戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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中編・決戦前日譚

戦争とは、泡末の如く

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 戦とは、金がかかる!

 納得であるだろう、人が何もしないで殺し合うのだ。やらねばならない農作業もせずだ。

 戦国時代における戦の主力は百姓たちだった、彼らは戦力であると同時に労働力でもあったのだ。と言うことは彼らが死ぬことはそのまま米の自国生産量にも関わって来る、故に敵を殺すことはそのまま敵の弱体化に繋がると言えよう。

 人間であるならば須く食事を取らなければならない、しかし食料を生産する百姓は同時に戦の主戦力でもあるのだ。そんな彼らを戦に出せば死に、食料の生産量は減ってしまう。

 まさにジレンマと言えよう、そんなジレンマに苛まれている役人がここに1人。

 彼は毛利に仕え、竹中半兵衛の文の指示の下糧食の運搬などに携わる小役人だった。

 だがそんな彼は、今とある城下で沙汰を待っている。通常彼のような小役人がわざわざ呼び出されるようなことはほぼ無いが彼には呼び出される心当たりが確かに存在した。

 それは、糧食の横領である。1572年頃の毛利領内は不作だった、民は飢え毛利はその手当てに奔走する羽目となっている。

 そんな状態でのこの戦争、当然百姓を駆り出し戦に赴いた。

 そこで問題になったのが食糧難である、それは九州全体の貧しい百姓たちを直撃した。

 食料は目の前にあるのに、それは戦争に使う糧食と諦めて死を待つしか無かった領民たち。

 そんな彼らを救ったのは、若き彼らのような小役人だった。

 それは、確かに青臭い正義感から来たものだろう。糧食を横領するなど悪に相応しい行いであることは間違いが無い。

 だが、彼は、は見捨てることができなかったのだ。

 死を待つことしかできない弱者を、強者今川に例え逆らう行いであったとしても見捨てることなどできなかったのだ。

 そんな彼らは、今この場で沙汰を待っている。

 彼らは罪人としてこの場にいるのでは無い、あくまで役人としてこの場に来る機会を与えられているのである。

 だが彼は横目でこの場に集められた者たちを見る、それは彼が知らない者もいるが民衆を救う為に悪事に手を染めた者たちだ。

 彼ら1人1人の表情はまさしく罪人のように、地獄の沙汰を待っていた。

 だが彼は、全くそれを後悔していなかった。

 18の、若きこの男は前を向く。自分の行いにただ一つの嘘偽りも無かったと信じて。

 民衆を救いたい、この思いは間違っていなかったのだからーーーー

 「輝宗様が来られる、全員控えよ!」

 遥か上段に座る上役からの言葉が飛び、全員が地面に土下座する。

 若者は最前にて、その足音を耳をすませて聞いていた。

 パタパタと、風情の欠片も無い音が聞こえて来る。

 今のが輝宗様なのか?

 若者はそのあまりの速さに首を捻る、自らの主人とは大違いだ。自分の主人はわざと大仰に構えゆっくりと歩いて来る、心のどこかでそれを卑下していたがそういったものとは無縁の方なのだと知った。

 それに今川輝宗に関して、教養が無いという噂は聞こえて来ない。むしろ民俗学や芸能に関しても深い関心を持ち積極的に支援を行っていると専らの噂だ。

 「面を上げよ」

  若い、だが良く通る声に合わせ我々は頭を上げた。

 両側に控えるは2人の男、歳若くも輝宗に見出されその才を発揮し上杉の戦を助けたとされる真田源二郎幸村と前田慶次だ。

 その奥、ほぼ輝宗の両隣には戦国最強としてその名を連ねる島左近と今川の中枢にいながらも輝宗に仕えることを選んだ明智十兵衛光秀が控えていた。

 戦の少ない世の中、輝宗が起こした旅の行末は既に多くの人々の語り草となっている。

 それは当然この若き役人の耳にも届いており、羨望の眼差しを向けること違いは無い。

 なんという御方か!

 言葉を飾らずとも、一流の武芸者は一流を見抜くと言われるが一流どころか二流にも満たないこの若き役人でも輝宗が一流であることはその佇まいにて理解した。

 厳しい、しかしどこか優しげな視線が辺りを見回す。

 その視線は、他人を蹴落とすような悪意ある視線では無い。どちらかと言えば子供を見守るかのような優しげな者だ。

 だが、その視線を前にして確かに彼らは何も言えなくなっていた。

 「初めての者が多いな、当然だ。九州方面軍の大将が1人、今川輝宗と申す。早速本題に入ろう、確か糧食の件だったか?」

 穏やかな声、声も独り言のようで決して大きいとは言い難い。だがその声は氷の如く下にいる自分たち1人1人に確かに響いた。

 「この件について任ぜられた者はどなたかな?」

 「某にございます、詳細はこちらに」

 そう言って、毛利の重臣の1人は輝宗に書状を手渡しする。

 そこには恐らく、我々が糧食を着服したことが書かれているのだろう。

 そこには我々が成した民の為という意思は無い、それは恐らく上までは届かないのだろう。

 我々に待っているのは、罪人としての結末だ。

 それを残念だとは思っていない、だが悔しいとは感じていた。

 手を握る、これから定められた己の末路を想像し、自分の家族を想像した。

 眼前ではあの今川輝宗が、遠目ではあるが書状に目を通している。明らかに糧食の数字が異なる書状が。

 彼が、自分の家族に謝罪をしている間にーー

「ふむ、

 事件は起きた。

 「はぁ」

 間の抜けたような声が重臣から漏れる、その心情は如何なものなのだろうか、明らかに数字が違うのに何も指摘をされなかったのだから。

 恐らく重臣は、全ての罪を我らに押し付けるつもりだったのだろう。民衆の貧困を解決し馬鹿の暴走を罰する、踊らされ無ければ行けなかったとは言えみすみす術中に嵌ったということを今更ながら実感した。

 しかし、何故輝宗様は数字の失敗を指摘しなかったのだ?

 いや、数字は明らかに減っていた。誤差の範囲では決して無い筈だ、それが何故?

 「十兵衛、どう思う。何か指摘する箇所はあるか?」

 輝宗様が十兵衛様に書状を手渡しする、そうすると十兵衛様はその書状を少ししか見ずに「ございません」と答えた。

 その顔を見て確信した、この方はわざと数字を見逃したのだと。

 恐らく我らの事情も、この方は知っておられるのだろう。故にあの方は我らを助ける為にわざとを演じて下さったのだ。

 「て、輝宗様。何かご指摘せねばならぬ箇所等はありませんか?」

 しかし、そんな我らの想いとは裏腹に重臣は輝宗様に対し詰問を行う。

 下衆が!

 そう吐き捨てたい気持ちをぐっと抑える、この重臣にとっては我らを見捨てた方が利が大きいのだろう。

 だが少し後、やはり輝宗様の方が上手であると私は知ることになる。

 「そうなのか、ならば総大将たる義以様に見せるが良い。私からご報告しよう」

 「い、いえ。それには及びませぬ!」

  勝ったな、そう確信した。

 つまりこれは茶番である、我々を許すための。

 そんな茶番に輝宗様を巻き込んだだけでも大事なのに、総大将まで巻き込んで問題無いという結果が出されれば責めを受けるのはこの重臣だ。

 「そうか?それならば良いが」

 あまりにも自然な演技に笑いそうになる、周りにいる者たちの中には笑みを誤魔化している者さえいた。

 「人は誰しも失敗する、1度目は誰にでもある失敗、2度目は無い。そうだろう?」

 今川輝宗が、こちらを見て、そう言った。

 厳しくは無い、だがもう次は無いのだと。

 1度目はこちらを組んでくれた、しかし次は正規の手段を取れとそう言っているのかも知れない。

 ここまでの自分の考えは全て妄想だ、否絶対に違うと確信できる。

 この方は、どこまで考えておられるのかーーーー

 「は、はい。失敗などあり得ませぬ」

 「そうか、それならば良い」

  そう言うと、輝宗様はその場を去って行かれた。

 あの方がこの城にいられた時間は僅か1日、しかしその合間に城を見守り我らの仕事ぶりをつぶさに見られてから行かれた。

 あれが、日本一の大将か。

 私は、ただ戦に強いだけでは無い、『真の大将』を見た気がした。

 あのお方は短い間で我々の心を掴んでいかれた、まさに天然の人たらしと言えるだろう。

 今輝元様とあの方が対立されたならば、少なくとも私は疑い無く輝元様に刃を向けるだろう。

 それだけの衝撃だった、皆も同じ気持ちに違いないーーーー





 

 

 

 
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