では無い!」

 そう言うと、昌満は再度左近の一撃を受け止めた。右腕が軋むように悲鳴をあげている。少しずつ威力が増しているのでは無いかと思った程だ。

 気を抜けば武士の魂たる武器を落としてしまいそうになり昌満は顔を歪めた。

 「なぁアンタ、そんなつまらない戦い方で楽しいかい?」

 「黙れ、味方を守る。殿こそが武士の華よ!」

 左近が槍を下げて言う言葉に、昌満は激昂したようにそう答える。

 昌満は、巨大であっても最強では無い。誰にも言わずにいたことだが、昌満の体力は凡人以下であった。それ故に武者働きに不安があり父より戦働きを禁止されていたのた。

 才はあった、実力も戦うことを許されれば武田一であると言う自負があった、それはある意味事実でもあったがそれを証明しようとする程昌満は子供では無いのだ。

 「おーそういう格好つけ方もあるのか、今度御隠居様に教えてあげなくちゃあな」

 「主を持つ身で、何故単身で我らが根倉アジトに乗り込もうとする!主の命か」

 「違うな、子供を助ける為に猪が欲しいだけだ」

 「なっ、それだけの為に我らを襲ったのか!?命が惜しく無いのか!」

 「命は惜しいさ、悪いがここは俺のじゃあ無いからな、驚異なんか微塵もねぇよ」

 「愚弄するか、このっ・・・・いや、認めよう。お前は強い」

 「だろうな」

  「お前のような奴が今川には多くいた、何故だ?駿河者は性根が捻くれてる。弱きを虐め、弱小の国人領主の多くはそのありように苦しんでいると言う。何故人が集まるのだ?」

 「確かに、今川に好きだと思える奴は少ねぇな。御隠居様と対立してる奴もいるしな」

 「そうだ、仁無き国に明日など無い!どうして奴らだけがあのようになれた!」

 「優しい人が居たんだ」

 「はぁ?」

 そのあまりにも素っ頓狂な答えに、昌満は目を丸くする。

 「その人はいつも余裕があった、確かに俺らもお前らもデカかった。だがその裏じゃいっつももがいて苦しんでたよな。だから強く見せる為に他人に強く出るしか無かった」

 だが、違う。

 今川にはあの人がいる。強く大きい大樹には必ず強き根があるように。

 根は陽の目を見ること無く散る運命さだめ、だがそうなるにはあの方は太過ぎた。

 そこにあの方の意思が介在する余地は無い、勘違いした大樹が怒り出すのも無理は無い・・・・

  「まぁ、お前にゃわからんか」

 「その言葉でお前の主はある程度予想がついたな、まぁ興味はあるが・・・・そろそろ決着だ」

  羨ましい、などと昌満が言う気は無い。自分の主人も確かに日本一だったのだから。

 「あぁそうだな、

  「何?」

  心臓を、一突き。

 自らの胸から黯い刃が出る、その刃は彼の見た刀の中で最も美しく闇に染まっていた。

 「がっ・・!?と、どの、お許しを」

  肺に血が入り、ゴロゴロと音が鳴る。

 最後に昌満が感じたのは、痛みであった。

 「流石ですな、左近殿。我が影を見つけられるなど」

 「まぁ、なんかいるかもなーってのが分かるようになったような気がするな。十兵衛殿」

 現れたのは、光秀だ。素早く刀を引き抜いて血を払い納刀する、その顔は真っ直ぐに左近を見据えている。

 「なんだ?なんか吹っ切れた顔してやがるな」

 「左近殿が表情を読むとは、土砂災害を警戒した方が良いかも知れませんな」

 「なんでだよ!ったく、猪を見繕って領主に連絡だ。ずらかろうぜ」

 「既に呼んでありますよ、左近殿」

 「だと思ったぜ」

 左近がそう笑いながら言う、光秀の顔はまだ笑みを浮かべていた。

 「それだけではありませぬ、1つ思ったことがあります。聞いて頂けますか?」

 「なんだよ」

 「御隠居様は昔、武田勢の助命を願いました。そんな者たちが独立と言う名の反乱を望んでいた、そうすれば御隠居様はどうするでしょう?」

 「そりゃあ、止めようとするだろうよ」

 「その通りです、助命した者が今川に被害を与えれば御隠居様の責任問題になりかねますからな。ならば、こうも考えられませぬか?御隠居様は我らに武田の残党の処理をさせる為に駿河に返させたと。」

 「まっマジか!?でもよ、ガキが病なのは完全に偶然だろうし、俺が戦ったのも本当に偶然だぜ?」

 「そうでしょうか?わらしの病はともかく、猪を狩り尽くした賊を左近殿は殺そうとする筈」

 「えー、流石に偶然だろう?」

 「貴殿は自分の単純さをもう少し自覚した方がいいぞ?」

 そう言いながら2人は歩いて行く、その後猪のお陰で童は元気になった。

 そして帰路に着こうとする2人を、1人の宣教師が呼び止める。

 その手には、輝宗からの文が握られていたとか。



 ◇◇◇◇


 「はっ!?」

 「起きたか、流石は民部少輔の息子よな」

 「ここは?奴らは?何故ここに勝頼様がいらっしゃるのですか!?」

 「ふむ、ゆるりと話そう。楽にするが良い」

 馬場昌房は、目の前にある現実に愕然としていた。気絶から飛び起きたと思ったら目の前には武田勝頼がいる。

 いや、今は武田では無い。今川の下で諏訪勝頼と名乗っている。

 「明智十兵衛光秀殿に要請されてな、父上の家臣がいると聞いてすっ飛んで行ったのだ。あのようなところで隠れ住んでいるとは正直驚いたぞ」

 はっはっは、そう笑う勝頼の姿は朗らかで気持ちの良いものだった。

 「息のある者は殆ど居なかった、あれが鬼と名付けられた鬼左近の力とは。敵に回さなくて良かったと心の底から思ったわ」

 「なんと、あの男がかの有名な鬼左近!」

 昌房は驚いていた、あれが鬼左近、今川でも5指に入る剣法家とは・・・・

 「お前が生きていた時は嬉しかったわ」

 「勝頼様、我らが悲願をお判り頂けますでしょうか」

 「知っている、武田の再興であろう」

 「はっ」

 「できると思うたか?」

 「先日までは、できると思うておりました」

  そう、昌房がそう思っていたのはつい昨日までだ。今ではそんな大それたことを考える気にはならない、心を折られたのだと痛感した。

 「そうか、現実を見ることのできるが増えて嬉しいぞ」

 「家臣?」

 馬鹿な、そう昌房は言いかけてしまった。武田の残党として今川に敵対してきた私を召抱える?何を考えているのやら。

 「私を信じられぬか?」

 「そ、そのような事は!」

 「いいや、顔に書いてあるな。まぁ確かにそうだ、私に今川をどうこうする力など無い。」

 そう言いながらも勝頼は秘策ありとの顔を崩さない、勝頼は変わった、少なくとも武田が栄えていた時より良く笑うようになったと昌房は思う。

 あの武田家嫡男としての期待を一心に背負い、余裕のない時と全く異なると昌房は感じていた。

 器では無かったのかも知れん、信濃、甲斐を治める器では。

 今更ながら昌房も自分を、武田を客観視することができていた。

 田舎の貧乏国人領主、それで良いのでは無いか?

 それで、満足できるのでは無いか?

 「だが、最近今川で2番目に権力を持つ男にを作っていてな。それを使えばなんとかなるかも知れん」

 「そ、そのお方は。まさか!」

 「そうだ、しかしそれでもお前たちを許して貰うには足りんだろう。自らで手柄を立てる必要がある、そして西で戦があるらしい。行くか?」

 頷く他は無い、死んだ同志よ許せ。

 武田の名跡は残らないかも知れないが、武田の魂はここにある。私はそれを信じたいのだ。
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