魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百九十八話 ノエルのパーフェクトまもの教室

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「…………これはどういう事よ?」
「え?何が?」


 教壇に立ったノエルをサルミちゃんがジト目で見てくる。


「なんでって、今の時間って自習でしょ?」
「そうね」
「だから、ノエルが先生役をしようかなって」
「そこが分からないのよ」


 サルミちゃんが頬杖をついてため息を吐く。


「確かにナマク先生は4時間目は自習って言ったわ。特に課題も出ていないから自由にできる。けど、あなたが先生役をしようとする意味が分からないのよ」


 サルミちゃんの言う通り、今は4時間目の自習の時間だ。自習の時間は課題が出されることもあるけど、今日は何も用意されていない。いつもなら一人ひとりが思い思いのことをやっている。けど、今日は一味違う。


「皆からノエルの授業を受けたいって言われたからさ。今日のノエルは先生だよ」
「その格好も先生の真似ってことかしら?」
「そうだよ」


 ノエルはメガネを付けてナマク先生の真似をしている。手には銀色の伸び縮みする棒も持っている。
 流石にスーツじゃなくて制服のままだけど、気分だけはナマク先生だ。


「というか、皆もノエルでいいの?」
「ノエルちゃんって頭いいしね」
「テストも満点だしね」
「俺はノエルってどんな授業するのかが気になる」
「えへへ……」


 クラスの皆が口にする理由は色々だけど、ノエルの授業は肯定的っぽい。


「皆が良いなら私から言う事は無いわ」
「イエーイ!」


 嬉しくなっていると、ふとフロランちゃんの席に視線を向けた。てっきりソッポを向いているのかなって思ってたけど、フロランちゃんもノエルの方を見ていた。
 更に嬉しくなったノエルは張り切って用意してきた教材を取り出す。


「今日は魔学の復習をします!」


 鞄から何枚かの写真を取り出して、マグネットを使って黒板に貼る。
 そして、一番右に貼った写真に写っている緑色の魔物を棒で指す。


「魔物の特徴の復習だよ。まずは基本的な魔物のゴブリンから」


 ノエルは教壇の下からサッカーボールくらいの大きさの物を取り出す。


「……何それ?」
「え?ゴブリンの被り物だけど?」
「それは分かるわよ。なんでゴブリンの被り物があるのか聞いているのよ」
「ノエルが被るためだけど?」
「なんで被るのかも聞いて良いかしら?」
「その方が楽しいじゃん」
「楽しいって……」
「楽しさは大事だよ?」


 ノエルは被り物の耳をいじりながら答える。


「確かに写真だけ見せて授業すれば、楽だし、いっぱい授業できるよ?でもさ、楽しい授業の方が皆もいいでしょ?」
「はぁ、分かったわよ。好きにしなさい」
「やったー!」


 ノエルは意気揚々とゴブリンの被り物を被る。ゴブリンの目の部分は網状になっているから意外にも視界は良好。ちょっとだけ息苦しいけど、戦うわけじゃないし問題無いと思う。


「ゴブリンは主に群れで過ごす魔物。武器は棍棒だよ」


 教壇の下から棍棒の形をしたクッションを取り出して右手に持つ。


「この棍棒はゴブリンにとって大切なもので、寝るときも抱えたままなんだって」


 ノエルは棍棒クッションを構えたまま前傾の姿勢になる。


「背はノエルくらい。攻撃は棍棒を振り回すだけで、あんまり頭は良くないんだって」


 ノエルは右に左に棍棒を振り回してみる。


「敏捷性も低いから、万が一出会ったら逃げること。けど、大人数でいることが多いから逃げる方向には注意してね。戦えるなら、棍棒を振り切った時に攻撃したら倒しやすいよ」
「あのー」


 ノエルが気分良く棍棒を振り回していると、クラスメイトのキューレちゃんが手を上げる。


「なあに?」
「教科書にはそんなに詳しいこと載ってなかったんだけど、どこで知ったの?」
「うーんとね、前に戦った時にホウリお兄ちゃんに教えて貰ったんだ」
「え?ノエルちゃんってゴブリンと戦ったことあるの?」
「うん」


 王都に来る前に、レベル上げの為に何体かと戦ったっけ。初心者向けの魔物だって言われてるだけあって、あんまり強くなかった。


「ほんと!?他にどんな魔物と戦ったの!?」
「ブロンズウルフとかかな?オオカミさんみたいな感じだったけど、牙が鋭かったんだ。あの牙は木に穴が空くだろうね」
「マジかよ!すげー!」


 教室の中が一気に色めき立つ。ちょっと照れくさいけど誇らしい。


「どんな感じで戦ったの!?」
「そうだねぇ。サルミちゃん、ちょっと手伝ってくれない?」
「何する気よ」
「ゴブリン役おねがい」
「はぁ。仕方ないわね」


 サルミちゃんにゴブリンの被り物をかぶせて、棍棒型のクッションを持たせる。


「適当に振り回しておけばいいから」
「はいはい。好きにしなさい」


 ゴブリンの顔のサルミちゃんが棍棒型のクッションを振り回す。


「ゴブリンは棍棒を振った。だけど、ノエルはその棍棒を躱す!」
「おお!」


 棍棒を擦れ擦れで躱して、一気にサルミちゃんに接近する。
 そして、定規をナイフに見立ててサルミちゃんに切り掛かる……振りをする。


「ぐわああああ」


 定規を受けたサルミちゃんが棒読みで倒れる。


「イエエエイ!」


 ノエルが定規を掲げて勝どきを上げる。


「「「わああああああ!」」」


 ノエルの勝どきに合わせて皆が歓声を上げる。……あれ?今って何の時間なんだっけ。


「あ、そうだ。魔物の話だっけ。ゴブリンはそこまで特徴が無いからテストには出にくいかな。けど、武器が棍棒ってことと、集団で行動することが多いのはテストに出るかも」
「……私はいつまで寝ていればいいのかしら?」
「あ、ごめんごめん」


 寝転がっているサルミちゃんを起こして被り物を取る。


「じゃあ、次はブロンズウルフの役をやって貰おうかな?」
「私に四つん這いになれと?」
「い、いやだなー。冗談だよ」


 サルミちゃんがノエルを睨みつけながら自分の席に戻る。サルミちゃんから刺すような殺気を感じた。危ない危ない。
 教壇の下からブロンズウルフの被り物を取り出して教壇の上に乗せる。そして、口の方を捲って鋭い牙を露出させる。


「ブロンズウルフの特徴は鋭い牙。これで敵を攻撃するんだ」
「それだけ?」
「ううん。最大の特徴はシルバーウルフとゴールドウルフだよ」
「別の魔物?」
「ふっふっふ、実は同じ魔物なんだよ」
「え?」
「そうなのか?」


 ブロンズウルフの写真の上にシルバーウルフとゴールドウルフの写真も貼る。


「ブロンズウルフのレベルが上がるとシルバーウルフ、ゴールドウルフに進化するんだ。魔物の中には進化するのもいるんだけど、ブロンズウルフはその代表だね」
「進化するとどうなるの?」
「簡単に言えば強くなるよ」
『雑すぎるだろ、もっと細かく説明しろ』
「えーっとね。全体的にステータスが上がるんだけど、特に攻撃力と敏捷性が高くなるね」
「そうなんだ」
「あと、これが重要なんだけど、ゴールドウルフは雷装が出来るの。目にも止まらない速さで、A級の冒険者でも苦労するんだって」
「まさか、ノエルちゃんってゴールドウルフと戦ったことも?」
「流石にないね」


 襲われたことはあるけど。


「重要なことは、レベルで進化すること、ゴールドウルフは雷装すること。ゴブリンみたいに集団で行動することは少ないね」


 ノエルはブロンズウルフの被り物を教卓の下に戻す。さてと、ここからがメインイベントだ。


「皆、流石に被り物だけだと飽きてくるよね?」
「ん?何が言いたいのよ?」
「本物の魔物、見たくない?」


 ノエルの言葉に教室の中が一気に騒めき出す。


「え?本物の魔物?」
「ここで見られるの?」
「どんな感じなんだろう?」
『どの魔物を見せる気だ?』
「今日持って来たのはね、エレメントスライムだよ」
「ああ。授業の時にナマク先生がテストに出やすいって言ってた魔物ね」


 エレメントスライムはかなり沢山の特性を持っている。だから、テストに出やすい魔物として有名だ。
 だからこそ、皆にエレメントスライムの実物を見せたかったんだよね。


「エレメントスライムなんてどこで手に入れたのよ」
「騎士団さんから借りたの。学校の授業で使うって言ったら貸してくれたんだ」
「早く!早く見せて!」
「まあまあ、慌てないで」


 ノエルは勿体ぶりつつ、教壇の下に手を入れる。そして、エレメントスライムを入れていた水槽を教壇の上に出す。


「じゃーん!」


 ノエルは水槽を両手で指し示す。……何も入っていない空の水槽を。
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