魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第四百一話 暗いよー!怖いよー!

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 今日、俺は用事があって騎士団に来ていた。今は用事を終えて帰ろうとしたところだ。
 その途中、廊下で魔物管理を管理している責任者である女性『スカレ・ウッカ』と会って挨拶を交わしている。


「これはホウリさん。お久しぶりです」
「ウッカさん、久しぶりです」


 頭を下げるウッカに俺は微笑む。そういえば、ウッカには個人的にも借りがあったな。


「先日はありがとうございました。おかげで自習の時間が充実していたってノエルも言ってましたよ」


 騎士団では訓練などの兼ね合いから、何体かの魔物を保持している。前にノエルが借りたエレメントスライムも騎士団で所有している魔物だ。
 その魔物を管理しているのが騎士団の『魔物管理部署』。そのトップがウッカだ。


「……いえいえ、子供たちの為でしたらお安い御用ですよ」


 ウッカが不自然にメガネを直しつつ、俺から視線を反らせる。
 何か隠しているな?この反応から察するに……詮索するのは止めておこう。


「ミエルさんからエレメントスライムを貸して欲しいって言われた時は驚きましたけどね」
「突然すみませんでした」
「いえいえ、無事に……返ってきた訳ですし……」


 笑顔が少し引きつっている。これ以上話しているとボロが出そうだな。切り上げて帰るか。


「それでは、俺はこれで失礼しますね」
「はい。またよろしくお願い───」
「貴様!もう一回言ってみろ!」
「何度でも言ってやる!こいつは犯罪者だ!騎士団にいられなくしてやるから覚悟しろよ!」


 廊下の向こうからミエルとフローランの声が聞こえてくる。


「なんですか!?いったい何が!?」
「とりあえず行ってみましょう」


 面倒そうだし行きたくないけどな。
 ウッカと共に声がした方へ走る。すると、半開きの扉から二人の声が漏れ出ていた。ここは長官であるキャンデの部屋か。
 扉を開けるとミエルとフローランが言い合いをしていた。


「貴様が犯人なんだろ!」
「ふざけんな!俺は犯人じゃねぇ!」


 2人とも目に隈を作っていて疲れている顔をしているが、疲れを感じさせない様子で言い合いをしている。そして、部屋の端では慌てている様子のロワがいる。2人の間に入ろうとしているが、言い合いの勢いが激しくて躊躇しているようだ。
 部屋の中はテーブルがあり、テーブルを挟むような形でソファーが置いてある。テーブルの上には手のひらサイズの袋が置いてあり、口から金貨が数枚こぼれている。
 扉の対面の壁にはキャンデを模した石の像と金の象が対になるような形で飾られている。ん?金の象、少し変だな?……なるほどな。
 色々と察した俺は、とりあえず2人を引きはがす。


「落ち着け」
「これが落ち付いていられるか!こいつが!」
「なんだと!」


 俺が引きはがしても、2人は掴みかかろうとする。こいつら、別の部署の団長どうしで仲が悪いのは知ってたが、ここまでだったとはな。


「言い合いしても仕方ないだろ。落ち着いて何があったか教えろ」


 俺の言葉に2人は一旦落ち着きを取り戻す。これ以上もめるようなら強硬手段も考えなくちゃいけなかったな。
 最初に話し始めたのはフローランだった。


「俺が長官に、今月の予算を持って来たんだ」
「そこに置いてある金貨が入った袋だな?」
「ああ。袋をテーブルに置いた後に部下に呼ばれて部屋を後にしたんだ。戻ってきたらその袋から金貨が1枚減ってたんだよ」
「こいつがその金貨をロワが盗ったと言ってるのだ!」
「そいつ以外に誰がいるんだよ」


 フローランが憎しみを籠った目でロワを睨みつける。ロワはフローランから目を反らせた。


「なんでロワが犯人だと思ったんだ?」
「こいつは隣の部屋で寝てた。金貨が詰まった袋も持っていた。こいつが犯人で決まりだ」
「本当か?」


 ロワは申し訳なさそうに頷く。


「フローランさんの言う通りです。僕は隣の仮眠室で寝てました。少しだけ眠かったので」
「金貨が入った袋は持ってるのか?」
「はい」


 ロワがアイテムボックスから袋を取り出す。受け取って中を見ると、金貨が詰まっていた。これは200万Gはあるな。


「あ、でも!これは僕のお金ですからね!帰りに弓を買おうと思って用意してたんです!」
「なるほどな。つまり、弓を買う金が足りなくて盗んだわけだな?」
「違いますよ!」
「そうだ!ロワは犯人じゃない!」
「犯人を庇うのか?もしかして、お前もグルか?」
「そんな訳ないだろ!それより!」


 ミエルがフローランを勢いよく指さす。


「貴様が盗んだのだろう!」
「そんな訳ないだろ!」
「いいや!お前の仕業だ!罪をロワに擦り付けて、私と共に騎士団から追い出すのが目的なんだろう!」
「言いがかりはよせ!」
「はいはい、分かったから落ち着け」


 俺は手を叩きつつ、ヒートアップしそうな2人を止める。すると、2人の突き刺さるような視線がこちらに向けられた。


「ホウリ!こいつを捕まえてくれ!」
「無茶言うな。俺は憲兵じゃないから逮捕権はない」
「騙されるなよ!その野郎が犯人だ!捕まえろ!」
「だから俺に逮捕権はない」
「「ホウリ!」」
「だから落ち着け。この事件の真相が話せないだろ」
「え?もう真相が分かったんですか?」


 ロワが驚いたように目を見開く。そして、ミエルとフローランも俺に顔を近づけてくる。


「早くこいつを捕まえてくれ!ホウリがやらないなら私が捕まえてもいいぞ!」
「それよりもこいつを捕まえろ!」


 俺は2人を無視してウッカに手を差し出す。


「水槽を貸してください」
「え?」
「持ってますよね?蓋も貸してくださいね」
「あ、はい」


 ウッカがアイテムボックスから水槽と蓋を取り出す。
 俺は右手に水槽、左手で蓋を受け取って部屋の奥へと向かう。


「どうした?」
「この像、変じゃないか?」


 俺が金の象を指さすと、他の4人も注目し始める。


「うーん?」
「どこも変なところは無い気が……」
「あ、少し透けてないか?」


 ミエルが指を指すと、皆も目を皿にして金の像を見つめる。
 ミエルの言う通り、像は微妙に透けていて壁が見えている。


「普通の像なら壁が透けるくらいに透明なのは可笑しいな?」
「変わった像ってだけじゃないですか?事件には無関係では?」
「それが関係してるんだよ。なにせ、犯人なんだからな」
「は?どういうことだ?」
「こういう事だ」


 左手に持っている蓋で像を小突く。瞬間、像は穴が空いた風船のように勢いよく萎んだ。


「な!?」


 萎んだ像を水槽で救い上げて、水槽に蓋をする。水槽の中では、金色の粘性の物体がうごめいている。


「なんですかコレ?」


 水槽をテーブルに置いて、皆で粘性の物体を観察する。


「ん?もしかして、コレってエレメントスライムか?」
「その通り」
「でも、これが犯人ってどういうことだ?」
「あ!もしかして!」


 ミエルが気付いたようだな。
 俺は蓋を外してエレメントスライムに指を近づける。


「雷球」


 俺の指先に小さな電気の球が発生して、エレメントスライムに少しずつ電気が流れ込んでいく。すると、エレメントスライムは表面に細かい振動が発生する。
 すると、エレメントスライムの金色が表面に集まっていき、徐々にコインの形を作っていった。
 完全にコインが戻ったのを確認して、コインを取り出す。


「これが無くなったコインだろ」
「あ、ああ……」


 コインを受け取ったフローランは袋の中に戻す。


「それじゃ、犯人も捕まえたところで事件のあらましを説明しようか」
「お願いします」


 ロワだけ目がキラキラをさせている。後の3人は顔を青くして俯いている。まあ、今から死刑宣告みたいなものだからな。無理も無いか。


「始まりは何処かからエレメントスライムが逃げたところから始まる」
「何処かって何処ですか?」
「魔物の保管室だ。そして、管理している奴はエレメントスライムが逃げたことに気付き、慌てて捕獲しようとした」


 俺はウッカの方に視線を向ける。ウッカは俺の視線を受けて滝のような汗を流している。
 俺と話していた時に動揺したのも、逃げたエレメントスライムを探していたからだ。水槽を持っていたのも、エレメントスライムを捕獲するため。


「当のエレメントスライムは扉が開いていて、部屋の中に入って来た。そして、フローランが戻って来た気配を感じて、テーブルに会った金貨を取り込んで像に化けた」
「質量は変わらないので風船みたいに膨らむことで大きさを誤魔化したって訳ですね。魔物なのに頭いいですね?」
「少なくとも、ロワよりは機転がきいているな」
「ぐっ……」


 ロワが口の端から血を流しつつ胸を押さえる。昔よりは心へのダメージが少ないみたいだな。良い傾向だ。


「で、フローランが戻って来て金貨が無くなっていることに気が付く。フローランが扉を閉めたからエレメントスライムは出て行けず、ロワを見つけて騒ぎ出した。その騒ぎを聞きつけたミエルが来て言い争いになってしまい、エレメントスライムは出るに出られなくなった。それで今に至るわけだな」
「なるほど、事故に近かったんですね」
「だな。それで……」


 俺はミエル、フローラン、ウッカに向かって鋭い視線を向ける。


「最高責任者どもが、雁首揃えてなにしてたんだ?」
「あの……えっと……」
「管理責任者は魔物を碌に管理できず、団長2人は私怨による言い合いをしてる。これが王都の騎士団のトップの姿か?」
「ぶ、部外者にそんなことを言われる筋合いは無い!」
「は?」


 フローランは震えながらも俺に口答えしてくる。この状況で反論してくるとはな。その行動は勇敢ではなく無謀だって教えてやるか。


「当事者のお前らで解決できそうにないから部外者の俺が解決したんだろ。お前らだけで解決できたって言えるか?」
「あ、えっと……」
「……ホウリに口答えするな。倍になって返ってくるぞ」


 ミエルがフローランに耳打ちする。すると、フローランは何かを言いたそうにしていたが口を閉ざした。


「ロワ、長くなりそうだから先に帰って良いぞ。弓を買いに行くんだろ?」
「あ、はい。分かりました」


 ロワは『本当に帰って良いのかな』って表情をしていたが、巻き込まれたくないのか、扉から出ていった。


「それじゃ、お前ら」


 俺は体が震えている3人に向かって笑顔で話す。


「全員正座しろ」
「「「は、はい……」」」


 こうして、小一時間、説教をしたのだった。
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