好き、これからも。

あちゃーた

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あー、足腰が痛い。

ズキズキと痛む腰を摩りながらベッドから立ち上がる。


「……おじいちゃん」


「少し黙りなさい」


余計な事をボソッと呟くナル君をキッと睨みつけて言う。

全く…誰のせいだと思ってるんだ!

やめてって言ったのにどんどん激しくするし。


「もう…節度を知りなさい、節度を!」


「大和、うるさい…」


ブスッとした顔で布団に潜り込むナル君。

僕は呆れながらもまだ高校生らしいその姿に微笑む。

ナル君は今ご両親と離れて生活している。

一見大人っぽく見える彼も実は寂しがってるのかもしれないな。


「ナル君、朝ごはん飯作ってあげるよ、何がいい?」


不貞腐れてしまった彼に優しく声をかける。

暫く沈黙が続いたがやがてボソッと声がかかった。


「……フレンチトースト」


「はいはい、じゃあ出来上がったら呼びに来るからね」


フレンチトーストっと…。

適当に手に取ったダボダボのTシャツに膝ぼど丈があるズボンを履いてキッチンに向かう。

相変わらずの広くて綺麗なキッチンにある、これまた馬鹿でかい冷蔵庫から卵や牛乳を取り出す。

それから食パンを切って卵などを混ぜ合わせたものに浸し、フライパンでジュージュー焼けばフレンチトーストの良い匂いが漂ってきた。

出来上がったフレンチトーストをお皿に乗せ、机に運ぶ。

なかなかの出来じゃない?

うん、満足満足!


「ナル君、できたよ~」


声を出しながら寝ているであろうナル君のいる部屋に向かっていると話し声が聞こえた。


「……んで?……ふーん、うん、うん、分かった」


ガチャっとドアを開けると半目のナル君がボンヤリとした状態で電話をしていた。

僕に気づくと手を上げて合図してくれる。


「じゃ、切る…うん」


ピッと通話を切るとナル君はこちらを見て言った。


「ごめん、仕事入った…昼にはいなくなる」


「あ、うん、わかった」


お仕事大変なんだなぁ。

ボンヤリとそう思いながら一緒にテーブルにつき、フレンチトーストを食べ始める。

昼からナル君がいなくなるなら僕、今日は誰のところに行こう?

フレンチトーストを食べながらスマホを取り出し、連絡先の一覧を見つめる。

空いてそうな人は何人かいるけどどうしよう?

うーむ。

一人唸っているとナル君に「うるさい」と言われのでひたすらにフレンチトーストを口に運んだ。


ナル君は食べ終わるとシャワーを浴び、洗面所で身嗜みを整え出す。

僕はというと二人分の食器を洗い、ソファに寝そべってボォッ~としていた。


「行ってくる…鍵閉めるの忘れないで」


「分かった、頑張って~」


暫くその状態でいるとすぐに昼間の時間帯になり、ナル君は部屋を出て行った。

僕もすぐさま身支度をして部屋を出る。

エレベーターでマンションを降りてどこへ行こうかとスマホを開いた…時だった。


「なぁ、お前Ω?」


ヒタッ。


肩に置かれる…冷たい感触。


「……だ、誰?」


恐る恐る後ろを振り返る。

そこにいたのは髪を派手に染めた男だった。


「Ωだろ?お前…しかも匂いがするって事は番がいないΩ!ちょーいいじゃん、相手してくれない?」


ニヤニヤとこちらを見る目に悪寒が走る。

匂いが強くなる発情期はまだまだ先だからβは匂いを感じないはず。

て事は…。


「あなたはα?」


「そう、な、いいだろ?」


顔を近づけてそういうαに何故か嫌な予感がした。

このαについて行ったらダメだと直感が叫ぶ。


「ごめんさい…僕、相手いるので」


今までとんでもなくやばいαを何度も見たし、体験をした。

でも、そんなαとは違う恐ろしい何かをこの男から感じた。

なんなんだ?

チラッと男の顔を見た……いや、違う。

見てしまった。

そして確信してしまった。

あの時の目だ。





僕を殺そうとした男の子と同じ目。






「ひっ!」


ドクンドクンと嫌な心臓音が鳴る。

明らかにこの目は殺気を放っている。


「そんなこと言わないで、ね?」


全身が硬直する。

ガタガタ震えて手足もまともに動かない。

すると何も言えない僕に機嫌を悪くした男は目を細くして耳元で囁く。


「なぁ、言うこと聞けよ…殺すぞ」


「ひぅっ、うっ、ひっ!あ、や、いや!」


手を無理やり結ばれ、どこかに連れて行かれようとする。

必死に抵抗するが力でαに敵うわけがない。

どうにか出る声もか細く、すぐ消えていってしまう。


やだ。

やだやだやだやだやだ!!!

真っ直ぐな道の通りを男はズンズンと僕を引っ張って歩いて行く。


「助けて…」


ギュッと目を瞑って呟く。

誰でもいい。

誰でもいいから助けて。


「助けて!!」


最後の力を振り絞り、口を精一杯開いて叫ぶ。


「あの、その人、嫌がってすよね、離してあげてください」


すると通りすがりの女性が足を止めて僕を心配そうに見ながら男に言ってくれた。

よかった。

これで助かる…。

男もさすがに人前で目立つような事はしないだろう。

そう思ったのに。



「うっせーんだよ!Ωはセックスして殺して遊ぶものだろ!?黙れ!!」


「ひっ、やぁぁぁぁあ!」


「あ、あの男、ナイフを持ってるぞ!」


「逃げて!逃げて!きゃぁぁぁぁ!!」


ブンブンとポケットから男はナイフを出すと暴れ出す。

もう通りはパニック状態だ。

さっき僕を助けようとしてくれた若い女性は尻餅をついて動けないでいる。

助けようとするが全身恐怖で硬直した僕は声を出すことすらままならない。

すると僕の手を握っていた男はニヤリと笑って言った。



「ははっ、おいΩ、お前を助けようとしてくれた人、殺しちゃうぞ~」


ドバッと汗が流れ出す。


なんで?


この人は何も悪くないのに。


僕が助けを求めたから?


女性を見た。


女性は怯えた目を男ではなく僕に向けていた。


その目が言う。





あんたなんて助けようとしなけりゃよかった…と。





「ご、ごめんなさい、お、お願いします、僕を…僕を殺して…くださ……」


震える口でどうにか声を出す。

僕が全部悪いんだ。

僕が。

僕が…。

高く持ち上げられるナイフが視界を通った。


目を瞑り、覚悟をする。


殺される覚悟を。


「ははっ、あー、ウケる!Ωって脆すぎ~、じゃあお望みどっ……」


ドンッ!!!


いつまで経っても来ない痛み。

途中で途切れた男の声。

何かが吹き飛ばされる音。


何?


何が起きたの??


恐る恐る目を開く。


まず入ってきたのは外の光。


それから…。



「………大和!」



温かい体温。


抱きしめられたのか…視界がすぐに真っ黒になる。


呆然としながらもその体温に身を任せる。


正直、殺されかけた事よりも今の状況の方が僕にとっては一大事だった。


これは夢?


何が起きているの?


ずっと求めていた香りが鼻を擽る。


間違いない、間違いないよね?


この匂いは。




「大和、大和!」


ギュウギュウと僕を抱きしめるこの人は…。



「……………セイ君?」





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