魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第四百二話 る~らら~♪

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 とある休日、オカルト研究クラブのメンバーとナマク先生は、王都の中にある森の入口にいた。


「皆!準備はいい!?」


 森の手前でコアコちゃんが目をキラキラさせながら声を張り上げる。


「テンション高いわね」
「そりゃあね!せっかくのオカルト研究クラブの活動なんだから!テンション上げていこう!」
「ちょっと落ち着いてよ。ノエルよりもテンションが高くなっているよ」
「そうよ。あんたまでウザったくなったら手が付けられないでしょ」
「え?ノエルってウザいって思われてたの?」
『まあ、それが良いところでもあるんじゃないか?』
『そう?』


 ちょっと落ち込みかけたけど、何とか心が折れずに済んだ。もう少しでお家に帰ってお布団に潜り込むところだった。


「それよりも、本日なにを行うのかを確認した方が良いのではないですか?」
「あ、そっか」


 ナマク先生の言葉に、コアコちゃんが手を叩く。


「それじゃ、整列して~」
「はい部長!」


 ノエル達はコアコちゃんの前に横一列に並ぶ。コアコちゃんは咳ばらいを一つして、キラキラの目のまま話し始める。


「今日はこの森に迷い込んだ子供が消えるって噂を調査します。巷ではお化けが連れ去ってるってもっぱらの噂だからね。今日の目標はお化けを捕まえることです」
「お化けねぇ。本当にいるのかしら?」
「ノエルに取り憑いているんだし、いても可笑しくないでしょ」
『そういえば、捕まえる方法はあるのか?』
「これを使うよ」


 コアコちゃんがお札が貼られた瓶を取り出した。


「お化けに向かって、この瓶の口を向ければ中に吸い込まれる仕組みになっているんだって」
「ホウリお兄ちゃんから貰ったの?」
「うん!お化けじっくり見たかったし、捕まえられれば実績にもなるしね!」


 コアコちゃんがズレ落ちそうになっているメガネを戻しつつ熱弁する。
 実績が無くて生徒会長から呼び出しを受けたのが、よっぽど怖かったみたい。


「今日はお化けを見つけるまで帰れないからね!」
「ダメです。活動は2時間までしか認められません。活動時間を越えたら、強制終了しますからね」
「……はーい」


 ナマク先生がビシッと宣言して、コアコちゃんは渋々と言った様子で頷く。
 けど、すぐにキラキラの目に戻って、森を指さした。


「時間が無いから早速行くよ!皆ついてきて!」
「ちょっと、先走らないでよ」


 駆け出したコアコちゃんの後を皆で追う。
 森の中は木々にお日様の光が遮られて薄暗い。流石に先が見えないくらいに暗い訳じゃないけど、気を付けないと躓いちゃうかも。
 そんな森の中をコアコちゃんは気にせずに、どんどんと進んでいく。けど、森の中を歩きなれていないのか、時々足をくじきそうになっている。


『お前が先導した方が良いんじゃないか?旅してたんだろ?』
『コアコちゃん楽しそうだし、任せても良いんじゃない?』


 ポーションも持ってきているし、少しの怪我なら大丈夫だ。あんなに楽しそうなコアコちゃんは学校探索依頼だし、好きに進めさせた方が良いね。


『けど、魔物に襲われたらどうするんだ?』
『ここで出る魔物はゴブリンくらいだし、ノエルとマカダ君で何とかなるでしょ?』
『そうかもしれないけどな……』


 なんだかマカダ君の歯切れが悪い。何か心配なことでもあるのかな?


『何か気になるの事があるの?』
『なんだか嫌な予感がしてな。気のせいだと良いんだが……』
『マカダ君って勘が良い方?』
『どうだろうな。悪くは無いとは思うんだがな』


 まあ、自分の勘が良いかなんて分からないか。けど、こういう予感って当たることが多いってホウリお兄ちゃんから聞いてるし、ちょっと警戒しておこうかな。
 アイテムボックスから拳銃とホルスターを取り出して、足に装備する。これで何かあってもすぐに対応できる。


『銃まで使うのか?』
『備えて損は無いかなって思ってさ』
『けど良いのか?』
『何が?』
『ナマク先生はお前が銃を使うって知らないだろ?』
『知ってるよ?』
『え?マジで?』
『ホウリお兄ちゃんから事前に説明受けてるって聞いてるよ?』


 オカルト研究クラブの皆にはにゃんこ探しの時にバレちゃったけど、ナマク先生にはバレてなかった。けど、活動期間が長いほどバレる可能性が高いからって、ホウリお兄ちゃんからナマク先生に銃のことは説明してある。


『つまり撃っても問題無いってことか』
『撃たないにこしたことは無いけどね』
『違いないな』


 そんな事をマカダ君と話しながら森の奥に歩く。


「それにしても、こんな森の奥で行方不明って、ただ迷っただけじゃないの?」
「その可能性が高いよね」
「いや!絶対にお化けだよ!」


 前を歩いていたコアコちゃんが突然立ち止まって振り向いてきた。


「何を根拠にそんなこと言ってるのよ」
「根拠ならあるよ」
「え?あるの?」


 パンプ君が首を傾げると、コアコちゃんが胸を張る。


「皆気付かない?ちょっと寒くなってるでしょ?」
「ん?そういえばそうね?」


 森に入る前は汗ばむくらいだったけど、今はちょっと涼しいかも。でもこれが根拠?


「お化けがいるところはね、寒くなるんだよ。つまり!この近くにお化けがいる証拠!」
「……えっと、言いにくいんだけど、森の中はお化けがいなくても涼しくなるんだよね」
「え?」


 ノエルの説明にコアコちゃんが目を丸くする。その様子を見てノエルは慌てて弁解する。


「でも!お化けがいないって言い切れる訳じゃないし、探すのは良いと思うよ!噂もあるんだし!」
「そ、そうだよね!探せばいるはずだよね!」


 良かった。コアコちゃんの目にキラキラが戻って来た。危ない危ない。お化け探しが中止になるところだった。


「でもさ、なんの当てもなく歩き続けてお化けが見つかるの?この森って結構広いんでしょ?」
「それもそうね。手分けする訳にもいかないしね」


 サルミちゃんがチラリとナマク先生に視線を向ける。視線を受けたナマク先生は真顔で首を横に振った。


「私の目が届く範囲で活動する必要があるので、手分けをするのは認められません」
「だよね」
「何か効率良く探索できる方法は無いかな?」
「そうだねぇ。耳でも澄ませてみる?お化けの声が聞こえるかもよ?」
『流石にそれはないだろ』
「……ちょっと待って」


 パンプ君が口に指を当てる。そして、目を閉じると右耳に手を添えた。


「……何か聞こえない?」
『動物の鳴き声じゃないか?』
「森の中なんだし、何か聞こえても不思議じゃないわよ」
「そうじゃなくて、歌声みたいな……」
「歌声?」


 パンプ君に倣って皆で耳を澄ませてみる。
 ……確かに旋律みたいなものが聞こえる。言われてみれば歌っぽい気がしないでもない。


「確かに聞こえるわね」
「もしかして!本当にお化けの歌声!?」
「お化けかは分からないけど、何かあるのは確かだと思う」
『けど、出所が分からないとどうしようも無いぞ?』
「ノエルちゃんなら分からない?」
「うーん、ちょっと頑張ってみる」


 皆から期待の眼差しを受けて、ノエルはとりあえず歌声がする方を探ってみる。
 耳にだけ魔装して聴力を上げて、音の強弱と方向を把握するように集中。
 ……うん、大まかな方向は分かった。


「こっちから聞こえるかな」
「本当にあんたは何でも出来るわね」
「流石に何でもは出来ないよ?」
「そうだったわね。嘘は吐けないわね」
「むう……サルミちゃんの意地悪」


 不満に思いながらも、ノエルは皆を先導して歌声が聞こえる方に向かう。
 それにしても、この歌声って何なんだろ?まさか、本当に幽霊とか?だったら、ちょっとワクワクかも。
 逸る心を押さえつつ、歌声のする方へ進む。皆が進みやすいように草とかを脇に倒しておいて、引っかかりそうな枝はナイフで切っちゃおう。
 そんな感じで進む事30分、歌声は更に大きくなってきた。


「そろそろ歌っている人にたどり着くかも」
「ほんと?」
「お化けかな?」
「どうでしょうね」


 歌声は明確な歌詞がある訳じゃなくて、旋律だけがある感じだ。よく聞くと複数の歌声が混ざっているかな。


「もう耳を澄まさなくても聞こえるね」
「そうね」
「良く聞くと、この歌って心に響くような歌じゃない?」
「確かにそうかも」


 後ろを振り向くと皆の顔から力が抜けていた。無理もない、こんなにきれいな歌声を聞いてるんだから。
 この歌を聞き続けて、足がおぼつか無くなっていく。でも、もっともっと歌声を聞くために、近くで歌声を聞くためにノエル達は足を進める。
 この歌声には心に響くような安心感がある。まるでお母さんが歌ってくれた子守歌みたい。
 ずっと聞いていたいような……そんな……安心感が……


「セイントヒール!」


 微かに残った理性で危険を感じ取り、ノエルは咄嗟にセイントヒールを使う。瞬間、頭の中の霧が晴れるように、意識がハッキリとする。


「い、一体何が!?」


 訳が分からないノエルは周りを見渡して、状況を判断しようとする。
 他の皆は歌声がする方に歩いている。歩くスピードはゾンビみたいに遅い。けど、目に光が無くて理性を感じられない。
 そして、皆が進んでいる方は……沼!?


「まさか!?」


 ノエルは沼の方を注視する。すると、緑色の鱗に覆われた顔が沼から出ていた。


「やっぱり魚人!」


 魚人は沼に生息する魔物。歌声で他の生き物をおびき寄せて餌にする特徴がある。


「これが行方不明の噂の正体!」


 歌声でおびき寄せられて沼に引きずり込まれた人達がいて、それがお化けの仕業だって噂になったんだろう。


「このままだと皆が危ない!けど……」


 今のノエルだと、皆を助けることができない。何か他に方法は……。


「……せめてマカダ君だけでも!」


 ノエルは後ろを歩いているマカダ君の肩を掴んでセイントヒールを使う。
 すると、マカダ君は足を止めてノエルの方を向いた。目には生気が戻っている。なんとか、正気に戻ったみたい。


『あれ?ノエル?俺はいったい何を?』
『沼に魚人がいるの!このままだと皆が沼に引きずりこまれちゃう!』
『なんだと!?』


 マカダ君が沼の方に視線を向けて、魚人と沼へ歩く皆を視界に収める。


『このままだと不味いぞ!早く助けないと!』
『ナマク先生もいるから、ノエル達だけだと助けきれないの!』
『なんでだよ!お前の魔装なら全員をまとめて助けられるだろ!?』
『ノエルの魔装はセイントヒールと一緒には使えないの。この歌声は聞いた相手に異常状態の「洗脳」を付与して操るから、セイントヒールが無いとまた操られちゃう』
『つまり、魔装を使うと、また沼へ一直線ってわけか』

 皆と沼の距離はあと少ししかない。ノエルとマカダ君で力を合わせても、全員を助けるには時間が足りない。大人のナマク先生もいるから、助けるのは余計に厳しくなってる。


『全員にセイントヒールを使うのは……最終手段だな』
『そうだね。セイントヒールを使うってことはノエルが神の使いってバレる可能性があるからね』


 ノエルが神の使いだってバレると、皆の身も危険に晒す可能性がある。マカダ君は事情を知ってるから仕えたけどね。
 セイントヒールは本当に手が無くなった時の手だ。他に手が無いか探してみよう。


『そうだ!魚人を倒せば良いんだ!』
『それも無理。魚人の数が多すぎる』
『何匹いるんだ?』
『20匹。皆で協力して、森の入口まで声が届くように頑張ったみたい』


 気配で探っただけでも20匹。見えない分は沼の中にいるし、気配で探れてないのもいるかもしれない。


『銃があるとはいえ、20匹を倒しきるのは難しいな……。くそっ、セイントヒールを使わずに歌声を聞こえなくする方法があれば良いんだが……』
『草を耳に詰めて耳栓代わりにするとか?でも、歌声を完全に防ぐことは出来ないし……』


 ん?歌声を聞こえなくする?あ、なんだ、簡単な方法があったや。


『どうした?』
『セイントヒールを使わないで歌声を聞こえなくする方法を思い付いたの!』
『本当か!どうするんだ!?』
『鼓膜を破る!』
『……は?』
『鼓膜を破れば歌声は聞こえない!皆を助けた後はセイントヒールで鼓膜を治す!これで完璧!』
『……よくもそんなこと思いつくな』
『あれ?ダメだった?』
『いや、今はそれが最適解だ。やるぞ』
『ノエルが皆を助けるから、マカダ君は逃げて良いよ?』
『俺だって鍛えてるんだ。手伝わせろ』


 マカダ君が真っすぐとノエルを見つめてくる。その目には確かな覚悟が見えた。これは断る理由は無いね。


『オッケー。手で思いっきり耳を叩けば鼓膜が破れるからね』
『分かった』
『行くよ。せーのっ!』


 2人で一緒に耳を思いっきり叩く。すると、キーンとした音した後に歌声が聞こえなくなった。
 マカダ君の方を見るとサムズアップで応えてくれた。これで準備万端!
 ノエルは魔装してマカダ君と一緒に沼へと駆け出す。こうして、ノエル達は、無事を助け出すことが出来たのだった。
 ちなみに、この後は騎士団に通報して、魚人のことは任せることにした。
 お化けが原因じゃなかったけど、もっと被害が出る前に原因を突き止めたとして、騎士団の人から褒められた。
 コアコちゃんはガッカリしてたけど、実績にはなったみたいだし、一件落着かな。
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