戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

文字の大きさ
98 / 100
中編・決戦前日譚

道に迷った

しおりを挟む
 「ご隠居様、何をなさっているのですか?」

 「いやな、幸村。流石に登場が約1ヶ月ぶりだから皆に忘れられているのでは無いかなと・・・・」

「はぁ?」

 馬に乗り、自分の肩を自分で揉みながら私はそう呟く。

 私たちは今、行きたくも無い仕事場戦場に向け出張中だ。

 あの号令の後、多くの大名が九州へと走った。

 その速さと来たらびっくりだよ、いくら何でも速すぎない?

 真面目にバケモンだと思うよ、先行しているお藤の報告だと既に伊達・上杉なんかは戦場近くまで到着しているらしい。

 おかしいよな、京都から九州まで馬とか走って行ってるんだぜ?

 流石に阿呆だろ、まだ京で大名に号令を出してから2週間程度しか経って居ない。報告だと九州では既に戦が始まっているようだ。

 その報告を受けたのが数日前だ、まぁ別に焦っては居ない。敵の数はそこまで多く無いらしいし九州勢で対応出来るかも知れないなんて報告すら上がっていた。

 まぁ、流石にその軍で対応できずとも伊達上杉がいれば大丈夫な気がするな。

 もしここにうるさいの光秀とか左近とかがいなければこのまま関西観光とかしたいんだが・・・・

 無理だな。

 私も一応遅れ目 (何度も言うようだが普通の行軍であり遅れている訳では決して無い、むしろ速い)ではあるが参加するつもりだ。

 本当、何で速いんだろうね。

馬を走らせる、結構頑張って急いでいるつもりだが到着は3日後とかになりそうだな。

 「それにしても、この行軍速度は異常ではありませんか?」

 馬を走らせている横で幸村と慶次が話をしている、途切れ途切れだが私も何でか全くわからんのよな。

 「確かにそうだな、それで俺も気になっていたんで聞いてみたのだがどうやら兵糧方の竹中半兵衛重治たけなかはんべえしげはる殿の指示らしい」

 兵糧方と言うのは、戦場における糧食の運搬などを任されている者を指す。

 半兵衛も頑張っているんだなぁ、それにしても食料係のお陰で行軍速度が上がったってどういうことなんだろう?

 「半兵衛殿を兵糧方に推挙したのはご隠居様だと聞いておりますが・・・」

 「あぁ、そうだ」

 それだけ言うと、再度手綱を握り前を向いた。

 馬から落ちる!流石に落馬なんて噂がたつと拙い。

 行軍途中だからちらほら百姓がいたりするんだ、旗を見て手を振ってくれる子供もいる。

 手を振り返したいけど手綱を離して片手運転なんて器用なことするリスクを取れないから無視だ、ごめんよ~。

 竹中半兵衛か、織田の今川侵略の後竹中半兵衛は私が誘って家臣にした。

 元々自分の主人と仲が悪かったから二つ返事で来てくれたぞ、性格は坊ちゃん気質のほんわかした性格だ。

 戦場の差配に長けているということだったから色々こきつかったな、主に武田の隠居がいない方面を丸投げした。

 ありがたかったよ、私は戦場に向かわないが三河諸侯を纏めるのに武田の隠居では疑問があるからな。

 ただ、竹中半兵衛という男は身体が弱かった。

 故に今川の戦が一通り終わった後、半兵衛には兵糧方を紹介した、あれ基本的に内勤メインだから疲労するリスクが少ない。

 読み書き計算も速い半兵衛ならば最適かと思ったのだ、どうやら正解だったようだ。

 無理させないようにだけということで他の兵糧方には伝えてあるし、半兵衛もゆっくり養生できるだろう。

 今度また文でも書いてやろう、できればゆっくり話もしたいな。











 これから僅か3日ほどで、輝宗達は軍に合流することとなる。


◇◇◇◇


 戦場に行きたかった。

 「半兵衛様、こちらの件でお話が」

 「ふむ、承った」

 戦場で死にたかった。

 「半兵衛様、糧食の追加の報告が」

 「あぁ、隣においておいてくれ」

 だが、それは最早叶うまい。

 竹中半兵衛重治、ほっそりした女性を思わせる容姿をしたその男は寝巻き姿で職務に励んでいた。

 職務に励むとは言っても布団の周りに大量の書類が配置されており、半兵衛はそれを手にとっては近くにいる者に指示を出したり書状を運んで貰ったりしてはまた新しい仕事が来る。

 この繰り返しであった。

 だが、その生活は半兵衛にとって苦では無い。むしろ外に出る必要が無いので肉体的には最適な職場と言っても良いだろう。

 だが半兵衛には、少しだけ。

 自らの自尊心プライドというほんの僅かな不満とも言えない望みが存在した。

 半兵衛は元々、斎藤家に仕える国人領主の1人に過ぎなかった。だが主君と馬が合わず出奔しこの世界では輝宗に求められて働いていた。

 史実に比べれば微々たる数だが、輝宗の代わりに戦場に出たこともある。

 名代、今川輝宗の名代として彼の立てた武功は凄まじいものであった。

 だが、彼には悲劇が存在した。

 1つは自分の容姿、そしてもう1つは自分の体の弱さだ。

 このせいで、半兵衛は自らの手で敵を討つことかできなかった。この容姿のせいで回りから侮られ自らの策を認めて貰えなかったことすらあった。

 半兵衛の年齢も大きい、当時彼は未だ20代の若者だ。そんな男に大人しく従わ無い者は一定数存在した。

 『え!?そいつら頭おかしいんじゃ無いの!?あーー、うん。じゃあな、私が考えたことにして良いから!ともかくお前の考えをゴリ押せ半兵衛!』

 これは、無能な者が言えば輝宗の名を貶めかねない危険な者だ。それ程の信任を頂いている、半兵衛はそう思い指揮に従事したことだろう。

 また、身体の弱さも半兵衛を苦しめた。死ぬなら戦場で死にたいと身体をボロボロにしながらも戦場を求めたこともある。

 だが輝宗はそれを認めなかった。

 むしろ、兵糧方とすることで半兵衛の身体の安寧を願ったのだ。

 それを半兵衛は残念だとは思っても無念だとは思はない、自分を拾ってくれ、多大なる信任を頂き、そして自分に最適な役職を輝宗は容易してくれたのだ。

 そこに恨みがある筈も無い。

 「それにしても・・・『中国大返し』とは面白い話だ」

 半兵衛は、そう言いながら今回の九州遠征に関する報告書をめくる。時期に多少のズレこそ発生しそれが原因の問題は発生しているものの致命的な計画の破綻が起きていないことに半兵衛は満足する。

 空いた戸から、半兵衛は空を眺める。

 女性が見れば惚れ惚れしてしまいそうな表情も半兵衛にとっては呪いのような者であった。

 竹中半兵衛重治に関する記述は、『武功夜話』や、江戸時代の軍記物である『太閤記』、子の重門が江戸時代に記した『豊鑑』などによって描かれている。

 江戸時代の講談などで、黒田孝高とともに天才軍師の人物像が固まり、現在の人気に至っていた。

 しかし、当時の資料に竹中半兵衛重治の名前は少ない。彼が長生きすればまた違ったのだろうが、彼は天正7年、つまり1579年にこの世を去ってしまう。

 彼の肉体は、この世界でも弱いままだ。しかし彼は秀吉に変わる理解者を得ることができた。

 半兵衛は印を書状に向けて押す、これは輝宗の印であり半兵衛に貸した物だ。

 半兵衛はこれを肌身離さず所持しており誰にも貸したことは無い。

 「これを、毛利の兵糧方に届けよ。詳細は現場にいる明智十兵衛光秀殿やご隠居様にお任せせよ」

 「はっ」

 また1人、半兵衛の指示の下輝宗の指示という体で書状が届けられている。













 後年の今川輝宗の書状に関して、戦場の差配に関する指示や職務に関する書状の多くが代筆であることが判明している。

 その代筆者の多くが輝宗の腹心たちであり輝宗の偉業の一部は本来は異なる人物の偉業なのでは?という説が近年の研究により浮上していた。しかし、職務における文と自由な手紙プライベートを使い分けていたのではという声もあり正確なところはわかっていない。

 少なくともわかることは、輝宗の全く預かり知らぬところで輝宗の指示が飛んでいるということだけである。

 

 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました

miko.m
ファンタジー
※最終話までプロット作成済み。 ※毎日19時に更新予定(たまに12時にも更新します)。 「勇者が500人!? 無理無理、勝てるわけないだろ! 和平だ、今すぐ娘を嫁に出せ!!」 魔王軍第一軍団長・ゴルドーは困っていた。たった5人の勇者に惨敗したなど、出世欲の塊である魔王ゼノンに言えるわけがない。保身のために彼がついた嘘。それは「勇者が500人いた」という、あまりにも適当な虚偽報告だった。 しかし、小心者の魔王様はそれを真に受けてパニックに! 「500人の勇者と全面戦争なんてしたら魔王軍が破産する!」と、威厳をかなぐり捨ててまさかの「終戦準備」を開始してしまう。 一方、真実を知った魔王家の三姉妹は、父の弱腰を逆手に取ってとんでもない作戦を企てる。 「500人は嘘? ちょうどいいわ。お父様を売って、あのハイスペックな勇者様たちを婿にしましょう!」 嘘を塗り重ねる軍団長、絶望する魔王、そして勇者を「逆スカウト」して実家脱出を目論む肉食系姫君たち。人間界のブラックな王様に使い潰される勇者たちを、魔王軍が「厚遇」で囲い込む!? 嘘から始まる、勘違いだらけの経営再建ファンタジーコメディ、開幕!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...