戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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記憶編

戦はせず、時は流れ

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 「終わったな」

 「終わり申したな」

 「あれは、戦だったのか?」

 「戦に間違いはありますまい」

 2人の男が部屋で碁を打っている、目の前には得意満面なハゲ隠居がいる。戦績は私の58戦50敗8勝負無しだ、このオッサン強すぎ。

 「死者が1人も出なかったのだぞ」

 「それもまた戦でしょう」

 「ククク、これがお前の謀略か。なるほどなるほど」

 パチリと石を打たれる、終わったな。そんな一手だった。

 織田信秀との会談は普通に終わった、いやあれは普通だったのかな?オッサンが2人で愚痴を溢しあっていただけな気がするな。

 織田信秀は、尾張を治める小さな大名だ。しかしその内実信秀は内乱のリスクを常に抱えており、今回今川に対して好戦的なのも家臣たちを纏め上げる為だと言う。

 何故戦をすることが内乱を治めるのか不思議に思う者もいるだろう、そこには色々な絡繰があるのだ。

 内が弱い男と言うのは、外に対して厳しく出なければならないと言えばわかるだろうか。外に対し威嚇することにより内にある内乱の種を牽制しているのだ。わかりやすく言うならば自分はこれだけ強い、だから逆らうなと言ったところか。

 今回今川に攻め込むのもその一環だったようだ、だが今川に本気で攻められれば織田に勝ち目は無い。北条と今川が争っている隙をついたのもそうした弱気が見えていたからかも知れない。

 信秀にしてみればこの戦いで何も得られなくても良いのだ、戦となり尾張家臣を纏めたことで既に目的は果たされていたのだから。

 そこで登場したのが私だ、私はそもそも戦がしたく無いからな。信秀も上の事情があったから直ぐに受け入れてくれた。

 戦は弓を打ち合い、今川三河国人領主が兵を引いただけで終わった。指揮は隠居にやってもらった、織田が約束を違える可能性もあったからね。だが織田もその後何もせずに兵を退いた。

 織田、と言うか織田信秀にとってもう一つ大事なのは今川に勝ったという結果だ。あまり戦わずとも信秀について行けば大丈夫という安心感は尾張の家臣も得たことだろう。

 こちらは面目は失ったものの、損害を出さずに済んだ。

 責められるのは私だけ、そう思ったんだがなぁ...

 「なんで、私の評判は上がっているのだ?」

 信秀殿と示し合わせたとは言え、戦に負けたのだからもう少し責められても良いんだけどなぁ。

 兄義元からは感謝の文が届いたし、三河の国人領主からも感謝の文と側室は要らないかなんて文が届く。

 全部いらん!!

 どうやら世間にこの会談は伝わっているらしい、今川輝宗は己の名誉より戦を回避することを選んだと。

 領民からの評判は良い、信秀と私が話をしたこともどうやら知れ渡っているようだ。

 「こんな戦もあり、か」

 「ご隠居様にはこのような戦ありませんなんだか」

 「まぁな、甲斐国を知っているか?」

 「貧しい土地と聞いております」

 そう言いながら石を打つ、隣で夕がこちらを見ながら薄く笑った気がした。亭主が負けるのを見て喜ぶか?普通。

 まぁその通りだ、酷いとは言わないが負けはほぼ確定だ。隠居が目の前でニヤニヤし始めた。

 こなくそ。

 「そうだ、貧しい。我らは領土を広げる為では無く食料を得る為に戦をしていた。だからな、少し妬いねったいのよ」

 「・・・・」

 嫉妬か、まぁ仕方がないことではある。土地は平等では無い、食糧を求めて皆争う。

 そういう者たちもいるのだ。

 「面子を保つ為に勝たねばならぬ将、領民を守る為にわざと負ける男か。妬いことよ、生きる為にやった。やらねば家族が飢えて死ぬ、そんな中で戦うなど想像もつかんだろうな」

 想像もつかない話だった、今川は豊かだ。楽では無いが無理をする必要は無い、現状維持でも生きていけるのだ。

 だが武田は違った。

 「これぞまさに盗賊よ、田畑は荒れ、災害はある。米は取れんから各地を襲って他領から作物を奪い人を奴隷にし、それをも売り銭にする」

 そう言う信虎はしみじみとそう言った、領主だった頃を思い出してるのかも知れないな。

 あ、違った。コイツ俺に止めの石を置きやがった!

 悔しそうな感情を感じ取ったのか信虎が薄く笑う、この祖父めが・・・・。

 「暴君の名なぞ、甘んじて受けるつもりだった。その業を晴信に継がせたくは無かったのだが・・・・この通り、嫌われてしもうたわい」

 武田晴信とは、武田信玄のことである。

 「故に輝宗よ、儂には負けるという選択肢が無かった故にこの策を見抜けなんだ。お前の強さはこんなものでは計り知れぬものなのかも知れぬな」

 「その通りと言いたいものですな、参りました」

 そう言うと、信虎は大人しく負けを認める私を嘲笑うように見る。だが嫌な感じでは無い。

 「ふふふ、こちらの領分ではまだ負けられぬの。軍略と謀略は違うのだ」

 「謀略なぞ...某は未だ初陣も済ませて無いのですぞ?」

 「ならば鍛えておくが良い、乱世ぞ。鍛えておくに越したことはあるまい」

 嫌すぎる、戦なぞ絶対に経験したく無いものだ。

 「夕、ご苦労だったな。それにしても何故弾正台殿と知り合いだったのだ?」

 そう、実はそれも気になっていた。あの密会は夕が用意したものだ、しかし弾正台殿は私が来ることを知らなかった。夕が弾正台殿を騙した?何故?

 「弾正台様とは釣り仲間なんです」

 「はぁ?」

 「良く遠乗りに出かけているのはご存知かと思います、その際に釣りを教えて頂いてそこから仲良くなったんです」

 「なんと、そんなことをしてあったのか・・・・」

 俺と隠居の2人が目を丸くして驚いてる様を見て、夕が笑い始めた。

 「あらら、天下に轟く戦国の雄を2人も驚かせられるとは、私も捨てたものではありませんね」

 笑い話でも無い、亭主に内緒で他の男のところに言っていたのだ。普通なら怒らなければならないところだ、だが怒れない。

 夕のお陰で人が救われたのは確かなのだ、あの戦いで死ぬ筈だった三河の国人領主や私の兵は救われた。

 そう考えればこの戦いでの軍功第一は夕だ。

 「まぁ、これからはあまり心配をかけぬよう城に篭ります。なんてったって身重の身ですからね」

 笑っているが、当然お前は外出禁止だ。妊娠してんだからな。

 三河の国人領主が側室を進めて来るのもそういう訳だ、正室が身重なんてチャンスも良いところだろう。何故か兄からも許可を得ている、と言うか三河との繋がりを強化する為にもやれって言われてるんだよな。

あのなぁ、大名でも無い奴が側室って何だよ。まぁ別におかしな話じゃあ無いけどね。

 少なくとも私は断っておいた、元の世界じゃ独身だったんだ。嫁なぞ1人で十分だ。

 そもそも、兄はちょいと私に対する警戒心緩すぎじゃ無いかな。まぁ信頼されていると思っておこう。

 隠居が夕を可愛い娘を見るような目で見ている、1年も一緒に暮らしていれば自分の娘よりも可愛いんだろうな。

 風が吹いた、また時が流れる、そんな気がした。

 
 
 

 
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