魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百八十五話 別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?

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 とある日の夜。月明りしか頼りにならない程の暗さの街で男が走っていた。息も絶え絶えの中で、男は必死に走っている。


「はぁはぁ……」


 周りの建物はほとんどが朽ちていて人の気配は無い。だが、すぐ傍にそいつはいる。そんな気持ちが男に纏わりつく。


「はぁはぁ……うわっ!」


 男は足をもつれさせて派手に転んだ。瞬間、隙を突くように建物の影から人影が飛び出してきた。


「あ、ああああ!?」


 男は飛び掛かってくる人影を見つけ、情けなく叫ぶ。そんな中で人影はナイフを手に男に襲い掛かって来た。
 もう終わりだ、そう思い男は目を瞑った。だが、いつまで経っても痛みはやってこなかった。
 男が恐る恐る目を開けると、男の前にはフードと鉄仮面をつけた者がいた。
 鉄仮面は人影のナイフをナイフで受け止めている。


「あ、あなたは?」
「……説明は後。早く逃げろ」


 口調に似合わず可愛らしい声で、鉄仮面は告げた。


「わ、分かった」


 男は鉄仮面に言われるがまま、走って逃げていった。人影は男を追おうとするが、鉄仮面が立ちはだかる。


「行かせない」


 人影は鉄仮面に立ちはだかれて、先に進むことが出来ない。
 人影も鉄仮面を倒さないと先に進めないことを理解したのか、ナイフを構えなおす。
 すると、周りの廃墟からも次々と人影が現れた。それを見て、鉄仮面───ノエルは両手でナイフを構えた。


☆   ☆   ☆   ☆


「ごえー?」
「そう、護衛。今回のおつかいはとある人物を守って欲しい」


 ノエルの部屋でホウリお兄ちゃんにそう伝えられた。


「オッケー!いつから守ればいいの?」
「今からだ」
「今から?随分と急だね?」


 急なおつかいは結構あったけど、今すぐにっていうのは初めてだ。それだけ急を要しているんだろう。


「今からここまで行って欲しい」
「オッケー」


 今からだと深夜になっちゃうかな。馬車で移動しつつ、ちょっと仮眠しよ。


「誰を守れば良いの?」
「この人物だ」


 ホウリお兄ちゃんから写真を受け取る。


「名前はシン。政府の用人だ。とある事情により姿を隠していたが、見つかって敵に追い回されている。今は時間を稼いでいるが、敵を倒さない限りは解決にはならない」
「敵の正体は分かっているの?」
「ブラッククロウって覚えているか?」
「えっと、闘技大会の時にノエル達を襲った人達だよね?あの時全滅したんじゃなかったっけ?」
「残念ながら全滅はしていない。残党が今回の襲撃をしてる訳だ」
「そうなんだ」


 ノエルはブラッククロウって人達と戦ってないけど、結構強いって聞いてる。しかも、連携も凄くて、狙われたら逃げ切れないらしい。


「ノエルに守り切れるかな?」
「一部を引きつけてくれるだけでも良い。ある程度ひきつけてくれれば、俺がなんとかする」
「全部ノエルでやっつけなくて良いの?」
「いつもなら全員倒せっていうところなんだがな。今回は人命を優先する都合上、足止めだけで良い」
「りょーかい」


 弾丸とか銃、ナイフとかに不足が無いか確認する。うん、問題無し。


「準備ができたら行くぞ」
「はーい!」


 こうしてノエルはシンさんを助けるために出発したのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 ノエルはナイフでブラッククロウの人達の攻撃を弾く。ここを通さなければホウリお兄ちゃんが指定した時間まで耐えることが出来る。本当はシンさんの傍にいたいけど、これだけの数を相手に守りながら戦うのは厳しい。今は多くの敵を引き付けることに集中しよう。
 ノエルが距離を取ろうと後ろに跳んだ瞬間、横から他のブラッククロウの人が抜けようと走って来た。
 ノエルは拳銃で足元を撃ってけん制して、怯んだところで接近して拳を叩き込む。


「うぐっ……」


 ブラッククロウの人は小さく呻いたけど、急所は外していたのか戦闘態勢を取り続ける。
 全力じゃないとはいえ、ノエルは魔装で強化している。見た感じ、魔装さえしていればステータスでは負けていない。けど、数が多いし、油断していると横から抜けられるかもしれない。


「油断せず、確実に行こう」


 セイントヒールは魔装を解かないと使えない。魔装を解いている間に間を抜けられる可能性があるから、ダメージはあまり受けたくない。つまり、倒すよりも倒されないことを意識していこう
 左手で銃、右手でナイフを持ちつつ、周りの様子を伺う。ブラッククロウの人達はノエルを取り囲むように位置取りしている。一斉に攻撃されると中々に厳しい。


「けど、やるしかない」


 瞬間、ブラッククロウの人たちが3人がかりでノエルに突っ込んでくる。
 敵の武器はナイフ。近距離での攻撃の筈だ。だったら……


「いくよ!」


 まずは目の前のナイフをナイフで弾く。そして、横からのナイフは拳銃を撃ってけん制する。
 最後に背後からの攻撃は蹴りで何とか弾く。背後の人は止められると思ってなかったのか、一瞬だけ動きを止める。その隙にノエルはナイフの柄をお腹にめり込ませた。
 何かを砕く感覚と共に、ブラッククロウの人は地面に崩れ落ちた。多分、鎧か何かを砕いたのかな。
 まずは1人。この調子で数を減らしていこう。
 油断なく構えるとブラッククロウの人達はノエルから距離を取った。闇雲に突っ込んでもやられると思ったのだろう。
 油断なく気を張っていると、斜め後ろの人がアイテムボックスから白い玉を取り出した。
 投げ物?爆弾か何か?
 そう思っていると、ブラッククロウの人は地面に向かって白い玉を叩きつけた。すると、玉から物凄い量の煙が噴き出し、辺りを覆いつくした。


「煙玉かぁ」


 こうなると視覚での感知は役に立たない。気配と五感を総動員して戦うしかない。
 感覚を目じゃなく、耳、肌、鼻に意識を集中させる。
 左から金属音……


「そこだ!」


 音がした方向に向かって拳銃を発砲する。すると、煙の中で火花が散るのが見えた。その火花を頼りに、ノエルは突っ込んで蹴りを放つ。
 確かな手ごたえの後、何かが壁にぶつかるような音がした。起き上がるような音も聞こえないし、倒したと思っても良いかな。
 次にノエルが感じたのは微かな酸っぱい匂いだった。この匂いは新型の爆弾に使われている火薬の匂い。つまり……
 ノエルは思いっきり魔装をして、匂いがした方とは逆に思いっきり跳ぶ。
 瞬間、煙が全部吹き飛ぶほどの強烈な爆発がノエルを襲った。


「ぐっ……」


 あまりの爆発にノエルは思わず目を閉じてしまう。魔装でダメージはほとんど0に抑えられた。けど、目を開けた時、何人かのブラッククロウの人が姿を隠していた。
 マズイ、早く見つけないとシンさんの所に行かれる可能性がある。けど、こういう時こそ落ち着いて状況を確認しないと。
 目の前の敵は3人。隠れたのは5人。目の前の敵を相手にしつつ、他の敵も探す。両方やるのはかなり難しい。


「けど、やるしかない」


 集中力を極限まで高めて、周りの気配を探る。右前方に2人、右後方に1人、左に2人、物陰に隠れている。
 ノエルに視線を向けている感じもあるし、隙を見せたら攻撃するか、シンさんを追うかすると思う。だったら、やる事は一つ。


「目の前の敵を速攻で倒す!」


 魔装を全開のままにして、目の前のブラッククロウの人に向かって突進する。
 ブラッククロウの人はノエルが突撃してくると思っていなかったのか、ほんの少しだけ動きを止める。
 相手の意表を突く行動をするべし、ホウリお兄ちゃんから学んだことだ。
 その隙を突いてノエルは膝蹴りを顔面に叩き込む。そして、目の前のブラッククロウの人が気絶したのを確認して、今度は左斜め後ろに発砲する。
 ノエルが放った弾丸はブラッククロウの人の右足に命中して、膝を着かせた。動きを止めて回避力を下げたところに、地面に落ちていた石を頭に向かって投げて昏倒させる。


「あと1人」


 姿が見えているブラッククロウの人はあと1人。ノエルがブラッククロウの人ならここで……
 瞬間、ノエルの後ろからナイフが飛んでくる音が聞こえた。ビンゴ!
 ノエルはナイフを右に跳んで躱して、ナイフが飛んできた方に向かって発砲する。弾丸はブラッククロウの人の胸に命中する。鎧が砕ける音と共に、ブラッククロウの人は地面に倒れた。


「……なんで分かった」
「人が少なくなったら、焦って不意打ちで攻撃してくるかなって思って。……じゃなかった、思っただけだ」


 危ない危ない。鉄仮面を被っている時はホウリお兄ちゃんの口調で喋るって決めたんだった。
 なんでもない顔で弾丸を銃に込めているけど、内心ヒヤヒヤだ。
 弾丸を込め終わったノエルは、目の前のブラッククロウの人に拳銃を向ける。


「降参するなら今の内だぞ?」
「……戯言を!」


 そう叫ぶと、ブラッククロウの人はノエルに向かって突進してきた。


☆   ☆   ☆   ☆


「ふぅ……」


 何時間も戦った後、ノエルの周りにはブラッククロウの人が転がっていた。
 皆、息があるし、意識だけ無くしている状態だ。


「強かった~」


 最初は良い感じだったけど、途中から妙に連携が良くなって粘り強くなってた。
 体に疲労を感じながら、ノエルは地面に座り込む。すると、物陰からまた人影が現れた。
 ノエルはナイフと銃を構えると、物陰からホウリお兄ちゃんが現れた。


「ホウリお兄ちゃん!」
「よお、お疲れさん」


 ホウリお兄ちゃんが微笑みながら手を上げた。どうりで全く気配がしなかった訳だ。


「シンは保護した。良く食い止めてくれたな」
「うん!頑張ったよ!」
「それにしても、残党とはいえブラッククロウを倒せたんだな?予想以上だったな」
「でも強かったよ。気を抜いてたらやられるか、逃げられてたかも」
「そうか。強くなったな」


 ホウリお兄ちゃんに優しく頭を撫でられる。ノエルは心地いい気分になりながら、ホウリお兄ちゃんのナデナデを受け入れるのだった。
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