魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百八十六話 お前を殺す(デデン!)

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「今日は俺以外と戦ってもらう」


 特訓が始まるなり、ホウリ先生がそう言った。


「どういう事かしら?」
「本番では色んなタイプの奴と戦うだろ?俺だけと戦って、戦いの経験を偏らせないようにするために、他の奴とも戦ってもらう」
「なるほどね」


 ホウリ先生は剣士でスピードタイプ。その他のタイプの相手と戦うというのは悪くない考えだ。


「その戦う人っているのは誰なのかしら?」
「もうそろそろ来るはずだ」


 ホウリ先生がそう言うと同時に、戦闘場の扉が開き筋骨隆々の男がやって来た。


「よお!ホウリ!」
「久しぶりだな」
「ホウリ先生、この人は?」
「こいつはボローネ。銀の閃光の剣士だ」


 銀の閃光と言えば、A級冒険者パーティの中でもトップのパーティだ。そんな人とも交流があるだなんて。いえ、ホウリ先生なら可笑しくは無いわね。


「嬢ちゃんがフロランだな?今日はよろしくな」
「ええ」


 ホウリ先生よりも二回りは大きい体。見た感じ、パワータイプのようね。
 そんな事を考えていると、ボローネも私の体をマジマジと見て来る。


「何かしら?」
「随分と細い体だな。ちゃんと筋トレしているのか?」
「最近はしていないわね」
「筋トレをしていない!?正気か!?」
「その質問に正気を疑うのだけど?」


 初対面の相手に聞くような質問ではないと思うのだけど?


「おい、ホウリ。筋トレをさせないとか、どんな指導をしているんだ?」
「技術面の指導に決まっているだろ。筋肉だるまを基準に考えるな」
「技術?筋肉さえあれば全て解決するだろ?」
「そう言うのは俺に勝ってから言え」
「貴様に勝てないのも筋肉が足りないからだ。筋肉を育ててリベンジしてやる」
「はいはい、後日な。今はフロランと戦ってくれ」
「おう」


 ボローネは剣を取り出すと、片手で肩に乗せる。剣は刃が付いていないロングソード。ただの筋肉を過信したバカに見えるけど、A級パーティに所属している。それなりの実力はあるはずだ。
 私は腰に刀を差して油断なくボローネを見据える。


「はっはっは!安心して何処からでも掛かって来てくれ、ちゃんと手加減するからな」
「は?」


 ボローネの物言いにカチンとくる。この私に手加減?舐めているのかしら?


「手加減なんて必要ないわ。全力で来なさい」
「なら全力を出させてみせてくれ」


 ボローネが挑発するように指を曲げる。何かしら、凄くムカつくわ。
 刀を握る手に力がこもっていくのを感じながら、鞘から刀を抜く。


「行くわよ!」


 私が突っ込んで刀を縦に振るう。しかし、ボローネは剣で安々と刀を受け止めた。


「中々に筋が良いな」
「それはどうも!」


 ホウリ先生を真似して、蹴りを繰り出すけど、片腕で容易に受け止められてしまう。


「上に意識を向けさせて、下から攻撃する。良い手だが視線から狙いがバレてるぞ」
「くっ……」


 刀を横に振るって、強引に足から手を離させる。
 力では敵いそうにない。だったら、早さで翻弄する!


「まだまだ!」


 ボローネの周りを動き回って、なんとか隙を探る。


「へぇ?中々の速さだな」
「その余裕そうな表情がムカつくのよ!」


 ボローネは肩に剣を置いて立ったままだ。私を目で追おうともしていない。
 速さには弱いようね。このままダメージを与えて吠え面かかせてやるわ。


「いくわよ!」


 背中に向かって水平に刀を振るう。しかし、


「ぬん!筋肉式背面取り!」


 背中に繰り出した刀は一瞥されずに背後に回された剣で受け止められる。


「な!?」
「狙いは悪くないぞ!もっと筋肉があれば通じたかもな!」
「貴方はそればっかりね!」


 距離を取って、再びボローネの周りを走る。緩急を付けていたつもりだったのだけど、タイミングを完全に見切られた。まだ攻撃が甘い。そう思って慎重に攻撃するタイミングを見極める。


「おーい、将来有望な若者を前にテンションが上がるのは分かるが、流石に戦ってくれ。守ってばっかりじゃ訓練にならないだろ」
「がっはっは!そうだったな!」


 ホウリ先生の言葉にボローネが肩から剣を下ろして構えなおす。まさか、今まで戦う気が無かったってこと?


「ふざけないで!」


 私は怒りに任せてボローネの左腿を狙って刀を振る。


「おっと」


 ボローネは左足で刀を跨ぐと、刀を振り切った私を刀身で軽く小突いてきた。


「ふぎゃっ」


 鼻を小突かれた私は後ろに跳んで距離を開ける。不覚を取ったけど、生ぬるい攻撃だ。まだ、戦う気がないだろうか。
 ホウリ先生もそう思ったのか、不機嫌そうな声を上げる。


「おーい、本気を出せとは言わないが、多少は厳しくやってくれ。手加減が過ぎても訓練にならないからな」
「分かってるけどな。子供相手に攻撃するっていうのも中々心が痛むんだぞ?」
「お前、父親だしな。気持ちは分かる。けど、訓練で手を抜いたら強くなれないのはお前も知ってるだろ?」
「まあ……そうだな……」
「分かったら、心をオーガにして戦え」
「へいへい」


 やる気がまだ感じられないけど、戦う気にはなったらしい。


「なら来なさい!」
「しょうがないな」


 私は再びボローネに接近して刀で切り上げる。ボローネもそれに反応して、剣で私の刀を止める。


「やっぱり、翻弄しきれていない?」
「早い魔物なんて山のように相手にしてきたからな。早いだけじゃ、俺には通用しないぜ?」
「くっ……」


 ここまで強いとは思ってもいなかったわ。こうなったら……
 私は刀を鞘に納めて、意識を集中させる。


「お?何かする気だな?」


 ボローネは剣を構えたまま、興味深そうにしている。その油断が命取りになるとも知らずにね!
 目を閉じて体を脱力させる。脱力からの抜刀。これが私が見つけた神速の抜刀の秘訣だ。


「……はっ!」


 脱力しきった私はボローネに向かって一気に抜刀する。
 間合い、速度、全てにおいて完璧な居合。これを防ぐ手段なんてホウリ先生くらいしか……


「おっと危ない」
「……え?」


 居合が当たると思った瞬間にボローネは後ろに下がって回避した。
 躱されると思っていなかった私は、刀を振り切って思い切り隙を晒してしまう。
 その隙を見逃さず、ボローネは剣の柄で頭を強打してきた。


「うがっ!」


 先ほどよりも強い衝撃が私の頭を襲う。
 あまりの衝撃に立っていられなくなった私は、思わず膝を着いてしまう。


「良い攻撃だが流石にタメがデカすぎる。どれだけ早くても、それじゃ当たらないな」
「くっ……」


 いつもホウリ先生に言われている事だ。油断している今なら通じると思ったのだが、甘かったか。


「ほら、立てるか?ゆっくりでいいぞ?」
「……バカにするのも良い加減にしなさい!」


 私はクラクラしている頭のままで、刀を振るう。しかし、力が乗っておらず簡単に受け止められてしまう。


「私は!舐められるのが嫌いなのよ!分かったならさっさと本気で来なさい」
「……本気か」


 瞬間、私の体に氷水のように冷たいものが走った。
 歪む視界にボローネの顔が映る。そこには甘さの残った目ではなく、敵を見据えるような鋭い視線があった。
 ボローネは剣に力をこめて、私の方に押し返してくる。


「俺は冒険者だ。相手は魔物が多い」
「そ、それが何よ……」
「つまり、俺の本気っていうのは、相手を殺すことだ」
「そ、そんなの……」


 力が上手く入らず、ボローネに押し返される。


「本当に分かっているか?」
「分かってるわよ!」


 ボローネの気迫に負けじと、私は大声で答える。


「なら、分かった」


 ボローネは剣を押し込みながら私に顔を近づける。


「お望み通り、ここからは戦う」
「ひっ……」


 あまりの迫力に張っていた虚勢が剥がれていく。
 そこからの私は戦術も攻撃も、全てボロボロの戦いをしてしまったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「ふぅ。今回の仕事は大変だったな」
「お疲れさん。嫌な役回りを押し付けて悪いな」
「本当だぜ。なんで、子供相手に殺す気で戦わないといけないんだよ。心が痛すぎて吐くかと思ったぜ」
「ガタイが良くて強そうな奴なら誰でも良かったんだけどな。お前しか都合が合う奴が居なかったんだよ」
「それでも、泣きそうな子を攻め立てるのは心が痛くなる。こっちがトラウマになりそうだぜ。いくら給料の割が良くても、もうやりたくないな」
「それにしては良い悪役具合だったぞ?役者としての才能があるんじゃないか?俺が脚本を書いた劇に出るか?」
「勘弁してくれ」
「それは残念」
「それはそうと、1つ聞いて良いか?」
「なんだ?」
「なんであんなことさせたんだ?」
「あまり詳しくは言えないが、フロランの為だ」
「殺す気で戦わせることがか?」
「ああ、今回の経験は必ずあいつの役に立つ」
「そうか。まあ、俺は細かいことはどうでもいいが」
「お前の細かいことを気にしない性格は美点だな」
「そうか?なら友よ!これから鍛えに行かないか!」
「少しは話のキャッチボールをしてくれ」
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