魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百八十四話 今田農地のカナダレモン

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 その日の劇を終え帰り支度をしておると、ニコニコ笑顔のクランチ監督がやってきた。


「フランさん、お疲れ様です」
「お疲れ様じゃ。わしに何か用か?」
「実はですね。フランさんに次の劇のオファーが来ているんですよ」
「次の劇?」


 クランチ監督の言葉にわしは眉を顰める。わしは半年後には王都を発っておる予定じゃ。新しい劇など受けられん、それはクランチ監督も知っておる筈じゃ。


「勿論、フランさんにお時間が無いことは重々承知しております。なので、開演期間が短い劇を受けてきました」
「どのくらいなんじゃ?」
「約2カ月です。この劇をやりながら稽古してもらいますので、お忙しくはなってしまうんですが……」
「開演はいつじゃ?」
「この劇が終わってから1週間後です」
「時間に余裕はある訳か」


 そのスケジュールならギリギリなんとかなりそうじゃな。この劇が終わった後は暇になりそうじゃったし、丁度良いとも思っておる。
 前向きに話を聞く気になったわしはクランチ監督に話を先に進めるように促す。


「それで?演目はなんじゃ?」
「あまり言いふらさないでくださいよ?」


 クランチ監督は周りを気にした様子で、小さく手招きをする。そんなに大声で言えん演目なのか?


「実はですね……」
「うむ」
「ぷりにゃんです」
「ぷりゅゅゅゅゅゅにゃあああああ!?」
「ちょっと!声が大きすぎますよ!」
「むぐ!?」


 クランチ監督がわしの口を塞いで周りを見渡す。


「なんかフランが騒がしいな?」
「鳥の鳴きまねかしら?」
「発情期の猫じゃない?」
「ゴリラの求愛行動とかかもしれないぞ」


 よし、ヌカレは後で殴ろう。
 クランチ監督は周りにバレていないことを確認して胸を撫でおろす。


「す、すまぬ、今、周りに聞こえんようにスキルを使ったから安心してくれ」
「もう……気を付けてくださいね」
「それで、どこまで話を聞いたかのう?」
「ぷりにゃんの劇のオファーが来たというところまでです」
「そうじゃったのう」


 衝撃的すぎて忘れておったわい。


「わしがぷりにゃん役か?」
「いえ、フランさんには敵組織のボスの役をやっていただきたいんです」
「ボスか。やりがいがありそうじゃな」


 わしはぷりにゃんって柄ではないしのう。
 魔王のわしならボスの役の方が適任じゃろう。


「肝心のぷりにゃん役は誰なんじゃ?」
「それがですね。まだ決まっていないんです」
「まだ決まってない?大丈夫なのか?」
「はっはっは、大丈夫な訳ないじゃないですか」
「なんで笑ってられるんじゃ」


 この笑顔、今の劇をやる前も見たことがあるのう。切羽詰まってて開き直っておるのだと最近気が付いたわい。


「誰かぷりにゃんにピッタリな人に心当たりは無いですか?」
「うーむ、そんなに都合の良いことがある訳……あ」
「いましたか?」
「うむ。ピッタリな奴がいたぞ」
「本当ですか!」
「なんなら今から会うか?」
「会います!その人は何処にいるんですか!」
「憲兵所じゃ」


☆   ☆   ☆   ☆


「という訳で、わしと一緒に魔法少女にならんか?」
「いきなりなんですか?」


 憲兵所の食堂で、わしとクランチ監督はラビを前にしていた。わしの言葉にラビは訳が分からないといった様子で首を振る。


「おうおうおう!可愛い後輩に何ちょっかい掛てんだ?」
「そうよ。ラビュちゃんの事なら私達に話を通しなさい」
「お前ら、話が進まないから黙ってろ」
「あと、私はラビです」


 ラビの隣には検察長であるビタルが座っており、後ろにはスイトとクイーンが立っている。


「わしが呼んだのはラビだけじゃが?なんでお主らもおるんじゃ?」
「名うての監督にラビュが呼ばれたと聞いて悪い予感がしてな。上司として付き添いに来た」
「ラビです」
「後ろの奴らは?」
「俺は先輩として参上した」
「右に同じよ」
「後ろのおまけは気にしないでくれ」
「おまけってなんだ!」
「私達は本気で面白そうって思っただけなのよ!」
「せめて建前だけはちゃんとしてくれ」


 愉快なやり取りをラビは苦笑しながら眺める。


「騒がしくてすみません」
「いえいえ、賑やかなことは良い事です」
「そう言っていただけると助かります。それで、私に何の用なんですか?」
「実はラビさんにピッタリな役があるので、オファーに来たんです」
「劇の役ってことですか?」


 小首をかしげるラビにクランチ監督が笑いかける。


「はい。ラビさんにとってもピッタリの役ですよ」
「それってまさか……」
「ぷりにゃんじゃ」
「やっぱり……」


 わしの言葉にラビが頭を抱える。


「良かったのう。お主のぷりにゃんが全世界に響き渡るぞ?」
「それを私は望んでいないんですが?」
「分かっておるよ。じゃが、クランチ監督に懇願されてのう。話だけでもさせて欲しいと言われたんじゃ」
「そうですか」


 ラビが隣のビタルをチラリと見る。ビタルはラビからの視線を受取って、口を開いた。


「その劇っていうのは、フランが出ているような劇ですよね?」
「そうですね」
「ということは、ラビが劇に出る場合は稽古にも出ないといけませんよね?」
「そうですね」
「稽古はどのくらいの期間やるんですか?」
「およそ3カ月。1日に5時間ほどです」
「その期間、ラビは満足に検察の仕事が出来ないわけですね?」
「そう……ですね……」


 ビタルの指摘にクランチ監督の顔が曇る。それはクランチ監督も気にしていたところじゃな。


「となると、検察としてはラビを劇に出すのは許可できません」
「ラビさんはいかがですか?」
「申し訳ないんですけど、検察の仕事の方が大切ですね」
「じゃよな~」
「分かってて紹介したな?」
「当たり前じゃろ」


 ラビの検察にかける思いは知っておる。普通に頼んでも門前払いなのは目に見えておる。


「俺は見たいけどな。ラビュのぷりにゃん」
「そうよね。舞台の家でマジカルチェンジって言ってるラビュちゃん見たかったわ」
「勝手なことを言わないでくださいよ。あと、私はラビです」
「じゃから、普通ではない方法でオファーを考えておる」
「普通ではない方法?なんですかそれ?」


 クランチ監督が隣で首を傾げる。


「なんで監督が首を傾げてるんだ?」
「監督にも何も言ってないからじゃな」
「なんで何も言ってないんだよ」
「わしも思いつきじゃからな」
「それで何をするつもりですか?」
「通常の劇がダメなら、憲兵側で劇を企画すれば良い」
「……は?」
「どういうことか説明してくれ」


 案の定、誰も何も分からん様子じゃ。まあ、分かるように説明はしておらんからのう。


「お主らがクランチ監督に劇の作成を依頼するんじゃ。そして、ラビをぷりにゃんにした劇をする。これなら良いじゃろ?」
「なんで憲兵側で劇の作成を依頼するんだよ」
「前に小学生相手に防犯講座をしたじゃろ?あれの延長として劇をするんじゃ」


 あの時はぷりにゃんが注意事項を言って、派手なエフェクトで魔法を使っただけじゃ。じゃが、今回は劇でストーリー仕立てにすることで没入感も上がる。


「つまり、前の防犯講座を劇の形にすると?」
「簡単に言えばそう言う事じゃな」
「それって劇にするメリットってある?」
「その方が楽しんで聞いて貰えるじゃろ?ちなみに、依頼してくれればわしは無償でボス役を引き受けるぞ」
「お得……なのか?」
「現役の俳優が無償で受けるんじゃぞ?お得に決まっておろう?」


 まあ、わしはぷりにゃんの劇に出たいだけじゃがな。ラビと一緒なら更に嬉しい。


「わしからの提案は以上じゃ」
「憲兵で劇をすれば、稽古も憲兵所で出来るしな」
「検討する価値はあるわね」
「私の気持ちを考慮してほしいですけどね」
「クランチさん、もう少しお話しましょうか」
「そうしていただけるとありがたいです」


 こうして、憲兵が主催するぷりにゃんの劇の話し合いが進められた。結局、この日だけでは決まらなかったため、話し合いは後日に持ち越されたのじゃった。
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