歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました

上日月

文字の大きさ
4 / 62

たい焼きの頭としっぽ④

こうして両親を無事説得?できた私は、母さんと手を繋ぎながら、百段近くある石階をのぼっている。

たった、それだけのこと。

だけれど、そこには容易くは超えられない、確かな違いがあった。この分け目を超えると、首が痛くなるほど見上げなきゃならない、小綺麗な高い建物ばかりが立ち並ぶ。

あんなに大きかった青々とした空も不思議と小さく、なんだか全てが作り物のような景色に思える。年に数回、家族でちょっとしたお出かけをするときくらいしか見ないから、余計にそう思うのだろう。

何度見ても、まるで初めてのように新しく感じる風景の中を、今日もまた新鮮な感動を感じながら、キョロキョロと落ち着かない面持ちで歩いていく。

でも、「ラヴィットプロダクション」のでかでかとした垂れ幕がかかっていたのは、背の高いガラス張りの建物たちに今にでも存在を消されてしまいそうな、全面コンクリートの低層ビルだった。

「母さん、ここ?」
「ええ、そうみたいね……」

((いや……騙された?))

一張羅のワンピースを着て、気合いを入れておしゃれをしてきた母さんと私。

口には絶対に出さないけれど同じことを考えながら、なんだか拍子抜けしたように、見上げることに疲れた首を、少しだけ横に傾ける。

するとグレーのバンを運転してきた宇佐見おばさんが、開けっぱなしのカーウィンドウから顔を出し、立ちすくむ私たちを笑顔で歓迎する。

「入って!入って!」

やけに響く足音とひんやりとした壁に、秋風が吹きつける建物の外よりも、ずっと寒く感じた。

鉄製の重そうなドアを何個か通り過ぎると、一番奥にある部屋の前で、宇佐見さんは古びた丸いドアノブを、ガチャガチャと音を鳴しながら回す。

そのドアの向こうには、暖炉の火が柔らかく灯り、この建物の雰囲気とは似ても似つかない、とても温かな空間が広がっていた。

足元にはペルシャ絨毯が、その上にはアンティーク調の真っ赤なソファや、おしゃれな木製の机が置かれ、天井からはおとぎの世界のようなシャンデリアが吊り下がる。それに、いくつもの西洋インテリアも並んでいた。

私は滅多に座ることのない高そうなソファに、少し身を縮こまらせながらも、母さんの隣でしっかりと受け答えをする。

「鈴子ちゃん、大きなカメラの前に立ったことはある?」

「えーっと、ないです!」

「じゃあ、私たちの腕の見せどころね!君たち、一肌脱いでちょうだいよ!」

「はーい!」

すると、そのがなりの効いた宇佐見おばさんの掛け声に応えるように、首からカメラを提げた女の人、スタンドライトを抱えた女の人、身体よりずっと大きなレフ板を手にした女の人が、隣の部屋と繋がるドアから次々にやってくる。

(……やっぱり、騙された?)

言われるままにポーズを取ってみせるが、どうも私がしたかったことではないような気がして、なんだかモヤモヤする。

妙に、心が落ち着かない。

(あれ……私、喋らないの?いつも拓真は呪文みたいなセリフ唱えてるよ?)

「ちょっと、ストップ!ストップ!」

またがなり声が聞こえると、鳴り続けていたシャッターを切る音も、やっと途絶れた。

そして、宇佐見おばさんは初めて会ったときみたいに、私と目を向き合わせながら、理解できる言葉で熱い気持ちを訴えてくる。

「鈴子!あなたは素晴らしいモデルよ!だから!もっと、自信を持って!」

「あのー…私、拓真みたいなの、したいんだけど……」

「……ああ……拓真は役者、あなたはモデル。違うように見えても、すべてに通ずるのが芸なのよ!」

宇佐見おばさんは意気揚々と、まるで降り注ぐ光を浴びるように高々と手を広げながら、天を仰いでいる。

一方、私の中で盛り上がっていた気持ちは、その真実を知ると一気に沈み込んだ。

(じゃあ、何?ほんとに騙されてたってこと!?)
感想 0

あなたにおすすめの小説

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

数年振りに再会した幼馴染のお兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなった日

プリオネ
恋愛
田舎町から上京したこの春、5歳年上の近所の幼馴染「さわ兄」と再会した新社会人の伊織。同じく昔一緒に遊んだ友達の家に遊びに行くため東京から千葉へ2人で移動する事になるが、その道中で今まで意識した事の無かったさわ兄の言動に初めて違和感を覚える。そしてその夜、ハプニングが起きて………。 春にぴったりの、さらっと読める短編ラブストーリー。※Rシーンは無いに等しいです※スマホがまだない時代設定です。