戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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前章・九州大名決戦編

戦線は開かれる

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 『始めよう』

  船の上でそう呟く男の声は、特別大きな声を出した訳では無い。

 むしろ呟くようなそんな声だ、にも関わらずその声は眼前にいる将兵に余すこと無く聞こえている。洞窟の中で話しているかのようだ、兵たちが声1つ挙げていないということもあるだろう。聞こえるのは波の音だけだ。

 声の主はカトー、黄金と揶揄される通りの美しい金髪と容姿を持ったその男の言葉は幾つもの修羅場を潜って来た将校たちに余すことなく伝えられている。

 その隣には、当然のようにディエゴ・アラトリステも控えていた。

 『この戦いは聖戦である、神は新天地を求めている。我らが気高き神の思想を世に知らしめるに相応しい場所を』

 キリスト教・・誰もが知っているこの宗教はこの時代、大まかに分けて2つに分かれていた。

『カトリック』

『プロテスタント』

 カトーの所属する国であるスペインはカトリックが盛んな国だ。

 彼らがスペインが戦をする理由の1つとして、キリスト教のにある。

 戦国時代における海外から見た日本の重要性が低かったという話はしたかと思うが、今回の侵攻の理由はキリスト教の保護にある。

 1549年、イエズス会のフランシスコ・ザビエルが布教したのがキリスト教伝道の始まりとされているがそれから既に20数年、日本国内におけるキリスト教信者の数はそれなりに存在していた。

 しかし今川が天下を取った後、今川がキリスト教に厳しい対応を行ったことで信者は激減する。

 この戦いは、日本のキリスト教信者を救う戦いでもあるのだ。

 『この戦いは理想へ向けた一歩である、より豊かな大地に向けた』

  そう言うと、カトーは後ろを振り返って見る。

 そこには、琉球を超え、明が見えていた。

 この時代、明への侵攻を西洋ヨーロッパの国々は考えていた。肥沃な大地を自らの手に納めたいと思っていた国は少なくは無いだろう。

 スペインもそんな国の1つだが、他の国に比べてその動きが少しばかり遅かったスペインは別のルートからの侵攻を目論んでいた。

 それが日本である。

 小さい島国と見られていた日本人、先に送り込んでいた宣教師たちの報告から文明レベルの低さも判明している。

 明を手に入れる足がかりには丁度良い。

 日本は明との縁が薄いという点も大きく響いている、明と日本の関係は宗氏などが有名だがそれ以外はあるか薄いものとなっている。

 足利将軍家は3代将軍足利義満の頃明と貿易をしていたがその縁も今や薄くなっていた。

 故に日本は、にとっては格好のエサとも言えるだろう。

『俺に見せろ、勝利を!』

 そう言い放つカトーの視線の先にいたのは、将校の前に立つ4名の幹部たちだった。

 「無論、われは神だ・・・・如何様にも求めるが良い」

 『神算鬼謀』

 そう二つ名をつけられた男が、カトーの視線に答えそう言い放つ。

 若干8歳の美少年ながらもその功績は多様で、その分野は幾何学、数学、天文学にまで及んでいる。小柄な体とサイズが合っていないぶかぶかの軍服が印象的だ。

 偉そうな口調ではあるが、その口調を咎める者はいない。彼らは知っているのだ、その言葉が大言壮語では無いことに。

 「先陣はお任せを、閣下の道、我らが切り開いて見せましょう!」

 敵兵から悪魔と呼ばれ恐れられる男が、胸を叩いて自らの王の言葉に答えた。ぴしりとしたスペイン軍特有の青い軍服をぴしりと着込む、こちらは20代後半ぐらいの海の男らしい顔だちをしている。

 「ふむ、先陣を好むか?

 そう聞く少年幹部に対し、ドラコと呼ばれた男は何の怒りも示さず優しげに答えた。

 「はっ、私は閣下の道を切り開きたいのでございます。我が願い、聞いて下さりませぬか?」

 「承った・・・・」

 少年幹部の言葉にドラコは顔を輝かせる、彼にとって先陣こそが男の華と思っている節は消えないのだった。

 「やぁねぇ、男はやっぱり戦いが好きなんだから。そう思わない?貴方も」

 『無礼女王』

 そう裏で呼ばれるその女は、隣に立つ男にそう呼びかける。

 多くの修羅場を潜って来た男たちの中に1人だけ紛れ込んでいたその女は、呆れる程豪華なドレスに身を包んでいた。

 高笑いする彼女、本来は一国の王妃でもある彼女ではあるがそれと同時に彼女はカトーの妻でもあった。

 「・・・・・・」

 「相変わらず何も話さないのね、この唐変木!」

 そう言いながら彼女は黙っている男に蹴りを入れる、男はみじろぎ1つせずその蹴りを受け止めた。

 ズドムという鋭い音がする、2メートルを余裕で超すその体躯に少しばかり揺れが走るがダメージを負った様子は無い。

 男はフードを被っていた、真っ黒なフードだ。いや布と言った方が正しいのかも知れない。

 その男はただ立っていた、その背筋は醜く、急では無いものの曲がっている。

 美しい肉体と、この船に乗るに相応しい高価な服を着ているにも関わらず男は何故かみすぼらしく見えた。

 「その辺りで勘弁してやってはくれないか、コイツは人見知りなんだ」

 「・・・貴方がそこまで言うのでしたら」

 カトーの一言で女はしぶしぶと頭を下げる、ほんの僅かだが大男がカトーに向けて会釈をしたような気がした。

 カトーはそれに手を挙げて答える、そして再度将校に向けて言い放った。

 『もう一度、皆誓ってくれ。我らに勝利を!!』

 「「「我らに勝利を!!!!!」」」

 カトーの呼び声に答え、歓声を上げたのは将校たちだけでは無い。

 この船に乗る全てのスペイン軍人たちが叫んでいた。

 そう、彼らが今から行うのは侵略戦争。

 どんなに綺麗事を並べてもその事実は変わらない、カトーはそもそもキリスト教信者ですらないのだ。

 彼自身は無神教信者である、現代なら珍しく無いどころか多数派だ。だが彼は祖国においては熱心な信者として国中から尊敬を集めていた。

 カトーは大きな手を広げて応える、そして船員たちの歓声を身体全体で受け止めていた。

 彼こそ、理想のである。

 彼は船員に、全ての人に愛されている。

 彼は偉ぶらず、自らの権力を傘に着ることは無い。

 彼は民衆にも愛されている、そのエピソードは名君に相応しいもので彩られていた。

 名君、太陽、黄金の獅子。

 カトーの名前を語る際、人々はそう言って彼を称賛する。

 美しいあだ名である、美しい裏でどす黒い陰謀を張り巡らせていることで有名な社交界ですら彼を敵として認める人間はいても口汚く罵る者はいない。

 カトーは完璧な王だった、

 彼はいつでもそうだった、学生においては学生を完璧に演じ、皆が望む姿になれた。

 なることができた、それは彼の高い感受性の賜物であるだろう。

 彼の才能の一端、その1つはここで発揮されていたのだ。

 カトーの身体に叩きつけられる歓声の嵐、それに耐え切れずカトーは手で顔を隠す、まるで感動で涙を流しているように肩を震わせる真似までして。

 

 実に滑稽だ、彼ら将兵は全員、カトーが日本を侵略するのはただの通過点だと思っているのだろう。

 違うのだ、カトーにとってこの国を支配することだけが全てなのだ。

 もっと言えばこの国を支配することすらカトーの望みでは無かった。

 カトーが望むのは再開、自らが愛し、自らが害した者達と会うこと。

 そして

 「決着をつけようぜ・・・桃ちゃん!!!!!!!」

  歪んだ笑みを直し、涙に目を潤ませてカトーは前を向く。そんな彼の姿に感銘を受けたのか将校の中には貰い泣きをしていた者すら存在した。

 『始めよう』

 カトーが先程と同じことを言う、それこそがスタート、それこそが始まりである。

 「誇りを胸に、ブッ殺せ!!!!!!!!」

 

 
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