上 下
17 / 150
王都にて、王子と多重人格者

クロ、王都で男に問われる

しおりを挟む
王都近くの宿場で目がさめる。

今日は王都に着く日なので、起床時間がいつもより少し早い。

着いたら昼ごろ王に謁見する予定のため、朝一で門につかなくてはならないためだ。

今日?今日は「私」だ!

騎士達に稽古をつけてやりたいが、そういう時間でもない。身支度を整えて、集合時間の少し前に馬車に着く。

服?あぁこの世界に来たばかりの時来てた服は、アルノ領において言ってるぞ。あのままだと少し派手らしいからな!アストルフに服を頂いたぞ!

朝食をとり、準備ができたものから馬車へとくるのだが、集合時間前にちゃんとくるのは私と騎士達ぐらいである。

マロンは定時ピッタリに馬車に来る。

コレットはいつも少し遅れてくるのでマロンに怒られている。

騎士達の準備が完了した辺りを見計らったかのように、一番最後にアストルフが出てくる。

領主があまり早く馬車につきすぎると、騎士達がそれより早く準備しなければならない。その辺を気遣っているのだろう。こういう細やかな気遣いが人望たる所以なのかもしれない。

馬車に揺られている時間は正直暇だ。

自分も馬を貰って走って行った方が幾分が楽しかったのだろうが、他の人格は馬に乗りたくないらしい...

興味があったのは主人のレッドだけだ。全くつまらん奴らだ。

『見えてきましたよ!あれが王都です!』

カミーユがそう言うのを聞いて、私とコレットは馬車の窓から顔をだし、カミーユが指指した場所を見る。

ここからは王都を一望することができた。

高き城門が王都全体に一周しており、見た限りでは穴はなさそうである。道は綺麗に整理されており、人で溢れている。

真ん中には一目でわかるほどの大きな城があり、その回りにも支城が4つ囲むように存在していた。

あれこそケイアポリス王国王都、ベディウェアである。

城の前には馬車などがまだ早朝だと言うのに立ち並んでいたのだが、私達は貴族の馬車だとわかるとフリーパスで通して貰っていた。

城門を通り、アストルフの屋敷へと向かう。

王に謁見するにも色々準備がいるらしい。
貴族も大変だな。

家庭教師のマロンとはここで別れた。グリーンと話をしたことを仲間に報告したいらしい。頑張ってくれ。

『君との話は楽しかった。この説は是非君の名前で魔法学の石頭どもに発表させてもらうよ。これで我が国の魔法はさらに発展するぞ、君のおかげだ!』

と輝く目でそう言われた。私は何のことかさっぱりわからないので、ああ、と適当に答えた。

コレットにもすごいね!とかめちゃめちゃ言われたけど、なんか特別なことしてたかな...

グリーンとマロンの話は聞いてたけど、なんのこっちゃといったところだしな。

アストルフの屋敷についたが、アストルフは色々と準備があるらしく、謁見は少し延びて夕方ごろになりそうと言われたので、王都を少しだけ見に行っても良いと許可を頂き、コレットと王都を散策しに行くことにした。お目付けでカミーユも一緒にいるが、結構楽しみである。

もうすぐ昼ごろになるかと言うので、結構人通りの多い王都を散策した。露店なども見に行きたかったが、それはカミーユに止められた。

そもそも馬車で見てるから十分だろうと言うことなのだが、コレットと私は若干物足りなかった。というかコレットがめちゃめちゃ不機嫌なんだが......

仕方がない。強硬手段に出ることにする。

私はカミーユを呼ぶと、目にも止まらぬ速さで神器を持ち、カミーユの後頭部をぶっ叩いた。

カミーユは『あへっ?!』とかいう間抜けな声を出すと、ガクリとぶっ倒れてしまった。

このままにしてると人目につくので、裏の草むらに投げ込んで、私とコレットは王都の端へと走って行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

走りながらも、コレットはずっと上機嫌だ。

そんなにカミーユが嫌いだったか?まぁ確かにうっとおしかったが...不憫カミーユ。

王都の露店などを、隅々まで好きなだけ散策することができた。カミーユが言っていた観光スポットはまた今度とすることになった。

そのかわり、コレットと王都の人々の暮らしをよく見ることができた。

良いところだな。

コレットが行きたいところに歩いて行くと、王都の端に着いた。

気づくと回りは少し薄暗い、早朝で日がまだ完全に登り切ってないのは確かだが、ここまで日が当たらないのもおかしいだろう。

この雰囲気は元の世界でも見たことがある。

ここはスラムだ。どんなに栄えた都市でも、それなりに影はある。ここもそんな王都にある影の1つなのだろう。私は元の世界で散々見てきたが、コレットには刺激が強いか、と思い私はコレットを静かに引き離そうとする。

が、コレットは急に走り出した。

スラム(と思われる)場所に向かって一直線に。

私もそれに続いて、スラムの中枢に走り出していった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

馬車で、何もできなかった。

私だけ隠れて逃げる事は出来たけど、みんなを置いて逃げることが正しいことだとはどーしても思えなかった。

助けてもらったグリーンと屋敷であって話をした時は楽しかった。とても知識が豊富で、人と話しててあんなに楽しかったのは初めてだった。彼は自分自身のことはほとんど喋らないけど、彼の周りの話はとっても面白いの!すっごい速さで走る乗り物とか、遠くまで声が聞こえる魔法とか!

モードレッドが反乱を起こした時は、1人で戦いにいったと聞いたわ。巨人を倒して神器を貰ってきたなんで聞いた時はワクワクして、神器を見に行くためにグリーンの寝室に押しかけてちゃった!けど気がついたらグリーンが寝てる横にあったイスで寝ちゃってたわ!これはグリーンと私の秘密ね!

グリーンはちょっと、「変な人」だ。正直よく変人だなって言われるマロンより変な人かも、みんな気づかないけど!話すたんびになんか、違う人と話をしているかのような、そんな感じがするの。でもそれが楽しい。

カミーユ達をぶっ飛ばしてるグリーンも、マロンと難しい話をしているかグリーンも、なんか変な喋り方をしてるグリーンも、無駄に礼儀正しいグリーンも、みんなグリーンそのものなんですもの。

たまに1人でふらっといなくなっちゃうのは勘弁して欲しいわ。心配になるし、私も連れて行ってくれないかしら。

王都へ向かう途中に悪魔と戦った時もグリーンはグリーンだったわ、なんか不恰好な構えだと思っていたのだけれども、そこからすごい突きをだして、相手の剣を壊してしまったの、まぁ、その前にマロンがデッカい猫になった方が驚いたけど。

そしてあっという間に王都についてしまった、時間が経つのは早いのね。

お父さまに自由行動をしていいと言われたから、色んなところに行きたかったのに、カミーユが行き先をほとんど決めてしまうんですもの、つまらないわ、と思ったらグリーンがカミーユをぶっ叩いて気絶させてしまいました。

2人で王都の露店を楽しんでいたら、スラムに着きました。グリーンは私には早いと思って遮ってくれたようにも思いますが、ここがマロンからよく聞くスラムですのね。アルノ領にはなかったけど、その内情を知るためにも、一度入って調べて見なくては!そう勇んでコレットはスラムの中へとずかずかと入り込んで行く。

突き当たりを曲がって目に入ったのは、1人の男を複数人で取り囲んでいる様子であった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

複数人の屈強な男に、1人の青年が取り囲まれている。

屈強な男達は、全員武器を構えており、ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべている。

対して男は丸腰で、剣一本持ってはいない。

屈強な男達の中から、一際大きな体を持つ男...でか男が前に出て、発言した

『中々うちの支店で暴れてくれたそうじゃないか、強いらしいが、これだけの人数だ。それにここはとある貴族様お抱えの夜の街だぜ?ここを潰すことはできねぇよ。』

対する男はスラッとした印象のある男だ。身長は2メートル程度だろうか、相対しているかでか男より頭一つ抜けている。

これは助けなくてもいいから、コレットを安全な場所に避難させた方がいいのではないだろうか?と思っていたのだが、コレットは、騒ぎの中心に向かって歩きだしていた。

コレットはズカズカと両者の間にに入って言う。

『ちょっと!多人数で囲んで何してんのよ!守衛さんを呼ぶわよ!』

『なんだぁお前は?いい服を着ているな、さしづめいいところのお嬢さんってところか。こんなところで何してるんだ?護衛も1人だけとは...』

チラッと確認するようにこちらの方を見ながら男は言った。

『まぁいい、俺も忙しいんだ。あまり俺の顔を潰すような真似はやめてくれよ。じゃあな』

そう言ってでか男は去っていった。でか男の仲間達はびっくりした顔をしていたが、気にせず帰っていく。

コレットも安心したらしくへなへなと座り込んだ。

『助けてもらった......のだろうな、礼を言う。お名前をお伺いしてもよろしいか。』

『えっあの...アストルフ伯爵家3女、コレットと申します。』

と言うとコレットは丁寧なお辞儀をした。おお、堂に入ってる。散々練習した甲斐があったな。いや私もしたんだっけか。まぁ私じゃないけどなんとかなるだろう。

私も自己紹介を済ますと、長身の男から質問された。

『その武器はなんだ?』

私は自分の肩にかけるようにあるギリオンのことを指されたのだと気づき、護身用だが?答えた。

私がいつも持っていると、青く光って目立つ可能性があるため、背負う形で持っているのだが...この光ってない、なんの変哲も無いただの棒に何か用でもあるのだろうか。

まぁ単純に可笑しい可能性もあるのだが、少なくともこの世界に棒術はない。

『そうか、挨拶が遅れてしまったな。私はアロンという者だ。また会おう、コレット殿、グリーン殿。』

そう言うとアロンは去って行った。

コレットは酷く驚いた顔をしてこう言った。

アロン...この国の神器の持ち主で、騎士団長の息子の名前よ。
しおりを挟む

処理中です...