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しおりを挟む嘘つき。
嘘つき。
嘘つき。
お前、言ってただろ?
俺が何人と付き合ってようが付き合って欲しいって。
セイ君セイ君って。
頭にアイツの顔がチラチラとのぞく。
俺、どうしてしまったんだろうな。
なんでこんなに…気にしてしまうんだ、なんで??
だんだんと苛立つ気持ちに伴って速めてしまっていた足をピタッと止めた。
部屋のドアを開けたくなかった。
理由は明確だ。
開けたら…アイツがいる。
ここ最近まともに抱いてないし、顔も合わせていない。
「はぁ」
深い溜息の後、重々しく扉を開けた。
「せ、セイ君!お、お帰り!!」
いつになったらその話す時に噛む癖なおるんだ…。
俺といると緊張気味になって顔赤くして。
挙動不審なんだよ、お前は。
おかしくなってつい、笑ってしまいそうになる。
慣れないその感覚にむず痒くなった。
「ただいま…」
心底嬉しそうに微笑む、同居人。
そう、ただの、同居人だ。
別に俺はコイツのことどうも思っていない。
他のΩと一緒だ。
どうってことない、はずなのに。
頭にフラッシュバックするあの写真。
誰だよ、あの男。
結構いい男だったじゃん。
イケメンで高身長で。
俺みたいな貢がれてるαじゃなくて稼いでるエリートαか?
「飯は?」
「あ、えっと…」
またあのムカムカが襲ってくる。
くそ、なんなんだよ。
「こ、これ…」
恐る恐る出されたその食事に唖然とする。
いつもは豪勢な食事が質素なものに変わっていた。
何?
俺の事どうでもよくなったから?
だからってこんな風に態度変えるのか??
淡々といつもなら冷静に別れを告げるのに。
なぜか、告げられない。
冷静になれない。
「はぁ?何これ、お粥とかお前のセンス狂ってんの??」
勢いよくお粥が盛られた食器をひっくり返した。
激しく食器が割れ、破片が飛び散る。
怒りが収まらない。
「ご、ごめ………」
か細く震えている声にハッとする。
俺…今何を??
「部屋に戻るから」
お前と話をしたくない。
なぜか俺の事…いらないって言われたくない、お前には。
部屋に戻ってズルズルと壁に背を預けて座り込んだ。
ずっとイライラしてしまう。
どうにかしたい、どうにか。
どうしようもなくうずくまっているとポケットが振動する。
手を突っ込み、入れていたスマホを取り出すと電話がかかっていた。
静かにボタンを押し、スマホを耳に当てた。
「……何?」
「あ!セイ?アイだけど今度さぁ、そっちの家行ってもいい??」
その提案に息が詰まった。
この部屋に…アイツ以外を招きたくなかった。
いや、何言ってるんだ?
そんな事気にするからいけないんだ。
どうでいいだろ、どうでも。
「………いいよ、別に」
無理に吐き出した返答。
耳に嬉しそうな声が響く。
「やったぁ!セ……」
言葉を最後まで聞く前に電話を切った。
もうぐちゃぐちゃだ。
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