歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました

上日月

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たい焼きの頭としっぽ⑥

キッズモデルの仕事を始めてから、それまで以上に、あの長い段差を跨ぐようになった。だけど、その日常の変化は、元の生活が続いていかないことも意味していた。

次に石段の頂上から拓真の背中を見たとき、私は相変わらず二つ結びだけれど、セーラー服を着ていて、今からまさに大人の階段を登りはじめようとしていた。

提灯の優しい光が町を包み込む、穏やかな春の夜だった。

(あれ?拓真?)

拓真の背中もとても大きくなっていたが、なぜか肩が小刻みに上下していた。

人々の賑やかな声が各々の明かりの中に消え、落差の激しい静かな暗闇に隠れるように、途切れ途切れの、潜めた息遣いが聞こえてくる。

(……もしかして、泣いてる?)

拓真のその背中には、同い年の子供が背負うべきものではない、重たい何かが見えた。

その正体を薄らと理解し始めていた私は、もうあの頃みたいに、無闇に話しかけたりなんか、できっこなかった。

(……拓真が帰るまで、ここにいようかな)

それほど時間はかからずに、私はその啜り泣く声の理由を、知ることになる。

それは高校の合格祝いだと言って、母さんが豪勢な夕食をつくってくれた日だった。私は数々の御馳走を前にして、目を輝かせながら夢中になっていた。

「鈴子が高校生かあ。いやあ、こんなに大きくなちまって……あれ?なんだか、目から水が……」

「あら、お父さんったら……」

二人は今日も私の目の前で、ぴったりと肩を寄せ合っている。男泣きをする父さんの涙を、当たり前のように拭うのも母さんだ。

(まーた、やってるね~おふたりさん)

「そうだ、鈴子。最近、拓真くんと会ったりしてるの?」

「……いや?」

(あの日見たことは、そっと胸にしまっておこう……)

「お母さん、千世さんと話したんだけどね。拓真くんも東芸らしいのよ」

(ああ、千世さんって、拓真のお母さんか。まあ、そうだよね。ここから通える芸能高校ってだけで、限られてくるからなあ)

「へえ~、拓真は?元気だって?」

「それがねえ、劇団畳むらしくって。拓真くんは事務所の寮?かなんかに入ったから、会えてないんだって」

「……えほっ、エホッ、……はあ~??何それ!」

私は驚きのあまり、食卓に大きく手をつきながら、勢いよく立ち上がった。

私は、拓真みたいにはどうやってもなれない。
そもそも、私は拓真みたいになりたかったわけでもない。

そんな分かり切った答えから、ずっと逃げていただけで、自分でもさすがに理解できていた。

だとしても、これだけは心に決めていた。

仕事がもらえる以上は、自分から投げ出すことはしない。責任をもって最後までやり遂げてみせる。

拓真が、昔からずっとそうだったから。
少しだけ、その背中が見えたように勘違いしていられたから。

小さい頃から自分よりはるか先へと進んでいく拓真に、こうしていれば少しは近づける日がくるのだと、無理矢理にも思い込ませてきた。

でも、やっぱりその背中は、今でも見えないくらい遠い場所にある。

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