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目が覚めると薄暗い部屋にいた。
ここ、どこなんだ?
なんか、知ってるところのような気がする。
いや、そんなわけない。
俺は死んだはずだから。
ここがあの世というものだろうか?
なかなか実感が湧かないな。
まぁ、最後は愛する人を守れて死ぬことができた。
悔いはない。
神よ、俺は天国と地獄どちらに行くんでしょうか?
地獄でも喜んで受け入れます。
俺に幸せな最後をくれたのだから。
「いつまでぼけっとしてんのよ!?」
バシッ。
頬に伝う痛みよりも、聞いたことのある声に驚く。
「え?」
「あんた、あんたのせいなのよ!?本当にいい加減にしなさいよ!あんたが!あんたなんか生まれなきゃ…」
よく知っている顔だった。
俺が7歳の時に死んだ、母親だった。
ぶつぶつと何かを言いながらこちらを睨んでは叫んで俺を打つ。
過去に同じようなことをされていたことを思い出した。
彼女が死んだのは当然のことをしたからだった。
けれども、今思えば可哀想な母親だった。
母親は商団主の娘だった。
金だけでなく権力をも欲した商団主は自身の娘を公爵と結婚させようとした。
しかし、当時公爵には愛する妻がおり、彼はその妻以外娶る気はなかった。
商団主が策を練る中、公爵とその妻の間に生まれた子供が重病を患ってしまったことが転機となる。
商団主は異国からそのツテで病気を治せる薬を渡す代わりに自身の娘を第二婦人として娶るように要求した。その契約を呑むしかなかった公爵は商団主の思惑通りに彼の娘である俺の母親を迎え入れた。可哀想な母親だ。彼女にはすでに愛していた人がいた。彼と無理やり引き剥がされ、公爵家では夫から無下に扱われた。
それから最悪なことに義務的な夜の営みの結果、俺が生まれてしまった。
愛せるわけがない。
俺なんかが生まれてしまったから彼女はますます公爵家に縛られ、自身の父親からも縛られた。
「なんで!?なんで私ばっかり、いやよ、もういや!!」
そう言って泣き叫ぶ母親を眺めた。
ずっと昔にも、同じような彼女を見た。
それは彼女が罪を犯し、薄暗い一室に閉じ込められていた時だった。
彼女は次第に自暴自棄になっていった。
愛する人と引き離され苦しんでいる自分とは違い、愛する人と幸せに過ごす公爵をだんだんと逆恨みするようになった。
公爵を生きたまま永遠に苦しめてやろう、その思いで彼の妻を毒をもって殺した。
幼い俺はそれを呆然と見ていただけだった。
母親が言っていることも大人になったら理解はできたが、幼い俺は理解が追いつかなかった。
その後、証拠が発見されるとすぐに母親は公爵の手で殺された。
俺は彼女からの愛をもらうことができなかった。
そしてその愛をお父様とお兄様に求めてしまうようになった。
成長するにつれて知った、自身の境遇と母親の事情も過去に戻れないならどうしようもないものだった。
でも、今こうしてみると、俺にできることはあったのではないか?
「お母さん…」
「近づかないで!いやっ、こないで!こないでぇ!!」
半狂乱になって叫ぶ彼女の爪が俺の頬を掠めた。
叩かれ殴られまくった当時の記憶がほのかに頭をよぎる。
その時、彼女は泣いていた、叫んでいた。
多分、助けて欲しかっただけ。
彼女は、俺と一緒だった。
多分、愛されたかっただけ。
「お母さん」
そう言って初めて自分から抱きしめた。
彼女はばたつかせていた手足を止めて、ただじっと俺を見つめていた。
俺はかつてひたすらに愛されようと努力していた幼い少年を思い出し、彼の分まで彼女を抱きしめた。
「あんたのせいなのに…」
彼女は静かに涙を流して俺を抱きしめ返した。
ずっと求めていた温もりだった。
「お願いがあるの」
必死に俺にしがみつきながら彼女は言う。
「あいつの苦しむ顔を見てもちっとも楽にならなかったわ」
「そうなんだ」
「私はあいつに殺される」
「どうしたらいい?」
「今、殺して。あんたが私を楽にして。」
まっすぐにこちらを見据える彼女の目。
その目は「もう楽になりたい。」
そう言っているように思えた。
俺はコクンと頷く。
死ねば楽になれる。
それは身をもって体験したことだから。
「わかった。」
「私は自分じゃ死ねない。死ねないの。あいつを苦しめないと気が済まなくなっちゃったの。だから、あんたが終わらせて。そうじゃないと私はずっと、ずっと苦しいままだわ。」
彼女はカッターを俺に手渡す。
俺は彼女の上に馬乗りになり、首元に当てた。
「ごめんね、愛せなくてごめんね。」
そう呟く彼女は俺の頬をそっと撫でた。
慣れてるから大丈夫。
その意味を込めて俺は静かに微笑んだ。
首元を切ると勢いよく血飛沫が上がった。
その血を顔に浴びながら母親の顔に手を置いた。
血の水溜りがゆっくりと出来上がっていくにつれて、だんだんと体温がなくなっていく母親の頬。
その様子を感じながら呆然と悟った。
ここはあの世じゃない。
あの世では人は死なないだろ?
こんな、生暖かい体温を感じないだろ?
それにこの部屋は間違いなく、あの時母親が閉じ込められていた部屋だ。
ここは現実だ。
俺は8歳の頃に戻ったんだ。
ここ、どこなんだ?
なんか、知ってるところのような気がする。
いや、そんなわけない。
俺は死んだはずだから。
ここがあの世というものだろうか?
なかなか実感が湧かないな。
まぁ、最後は愛する人を守れて死ぬことができた。
悔いはない。
神よ、俺は天国と地獄どちらに行くんでしょうか?
地獄でも喜んで受け入れます。
俺に幸せな最後をくれたのだから。
「いつまでぼけっとしてんのよ!?」
バシッ。
頬に伝う痛みよりも、聞いたことのある声に驚く。
「え?」
「あんた、あんたのせいなのよ!?本当にいい加減にしなさいよ!あんたが!あんたなんか生まれなきゃ…」
よく知っている顔だった。
俺が7歳の時に死んだ、母親だった。
ぶつぶつと何かを言いながらこちらを睨んでは叫んで俺を打つ。
過去に同じようなことをされていたことを思い出した。
彼女が死んだのは当然のことをしたからだった。
けれども、今思えば可哀想な母親だった。
母親は商団主の娘だった。
金だけでなく権力をも欲した商団主は自身の娘を公爵と結婚させようとした。
しかし、当時公爵には愛する妻がおり、彼はその妻以外娶る気はなかった。
商団主が策を練る中、公爵とその妻の間に生まれた子供が重病を患ってしまったことが転機となる。
商団主は異国からそのツテで病気を治せる薬を渡す代わりに自身の娘を第二婦人として娶るように要求した。その契約を呑むしかなかった公爵は商団主の思惑通りに彼の娘である俺の母親を迎え入れた。可哀想な母親だ。彼女にはすでに愛していた人がいた。彼と無理やり引き剥がされ、公爵家では夫から無下に扱われた。
それから最悪なことに義務的な夜の営みの結果、俺が生まれてしまった。
愛せるわけがない。
俺なんかが生まれてしまったから彼女はますます公爵家に縛られ、自身の父親からも縛られた。
「なんで!?なんで私ばっかり、いやよ、もういや!!」
そう言って泣き叫ぶ母親を眺めた。
ずっと昔にも、同じような彼女を見た。
それは彼女が罪を犯し、薄暗い一室に閉じ込められていた時だった。
彼女は次第に自暴自棄になっていった。
愛する人と引き離され苦しんでいる自分とは違い、愛する人と幸せに過ごす公爵をだんだんと逆恨みするようになった。
公爵を生きたまま永遠に苦しめてやろう、その思いで彼の妻を毒をもって殺した。
幼い俺はそれを呆然と見ていただけだった。
母親が言っていることも大人になったら理解はできたが、幼い俺は理解が追いつかなかった。
その後、証拠が発見されるとすぐに母親は公爵の手で殺された。
俺は彼女からの愛をもらうことができなかった。
そしてその愛をお父様とお兄様に求めてしまうようになった。
成長するにつれて知った、自身の境遇と母親の事情も過去に戻れないならどうしようもないものだった。
でも、今こうしてみると、俺にできることはあったのではないか?
「お母さん…」
「近づかないで!いやっ、こないで!こないでぇ!!」
半狂乱になって叫ぶ彼女の爪が俺の頬を掠めた。
叩かれ殴られまくった当時の記憶がほのかに頭をよぎる。
その時、彼女は泣いていた、叫んでいた。
多分、助けて欲しかっただけ。
彼女は、俺と一緒だった。
多分、愛されたかっただけ。
「お母さん」
そう言って初めて自分から抱きしめた。
彼女はばたつかせていた手足を止めて、ただじっと俺を見つめていた。
俺はかつてひたすらに愛されようと努力していた幼い少年を思い出し、彼の分まで彼女を抱きしめた。
「あんたのせいなのに…」
彼女は静かに涙を流して俺を抱きしめ返した。
ずっと求めていた温もりだった。
「お願いがあるの」
必死に俺にしがみつきながら彼女は言う。
「あいつの苦しむ顔を見てもちっとも楽にならなかったわ」
「そうなんだ」
「私はあいつに殺される」
「どうしたらいい?」
「今、殺して。あんたが私を楽にして。」
まっすぐにこちらを見据える彼女の目。
その目は「もう楽になりたい。」
そう言っているように思えた。
俺はコクンと頷く。
死ねば楽になれる。
それは身をもって体験したことだから。
「わかった。」
「私は自分じゃ死ねない。死ねないの。あいつを苦しめないと気が済まなくなっちゃったの。だから、あんたが終わらせて。そうじゃないと私はずっと、ずっと苦しいままだわ。」
彼女はカッターを俺に手渡す。
俺は彼女の上に馬乗りになり、首元に当てた。
「ごめんね、愛せなくてごめんね。」
そう呟く彼女は俺の頬をそっと撫でた。
慣れてるから大丈夫。
その意味を込めて俺は静かに微笑んだ。
首元を切ると勢いよく血飛沫が上がった。
その血を顔に浴びながら母親の顔に手を置いた。
血の水溜りがゆっくりと出来上がっていくにつれて、だんだんと体温がなくなっていく母親の頬。
その様子を感じながら呆然と悟った。
ここはあの世じゃない。
あの世では人は死なないだろ?
こんな、生暖かい体温を感じないだろ?
それにこの部屋は間違いなく、あの時母親が閉じ込められていた部屋だ。
ここは現実だ。
俺は8歳の頃に戻ったんだ。
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