戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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記憶編

苦労話をあの人と

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 「お前、これから戦って時に何をしているんだよ」

 「良いじゃ無いですか、貴方出不精なんですから」

 ぱかりと馬が進んで行く、一緒に乗っている夕はなんとも楽しそうだ。

 女を乗せて歩くせいか、馬も嬉しそうにしている気がするな。名を米と言うこの茶色い大柄な馬は図体はデカいのだが気が弱い、性格は主人に似たな。

 「確かにな」

 良い為政者とは、民衆の暮らしぶりを見て回るもの。テレビや映画ではそういったイメージがあるだろう。

 ありがちなイメージだ、地方の田舎大名が領主自ら領内を回る。領民は皆領主が好きで領主に群がる、素晴らしいモンだと思う、だがあれはフィクションだ。

 現実にあんな領主とかが軽々と外に出て良い訳無いだろうが。暗殺のリスクとか考えないんだろうか?

 そもそも領内が狭いなら良いが、うちは結構広いのだ。見て回っていれば陽が暮れてしまう、そんなことをしている内に政務は溜まる、政務が溜まれば困るのは領民たちだ。

 領民は困れば一揆を起こす、悪循環だな。

 結局、領主なんてもんは城に籠もって判子でも押してれば良いってことだ。まぁ領主の形なんて色々あるだろう、それに私は理論武装こそしたが外に出るのが苦手で億劫なだけだ。できるだけ城の中で本を読んで過ごしていたいしな。

 「領主、向いているのかいないのかねぇ私は」

 「今のところ不満の声は上がっていません、立派にされているでは無いですか」

 「まぁ、それはな?」

  忙しいとは言ったが、難しいとは言っていない。

 その大部分は考えれば理解出来ることだ、責任を負う仕事ではあるがな。わからなければ隠居に聞けば良いし。

 そう考えるとあの隠居には随分と助けられているな。

 「領主としてあなたか不足だと言うのなら、世のお殿様は皆不足になってしまいます。」

 「些か過大評価が過ぎないか?」

 「少なくとも将としての輝宗様の評価は悪くありません、今川の殿が跡目争いで危機に瀕していた時救ったのは輝宗様です」

 「私は何もしておらん、あのボロ城で寝ていたに過ぎん」

 「ええ、確かにこの地自体に大した価値は無いでしょうとも。ですがここより奥は交易盛んな港街など今川の心臓部でございます、謀反人にしてみれば輝宗様はその心臓部を守る最期の壁に見えたでしょう」

 「たまたまだな」

 「冗談を・・・・敵方は8000を超えておりました、しかし輝宗様はかき集めても2000の兵しか揃えられません。慌てふためく家臣を輝宗様が一括されたと聞きます、敵など恐るるに足らず、あの程度の相手に鎧など阿呆らしくて着られるかと言ったそうですね」

 「どこから出てきたんだ、その情報?」

 てか、敵が攻めて来るなんて知らなかったしな。

 義元の兄に味方したのは、義元が桶狭間で死ぬのを知っているからだ、つまりそれまでは死なないということになる。

 跡目争いは義元が勝つ、私は勝ち馬に乗っただけに過ぎない。そもそも私が敵対しようと味方しようと兄は勝った筈だ、史実がそうなんだから。

 しかし跡目争いは私のお陰で勝ったことになっている、実に不本意な話だ。

 「結果的に今川の殿がお勝ちになったから良かったものの、あれこそが今川の殿と謀反人どもの転換点となったのは間違いありますまい。」

 「夕、どうやらお前は違う男のことを話しているらしいな。残念ながらお前の目の前にいる男は馬の手綱を握るので精一杯の私だ」

 そう言うと、夕は大声で笑い始めた。冗談だと思っているらしい、いや全く冗談では無い。

 「この馬もです、並の馬2頭分の巨躯を持つこの暴れ馬を従えられるのは輝宗様しかおりますまい。手綱を握れるだけマシと言うものでは?」

  どうやらこの馬はとんでも無い名馬らしい、残念だったな米、お前は名馬だが戦場を駆け巡る機会は恐らく無いぞ。戦場に出れば直ぐに飼い主が死ぬからな。

 手懐けた方法?毎日餌を与えて一緒に寝てただけだ、家臣からは滅茶苦茶怒られたからな。私に言わせればコイツはただコミュ症なだけだぞ。

 「そんな貴方に、妻として少しでも助力したいと思うのです。ほら、あちらをご覧下さいな」

 ん?

 夕がどこかを指差した、言われるがままにその方向を向く。

 あそこにいたのは1人のおっさんだった、どこにでもいる男だ。なんだか全体的にくたびれてるように見えるな。

 気が合いそうだ。

 まさか、アイツと合わせる為に来たってのか?

 「織田弾正台信秀様です」

 「は?」

  あのオッサンが?


 ◇◇◇◇


 三河の国人領主、彼らは非常に独立心旺盛な者達であった。

 待遇としては彼らは今川の傘下ではあるが、その内心で彼らは確固たる独立心を抱いていたのだ。

 戦国時代というものを最も良く表していたとも言えよう、そんな彼らは今日軍勢を率いて織田軍と対峙する。

 軍議の席は何とも言えない雰囲気に包まれている、軍議の席の1番奥にして上座、つまり彼らの大将を待っていた。

 若き天才、孫武の再来とも目された男。

 今川の跡目争いの際、彼らとて自立の機会を伺っていた。今川は跡目争いで混乱している、そのドサクサに紛れて自立することも不可能なのではないかと。そんな彼らの幻想をぶち壊した男がいる、そしてその男こそが彼らの大将なのだ。

 三河の諸侯の中に何も無いと言えば嘘になる、輝宗を邪魔者だと思う者もいた。だがそんな彼らの殆どが、そんな輝宗に対し武士としても1人の男としても好意を抱いていた。

 その理由が、輝宗が国人領主たちにばら撒いた文にある。

 輝宗は国人領主に対して文を出す、その内容は気遣いの言葉だったり近況を報告しろなど取り止めの無いものである。近い方々、要するにお隣さんたちに形だけの挨拶をするという行為は輝宗にとって当然のことであった。

 だが、今川はそのようなことを積極的にしていなかった。今川にとって三河の国人領主など支配する対象であり、逆らえば預かっている人質を殺す、それだけの存在だったのだ。

 故に、彼らは新しく来た輝宗を鬱陶しく思っており、しかしながら好いてもいた。

 「今川軍、到着致しました!」

 小性の声が響く、それと同時に今川の将が入ってきた。そんな中、一際風格のある男が入って来た、逞しい髭を生やした男だ。

 その姿に、国人領主たちは頭を下げる。今川輝宗が来たのを確信したが故に。

 その男は頭を下げる男たちの間を抜け、今川輝宗と見られる男が中央に座る。

 「面を上げよ」

 一斉に国人領主たちが頭を上げる、そして驚愕した。

 そこにいたのは、未だ10代の男では無い。

 壮年の男であった。

 「今川輝宗の代理で参った、武田左京大夫信虎である。まぁ、ただの隠居だ」

   天幕の中が一気に騒めいた、武田信虎と言えば甲斐に轟く名将である。しかしそれよりも彼らは他のことに驚いていた。

 「代理と言うことは、輝宗様は来られないと言うことでございますか?」

 「そうだ」

  また揺れた、騒ぐなと言って信虎が国人領主を黙らせる。

 「皆の不満、最もである。大将が戦に来ないなど言語道断である、だが輝宗も無策と言う訳では無い。これより輝宗より渡された文を皆に伝える」

 そう言うと、信虎は文を広げ読みはじめた。

 騒めきが大きくなる、その衝撃は、今まで聞いた誰とも異なる者であった。

 「何だ、その指示は」

 国人領主の誰かが漏らした一言、その言葉はほぼ全ての国人領主の想いを代弁していた。



 
 

 

 

 
 


 
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