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スターチスは突として

1. 不安や恐怖よりも愛と未来の方が

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 今日は私にとって運命の日になるだろう。
 今日はこの国「レークサライト王国」の王太子であるエリック・ルーカス殿下とこの私、エーデル・リバランスが婚約をする日。私は王太子の婚約者という名声を手に入れるの。いずれは王妃となって国で一番幸せな女になってみせるの。

「エーデル様。殿下が間もなく到着されるようです。そろそろ移動してください。」

 ふふ。ついに来たのねこの時間が。

 ◆◆◆

「初めまして、エリック・ルーカス殿下。エーデル・リバランスでございます。」

「こちらこそ初めまして。リバランス嬢。」

 私の両親を含めて少し会話をしたあと、リバランス家ご自慢の庭園でお茶をすることになった。
 はぁ、どこからみてもエリック殿下はお美しい。この方と将来結婚する私ってば幸せ者ね。フフフ。
 しばらくお茶を飲みながらお話をした。エリック殿下と婚約についてお話しした。
 婚約にあたって必要なもの、パーティー、交流など大事なことを確認していった。
 しばらくすると、突然エリック様は立ち上がって私の前にやって来た。エリック殿下は跪くと私に話しかけた。
 この光景、どこかで見たような。あれ?目がチカチカする。少しクラクラする様な。まぁ、緊張かしら。今はエリック殿下の前、ここで倒れるなんていう失態を犯してはいけないわ。しっかりしなくてわ。

「リー様……」

 え、今何て。それよりもうダメかも。倒れる。
 私はふっと意識を手放してしまった。

 ◆◆◆

 ここはどこ?夢なの?
 私が成すこともなく呆然と立ちすくんでいると何かが現れ、映像が流れだした。

「やめてくださいエリック殿下ぁ!斬らないでください!いやぁぁぁぁぁ」

 どうして私がエリック殿下に斬られているの。一体これは何なのよ。あっ!今度はあっちに何かある。

「うっ、これは毒?ゲホッゲホッ、グッ、ゴホゴホッ」

 今度は毒を摂取したのか苦しんでいる私が映し出された。ホント何なのよ。次は何?

「どうして高貴な存在であるこの私が幽閉されなきゃいけないの。早く出しなさいよ!」

 なぜ私があんな場所いるの?きっと夢よ。早く目覚めなきゃ。
 あら、あんなところに人がいる。ん?何か言ってるみたい。

「あ!エーデル!」

 私のことを呼び捨てなんて気に入りませんわね。やだ、近づいてくる。
 そう思った時には私はあの謎の女に抱擁されていた。

「ちょ、ちょっと放しなさいよこの無礼者!」

「ごめんね、本当にごめんね。そしてありがとう。」

 私が謎の女を放そうとしているとある異変に気付いた。
 私、消えかけている。
 何、一体何が起こっているの。どうすればいいの?

「きゃあ、エーデル消えかけてる。なんで?どうして?もうお別れなんてしたくないよ。」

 その女は何か泣きながらわめいている。って、私も泣いてる?嘘でしょ、一体何が。

「あなたの未来を素敵なものに変えたいよ。もう辛い思いはさせないから。」

 もう私には何もすることが出来なかった。でも、直感的に感じたことがある。私は「死ぬ」と。なんだか夢ではないような気がしている。もしかしたら神様が私にチャンスを与えてくださっているのかもしれない。あの女が私の未来を生きてくれるのかもしれない。もう託してしまおう。エーデル・リバランスは死ぬけれどエーデル・リバランスあの女は生きる、運命は悲しいものだけどそれはそれでいいかもしれない。さよならこの世界。なんだかんだいってこの13年間は楽しいものだったわ。
 肉体が消える直前私は上を見た。そこにはある映像が映し出されていた。

「フフフ。任せたわよ、貴女。」

 泣き続けている目の前の女、いいえ、未来の私にそう声をかけはこの世界から消滅した。

 ◆◆◆

 うっすらと感じる光が思わず眩しくて瞼を開いた。

「あれ?エーデル?」

 それよりここはどこなんだろう。見知らぬメイド服を着た女性が誰かの手を握っている。えぇと、わたしの手?って、わたしの手ってこんなのだったかしら。

「あぁ、お嬢様。お目覚めになられたのですね。本当に良かった。すぐに旦那様をお呼びいたします。」

 そう言ってあの女性は部屋を出て行ってしまった。
 それより、ここがどこなのか確認しなくては。そういえばあの時エーデルがいて、思わず抱き着いちゃって、そしたらエーデルが消えちゃったのよね。確かあの時エーデルが「任せたわよ」って言ってた。わたしがぶつぶつと言ってると人が数人入ってきた。
 確かこの人って……エーデルの両親!?ってことはもしかしてわたしって

「エーデル!あぁよかった。本当によかった。」

 やっぱり。わたしって「エーデル」なんだ。それより、これからどうしよう。夢なのかな?

「失礼いたします。エリック殿下がいらっしゃいました。」

 え!どうして突然。いや、前から決まってたのかも。

「今日もか。でもエーデルはさっき目を覚ましたばかりだ。」

 もしここがあの世界なら確認してみたい。きっとエリックを見れば確証を持てるはず。

「わたし、会います。」

 周りの人たちは「は?」というような顔をしている。まぁ、 さっき起きたばかりの人が言わないものね。でも今は確証が欲しい。

「エーデルが言うのならいいが、その着替えなどで時間がかかるだろう。だから……」

「できるだけ速く着替えます。待たせません。」

 今のわたしは絶対折れないから。こんな時間がもったいない、はやく!
 ……はぁ。まだ確証はないけどここは貴族の世界。もちろん「おっもそうな」ドレスがいっぱいある。つまりこれを着なくてはならないのか。
 えーと、確かこのメイド服の子は……名前……あ!   フィール・クレリア。フィールはエーデルが幼い頃から仕えている侍女で、エーデルの無理難題にも抵抗することなくこなしていく非常に優秀なモブキャラだ。

「フィ、フィールさん?どれを着たらいいのかな?」

「お、お嬢様!ご気分がすぐれないのですか。」

 あれ?わたし何か変なことしたかな。別にどこも悪くないけど。

「この服を着てもいいですかね?」

 わたしが選んだのは一番軽そうで着替えやすそうな服。なんか侍女の方々に任せると遅くなってしまいそうだから自分で着替えることにした。
 着替えているとすぐに止められてしまった。別にお子ちゃまじゃないんだから一人で着替えられるのに。
 最後にショールをさっと羽織り、ブローチで止めたら完成!じゃなかった。髪に全く手を付けていない!まぁくしでとかせばいっか。ささっとくしで髪を梳かしこれで本当に完成。ついに会う確証を得るときだ。

 ◆◆◆

「エーデルでございます。失礼致します。」

 返事が聞こえたので、わたしはそっとドアを開け中に入った。
 そこにいたのはエーデルのお父さん、おそらくこの家の執事、エリックの従事者っぽい人、エリックだった。
 エリックはわたしの予想と同じく金色の髪とガーネットのような瞳を持った男性?だった。

「エーデル嬢!体調はもう大丈夫なのですか?。」

 子犬のようなうるうるとした瞳でこちらを見つめてくる。  うっ!やめてくれ。そんな顔見ていられないよ。

「あ、はい。大丈夫です。あ、いや、やっぱちょっと体調が……」

 そう言いつつわたしは目線を下に落とす。体調悪そうに見えたかな?今は確認するだけ。長居はしたくないからね。何があるかわからない。

「先ほど来たばかりですが、これでわたしは失礼致します。」

 そそくさと部屋を出た。
 ふぅ~~~~~。緊っ張した!でもこれで確信することが出来た。ここは……

「わたしが創ったゲーム世界!?」

 ◆◆◆

 まずはどういう状況なのか確認しよう。
 ここは乙女ゲーム「ルベライトが微笑む世界で」(通称ルべせか)の舞台、レークサライト王国。
 わたしがエーデル・リバランス。このゲームに登場する悪役令嬢で攻略対象の一人であるエリックの婚約者。攻略対象は5人いてその内1人が隠しキャラ。そしてライバルキャラが約4名。あとは、ゆっくり思い出そう。
 次はわたしの前世。前世は「高田美保」という名の23歳で日本人。日本大手ゲーム制作会社、株式会社コサージュプロジェクトの恋愛ゲーム開発部に所属していた。前世ではとにかく自分が創ったゲームのキャラクターが大好きすぎて、自腹でゲームグッズを買い漁っていたヲタク。
 ルべせかではエーデルが推しで、辛いことがあってもエーデルがいるからと頑張れた。だからこうしてエーデルを直接見ることが出来てしあわせ!ってそれより今後どうする考がえなくちゃ。
 一応ここはゲームの世界。何が起きるかわからない。ゲームのことはある程度覚えているが必ずゲームのストーリー通りになるとは限らない。それだったらせっかくのを楽しまなくちゃ。ここでのわたしはエーデルであってエーデルではない。だからこそ出来ることをしよう。

「悪役令嬢と王太子の婚約者なんて絶対になるもんか!わたしは『先生』になってみせるんだ!」

「うわぁぁぁぁぁ!お、お嬢様、いいい今すぐお休みになってください。すぐに医者をお呼びしますから。」

「待って、フィールさん。別に何にもないですよ。だから呼ばなくても……」

「いえ、何か悪いものに憑りつかれていらっしゃるのかも。待っていてください。旦那様をお呼びしますから。」

 何か悪いものって、まぁエーデルの中身は高田美保になっちゃったけれど。それよりフィールを止めなくちゃ。やばいことになりそうだから。

「そ、そうだ。フィールさんのお茶が飲みたいです。用意してもらってもいいですか。2人分を。」

 承知しましたと言ってすぐに部屋を出て行ってしまった。その間も準備をしなくちゃ。

 ◆◆◆

 しばらくしてフィールは戻ってきた。そういえばどうしてここには侍女がフィールしかいないんだろう。後で聞いてみようかな。

「フィールさんも一緒にお茶にしましょう。聞きたいことがいっぱいありますので。ね。」

 フィールは首を横に振っていたが、エーデルわたしの無言の圧に負けたのかついに首を縦に振りお茶を一緒に飲めることになった。
 フィールは緊張しているのか動きがぎこちなくまるでロボットダンスをしているかのようだった。乙女ゲームの世界だからかとにかくフィールはかわいい。本っ当にかわいい。

「フィールさん。今から言うことは絶対に誰かに言わないでください。わたしとの2人だけの約束でお願いします。」

 フィールは静かに「わかりました」と返事をしたので本題に入ることにした。

「わたしはから来ました。簡単にいうとこの世界じゃない別の世界から来ました。わたしは以前までのエーデルのことを全然知らないのでいろいろと教えてください。」

 以前のことを知らないっていうのは半分違うような気がするのだけれど。フィールは約1分間固まっていた。その後静かに 口を開いて話し始めた。

「最初に無礼なことを言ってしまいますがご了承ください。あなたは全然お嬢様とは似ていません。別人のようです。ですが、わたしは以前のお嬢様も今のお嬢様もどちらも大好きです。わたしは「お嬢様」が好きなのです。中身がどんなものであろうがお嬢様はお嬢様です。見た目が違っても心があればそれでいいのです。どんなことがあってもお嬢様のことを支えさせてください。お嬢様がお嬢様らしくいられるように。」

 フィール。なんて素敵な侍女なんだろう。わたしにはもったいないくらいに。

「ありがとうございます。きっとエーデルはあなたが侍女で幸せだったと思います。もちろん今のわたしもフィールさんのことが大好きです!」

 フィールの顔をみると目には涙が溜まっており今にも泣きだしそうだった。そんな顔を見せられたらこっちも泣きたくなるよ。

「フィールさん、わたしのことは『お嬢様』じゃなくて『エーデル』でいいですよ。」

「そ、それでは『エーデル様』でよろしいでしょうか。あと、わたしのことも『さん』付けしないでください。あと、敬語もおやめください。わたしはエーデル様に仕えているのですから。」

「そ、そう。じゃあこれからよろしくね。フィール!」

 これでわたしは信頼できる侍女が出来た。転生に気付いたときはどうなるかと思ったが案外何とかなりそうな気がする。わたしには前世の記憶があるし、「エーデルが大好き」という気持ちがある。よーし、絶対に悪役令嬢と王太子の婚約者だけは回避してやる!23歳、ルべせかヲタク、半分陰キャが異世界転生なんて、こんなワクワクするゲームじゃなくて生活絶対に楽しいに決まってる。ついに本格的に動き出すんだ、

「わたしのコンティニューした2度目のライフが!」

「エーデル様!どこかお体でも優れないんでしょうか。それとも何か食べますか?」

「あ、ごめんね驚かして。なんだかワクワクしてきちゃって。」

 あぁ、どんな未来が待ってるんだろう。ゲームのシナリオ通りなんてつまらない!わたしだけのストーリーを創るんだ!

「明日から礼儀作法、マナーの特訓をしたほうがよろしいですね。

 フィールの笑顔怖いよ~。
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